バセドウ病と橋本病の違いとは?原因や症状から解説

バセドウ病橋本病という病気をご存知でしょうか。
芸能人やスポーツ選手の方が病気を公表したことをきっかけに、耳にしたことがある方もいるかもしれません。

両方とも甲状腺にかかわる自己免疫機能の異常が原因となって生じる病気です。

男性よりも女性の患者数が多い傾向がある、首元にある甲状腺が腫れる症状が出ることがあるなど共通点もたくさんありますが、原因は真逆です。

両者の違いを簡単にまとめた表をご覧ください。

バセドウ病 橋本病
甲状腺ホルモンの過剰分泌
(甲状腺機能亢進症)
原因 甲状腺ホルモンの分泌の減少
(甲状腺機能低下症)
  • 動悸、息切れ、暑がり、頻脈、体重減少、手指の震え、倦怠感
  • イライラ、落ち着きのなさ
  • 眼球突出、複視 など
症状
  • 寒がり、筋力低下、声のかすれ、食欲不振、便秘
  • 無気力、記憶力低下、易疲労
  • 全身のむくみ
  • 放射性ヨード甲状腺シンチグラフィー検査
  • 超音波検査
  • 胸部レントゲン
  • 心電図
検査
  • 超音波検査
  • 細胞診
  • 薬物治療(抗甲状腺薬)
  • 放射性ヨウ素内用療法
  • 手術療法(甲状腺摘出術)
治療
  • 経過観察(甲状腺機能が正常な場合)
  • 甲状腺ホルモン製剤(T4製剤)の内服

比べてみると、症状や治療法も異なっていることがわかります。
以下の章でそれぞれの病気についてみていきましょう。

バセドウ病について

上でみたように、バセドウ病は甲状腺の働きが活発になりすぎてしまうことで起こる病気です。

甲状腺ホルモンは全身のさまざまな臓器に作用し、熱産生や代謝の促進、身体の成長・発育、精神機能の刺激、循環器系の調整などに関わる重要なホルモンです。正常時では、身体にとってちょうど良い量が分泌されるように調整されています。

バセドウ病の症状

バセドウ病では、全身の代謝や各臓器の働きを活発にする甲状腺ホルモンが過剰分泌され、機能が亢進します。甲状腺機能の亢進に伴う症状は多岐にわたります。

一般的には以下のような症状が起こります。

  • 動悸
  • 息切れ
  • 倦怠感
  • 食欲亢進
  • 体重減少
  • 筋力低下
  • 発汗
  • 手指の震え など

また、甲状腺ホルモンの過剰分泌によって交感神経が過緊張になることで、ミュラー筋という瞼を開閉する補助的な役割を果たしている筋肉が異常収縮してしまいます。そのため、バセドウ病特有の眼症状(バセドウ眼症)も認められることがあります。

例えば、以下のような症状です。

  • 上眼瞼後退
  • 眼球突出
  • 複視(ものが二重に見える)
  • 眼瞼浮腫(瞼の皮下組織に組織液が溜まった状態)
  • 角結膜障害

また、特に男性の患者さんには、炭水化物の多い食事をした後や激しい運動をした後に手足が突然動かなくなる発作(周期性四肢麻痺)がみられます。

お子さんの場合、学力低下や身長促進、落ち着きのなさなどが認められることがあります。

バセドウ病の治療

バセドウ病の治療法は、主に3つあります。

  1. 薬物治療(抗甲状腺薬)
  2. 放射性ヨウ素内用療法
  3. 手術療法(甲状腺摘出術)

以下でそれぞれ説明します。

①薬物治療

甲状腺ホルモンの合成を阻害する抗甲状腺薬を内服し、甲状腺ホルモンの血中濃度を正常範囲内に抑えるようにします。

薬物治療が第1選択となることが多いですが、肝機能障害などの副作用が生じる可能性があります。
また薬物治療による治療効果は個人差が大きく、一度寛解しても再発率が高いと言われています。

2年以上薬物治療を継続しても薬を中止できる目途が立たない場合には、他の治療法を検討することになります。

②放射性ヨウ素内用療法

「アイソトープ療法」とも呼ばれ、微量の放射能をもつヨウ素を内服し甲状腺を破壊することで、甲状腺ホルモンの過剰な合成を抑える方法です。安全で効果が確実であり、甲状腺の腫れを小さくすることができます。

欠点としては、実施できる医療機関が限られていること、眼の症状が悪化する可能性があること、お子さんや妊婦さんには適用できないことなどがあげられます。
また再発予防のため甲状腺機能低下を目指すと、甲状腺ホルモン薬の服用が必要になる場合があります。

③手術療法

甲状腺組織を3gほど残して外科的に切除し、甲状腺ホルモンの分泌を抑制する方法です。甲状腺摘出術は、最も早く確実に治療効果が得ることができます。

欠点としては、入院が必要になること、手術痕が残ること、声のかすれや副甲状腺機能低下症などの手術合併症が生じるリスクがあることがあげられます。
また再発予防のため全摘を行うと、甲状腺ホルモン薬の服用が必要になります。

