パニック障害
パニック障害とは?
パニック障害とは、激しい不安や恐怖を繰り返す病気です。
極度の不安により起きる発作はパニック発作と呼ばれ、過呼吸などに発展して倒れてしまう場合もあります。
パニック障害の「パニック」は、日常の些細な緊張や恐怖とは比較できません。
ご本人にとっては「このまま死んでしまうかもしれない」と感じる恐怖が、突然襲ってくるのです。
日常生活に大きく影響を及ぼす病気であることは、容易に想像いただけると思います。
「広場恐怖症」との合併
パニック障害は、広場恐怖症と合併することが非常に多いです。
広場恐怖症とは、「逃げられない環境」「自分でコントロールできない状況」と感じたときに、強い不安や緊張を抱く恐怖症です。
広場恐怖症が出てくる代表的な例としては、
- 自由に乗り降りができない公共交通機関(電車やバスなど)
- エレベーターなどの密室空間
- 人の多い雑踏や映画館
などが考えられます。
パニック発作が出てきた際の環境や状況は、恐怖とともに記憶に残りやすいです。
その恐怖が広場恐怖症として残り、似たようなシーンでパニック発作が誘発されてしまうのです。
回避行動により、生活範囲が狭まる
パニック発作を経験すると、その後「予期不安」と「回避行動」が強まる傾向にあります。
- 予期不安:過去にパニック発作が出た状況が近づくと、「また同じ不安が出てくるのではないか」と怖くなる
- 回避行動:過去にパニック発作が出た状況を、避けて行動するようになる
回避行動が強まると、今までの生活範囲はどうしても狭まります。
日常生活に大きな制約ができてしまうのは、パニック障害により生まれる困難のひとつと言えるでしょう。
パニック障害の症状
パニック障害の症状は、「予期せずに繰り返し起こる「パニック発作」です。
ときには睡眠中や(睡眠時パニック発作)、特にきっかけなく突発的な発作に襲われる場合もあります。
パニック発作を大きく分けると、以下の2つに分類されます。
(1)認知的症状
認知的症状とは、物事の捉え方に対して「認知のゆがみが出てくることです。
- 「気が狂ってしまう」「自分や物事をコントロールできない」などの恐怖
- 「自分は、このまま死んでしまうのではないか」などの恐怖
物事の捉え方にゆがみが生じると、恐怖や不安が強まり、自律神経が過緊張状態になります。
その緊張状態が、身体症状を引き起こすきっかけとなるのです
(2)身体症状
症状の現れ方は人によってさまざまですが、例としては、下記の症状があげられます。
- 動悸、息切れ
- 大量の汗をかく
- 手足のふるえ
- 喉の異物感
- 胸の痛み
- 吐き気
- 下痢
- めまい、ふらつき
- 寒気、体のほてり
- 現実感の消失、離人感(自分が自分でない感覚)
パニック障害は、パニック発作を2回以上繰り返すことが診断基準となります。
1回だけの発作では、パニック障害とは診断されません。
また、アルコールやお薬、その他のからだの病気ではないことが、パニック障害と診断される際の前提条件です。
パニック障害の原因
パニック障害の原因として、現在の医療では脳の機能的異常があると考えられています。
脳に原因があると考えられている理由としては、
- 脳の神経伝達物質にアプローチする抗うつ剤の効果が、パニック障害の治療でも認められやすい
- 乳酸ナトリウムを注射することで、人工的にパニック発作を誘発できる
などが考えられます。
パニック障害は遺伝する?
パニック障害の原因については、まだ研究途中の段階です。
そのため「親がパニック障害の場合は、子にも遺伝する」と言い切ることも、反対に完全に否定することもできません。
現在の医療においては、「遺伝要因」と「環境要因」が重なり発症する、かつ環境要因の影響のほうが大きいと考えられています。
環境要因に多いものとして、下記を例にあげます。
現在の医療においては、「遺伝要因」と「環境要因」が重なり発症する、かつ環境要因の影響のほうが大きいと考えられています。
- ご本人の性格傾向
- 日常生活で感じるストレス
- 過去のトラウマ(心的外傷)
また、以下の2点に関しては、パニック発作を悪化させる要因となり得ます。
- 喫煙
- カフェイン
パニック障害の治療法
パニック障害の治療法は、主に2つの軸に分けることができます。
(1)パニック発作を安定させる治療
まずは、日常生活で起こるパニック発作を落ち着かせていきます。
当院では、主に抗うつ剤を使用します。抗うつ剤でセロトニンの働きを強めて、脳のバランスを整えることで、症状の安定を目指します。
抗うつ剤の服用により、症状がすぐに落ち着く方も少なくありません。ただ、抗うつ剤の治療は、一時的にお薬で発作を抑えて、少しずつ心身を回復させることが目的です。
根本的な治療ではないため、すぐにお薬をやめてしまうと、パニック発作が再度出てくる可能性もあります。少なくとも、1年間はお薬を続けることが望ましいでしょう。
「お薬を使わずに治療したい」と希望される方もいますが、他の不安に関する病気と比べると、パニック障害はお薬の効果が期待できます。
「副作用で服薬が続けられない」などの困りごとがある方以外は、お薬を用いて症状を安定させていくことをおすすめします。
ただ、仮にうつ症状を伴うパニック障害の場合は、お薬を使用しない「TMS治療」を検討するのもいいでしょう。
うつ病の治療法については、以下の記事を参考にしてください。
(2)広場恐怖症を克服する治療
パニック障害は、広場恐怖症を合併している場合が多いです。
そのため、広場恐怖症を克服することにより、パニック発作が出てくる可能性を減らせる可能性があります。
広場恐怖症を克服する流れとしては、以下が一般的と言えるでしょう。
- お薬を用いて、パニック発作を落ち着かせる
- 発作が落ち着いてから、認知行動療法などの精神療法を用いて、「コントロールできない状況」に対する苦手意識を和らげていく
広場恐怖症の克服には、行動面を重視した認知行動療法により、成功体験を積み上げていくことがとても大切です。
地道ではありますが、この積み上げが再発予防につながります。
パニック障害の治療をお考えの方へ
本記事では、パニック障害の症状や治療法について解説しました。
パニック障害は、他の精神疾患と比較すると、回復しやすい病気と言えるかもしれません。
ですが、再発率は高く、特に女性の場合は再発しやすいと考えられています。
お薬を上手に使い、かつ精神療法も併用しながら、焦らずに治療を継続することが大切です。
また、発作以外にうつ症状も出ている場合は、うつ病の治療が必要の場合もあります。
当院ではパニック障害の治療はもちろん、うつ病治療もあわせて対応しています。
「心身の不調で、日常生活を送るのが困難」と感じている方は、ぜひお早めにご相談ください。
さらに詳しく適応障害について知りたい方は、以下をお読みください。
【こころみ医学】パニック障害について執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了