アルコールの脳や肝臓への影響とは?お酒が原因となる病気
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はじめに
お酒の飲みすぎは体に良くない…このことは多くの方が理解されているかと思います。
それでもなかなか、節酒や断酒は難しいことが多いかと思います。私も健康指導をさせていただく中で、「酒が飲めなくなるくらいなら死んでもいい」とまでおっしゃる方もいらっしゃいます。
とはいっても、毎年健康診断をうけるたびに、肝臓の数値を気にされている方は少なくありません。アルコールは肝臓に負担になることは、多くの方がご存知かと思います。
ですがアルコールは、肝臓だけではありません。脳にも大きな影響がありますし、胃腸などのそれ以外の病気につながることもあります。
アルコールは心身の健康にどのような影響があるのでしょうか。ここでは、アルコールの脳や肝臓への影響を中心に、お酒が原因となる病気について詳しく見ていきたいと思います。
アルコールが原因となる身体の病気とは?
アルコールが肝臓に悪い影響があることは、休肝日という言葉があるくらいですので、多くの方がご存知かと思います。
アルコールは肝臓で代謝され、水と二酸化炭素になって身体から抜けていきます。処理する肝臓に負担がかかってしまって、肝臓にダメージを与えてしまうのは想像に難くないでしょう。
もっともよく知られている肝臓の影響としては、脂肪肝やアルコール性肝炎などがあります。この段階では禁酒をすれば元の通りに回復できますが、繊維化がすすみ、肝硬変にまで至ると回復しません。発癌リスクもあり、また合併症から死に至ることもあります。
しかしながら、肝臓以外の影響は意外と知られていません。
アルコールは、脳にも大きな影響があります。アルコールは脳の萎縮を早めてしまうことが分かっており、大脳や小脳が委縮することで認知症や小脳失調症状などが認められることがあります。また、ビタミンの欠乏からウェルニッケ脳症や末梢神経障害など、様々な病気を引き起こすこともあります。
それ以外にも、胃腸症状としては膵炎の原因となります。急性膵炎はAbdominal burn(おなかの中の火事)とも呼ばれる死に至る病気ですし、慢性膵炎の大部分はアルコールが原因といわれています。
続けて、アルコールの肝臓・脳・胃腸などへの影響について順番にご紹介していきます。
アルコールの肝臓への影響と病気
アルコールは肝臓によって主に分解されますので、負担が一番かかります。このことはよく知られていますし、「γ-GTPが高くなる=お酒に気を付けなければ…」という意識を持たれている方も多いかと思います。
健康診断わかるアルコール性肝障害の検査値としては、γ‐GTP の著しい上昇だけでなく、ALTよりもASTが優位に上昇しているという特徴があります。
ただ、一つ気を付けていただきたいこととしては、γ-GTPなどは目安に過ぎないということです。実際に肝臓に障害があるかどうかは、検査が必要になります。お酒は浴びるほど飲んでいるけど、γ-GTPが低いから大丈夫という考えは危険です。
アルコールによる肝障害が肝硬変までいたった場合、肝癌を合併することも少なくありません。アルコールによる肝障害がほかの病気と大きく異なることは、お酒を減らしていけば肝臓の機能が元に戻っていく可能性があるということです。ですからアルコールで肝臓の病気が見つかった場合、禁酒・節酒が重要になります。
それではアルコールによる肝臓の病気について、病気の進んでいく流れを意識して詳しくみていきましょう。
アルコ-ル性脂肪肝
しばしば認められる肝臓の病気で、アルコールによって肝臓に脂肪がたまっている状態です。フォアグラになってしまっているということです。
腹部エコー検査で診断が可能で、キラキラ光って見えます。この状態ですとアルコールを控えることにより改善していきますが、放置しておくと線維化して肝硬変などへ進んでいきますので、黄色信号です。
自覚症状は特になく、健康診断などで指摘されます。
アルコ-ル性肝炎
急激に大量の飲酒をすることなどによって、発熱や肝腫大など急性肝炎様の症状を認めます。重症な場合は死亡することもあり、注意が必要です。
自覚症状としては、食欲不振、嘔気、嘔吐、全身倦怠感、発熱、右上腹部から心窩部にかけての疼痛などがあります。
アルコ-ル性肝線維症
脂肪肝にもかかわらず飲酒を続けていると、肝細胞の周囲に繊維が生じてきます。肝臓の線維化がすすんでいくと、元には戻れなくなっていきます。
さらに肝硬変などに発展していく可能性がありますので、注意が必要です。
アルコ-ル性肝硬変症
長期間飲酒するうちに、肝臓が繊維化し肝臓の機能が低下していきます。ここまで進行すると、元の状態には戻れません。