以上のように3つの治療法にはそれぞれメリット、デメリットがあるので、病状や経過などを踏まえて主治医と相談して決めることが重要です。

バセドウ病の注意点

未治療では、長期的に心房細動や心不全、脆弱性骨折などが生じるリスクが高いといわれているため、上記のいずれかの治療が必要になります。

ストレスによって症状が悪化・再発することがあるため、なるべくストレス因を避けて規則正しい生活を送ることが大切です。
喫煙は薬の効果を弱めたり、眼の症状の悪化につながるため、禁煙も必要です。

橋本病について

橋本病は、免疫の異常によって慢性的に甲状腺に炎症が生じることから、「慢性甲状腺炎」とも呼ばれています。この慢性的な炎症によって甲状腺組織が徐々に破壊され、甲状腺ホルモンが分泌されにくくなると、甲状腺機能低下症が生じます。

潜在的なケースを含めると女性の10人に1人に認められると言われており、成人の甲状腺機能低下症の原因として頻度の高い疾患の一つです。

橋本病の症状

バセドウ病とは反対に、橋本病では甲状腺の機能低下により甲状腺ホルモンの分泌量が減少するため、全身の代謝が低下します。それに伴い様々な症状が現れます。

一般的には、以下の症状がみられます。

  • 全身のむくみ
  • 疲れやすさ
  • 食欲低下
  • 体重増加
  • 寒がり
  • 徐脈
  • 声のかすれ など

上記のほか、思考力や記憶力の低下、無気力といった精神的な症状が出ることもあります。そのため、うつ病や認知症と間違われることもあります。

また血液検査では、コレステロール高値や肝機能異常を認めることがあります。脈拍がゆっくりになったり(徐脈)、血圧が下がることもあります。

橋本病の治療

甲状腺の炎症を根本的に治療する方法はなく、橋本病の治療は対症療法のみになります。

  1. 甲状腺機能が正常に保たれている場合
    →基本的に治療は行わず経過観察
  2. 甲状腺機能低下症が見られる場合
    甲状腺ホルモン製剤の内服(チラージン、レボチロキシンなどのT4製剤)

以下でそれぞれの場合について説明します。

①甲状腺機能が正常に保たれている場合

甲状腺が腫れているだけで甲状腺の機能が正常である場合は、血液中の甲状腺ホルモン値の推移をチェックしていきます。
将来的に甲状腺ホルモンが少なくなった場合に治療が開始できるよう、経過観察していきます。

②甲状腺機能低下症がみられる場合

甲状腺ホルモンの量が明らかに少なく、甲状腺機能低下に伴う諸症状がみられる場合は、甲状腺ホルモンを補っていきます。
チラージンSなどの甲状腺ホルモンT4製剤の内服を行います。
内服により甲状腺ホルモンの量が正常に維持できれば、症状が改善されます。

また、甲状腺の機能が「正常」から「低下症」へと移行している状態を、「潜在性甲状腺機能低下症」と呼びます。
甲状腺機能低下症の症状はみられず、血液中の甲状腺ホルモン値も正常ではありますが、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上昇している状態です。
潜在性甲状腺機能低下症の場合は、すぐに治療を開始するわけではありませんが、ヨードを含む食品(海藻類など)を控えるなどして症状の悪化を予防する必要があります。

橋本病の注意点

一度甲状腺機能低下症になると、生涯甲状腺ホルモンの補充が必要となる場合が多いです。
甲状腺が急に大きくなった場合には、甲状腺機能低下の悪化に加え、まれにリンパ腫の可能性があるため、医師に相談してください。

倦怠感などの甲状腺機能低下による症状が強い場合は、治療によって甲状腺ホルモンが正常になるまでは、あまり体に負担がかからないようにしましょう。昆布やひじきなど、ヨウ素を大量に含む海藻類などの過剰な摂取は控えましょう。

妊娠を希望する場合、T4製剤の内服を調整する必要があります。妊娠初期は、甲状腺ホルモンの必要量が約1.3~1.5倍に増えるためです。
妊娠が分かったら、早めに主治医にご相談ください。

まとめ:どちらも放置すると危険な甲状腺の病気

この記事では、バセドウ病と橋本病の違いについて解説しました。

バセドウ病と橋本病はいずれも甲状腺の病気でありながら、症状や治療法などに大きな違いがあります。どちらも自己免疫の異常が関係しており、放置すると心身の不調が長引いてしまう恐れがあります。

気になる症状がある場合は早めに医療機関を受診し、適切な検査と治療を受けることが大切です。また、正しい知識とケアによって日常生活を快適に維持することもできます。

それぞれの病気についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご参照ください。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症) 橋本病(甲状腺機能低下症)

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