双極性障害
双極性障害とは、下記の2つの気分の間を行き来する病気です。
- エネルギーが高まる「躁状態」
- エネルギーが低下する「うつ状態」
双極性障害は気分障害のひとつで、躁うつ病とも言われています。うつ病と勘違いされることも多く、数年かけてやっと「双極性障害だった」と診断がつく方も存在します。
双極性障害は、軽度の場合は日常生活を維持することも可能です。ただ、症状が強まると、仕事や家庭に大きな問題が生じるなど、今までの生活を送ることが困難となります。
気分の波を繰り返すことにより、希死念慮(死にたいと強く感じる気持ち)が出てくる可能性もあります。しっかりとした治療が必要な病気であることは、ぜひ知っておきましょう。
「1型」と「2型」に分類される
双極性障害は、躁状態の程度によって1型と2型に分類されます。
- 1型(Ⅰ型):「躁状態」と「うつ状態」で気分の波がある
- 2型(Ⅱ型):「軽躁状態」と「うつ状態」で気分の波がある
活力が高まる躁状態では、その高まったエネルギーに基づいて行動しようとします。軽躁状態でも活力の高まりは認められますが、躁状態と比較すると症状は軽度です。
双極性障害の症状
双極性障害の患者さまは、うつ状態が中心となり、ときおり躁状態に傾く場合が多いです。ただ、どのような症状が出てくるかは人によってさまざまです。
まずは、躁状態とうつ状態で認められやすい症状についてお伝えします。
「躁状態」の症状
躁状態では、病的なエネルギーの高まりが認められます。活力や意欲が高まっていることが周りから見ても明らかで、職場や家庭など、周囲に大きな影響が出てしまう状態です。
- ほとんど眠らずに活動するようになる
- アイデアが次々と出てきて、考えることがやめられない
- 高額な買い物をするようになる
- 些細なことに敏感になり、怒りがコントロールできなくなる
- 「自分はなんでもできる」という気持ちが強くなる
- 人が話しているのを遮り、自分だけが話し続ける
「躁状態」と「軽躁状態」のどちらにも共通している点は、大きなトラブルに発展しても、ご本人に焦りや迷いが出ないことです。
むしろ、ご本人側は「調子がいい」「いつも通りに動けている」と感じている場合も多く、ご家族や職場の方が困ってしまうケースも少なくありません。
「うつ状態」の症状
うつ状態では、躁状態とは真逆に、病的なエネルギーの低下が認められます。うつ状態においては、双極性障害の患者さまも「調子が出ない」「具合が悪い」と自覚されています。
- 気分が落ち込む
- 物事に興味が持てなくなる
- 「なにかしよう」という意欲が持てない
- 物事を考えて決断することが難しい
- 「死にたい」「消えたい」と感じる
双極性障害のうつ状態は、うつ病の症状と似ている部分が多いです。ただ、うつ病の症状とは異なる点も存在します。
うつ病 | 双極性障害のうつ状態 |
---|---|
不眠(眠れない) | 過眠(寝過ぎてしまう) |
食欲低下(食べられない) | 過食(食べ過ぎてしまう) |
双極性障害のうつ状態で認められる症状は、いわゆる非定型うつ病と似ています。
うつ病と勘違いしやすい双極性障害ですが、その他の病気と似ている部分も多く、正しく診断することがとても難しい病気なのです。
症状が変化しやすい時期
双極性障害の患者さまを10年以上追跡した研究では、以下のように報告されています。
- 季節の移り変わりや出産などで、症状が変化しやすい
- 日照時間が短く、寒さも厳しい冬に調子を崩して、倦怠感や過眠が強まることが多い
双極性障害の原因
現在の医療では、双極性障害は脳の機能的異常が原因ではないかと考えられています。
遺伝の影響も強く、親が双極性障害の場合は、発症の可能性が約10倍になると言われています。ただ、親が双極性障害でも、すべての子どもが同じ病気になるわけではありません。
遺伝要因以外にも、さまざまな環境要因が加わり、発症リスクが高まると言えるでしょう。
