アルコールの乱用とは?間違った飲酒への対処法と治療法
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はじめに
アルコールは、うまく付き合えれば人生に楽しみや広がりを与えてくれます。しかしながら、お酒はコントロールを失ってしまい、心身に有害な影響をもたらすことが少なくありません。
アルコールは依存しやすい物質で、アルコール依存症という言葉は皆さんもお聞きになったことがあるかと思います。アルコール依存症とまでいかなくても、アルコールを不適切に使用してしまうことがあります。これをアルコール乱用といいます。
アルコールの乱用とは、飲酒をすると周囲にトラブルがあるのにも関わらず、飲酒をしてしまうことです。結果的に本人にデメリットがあっても、なかなかやめられなかったりします。
本人がアルコールの問題を認められないこともあり、このような場合は、アルコール依存症に高率に移行していきます。
このようにアルコールの不適切な使用は、非常に深刻な問題を生じます。アルコールの乱用はどのように改善していけばよいのでしょうか。ここでは、アルコール乱用についてみていき、間違ったお酒の飲み方の対処法を考えていきたいと思います。
アルコール乱用とは?
アルコールは、嗜好品として多くの方が嗜んでいるかと思います。お酒を飲むと気持ちが楽になったり、会話が弾んで人間関係の潤滑油になったりします。このように本来の良い面だけであればよいのですが、しばしばアルコールは間違った使い方をされます。
ストレスの間違った発散で大量に飲酒したり、酔ったらまずいことになることを知ってて飲酒するといったことは、正しいお酒の飲み方とはいえません。このような場合、アルコール乱用といいます。
アルコール乱用によって、社会的・家族的問題を引き起こしてしまいます。しかしながら、アルコールのコントロールを完全に失うとまではいかず、飲酒機会がないときは普通にすごしていられるような状態です。
とはいえ、アルコール乱用によって様々なことが失われていきますので、逃げるようにして飲酒量が増えていき、次第にアルコールのコントロールを失って依存症に発展していってしまうことが多いです。特に本人がアルコールの問題に自覚がない場合、アルコール依存症に高率に移行していきます。
このように、アルコール依存症の前状態がアルコール乱用になります。
アルコール乱用の診断基準
アルコール乱用は、診断基準ではどのようになっているのでしょうか。国際的な診断基準が2つありますので、詳しく見ていきたいと思います。
WHO(世界保健機関)の診断基準であるICD-10では、「アルコールの有害な使用」として診断されます。アルコール乱用という診断は、医学用語というよりは社会がどうみるかという価値基準が色濃いです。このため、「有害な使用」という医学的な事実で診断します。とはいえ、実際には「アルコール乱用」という言葉が使われることがほとんどです。
APA(アメリカ精神医学会)の診断基準であるDSMでは、DSM-5への改訂で大きく変わりました。改訂される前のDSM-Ⅳ‐TRでは、アルコール乱用という病気の概念がありました。それによれば、以下の4つの特徴があげられています。
- 飲酒の結果、仕事、学校、家庭の義務を果たせなくなる
- 身体的に危険な状況下で飲酒を繰り返す
- 繰り返される飲酒関連の法律問題
- 社会的または対人関係の問題が生じたり、悪化しているにもかかわらず飲酒を続ける
このような社会生活の障害や身体に危険な使用が認められるとき、アルコール乱用と診断されます。
- お酒を飲んでいて学校や仕事にいけない
- 子供の養育ができない
- 酒代で家計が火の車になってしまう
- 飲酒運転をする
- 酔って激しい口論や暴力沙汰になる
このようなお酒の飲み方は、アルコール乱用となります。そしてアルコールの乱用は、アルコール依存症が否定されたときのみ診断されます。
それに対して改訂された診断基準であるDSM-Ⅴでは、アルコール乱用は依存につながる状態として、まとめた概念として「アルコール使用障害」と診断されます。アルコール依存症よりも症状が軽度なものがアルコール乱用、そういったとらえ方をしています。
アルコール乱用と依存は違う?
