新型コロナストレスでの休職・診断書・傷病手当金

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はじめに

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックによって、私たちは多くの社会生活の変化を余儀なくされています。そして多くの方が、経済的に大きな損失を受けています。

その理不尽さは災害以外の何物でもありませんが、東日本大震災のような誰の目にも明らかなものではなく、そのストレスの性質は立場によって様々かと思います。

患者さんと接していると、本当に苦しまれている方が多いのを実感します。病院にいらっしゃるのは、ストレスによって何らかの症状で苦しまれている方ではありますが、その根底には経済的な苦しみや先行きの不安など、現実的な問題に直面されている方もとても多いです。

精神的な安定のためには生活の安心も重要で、心療内科や精神科ではお薬の治療だけでなく、生活全体のサポートしています。当院でもソーシャルワーカーが2名常勤で勤務しており、開院当初より重視しておりました。

ここでは会社に勤務されている方が安心して治療に専念できるように、どのような制度やセーフティーネットがあるのかをご紹介していきます。また、新型コロナウイルスのストレスでの休職の現状や復職の実際などをご紹介していきます。少しでも悩まれている方の参考になれば、私たちとしてもうれしいです。

新型コロナストレスでの休職の実情

新型コロナウイルスでのストレスは、立場によって様々な影響を及ぼしています。ここでは企業に勤務されている方を意識してお伝えしていきたいと考えていますが、

  • 仕事がなくなり休業を余儀なくされている方
  • 在宅ワークに移行されている方
  • 運送業や販売業などで仕事が忙しくなっている方
  • 歩合での給与が大きく、大きく収入が減ってしまった方

など、様々な方がいらっしゃいます。それぞれの置かれている環境で、休職の原因も異なれば、職場の受け止め方も異なります。ですが仕事量が減っている職場では、むしろ休職に対する会社の受け止め方は寛容であったりもします。休職中は健康保険組合より傷病手当金が支給されますので、会社の負担がなくなることも大きいでしょう。

忙しい職場では、少し風当たりが強いこともあります。ですが会社には安全配慮義務があり、心身の健康を維持していくための配慮が必要です。診断書によって専門家が休職が必要と判断した場合は、いかなる状況であっても休職を優先させることが原則になります。

また歩合給のウエイトが大きく、新型コロナウイルスの影響で大きく収入が減ってしまっている方もいらっしゃいます。タクシードライバーの方などですが、その場合は雇用保険の基本手当をもらうよりも、傷病手当金の方が有利になることがあるのが実情です。

企業にお勤めの方が心身の健康状態によって仕事が続けられない場合は、傷病手当金による一定の収入がある中で安心して治療に専念できるようになっています。社会的な事情による休職は原則的には行うべきではありませんが、総合的にみて病状に悪影響が大きい場合は、休職の診断書を作成することもあるのが実情です。

当院では常勤ソーシャルワーカーも2名在籍しており、制度に精通している医師も多いです。経済的な側面も治療に重要ですので、気兼ねなくご相談ください。

新型コロナストレスと診断書

新型コロナウイルスでのストレスによって休職する際には、診断書の提出を求められることが通例です。

基本的にはその症状に応じて病名を記載することが多く、

  • 適応障害
  • 抑うつ状態

等の病名で記載されることが多いかと思います。

会社に対して「休職を要する」の診断書が出た場合には、公的には「主治医が生活ができるかどうかのレベルを下回った可能性があると判断した」ということになります。

休職の診断書の意味をグラフにして説明します。

いずれにしても、主治医が「これ以上働かせれば明らかに悪化する可能性が高い」と診断したということですから、会社側は「休職を要する」の診断書を受け取れば直ちに休職をさせる義務があります。そうでなければ、安全配慮義務に反してしまいます。

診断書は病名も含めて、あえて抽象的な表現で記載されることが多いです。

詳しく知りたい方は、『心療内科・精神科の診断書について』をお読みください。

オンライン診察での休職診断書

現在は医療機関の受診にあたって、オンライン診療や電話診療の活用されるようになっています。

しかしながら心療内科や精神科の初診では、こころのお薬は処方できないルールとなっています。このような制限がありますので、心療内科や精神科でのオンライン診療は、治療において不適切な場合も少なくありません。

休職診断書をオンラインで気軽に発行するような医療機関もでてくるかもしれませんが、後々にトラブルにつながる可能性もあります。

現状では、オンラインのみでの診断書の発行については、明確なルールはありません。しかしながら健康組合は財源的に苦しいところが多く、不支給とできる要因があれば、オンラインのみでの診療を問題視するケースも出てくる可能性があります。

復職を検討する場合はもちろんですが、退職を心に決めている場合でも、遡及されることはないかと思いますが、途中から認められなくなる可能性もありますので注意が必要です。

休職中の経済的なサポート(傷病手当金)

病気によって休職となった場合は、傷病手当金が支給されます。

傷病手当金は、おおよそ収入の2/3程度になります。そこから社会保険料を支払う必要がありますが、非課税になりますので税金はかかりません。手取りベースでみれば、最低限の生活を維持するための経済的なサポートを受けることができます。
※高収入で保険加入後1年未満の方では、金額が大きく下がる場合があります。

