漢方薬は安全?生薬による副作用とは
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作用の強い生薬には副作用がみられることも
「漢方薬は普通のお薬より安全」
そう思われている方も多いと思います。しかしながら、体質に合わないときや、作用の強い生薬による副作用がみられることがあるため、注意が必要です。
副作用のでやすい生薬をまとめましたので、漢方薬を飲むときの参考にしていただければ幸いです。
漢方薬の副作用とは?
漢方薬の副作用には、
- 体質などに合わないものを使ったときの不調(誤治)
- アレルギー反応
- 作用の強い生薬でおこる副作用
の3パターンがあります。
一番多いのは「誤治」と呼ばれる状態です。誤治とは、体質や病態に合わないものを飲み、かえって具合が悪くなってしまうことです。それはどんな漢方薬でもおこり得るものなので、漢方薬は体質や状態に応じて選ぶことが大切なのです。
(※誤治について詳しくは、『漢方の副作用について』をお読みください。)
そして、それ以外には、強い生薬による副作用があります。副作用のおこりやすい生薬としては、
- 麻黄(まおう)
- 附子(ぶし)
- 甘草(かんぞう)
- 桂皮(けいひ)・当帰(とうき)
- 黄今(おうごん)
- 地黄(じおう)・大黄(だいおう)
が代表的です。それぞれの注意すべき副作用について、順番に確認していきましょう。
麻黄(まおう)
麻黄(まおう)での副作用は交感神経刺激作用によるもので、
- 動悸・頻脈
- ムカつき・嘔吐
- 不眠・イライラ
- 多汗
- 舌のしびれ
などの症状がみられることがあります。
麻黄には、交感神経刺激作用を持つエフェドリンが含まれています。このエフェドリンによって、交感神経が優位になって過緊張状態になります。心臓の働きは高まり、消化は抑えられます。頭は覚醒して気持ちはピリピリし、汗の分泌が多くなるのです。
このように交感神経を刺激することは、心臓に負担をかけてしまいます。そのため、狭心症、心筋梗塞などの疾患や既往歴があれば、慎重に投与しなくてはいけません。妊婦さんも子宮の収縮を促してしまうので、処方できないことになっています。
附子(ぶし)
附子(ぶし)は、猛毒で知られるトリカブトの根を弱毒化したものです。主成分はアコニチンで、利尿・強心・鎮痛作用があります。
この附子も、麻黄と同じく交感神経を優位にする生薬です。その作用により、
- 動悸・頻脈などの心血管症状
- 悪心・嘔吐などの消化器症状
が主な副作用として現れます。口のしびれなどの神経症状がみられることもあります。
甘草(かんぞう)
甘草(かんぞう)にはグリチルリチンという成分が含まれていますが、その作用で
- 高血圧
- 手足のむくみ
- 尿量の減少
- 筋肉痛・筋肉の脱力・けいれん(低カリウム血症)
などが認められることがあります。このような病態を「偽アルドステロン症」と呼びます。
アルドステロンは、尿におけるナトリウムやカリウムといったミネラルのバランスを調整するホルモンです。アルドステロンが働くと、ナトリウムを再吸収しカリウムを排泄します。
甘草に含まれているグリチルリチンという成分は、コルチゾールを増加させることによってアルドステロンのターゲットの受容体の働きを強くし、まるでアルドステロンが増えたかのような状態にする作用があるのです。
服用後すぐに副作用がみられることもあれば、時間をかけてジワジワと進んでいくこともあるので、定期的な血液検査や、必要に応じて心電図を行っていく必要があります。
桂皮(けいひ)・当帰(とうき)
どのようなお薬にもみられる副作用として「薬疹」がありますが、桂皮・当帰・黄今の生薬を含む漢方薬ではとくに薬疹がよくおきます。飲み始めに認められることが多く、
- ブツブツ
- 皮膚の赤み
- かゆみ
などに注意が必要です。
ほとんどの場合は一時的で大きな問題に発展することはありませんが、ごくまれに重症化してしまうケースがみられます。眼や口などの粘膜に水疱が生じるスティーブンス・ジョンソン症候群、さらに広範囲に全身の皮膚がヤケドのようにただれる中毒性表皮壊死症など、重症薬疹に進んでしまったときは死に至ることもあります。
漢方であっても、皮膚のトラブルの明らかな悪化が認められた場合は皮膚科にご相談いただき、漢方服用のことも伝えてください。
黄今(おうごん)
黄今(おうごん)は、当帰・桂皮と同様に薬疹の副作用が出やすい生薬でもありますが、それに加えて頻度は非常に少ないものの、「間質性肺炎」の副作用に注意が必要です。
かつて、小柴胡湯という漢方薬による間質性肺炎がおこり、死亡例もでたため世間を騒がせましたが、黄今が原因ではと考えられています。
このニュースは、「漢方薬は安全」という神話が打ち砕かれたきっかけとなりました。間質性肺炎とは、肺が線維化してカチコチになってしまい、呼吸状態が悪化する病態です。
初期症状としては、
- 予想外の発熱
- 息切れや呼吸困難
- 乾いた咳
などから始まります。胸のレントゲンをとると、すりガラス状の影が認められます。
※小柴胡湯による間質性肺炎について詳しく知りたい方は、『まれにおこる重大な漢方薬の副作用「間質性肺炎」について』をお読みください。
地黄(じおう)・大黄(だいおう)
地黄は、胃の動きを悪くする作用があるため、
- 食欲低下
- 胃の不快感
- 吐き気や嘔吐
- 下痢
などの副作用がときに生じます。動きが悪くなるだけですので、胃を荒らすことはありません。
大黄は、便秘によく使われる生薬です。腸の動きをよくすることで便の排泄を促します。大黄の効果は個人差も大きく、少しの量でも効きすぎてしまい、
- 腹痛
- 下痢
が副作用としてみられることがあります。
まとめ
漢方では、証に合わない漢方による誤治や、特定の生薬による副作用が認められることがあります。
特定の生薬によるものとしては、「麻黄・附子」による交感神経刺激による副作用、「甘草」による偽アルドステロン症、「桂皮・当帰・黄今」による薬疹、「黄今」による間質性肺炎には注意が必要です。「地黄」では胃の動きが悪くなり、「大黄」では腸の動きが良くなりすぎることで下痢や腹痛が生じることがあります。
漢方薬は自然由来ですが、だからこそ体質に合わないと調子を崩してしまうことがあります。飲むときは医師や薬剤師さんに相談し、合わないと感じたときは服用を中止しましょう。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:漢方について 投稿日:2020年3月19日
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