心の病気はどこからが病気?

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心の病気は甘え?

私たちは日ごろから、様々なストレスにさらされています。ストレスがない人生などないかと思いますし、日々そのストレスに対処し、適応しています。

そんななかで、うまくいかなくなっていくと心身の症状としてあらわれてくるのが心の病気になります。そういったときに、

  • 自分の甘えではないか
  • 性格のせいだからどうしようもない

といった想いにとらわれてしまって、学校や仕事にいけなくなってしまったり、生活に支障が生じてきて初めてご相談される方も少なくありません。

  • 何とか頑張ろうとしているのに上手くいかない
  • 症状がジリ貧でひどくなっていく

そんなときは甘えや性格のせいとはせずに、ぜひご相談ください。

心の相談にいくべきラインとは?

心の病気は難しいもので、何が正常で何が異常なのか、その線引きはとてもあいまいです。検査のように数字でわかるものでもありません。これをはっきりさせようと様々な心理検査などが作られていますが、完璧なものなどありません。

心の病気かどうか、それを決定するのは2つの要素です。

  • 自分がつらいか
  • 周りがつらいか

自分がつらくなくて周りも困っていないなら、それはあえて病気と捉える必要性すらないのです。例えば発達障害の中には、ある分野は非常に優秀なことがあります。その環境下で仕事をしていれば、何の苦悩も衝突も生まれないのです。

このことは診断基準にも明記されていて、

  • 本人に著しい苦痛があること
  • 社会的な職業的な障害があること

の2点が記載されています。

ですから、自分もそこまで困っていなくて、周囲ともある程度うまくやれているならば、過度に悩む必要はありません。現実的な解決策などをみつけていきましょう。

心の病気をどのように治療していくのか

私たち精神科医は、どのようにして患者さんの治療方針をたてていくかをお話ししていきたいと思います。

まずは「一番困っていること」である主訴を大切にします。それを解決するためにご相談いただくわけですから、当たり前です。お話を伺っていると、本質的な部分とズレている感じるところもあります。

ですがまずは肯定的にお話を伺い、それをもとに治療方針を考えていきます。それを考えていくにあたっては、

  • 状態像:うつ状態や自律神経失調状態など
  • 原因:心因性・内因性・外因性
  • 背景にある要因:パーソナリティや発達特性など

といったことを少しずつ把握していきます。

まずは状態像をみながら、おおまかな原因を推測します。心の病気の場合は、仮説を立てていくイメージが近いでしょうか。ですからいきなり明確な診断ができない場合が多いです。状態の改善のために、どのようなお薬が適切なのかを考えていきます。

パーソナリティや発達特性などについては、少しずつ診察を通して見えてくる部分が大きいです。〇〇障害と名前をつけるほどはいかなくても、傾向は誰しもがあります。

このようにして総合的に理解を深めながら、お薬の治療と精神療法的かかわりを行っていきます。

心の病気はどのようにして診断するのか

このように心の病気は、カテゴリーに当てはめることなく診断・治療を進めていくことも多いのですが、診断という形で明確にしたほうが良い場合もあります。

どの病気でも大なり小なりいえることなのですが、診断にはメリットもデメリットもあります。「〇〇病」ということがわかることで、患者さんは自分が病人であることが決まります。今まで「性格かも?」「気のせいかも?」と思っていたことが、「症状」として治療されていくことになります。

そのことは、一時的な患者さんの逃げ道になり、心の安らぎが得られるかもしれません。しかしながら同時に、社会からのレッテルになることもあります。自分の中での言い訳になることもあります。

ですから心の病を診断していく時には、慎重に進めていく必要があります。診断することが患者さんにマイナスになるようでは、診断する意味がありません。

診断を行っていく場合には、診断基準なるものが存在しています。

医師が自分の感覚で勝手に〇〇病と診断してしまうと、同じ症状でもAという人は「〇〇病である」と診断され、Bという人は「〇〇病ではない」と診断されるというようなことが起こりかねません。このようなことを避けるために、心の病気にも診断基準が作られています。

現在では「DSM‐Ⅴ」と「ICD‐10」の2つの基準があります。DSM‐ⅤはAPA(米国精神医学会)が定めたもので、上から順番にチェックしていくと診断がつくようにできています。これに対してICD-10はWHO(世界保健機関)による基準で、典型的な症状を文章で記述しています。

両者には若干の相違がありますが、貫かれている精神は「医師の違いによって起こる診断の差をなくす」ことに変わりはありません。いずれも現れている症状が当てはまるかどうかで病名を判断するので、「操作的診断基準」と呼ばれています。

これらの基準を採用することで、これまで多かった医者による診断のばらつきが改善されました。その一方で、文字面をおって診断してしまうと過剰診断しかねない危険性もあります。実際には症状だけでなく、病気の本質的な部分もみながら診断を行っていきます。

まとめ

心の病気かどうかを決定するのは、

  • 自分がつらいか
  • 周りがつらいか

この2つです。何とかしようとしてもうまくいかない場合は、甘えや性格などとは思わず、ご相談ください。

心の病気の治療は、診察を通して患者さんの理解を深めていくことで進めていくことが多いです。診断基準も参考にしながら、本質を大事にして診断・治療を考えていきます。

病気によっては、薬が絶対的に重要なものもあります。その一方で、薬というよりも患者さんの中での自己回復のお手伝いが中心となることも多いです。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:精神科について  投稿日:2020年8月29日

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