強迫性障害
強迫性障害とは?
強迫性障害とは、不快なイメージ(強迫観念)が頭から離れず、それを解消しようとする行為(強迫行為)が止められない病気です。
強迫性障害を抱えているご本人が「こんなことが気になるなんてバカバカしい」と感じて、自らの行動をストップしようとすることも多いです。
ですが、ご本人の意志に反して強迫観念や強迫行為が出てきてしまうのが、強迫性障害の特徴です。
強迫行為に周囲を巻き込んでしまった結果、友人や家族などの人間関係にヒビが入ったり、症状が強まることで自宅から出られなくなる方も存在します。
強迫性障害の症状
強迫性障害の基本的な症状は、主に「強迫観念」と「強迫行為」の2つに分類されます。
- 強迫観念:頭の中に浮かんでくる不快な考えやイメージ
- 強迫行為:不快感を打ち消すために繰り返してしまう行為
強迫性障害の患者さまに多く認められる強迫観念は、大きく分けて4つ存在します。
- 汚染恐怖や不潔恐怖
- 加害恐怖
- 不完全恐怖
- ため込み障害
(1)汚染恐怖や不潔恐怖
「汚染恐怖」「不潔恐怖」とは、汚れに対して過度に反応するようになり、洗浄行為をしないと気が済まなくなる状態です。
- 「自分は汚れている」「汚染されてしまった」と感じる
- 自分が過ごす空間が汚れているように感じる
「汚染恐怖や不潔恐怖」により出てくる強迫行為の例
- 何度も手洗いや歯磨き、シャワーを繰り返す
- 自分が過ごす空間の掃除や除菌がやめられない
- 「汚い」と感じる場所に近づけなくなる
(2)加害恐怖
「加害恐怖」とは、「自分はいけないことをしてしまうのではないか」などの禁断的思考にとらわれてしまう状態です。
- 「自分の行為が人を傷つけるのではないか」と考えてしまう
- 「卑猥な行為や反社会的な行動をしてしまうかも」と感じる
「加害恐怖」により出てくる強迫行為の例
- 自分の行動に対して「これは大丈夫か?」と何度も確認してしまう
- 周囲に「自分は問題行動を起こしていないですよね?」としつこく聞いてしまう
(3)不完全恐怖
「不完全恐怖」とは、不完全に見えるものに対して、不快感が過度に出てきてしまう状態です。不完全恐怖に関しては、ご本人が自覚していない場合も多いです。
- 環境や物事に対して「しっくりこない」「違和感がある」と感じる
「不完全恐怖」により出てくる強迫行為の例
- 整理整頓がやめられない
- 不完全さをなくすための行動を何度も繰り返す
(4)ため込み障害
「ため込み障害」とは、「物がなくなってしまう」などの気持ちが強まり、物を手放せない状態のことです。
ため込み障害は、強迫性障害に関連する病気のひとつである強迫関連症候群(強迫スペクトラム障害)に分類されています。
ため込み障害の他、以下の病気も強迫関連症候群に分類されます。
- 身体醜形障害:「自分は醜い」と強く感じる
- 抜毛症:毛を抜きたい衝動が抑えられない
- 皮膚むしり症:肌をかく、爪を噛む、かさぶたを剥がすなどの行為がやめられない
強迫性障害が引き起こす問題
強迫性障害の症状である「強迫観念」と「強迫行為」は、他にもさまざまな問題を引き起こす可能性があります。
大きく分けて、以下3つをお伝えします。
- うつ病などの合併
- 回避行動
- 周囲の巻き込み
(1)うつ病などの合併
強迫観念と強迫行為が続く毎日は、精神的な疲労も相当なものです。
そのストレスによって、うつ病や睡眠障害など、その他のこころの病気を発症してしまう方もいるのです。
アルコール、ギャンブルなどに走ってしまう方も珍しくありません。
(2)回避行動
学校や職場など、強迫行為が出そうな場所やシーンを避けることを「回避行動」と呼びます。
回避行動が強まれば生活の維持も難しくなり、日常に大きな支障が出てきます。
(3)周囲の巻き込み
強迫性障害の症状を抑えられなくなると、家族や友人など、周囲の人を強迫行為に巻き込んでしまうこともあります。
人間関係のトラブルを経験すれば、似たようなシーンへの恐怖が生まれて、さらに回避行動が強まる可能性もあるのです。
強迫性障害の原因
強迫性障害の原因は、主に「遺伝要因」と「環境要因」の重なりだと考えられています。
幼少期や思春期に強迫性障害を発症した方や、チック障害を抱えている方は、遺伝の影響が強いと言われています。
しかし、両親が強迫性障害だとしても、すべてのお子さまが同じく発症するわけではありません。