傷病手当金を受給するためには、いわゆる社会保険に加入している必要があります。国民健康保険にはない制度ですので、この点は注意が必要です。
※新型コロナウイルス感染での休職による傷病手当金のみ、国の財源で国保でも支給されるようになっています。

傷病手当金は、前月分の病状をもとに申請書を記載して提出し、問題がなければ支給されます。本人及び会社の記入欄だけでなく、医師が記入することで証明する必要があります。月に最低1回の医療機関の受診は必要となり、できれば休職中は2回ほど受診歴があると記載しやすいです。

詳しく知りたい方は、『傷病手当金について』をお読みください。

傷病手当金と雇用保険基本手当の比較

退職も検討している方にとっては、

  • 傷病手当金
  • 雇用保険の基本手当

の2つが生活を支える手段となります。

まず傷病手当金は、健康保険組合への加入年月によって支給期間が変化します。

  • 1年以上の場合:退職後も支給
  • 1年未満の場合:在職中のみ支給
  • いずれも最大1年半

となります。雇用保険の基本手当を受給する際には、

  • 働ける状態にあること
  • 病気が自由で他の退職の場合は、待期期間なく支給される
  • 3か月~※雇用保険加入期間や退職事由や障害の状況により変化

となります。

退職後も傷病手当金の受給ができる場合は、雇用保険利用の延長手続きを行う必要があります。そして雇用保険の基本手当の期間内で仕事につける自信がある場合に、雇用保険に切り替えていくのが現実的です。

雇用保険を申請する際には、

  • 病気が自由で退職が必要であったが、すでに働ける状態にあること

の証明になる診断書を医師が作成する必要があります。(ハローワークにより書式異なるため確認ください)

退職する際に傷病手当金が支給されることがわかると、会社の休職期間を待たずに退職される方も少なくありません。気持ちの整理をつけるためにといった意思であれば尊重させていただきますが、社会保険から国民健康保険(もしくは社保の任意継続)および国民年金に移行する必要があり、長い目で見れば損をしてしまうので、基本的には退職の意思決定はギリギリで行った方が良いかと思います。

 

それぞれの支給金額の計算方法での一番の違いは、

  • 傷病手当金が直近12か月の平均(12か月未満では、全加入者の平均が上限)
  • 雇用保険の基本手当が直近6か月の平均(年齢による上限あり)

という点があります。ですからどちらが有利かは、人によって異なります。ざっくりとした傾向としては、

  • 1年以上勤務している高所得者は傷病手当金の方が有利
  • 直前の数か月の収入減少が著しい人は傷病手当金の方が有利
  • それ以外はだいたい雇用保険の方が有利

といえます。ですから新型コロナウイルスの影響で、歩合給の減少が大きい場合は傷病手当金の方が有利であったりします。雇用保険をの期間が1/3以上残っていると、再就職手当が支給される場合があります。ですから原則としては、十分に仕事ができる状態になってから雇用保険に切り替えていくのが原則となります。

詳しく知りたい方は、『雇用保険の基本手当について』をお読みください。

緊急事態宣言下での復職の現状

令和2年4月7日に首都圏を中心に発動された緊急事態宣言(東京・埼玉・千葉・神奈川・大阪・兵庫・福岡の7都府県)ですが、4月16日には全国に拡大されました。5月14日に、北海道・東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・京都・兵庫を除く39県で解除となり、23日には大阪・京都・兵庫も解除となりました。

感染者数は低下を見せてはいたのもつかの間、少しずつ増加に転じています。現状としてはワクチンや治療薬の開発も途上であり、コロナと共存する「ニューノーマル」な生活様式の変化が求められています。多くの職場で、可能なことは極力リモートワークを利用するという流れは続くことが予想されます。

その中での復職は、手探りで行われているのが実情です。在宅ワークを混ぜながらの復職となる場合が現状では多いですが、勤怠管理が十分にできないことで、復職フォローアップが十分に行えないことが問題にもなってきています。

在宅勤務を混ぜながらの復職は、復職を目指す従業員としては、段階的な復職ができるというメリットがあります。

  • 通勤の負担がない
  • 自分のペースで業務ができる
  • 対人関係でのストレスが少ない

といったメリットがあげられます。ですが、自己管理能力が問われます。

基本的には、それぞれの企業が定める復職のラインまで回復していれば、会社側は復職環境を準備する必要性があります。しかしながら新型コロナウイルスの影響で、経営的なダメージが多い企業も少なくないことが実情です。今後の円滑な復職のためには、会社と相談して現実的な落としどころを見つけていくほうがスムーズな復職につながっていくように思います。

復職に向けてのトレーニングが必要な方は、

  • リワーク

の利用も方法です。こういった状況ではありますが、

  • 人数を制限しての通所リワーク
  • オンラインリワーク

などの工夫を行って、各施設でリワークを実施しています。

リワークにいて詳しく知りたい方は、『リワークについて』をお読みください。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:コラム  投稿日:2020年5月23日

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