広汎性発達障害(アスペルガー)
アスペルガーとは?
アスペルガーとは、脳の繊細な異常が原因と考えられている神経発達の一種です。
生まれつきの脳の発達が多数派の方と異なることで、社会生活を送る際にさまざまな困難を感じやすい傾向があります。
アスペルガーの歴史
アスペルガーは、かつては広汎性(こうはんせい)発達障害の中に含まれていました。広汎性発達障害は症状によって分かれていて、以前は以下の5つに区分されていました。
- 自閉症
- アスペルガー症候群
- 小児期崩壊性障害
- 特定不能の広汎性障害
- レット障害
その後、2013年に改訂されたアメリカ精神医学界の診断基準DSM-5で、レット障害を除く4つが「自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)」として1つに統合されています。
その結果、アスペルガーの扱いは下記のように変化しました。
- 現在の診断基準だと、以前に自閉症やアスペルガー症候群と診断されていた方も、「自閉症スペクトラム症」の診断がつく
- 広汎性発達障害に含まれていた障害のほとんどが、自閉スペクトラム症として統合された。
そのため、現在は「広汎性発達障害」と「自閉スペクトラム障害」がほぼ同じ意味で使われている
その他の発達障害との関係
神経発達障害は、アスペルガー(以下からは「広汎性発達障害」と表記します)の他に、主に下記の3つがあります。
- 広汎性発達障害(PDD)
- 注意欠陥多動性障害(ADHD)
- 学習障害(LD)
上記の3つは合併して起こる場合も多く、診断の際にハッキリと「この患者さまは、この障害である」と断言するのは難しいケースもあります。
正しい障害名に分類するより、患者さまの傾向や問題について具体的に対処していくことが、発達障害と向き合うためには重要と言えるでしょう。
広汎性発達障害の症状
広汎性発達障害の症状は、主に以下の2つに区分されます。
- コミュニケーション能力の障害と、それによる社会性の低下
- 独自のこだわりによる、社会適応の困難さ
(1)コミュニケーション能力の障害
広汎性発達障害で問題視されやすいのは、社会生活におけるコミュニケーションの難しさです。「空気を読む」「相手の感情を察する」などが苦手な傾向があるため、対人関係に支障が出る可能性が高いのです。
また、症状に個人差が出やすいのも特徴です。障害が軽度・重度のどちらであるかによっても、症状のあらわれ方は異なります。
軽度でよく認められる症状
- 会話をするときに、相手との距離が近すぎる
- その場の雰囲気にふさわしくない表情をしてしまう
- 人と関わる際に、不自然に目が泳ぐ
- アイコンタクトやボディランゲージを使って、人とコミュニケーションが取れない
- 言葉の裏を読めず、相手の発言をそのまま受け取る
重度でよく認められる症状
- 周囲の人間に関心を示さない
- 周りからの声かけを無視する
- 人と目を合わせない
- 相手の話を聞かず、一方的に話し続ける
(2)独自のこだわり
広汎性発達障害の患者さまは、独自の強いこだわりを持つ傾向があります。
パターン化されたことに対してはスムーズに対応できる方が多いですが、臨機応援な対応が求められると途端にパニックになってしまう場合もあります。
こだわりの具体的な例として、以下を参考にあげます。
- 自分の中の決まり事や、共通のルール、道筋などに強くこだわる
- 習慣やルーティーンが崩れるとパニックになる
- 興味や関心を示すことが、極端に偏っている
感覚が「敏感」または「鈍感」
発達障害の方は、通常より感覚が敏感、または反対に鈍感になる傾向があります。
感覚が過敏の方は、
- 他の人は気にならない、ささいな物音を嫌がる
- 肌触りに敏感で、同じ服しか着られない
- 味覚が鋭く、同じものしか食べられない
など、日常生活においてさまざまなことに細かく反応してしまいます。
反対に、周囲の人と比較して、感覚の刺激に対して鈍感な場合もあります。
広汎性発達障害の原因
発達障害の原因は、現在の研究ではハッキリと解明されていません。
症状にも個人差があることから、原因も遺伝や環境など、さまざまな要因が関係していると言えるでしょう。
あくまでざっくりとした想定ですが、今のところは「脳の機能的な異常がある」ことから、障害が引き起こされていると考えられています。
脳の機能異常のため、親の育て方や心理的なストレスで出てくるものではなく、あくまで生まれつきの特性と言われています。
よく勘違いされやすいのですが、発達障害は病気ではありません。
個人の特性であると考えられているため、病気として治療することは難しいのです。
広汎性発達障害の治療法
発達障害の患者さまは、社会生活に馴染むハードルが通常よりも高く、日頃から強いストレスを抱えている場合があります。
病院やクリニックでは、そのストレスによる二次的な障害に対して、お薬を使うことが多いです。
その他の病気や障害との合併
過度なストレスにより、うつ病や睡眠障害、強迫性障害など、その他の病気や障害を合併してしまうこともあります。
その場合は、お薬を用いて、症状の安定を目指します。
下記の自覚がある場合は、お薬を使用した治療が有効です。
- イライラして、攻撃性や衝動性が高まっている
- 気分が落ち込み、抑うつ状態から回復しない
- 眠れない、食べられない
「特性」を「個性」と考える
発達障害では「特性を、個性と考える」ことが大切です。
特に、発達障害のお子さまをお持ちのご両親は「子どもの発達障害をどうにか改善したい」と考える方が少なくありません。
ただ、現在の医療においては、薬物療法やrTMS療法でも、個人の特性自体を変えることは難しいと言われています。
治すことにとらわれるより、特性を理解して具体的な対処法を探っていくほうが、ご本人や周囲の方にとっていい選択になると、当院では考えています。
特性による「生きづらさ」の解消法
発達障害の症状には個人差があるため、発達障害が引き起こす生きづらさに対して、すべての人に当てはまる正しい対処法はありません。
一般的には、発達障害の特性として
- 「聴覚情報」より「視覚情報」が得意
- 「主観」と「客観」のズレが起こりやすい
- 「苦手」を解消するより「得意」でカバーするほうがいい
などが言われています
個人の特性を詳しく知りたい場合は、WAISやWISCなどの知能検査(複雑心理検査)で、能力や特性を把握できます。
周囲の方の理解も必要
発達障害の方が社会生活に適応するためには、周囲の方の理解も必要です。
- 「適当に」「うまいこと」などの言葉は使わずに、具体的な指示をする
- 「あれ」「それ」などの、曖昧な単語は避け
- 緊急性が高くないなら、急な変更はなるべく避ける
発達障害を抱えている方は、普段とは異なる状況でパニックになりやすいです。
周囲の方の理解やサポートが、ご本人の生きづらさの解消につながるでしょう。
広汎性発達障害でお困りの方へ
本記事では、広汎性発達障害(自閉スペクトラム症)の症状や原因について解説しました。
発達障害の診断には「複雑心理検査」が必要となる場合があります。
当院では、連携している精神科病院などに検査を依頼しつつ、当院内で発達障害のサポートを行っています。
症状に個人差がある発達障害では、社会生活で生じる問題を、ご本人や周囲の方だけで抱え込んでしまうケースも多いです。
発達障害に関してお悩みの場合は、ぜひお気軽に当院までご相談ください。
さらに詳しく発達障害について知りたい方は、以下をお読みください。
【こころみ医学】発達障害について執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了