「遺伝的に発症しやすい状態があり、そこに環境要因が加わることで、強迫性障害が出てくると考えられるでしょう。
環境要因としては、主に以下があげられます。
- ご本人の性格傾向
- 日常生活でのストレス
強迫性障害になりやすい性格
強迫性障害を発症しやすい性格傾向としては、主に以下が考えられています。
- 几帳面、神経質、こだわりが強い
- 物事に対してネガティブな感情を持ちやすい
- 日常生活で感じる不満が多く、ストレス解消が苦手
虐待などのトラウマ(心的外傷)がある方も、強迫性障害を発症しやすいことがわかっています。
また、発達障害やチック障害の方が、強迫性障害を合併していることも多いです。
強迫性障害の治療法
強迫性障害は、ひとつずつの地道な治療が必要な病気です。
基本的には、薬物療法で症状を安定させたうえで、精神療法やTMS療法などを組み合わせて、状態の回復を目指します。
薬物療法
強迫性障害でお薬を使う目的は、主に以下の2つがあります。
- 強迫観念を和らげる
- 精神療法を進めるために、気持ちを安定させる
強迫性障害はお薬のみで回復する病気ではありませんが、お薬がなければ、その後の治療に進まないことも多いです。
症状を確認しながら、お薬を適宜使用するのが望ましいです。
当院で用いるお薬は、主に以下の通りです。
- 抗うつ剤:セロトニンの働きを強める
- 抗精神病薬:ドパミンの働きを抑える
- 抗不安薬(精神安定剤):脳をリラックスさせる
基本的には抗うつ剤を用いて症状の安定を目指しますが、抗うつ剤による効果が不十分の場合は、抗精神病薬が有効な可能性があります。
また、不安感が強く日常生活に支障が出ている方には、一時的な補助薬として抗不安薬を処方することもあります。
精神療法
強迫性障害の精神療法は、暴露反応妨害法(認知行動療法)が基本となります。
強迫性障害の患者さまは、不安感や恐怖が強く出ているため、最初から認知面にアプローチすることが難しいです。
そのため、まずは行動面からアプローチしていきます。
- 意識的に行動して、強迫観念を引き起こす
- 不安を打ち消そうとする強迫行為を我慢する
- そのまま、恐怖を放置する練習をする
上記の目的は、不安に慣れ、ご自身の行動の中で認知の変化を見つけることです。
エネルギーを使うため、症状が強く出ているときに取り組むのは患者さまの負担が大きいです。
そのため、薬物治療で症状を安定させてから、精神療法に進むことを推奨しています。
お薬を用いない「TMS治療」
TMS治療とは、専用の機器を使用して脳の一部分を刺激する治療法です。
日本ではうつ病治療に用いられることが多いですが、強迫性障害の新しい治療法として、アメリカではTMS治療法が認可されています。
従来の治療と組み合わせることで、症状のさらなる回復が期待できます。
うつ病では保険適用が認められている治療法ですが、日本ではまだ正式には認められていません。
アメリカFDAで認可された方法での強迫性障害に対するTMS治療は、日本では当法人含めて数えるほどしかなく、海外専門誌に当院の治療成績が掲載されるなど注目いただいています。
TMS治療のメリット
- 薬を服用されていなくても一体の効果が期待できる
- 薬で不十分な場合に、治療効果を増強できる
- 合併するうつ状態の治療も短期間で行うことができる
しかしながら自費診療のため、治療費が高額になることがネックです。
当院は、TMS治療の専門クリニック「東京横浜TMSクリニック」と併設しています。TMS治療をご検討の方は、お気軽にご相談ください。
強迫性障害の治療をお考えの方へ
本記事では、強迫性障害の症状や治療法について解説しました。
強迫性障害は、それまでの生活を維持することがとても難しくなる病気です。
「どうしてこんなことが気になるんだろう?」と感じているのに、強迫行為をやめられないのは、ご自身にとって大変な苦痛でしょう。
当院では、強迫性障害の治療のみならず、合併しやすいうつ病に対しても積極的に治療を行なっています。
強迫観念や強迫行為にお困りの方は、お気軽にご相談ください。
さらに詳しく強迫性障害について知りたい方は、以下をお読みください。
【こころみ医学】強迫性障害について執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了