発症を高める可能性のある環境要因としては、
- 養育環境(幼少期のストレス)
- 社会生活のストレス
- 生活リズムの乱れ
などがあげられます。
また、双極性障害になりやすい性格傾向として、
- 循環気質:周囲に同調する気持ちが強い、社交的な気質
- 執着気質:熱しやすく冷めにくい、物事の切り替えが苦手な気質
などが知られています。
双極性障害の治療法
双極性障害の治療は、主に以下の2つが軸となります。
- お薬を用いて、気分の波を安定させる
- リズムを整えて、気分の波をおだやかにする
(1)お薬を用いて、気分の波を安定させる
双極性障害は、脳の機能的障害による影響が大きい病気です。そのため、お薬を適切に使って、症状をコントールする必要があります。
お薬を使う目的は、主に下記の3つです。
- 躁状態を改善させる(上の波を抑える)
- うつ状態を改善させる(下の波を支える)
- 再発予防(波をおだやかにする)
当院で実際に使うお薬は、主に以下の通りです。
- 気分安定薬:リーマス・デパケン・ラミクタール など
- 抗精神病薬:エビリファイ・ジプレキサ・セロクエル・ラツーダ など
うつ症状を改善するためのお薬はまだ少ないため、患者さまの状態を確認しながら、やむなく抗うつ剤を使うこともあります。ただ、気分の波が激しくなってしまう場合もあります。
双極性障害のうつ症状に対しては、脳の一部分を刺激する「TMS治療」も効果が期待できます。うつ症状の治療でお薬の効果が認められない、またはお薬の副作用がつらく服薬が難しい方は、TMS治療もぜひご検討ください。
双極性障害とTMS治療(東京横浜TMSクリニックHP)(2)リズムを整えて、気分の波を穏やかにする
双極性障害の治療では、主に2つのリズムを整えることを目指します。
- 生活リズム:規則正しい生活習慣を意識する
- 社会リズム;人間関係のストレスをコントロールする
生活リズムを整える際は、食生活や睡眠の乱れなどを解消させていきます。不眠や過眠の症状が出ている場合は、症状の程度を見ながら睡眠薬を用いる場合もあります。
社会リズムを厳密に整える場合は、まずは人間関係のストレスを量でとらえる練習をします。その後、ストレスを適切にコントロールできるようにしていきます。
そこまで厳密に行わない場合は、以下を意識するだけでも症状の安定につながります。
- 1日の活動時間を、事前に決めておく
- 1週間に2日の休日がある場合は、1日は完全休日にする など
無理せずに過ごすことで、気分の波が安定してくると、ご自身のストレスになりやすいパターンを発見できるかもしれません。
その場合は、ストレスの捉え方を柔軟にする「認知行動療法」や、ストレスの対処法を学ぶ「ストレスコーピング」を用いて、調子の振れ幅をさらに小さくできる可能性があります。
双極性障害の治療をお考えの方へ
本記事では、双極性障害の症状や治療法について解説しました。
双極性障害は、気分の波が大きくなるほど、ご本人や周囲の方の苦しみも強まります。「病気を治そう!」と必死になるほど、気分の波が激しくなる可能性もあるのです。
そのため、双極性障害の治療では「病気を治す」ことよりも「気分の波を平坦に近づけて、病気と上手に付き合っていく」ことを目指すほうが、うまくいくケースが多いです。
当院では、双極性障害の治療の他、双極性障害と混同されやすいうつ病においても、臨床経験が豊富な精神科医が治療にあたります。また、双極性障害のうつ症状に対して、治療の効果が期待できる「TMS治療」を専門とするクリニックも併設しています。
心身の不調でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
さらに詳しく双極性障害について知りたい方は、以下をお読みください。
【こころみ医学】双極性障害について執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了