新しい診断基準をみると、アルコール乱用とアルコール依存はつながりがある病気ととらえて治療したほうが良いとの考えが伝わってくるかと思います。
ですが多少治療のアプローチの幅がかわるため、あえてアルコール乱用とアルコール依存症の違いについて考えていきたいと思います。
アルコールに依存してしまうということは、ただお酒をたくさん飲んでいるということではありません。アルコール依存症の本質は、「飲酒のコントロールを失うこと」にあります。やめようと思ってもやめられず、飲み続けてしまうのがアルコール依存症です。
アルコールは、飲み続けていると徐々に中枢神経がお酒に対して鈍感となっていきます。お酒にどんどん強くなってしまい、同じ量を飲酒しても酔えなくなっていきます。このことを、耐性といいます。
アルコールは耐性がついてくると、酔うためにもっと多くの量の飲酒をするようになります。アルコールはとても実感が強いので、精神的にも依存してしまいます。すると、お酒を探し求める探索行動がみられるようになります。
そして身体もお酒に慣れてしまい、アルコールが身体にあることを前提にバランスを整えるようになります。このためアルコールが身体から抜けてしまうと、バランスが崩れて離脱症状が生じるようになります。
こうしてアルコールをやめられなくなり、どんどんと量が増えていってコントロールを失ってしまうのがアルコール依存症です。まとめると、
- 耐性:アルコールに慣れて、効果が薄れていく
- 精神依存:アルコールを探さずにはいられない(薬物探索行動)
- 身体依存:アルコールが抜けると、体調が悪くなる(離脱症状)
この3つの特徴がそろってくると、アルコール依存症と診断されるのです。
かつてのアルコール乱用の診断基準は、どちらかというと、「まわりに与える影響」をみて判断していきます。ですので、社会的、家族的な問題があれば、アルコール乱用と診断されます。ですがアルコールのコントロールを失いつつある状態にはかわりなく、その程度は人によっても異なります。
アルコール依存症では、次第に連続飲酒になっていきます。連続飲酒とは、常に体内にアルコールを入れておかないと我慢できなくなってしまう状態です。アルコール乱用の場合、ついついお酒を飲んでしまうと問題行動を起こしますが、連続飲酒にはまだ至っていない、つまり体内にアルコールがない時間帯もあります。
アルコール乱用はどのように治療していくのか
アルコール乱用の一番の問題は、本人が問題意識を持っていないことが少なくないことです。普通の飲酒の延長線上にあることも多く、「ちょっと飲みすぎただけ」といって、自分の問題を認められない傾向にあります。
アルコールの問題では、このような否認が一番大きな問題になります。自分に問題があるという認識をもてなければ、改善の一歩が踏み出せません。周囲の家族や友人が問題に思って、相談されることも少なくありません。
うすうす問題意識を持っていたとしても、アルコールの問題は非常に根が深いです。しばらくお酒から離れていても、身近に手に入りやすいために飲酒してしまい、繰り返してしまうことが多いです。
アルコールの問題で一番大切なのは、自分の飲酒に問題があるということを自覚することです。そして自覚ができてからは、基本的には断酒を行っていきます。とくにアルコールのコントロールが失われるリスクがある方は、節酒ではなく断酒になります。
このようにアルコール乱用では、大きく2つの治療がステップがあります。
- 本人に飲酒問題を自覚させる(底つきをさせる)
- 断酒(ときに節酒)をしていく
アルコールの問題につながるのには個人差があるため、そのアプローチは人それぞれになります。ここでは、一般的な治療の流れをみていきましょう。
本人に飲酒問題を自覚させる
まずは本人が、自分の飲酒には問題があるということに気づく必要があります。そのためには、周囲の方の接し方が大切になってきます。どのようにしたらよいでしょうか?