肝硬変の全体のうち、アルコールが原因なのは10%程度といわれ、ウイルス性よりは少ないものの肝細胞ガンになるリスクがあります。また、肝硬変に進行するのは、明らかに女性のほうが高いといわれています。
アルコール性肝硬変ではガンよりもむしろ、食道静脈瘤などの消化管出血が原因で亡くなる方が多いです。初期は無症状のことが多いので、進行するまで気づかないことがあります。全身倦怠感、腹部の膨満感、食思不振が自覚症状としてでてきます。
アルコールの脳への影響と病気
アルコールは、脳にも大きな影響を及ぼします。
短期的には、脱抑制(感情のコントロールができなくなる)・平衡感覚の障害(ふらつき)・構音障害(ろれつがまわらない)といったことは、アルコールの量が増えれば誰しもおこります。
アルコールの脳への影響は、このような短期的なものだけではありません。長期的には、様々な病気の原因を引き起こしていきます。その原因として、大きく4つがあります。
- アルコールやアセトアルデヒド、その他化学物質による中毒
- 食事のバランスの悪さからくるビタミン不足や電解質異常
- 肝障害などからくる影響
- 繰り返される頭部外傷
それぞれに病気がありますが、これらが複合的に影響した結果、脳の萎縮が進んでいきます。年齢を重ねると誰しも脳は萎縮していくのですが、アルコールはそのスピードを加速させます。
脳が全体的に萎縮してしまい、大脳の記憶にかかわる海馬が萎縮してしまって認知機能低下の原因となったり、小脳が萎縮してしまって身体のバランス機能が失われてしまうこともあります。
脳の神経細胞は再生ができないため、他の臓器の障害より治療が難しくなってきます。ですから、何よりも予防が重要です。適正飲酒を心がければ、多少の脳の萎縮はあっても問題にはならないことがほとんどです。
それでは具体的に、アルコールに関連した脳の病気をご紹介していきます。
ウェルニッケ脳症・コルサコフ症候群
ビタミンB1の不足による症状です。
アルコールばかり飲むようになってしまうと、栄養が不足してしまいます。ビタミンB1はエネルギーを作り出すのに重要なビタミンで、神経細胞の塊である脳はエネルギーを多く必要としますので、影響が顕著に出てきます。
軽度から昏睡にいたるまでの重度の意識障害、歩行障害や眼球運動障害が生じることを、ウェルニッケ脳症といいます。
ビタミンB1の早期投与が重要です。
慢性的にこのような状態が続く場合では、記憶力障害や時と場所がわからないという見当識障害、これに伴って作り話をするという状態になってしまい、このように進行するとコルサコフ症候群といいます。コルサコフ症候群は、非常に難治になってしまいます。
ペラグラ脳症
ニコチン酸またはトリプトファンの欠乏による症状です。下痢や皮膚炎と同時に、不安や抑うつ状態などの精神症状が出現します。放置すると下痢が続いてしまい、死に至ることもあります。
よくある疾患ではないということもあり、見極めがとても難しいです。治療は、ニコチン酸アミドの大量投与になります。
肝性脳症
肝臓の障害が進むにつれて、肝臓の解毒作用が失われてきます。すると、アンモニアや芳香族脂肪酸などがたまり、これが脳に影響を及ぼします。
意識障害や羽ばたき振戦、痙攣といった多彩な神経症状、横断や腹水などが認められます。合併症がでてくると、致命的にもなります。程度によっても治療が異なりますが、薬物療法を組み合わせて全身管理して行く必要があります。
アルコール性小脳変性症
慢性的なアルコールが小脳に影響を及ぼし、萎縮させてしまいます。小脳は協調運動にとても大切で、様々な運動を調整し、バランスや姿勢を制御しています。
このため小脳が障害されていくと、歩行障害(ふらつき)や構音障害(話しづらさ)などが出てきます。
アルコールの胃腸への影響と病気
アルコールは、消化吸収にたずさわる胃腸にも大きな影響を与えます。
アルコールが影響する臓器としては、膵臓があげられます。どうして膵臓に負荷がかかるのかはわかっていないことも多いのですが、アルコールは膵炎のリスクになります。
急性膵炎は、激しい症状とともに死に至ることもあります。慢性膵炎では膵臓の機能が低下してしまい、インスリンの分泌がうまくできなくなって糖尿病になったり、ガンのリスクを高めたりします。
また肝硬変がすすむことで、門脈にある処理できなくなった血液が迂回路を通り、食道・胃静脈瘤を作ります。これが破裂し、出血によって亡くなることも少なくありません。
それでは具体的に、アルコールに関連した胃腸の病気をご紹介していきます。
アルコール性急性膵炎
急性膵炎の原因のうち、アルコールは4割程度をしめています。
アルコールが刺激になり膵臓の酵素が活性化されて、自分の膵臓を消化してしまう病気です。炎症が強くおこり、どんどん血管から液体が出ていきます。結果として血液が足りなくなり、ショックになることもあります。
