精神疾患と運転免許の法律での扱いは?

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精神疾患と運転の法律は時代とともに変化

運転は趣味だけでなく、生活にとって必須である患者さんも少なくありません。免許がないと仕事にならない方もいらっしゃいますし、地方では車なしの生活はとても不便です。

かつては、統合失調症やてんかんなどの病名がつけば、免許が取れないと法律では定められていました。しかし現在は、症状がちゃんとコントロールできていれば免許の取得や更新はできるように法律は改正されています。

その反面、診断書の提出や虚偽の申告への罰則などは厳しくなりました。

精神疾患と運転免許。法律はどのように変化してきたのでしょうか?

具体的な手続きや実情について知りたい方は、『精神疾患があっても運転免許の取得・更新はできる?』をお読みください。

精神疾患と運転免許についての法律は?

  • 現在の運転免許に関する規定は、『道路交通法』という法律で定められています。

この法律は昭和35年(1960年)に設定され、2度の大きな改定を経て、現在に至ります。精神疾患については、平成25年6月14日に公布され平成26年6月より施行された道路交通法の改定で大きな変化が認められました。

現在の道路交通法では、「悪質危険運転者と自転車に対する対策」に加え、「一定の病気等にかかわる運転者対策」で4つの対策が新たに設けられました。

都道府県公安委員会 運転に支障をきたす病気の症状の質問票が交付でき、提出を義務付けられる
虚偽の申告をして免許取得、更新した場合 1か月以下の懲役、または
30万円以下の罰金
医師 任意で患者の診断結果を
公安委員会に提出可能
都道府県公安員会 一定の病気が疑われるときに
免許効力を3か月以内暫定停止可

都道府県公安員会

この対策により、都道府県公安員会は、一定の病気・症状(てんかん発作や病的な眠気など)についての質問表への回答を義務化することになりました。

また、交通事故をおこした運転者が一定の病気に該当すると疑われる場合、専門医の判断によらず、3か月以内であれば暫定的に免許停止とできます。

虚偽の申告をした場合の罰則

上記の質問票に虚偽の回答をして免許を取得または更新した者は、

  • 1年以下の懲役又は30万円以下の罰金刑

を受けることになったのです。

医師

さらには、医師は任意で患者の診断結果を公安委員会に届出ができるようになっています。

精神疾患だと運転免許が取り消しになる時代があった!

精神疾患の患者さんの運転に対する締め付けは、最近になって厳しくなっているように思われる方が多いかもしれません。

しかし意外にも、精神疾患の患者さんに対する運転の取り扱いは昔の方が厳しかったのです。

道路交通法が制定された当初は、精神病、てんかん等は絶対的欠格事由となっていて、病名が診断されると運転免許が与えられないこととなっていました。

  • 第88条 次の各号のいずれかに該当する者に対しては、免許を与えない。
  • 一 (略)
    ニ 精神病者、精神薄弱者、てんかん病者、目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者
    三~五 (略)

この規定が平成13年(2001年)まで運用されてきました。

「精神病者、精神薄弱者」という表現だと該当する方の範囲は非常に広く、精神疾患の病名がつけば免許停止となってしまう状況だったのです。

ただし、虚偽の申請をしても罰則規定がありませんでした。ですから実際には、「病気のことを黙っておく」という形がとられることが少なくありませんでした。

精神疾患の治療法の進展と法改正

このような規制は、精神疾患に対する社会の偏見の強さを反映していたのかと思います。

昔は治療法も発展しておらず、精神疾患=治らない病気という考え方が根強かったこともあげられます。

しかしながら、薬物療法を中心とした治療法が進展し、病気と付き合いながら社会で生活できる患者さんも増えてきました。

そんな中で、運転に関する規制は、患者さんの社会参加への大きな妨げになっていることが問題視され、平成13年に道路交通法が改正される運びとなりました。

道路交通法の平成13年改定

  • 法改正により、精神疾患と診断されても、症状がコントロールされていれば運転免許が取得できるようになりました。

平成13年の道路交通法の改正では、「精神疾患」とひとくくりにはせず、症状が運転に支障があるかどうかを患者さんごとに判断することになりました。

てんかんや統合失調症などであっても、症状がコントロールされて運転に問題がないと判断されれば、免許が取得できるようになったのです。つまり、絶対的欠格事由から相対的欠格事由に変わったわけです。

  • 第88条ニ 削除
  • 第90条 (前略)ただし、次の各号のいずれかに該当する者については、政令で定める基準に従い、免許を与えず、又は6月を超えない範囲内において免許を保留することができる。
  • 一 次に掲げる病気にかかっている者
  • イ 幻覚の症状を伴う精神病であって政令で定めるもの
    ロ 発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であって政令で定めるもの
    ハ イ又はロに掲げるもののほか、自動車等の安全な運転に支障を及ぼす恐れがある病気として政令で定めるもの
  • 一のニ 介護保険法第5条の2に規定する認知症
  • ニ アルコール、麻薬、あへん又は覚せい剤の中毒者

その一方で、

  • 免許取得や更新時に申告書に記入すること
  • 申告書の記入内容で必要と判断されれば運転適性相談をうけること
  • 症状に変化がある場合には運転適性相談を再度受けること

などが義務づけられるという形で、締め付けは厳しくなりました。

症状があれば診断書の提出が義務付けられることに

道路交通法の改正前から、病状によっては診断書を提出することとなっていました。しかし、それはもっぱら薬物抵抗性のてんかん患者さんに限られていました。

さらには、診断書を提出しなくても罰則規定はなかったのです。ですから無視をすることもできました。

しかし改正後は、運転に支障のありそうな症状を持つ患者さんには診断書の提出が必須ということになりました。

運転免許取得・更新時の診断書については、『精神疾患があっても運転免許の取得・更新はできる?』をお読みください。

まとめ

現在の法律では、精神疾患があっても、症状が落ち着いていれば運転免許の取得・更新ができます。(アルコール・薬物依存、中程度以上の認知症を除く)

ただし、意識喪失などをともなうてんかん・統合失調症・躁うつ病・重度睡眠障害等の方は、申告の上で主治医の診断書が必要になります。

治療でコントロールができてさえいれば、ほとんどの場合「運転は可能」との診断になりますので、正しく申告して診断書を提出していただければと思います。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:運転について  投稿日:2019年10月10日

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