例えば、酔っ払ってしまって、家の前の道路で大の字で寝ていたとします。家族の方はどのように対処しますか?家の中に引き入れてベッドに連れていき、風邪をひかないように毛布を掛けてあげる方が多いかと思います。
そこまでしてしまうと、本人は自分の問題に気づきません。この場合は玄関の中にまでは引き入れますが、玄関で放っておきます。毛布もかぶせません。それでいて責めることもせず、風邪をひいてしまったら本人が困るようにして自覚させていきます。
このように、飲酒に関する問題には極力関わらないようにします。後始末を家族がしないことで、本人が酒害に対して向き合える機会を作っていきます。本人の命にかかわることや、家族などの周囲が多大な迷惑をこうむることだけをカバーします。
そして普段は温かく接し、お酒のことで本人を責めないようにします。お酒に対しての否認が強いと、お酒の問題を人間関係の問題にすり替えたりすることが多くなります。本人のためにお酒の行動を止めようと思って叱ったり、お酒を隠したりすると、逆効果になってしまいます。
家族が自分に冷たく当たるから飲むしかない…といった具合に、孤立感を深めて、お酒を飲んでいく口実となってしまいます。こうして酒害に対する自覚がますます薄れてしまいます。
大変ではありますが、変わりなく温かく接することが重要です。そのなかで少しずつ、本人が「このままでは本当にいけない」「何とかしなくてはいけない」という底つき体験をすることを待ちます。周りの方は、この底つき体験を早めていくように意識してください。
断酒をしていく
本人がアルコールの問題を自覚し、変わらなければいけないと心から思えたら、アルコール乱用の治療をすすめていきます。
アルコール乱用の治療では、基本的に断酒をしていきます。過去に治療を失敗していたり、飲酒コントロールが失われていく可能性が高い方は、節酒ではなく断酒で治療していきます。
この時に大切なのが、アルコールの代わりのストレスコーピング(対処法)を見つけていくことです。アルコール乱用は、ストレスのはけ口となっていることも多いです。ですから、ストレスの対処法を見つけていくことも重要です。
さて、断酒をしていくにあたっては、嫌酒薬というお薬を使っていきます。嫌酒薬とは、文字通りお酒が嫌いになるお薬…というわけではありません。
アルコールは、「アルコール→アセトアルデヒド→酢酸」という形で分解されていきます。この途中で作られるアセトアルデヒドはお酒が弱い人が頭痛をおこしたり、二日酔いしたりする原因となります。
嫌酒薬は、このアセトアルデヒドから酢酸に変換するアセトアルデヒド脱水素酵素の働きを邪魔します。その結果、お酒に弱い状態になります。ですから飲酒欲求を抑えるというわけではなく、お酒に弱くさせるお薬と思ったほうが良いです。
このようなお薬ですので、本人がお酒をのまないことを前提にして処方するお薬です。嫌酒薬を飲んでいることで、お酒を飲めないという戒めにしていただきます。
嫌酒薬としては、おもに2種類があります。
- シアナマイド(®シアナマイド)
- ジスルフィラム(®ノックビン)
になります。安全性の高いノックビンが使われることが多いです。
このようにお薬の力も借りていくことで、アルコールのコントロールをできるようにしていきます。
節酒での治療は可能?
現在では、節酒のためのお薬も発売されています。基本的には断酒をしていきますが、しっかりと病識があり、コントロールを比較的保てそうな方は、節酒を試みていくこともあります。
節酒薬としては、
- レグテクト(一般名:アカンプロセート)
- セリンクロ(一般名:ナルメフェン)
の2つがあります。
レグテクトは、飲酒欲求を抑えるために毎日服用していきます。このお薬は、グルタミン酸を抑えることで、離脱症状を抑えて飲酒欲求を抑えるお薬になります。慢性的にアルコールをとり続けていくと、脳内で興奮に働く伝達物質のグルタミン酸が増加していきます。これを抑え込んでいきます。
セリンクロは、飲酒欲求が高まったときに頓服として服用するお薬になります。オピオイド受容体を調整することで、アルコールによる「快」や「不快」といった感情を減らすお薬です。その後にお酒を飲んでしまっても、おいしいと思わずに飲酒量が減ります。
ただし、アルコールのコントロールができない状態が明らかである場合は、断酒を基本とした治療に切り替えていく必要があります。
まとめ
アルコール乱用とは、身体や社会生活にマイナスになるような不適切なアルコールの使用をすることです。アルコール依存症の前状態であることが多いです。
アルコール乱用は依存まではいかなくとも、飲酒によって社会生活が障害されたり、身体に危険が及ぶ場合に診断されます。アルコール依存症では、耐性・精神依存・身体依存の3つの特徴が認められると診断されます。
アルコール乱用を治療していくには、本人に飲酒問題を自覚させることから始めます。その後、断酒を原則として治療していきます。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:アルコールについて 投稿日:2020年9月21日
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