Abdominal burn(おなかの中の火事)と呼ばれるほどで、死に至ることもあります。自覚症状としては、上腹部~背部にかけての痛み、発熱や嘔気などがあります。
アルコール性慢性膵炎
長期間にわたって膵臓に小さな炎症が繰り返すことで、ダメージが蓄積され、膵臓の機能が低下していきます。アルコールによるものが7割を占めるといわれています。
膵臓は消化の働きと同時に、血糖値の調整を司るホルモンを分泌しています。人類は飢餓と戦って生きてきたので、血糖を上げるホルモンはたくさんあります。ですが血糖を下げるホルモンは、インスリンしかありません。
ですから慢性膵炎によって血糖関係のホルモンの分泌が低下すると、それによって糖尿病が引き起こされていきます。慢性膵炎の症状としては、上腹部~背部の痛みや消化不良、糖尿病などが認められます。
食道・胃静脈瘤
肝機能が低下し肝硬変がすすむと、肝臓で処理しきれない血液が、迂回路を通って体をめぐります。
その迂回路が食道や胃の静脈です。血液が集中することで、血管のこぶを作っています。あまりに負荷が加わると破裂し、出血が止まらなくなります。その結果として死に至ることもあります。
ですので肝硬変になってしまった患者さんは、内視鏡検査を適宜うけて確認することが必要になります。
アルコールのその他の身体への影響と病気
アルコールには、それ以外にも様々な身体疾患につながります。簡潔にご紹介していきます。
- アルコール心筋炎
アルコールを長期間撮り続けていくと、心臓にも影響します。心筋が肥大し、収縮力が低下していきます。結果として心不全となることもあります。禁酒により改善が認められやすいです。
- 特発性大腿骨頭壊死
大腿骨頭に血液がわたらず広く壊死してしまうことで、股関節の関節がバランスを崩す病気です。なぜこのようになるかは不明ですが、男性では特にアルコール性が多いといわれています。力が股関節にかかった時に痛みが出現します。手術が必要になることもあります。
- アルコール性多発神経炎
アルコールが原因で食事がかたより、ビタミンB群を中心とした栄養が偏ることによって生じます。手足の異常感覚やしびれ、痛みなどを認めます。
- アルコール筋炎
アルコールの飲酒に伴って、激しい嘔吐や下痢をしたり、栄養がかたよります。このため低K血症が生じることがあります。
カリウムが少なくなると筋肉の収縮がうまくできなくなります。これにより、四肢の脱力や筋肉のつりが生じます。まれに大量の飲酒に伴って、横紋筋融解症という筋肉が融解して血液中に流れ込む状態になることがあります。こうなると、一刻も早く処置が必要です。
- 高血圧
長期にわたって頻回にアルコール摂取をする人は、血圧が高くなることが報告されています。しかし、アルコール摂取による血圧上昇の理由はまだはっきりとはしていません。体内のカリウム・カルシウム・マグネシウムの欠乏が関係しているのではと考えられています。
また、お酒のつまみは濃いものが多いというのも一因かもしれません。アルコールは飲酒後一時的に血圧を下げますが、習慣的な大量の飲酒は血圧を上昇させます。節酒を継続することで、数日で血圧は低下することが確認されています。
- 脂質異常症(高脂血症)
特に中性脂肪が高いタイプの方では、アルコールは増加させる作用があります。このため、中性脂肪高値が続く場合は原則禁酒がすすめられています。
- 低血糖発作
アルコール依存症の方によく見られます。食事量が低下していることで、肝臓における糖のストックが減少しています。この状態でアルコールをとると、肝臓での糖を作り出す機能がさらに抑えられ、体の中の糖が足りなくなります。ふるえや発汗、動悸、場合によっては意識障害なども生じます。
まとめ
これまで、アルコールの身体への影響について広くお伝えしてきました。
アルコールは肝臓だけでなく、脳や胃腸をはじめ、さまざまな病気の原因となります。
お酒の良い面も当然あって、お酒が好きな方もたくさんいます。お酒はもちろん、健康のことだけを考えたらやめたほうが良いです。ですが現実的に、そうはいえません。
ただし、お酒の怖さは知ってください。そのうえで、適正飲酒を心がけましょう。あまりに病気がひどいときは、ドクターストップがかかります。お酒によって亡くなることもあるので、しっかりと検査を受けて医師のアドバイスをうけとめてください。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:アルコールについて 投稿日:2020年9月21日
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