精神科訪問看護師が知っておきたい利用者の情報収集とアセスメント

【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。

診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。

看護師にとって、どの診療科でも必須なのが「情報収集」「アセスメント」かと思います。
今回は、精神科訪問看護師に求められる情報収集とアセスメントの内容について解説していきます。

訪問看護師が行う情報収集の方法

初回訪問の前に、ある程度事前に情報を把握しておくと、実際に利用者から情報収集するときに的を絞って質問することができるので、できるだけ事前に情報収集しておきましょう。
次のような方法で情報収集できます。

  1. 入院していた場合には、退院時の看護サマリーを事前に確認する。
  2. 他の訪問看護ステーションを利用していた場合には、その訪問看護ステーションに訪問看護サマリーを依頼する。
  3. 訪問看護サービス申し込み時に家族から簡単に聞き取りをしておく。
  4. 精神科訪問看護指示書の内容を確認する。

特に、看護サマリーはこちらが欲しい情報が記載されており、とても有用です。
入院などで看護師が介入したことがある場合には、その医療機関にサマリーを依頼しておくようにしましょう。

情報収集したい内容

ここからは、精神科訪問看護で初回の訪問時に情報収集しておきたい項目とアセスメントの方法について解説します。

1.疾患名や症状

疾患名 統合失調症/うつ病/双極性障害/アルコール依存症など
症状 幻覚(幻聴・幻視など)/妄想/抑うつ気分/不安/焦燥感など
ポイント

精神科訪問看護を行う上で利用者の疾患名を把握することは必須です。
さらに、同じ疾患であっても、利用者によって症状や重症度は異なります。
例えば、統合失調症の場合、人の声などの幻聴の症状がある人や「誰かに盗聴されている」などと感じる妄想の症状がある人もいます。
また、幻聴の症状があっても、幻聴であることを認識して聞き流すことができる人もいれば、幻聴に左右された行動をとる人もいます。
疾患名や症状をアセスメントするときには、利用者の抱える症状が、日常生活にどのように影響しているのかを考えましょう。

2.既往歴や医療管理

既往歴 高血圧症/虚血性心疾患/糖尿病/腎不全/褥瘡/など
医療管理 血糖測定/インスリン注射/シャント管理/ストーマ管理/など
ポイント

精神疾患以外の既往歴がないかを把握することも大切です。
精神疾患の患者は生活習慣病を併発している場合が少なくありません。
また、利用者の高齢化が進んでいることから、身体疾患の既往がある利用者もいます。
精神症状により、生活習慣病に対する自己管理や必要な処置が自分でできない場合があります。また、身体疾患が精神症状に影響を及ぼす場合もあるので、既往歴についても確認しておきましょう。

3.生育歴・生活歴

生育歴・生活歴 出生地/幼少期や学生時代のエピソード/就労の有無や内容/婚姻歴/発症の時期/など
ポイント

利用者を知るうえで、生育歴や生活歴を知ることが大切です。
訪問看護では、まず初めに利用者との信頼関係を構築することが第一歩なのですが、その人が今までどのような人生を歩んできたのかを知ることで、コミュニケーションの足掛かりとなります。
そこから、利用者がどのような価値観を持っているのか、何を大切にしているのかということをアセスメントしていきましょう。

4.家族構成・キーパーソン

家族構成 両親と3人暮らし/独り身/など
キーパーソン 兄弟姉妹/母親/友人など
ポイント

訪問看護では、事前に家族構成やキーパーソンを把握しておくことも重要です。
ひとり暮らしの場合には、近くに家族がいる場合、その家族は利用者の療養に対してどこまで関わってもらえるのかを確認しておきましょう。
例えば、利用者が医療機関の受診をする時に、付き添いが必要であっても、近くに家族が住んでいたとしても、付き添いが難しいケースもあります。
また、何かあった場合の緊急連絡先も確認しておきましょう。
身寄りがいない利用者の場合には、知人の方が連絡先となるケースもあります。

5.利用者や家族の在宅療養や訪問看護サービスに希望すること

在宅療養の意向 入院することなく過ごしたい
薬の自己管理ができるようになりたい
日常生活を自立して送りたい
いずれは就業したいなど
訪問看護サービスに希望すること 薬の管理方法を指導してほしい
生活習慣病予防の為の自己管理方法を指導してほしい
対人コミュニケーションのスキルを身に付けたいなど
ポイント

利用者によって、在宅療養に望むことや目標は様々です。
利用者や家族のニーズを把握し、そのニーズを充足するために、精神科訪問看護師としてどのように関わっていく必要があるのかアセスメントしましょう。

6.住環境や金銭状況

住環境 一戸建て/マンションの3階/グループホーム居住/部屋の整理の様子/スーパーまでの距離など
金銭状況 障害年金受給/アルバイト/生活保護受給など
ポイント

住環境は、利用者の自宅の中と自宅周辺の環境を含みます。
部屋の整理が難しい様子があれば、自分でできる為の方法を一緒に考えたり、こもりがちな生活をしているのであれば、まずは近くの公園に行ってみるなどの目標を立てて少しずつ行動範囲を増やしていくなどの関りもできるでしょう。
金銭の話は聞きづらいと思うかもしれませんが、金銭管理の方法や社会資源の活用などのニーズがあるかもしれないので、確認しておくと良いでしょう。

まとめ

いかがだったでしょうか。
精神科訪問看護では、利用者の疾患や症状だけに目を向けるのではなく、その人自身を知ることもとても大切です。信頼関係を築きながら、利用者にとってより良い訪問看護が提供できるようにしっかりと情報収集していきましょう。

【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。

診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。

クリニック一覧

医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。

(医)こころみ採用HP

取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。

画像名の[sample]の部分に記事の名前を入れます

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:訪問看護  投稿日:2023年11月3日

\ この記事をシェアする /

TWITTER FACEBOOK はてな POCKET LINE

関連記事

悲哀のプロセスとは?対人関係療法で扱う喪失体験への対応

大切な人を失う体験は、人生の中でも大きなストレスイベントであるとされています。 喪失体験を乗り越えていく過程では、行き場のない感情や身体症状など多様な反応が起こります。 人生における危機の一つといえますが、時間の経過とと… 続きを読む 悲哀のプロセスとは?対人関係療法で扱う喪失体験への対応

投稿日:

認知症にならないために注意すべきポイント

この記事では、認知症にならないために、食生活、運動、社会活動、ストレス発散、質の良い睡眠、聴力低下の対策、レクリエーションにおいて注意すべきポイントを解説します。 認知症にならないために注意すべきポイントになります。 認… 続きを読む 認知症にならないために注意すべきポイント

投稿日:

認知症の中核症状と周辺症状の違い・覚え方・対応策

認知症の方には、さまざまな症状が見られるため、介護する際に困惑することが少なくありません。 その際に、認知症の症状を中核症状と周辺症状に分類してとらえると理解しやすいです。 この記事では、認知症の中核症状と周辺症状の違い… 続きを読む 認知症の中核症状と周辺症状の違い・覚え方・対応策

投稿日:

人気記事

デエビゴ(レンボレキサント)の効果と副作用

デエビゴ(レンボレキサント)とは? デエビゴ(一般名:レンボレキサント)は、オレキシン受容体拮抗薬に分類される新しい睡眠薬になります。 覚醒の維持に重要な物質であるオレキシンの働きをブロックすることで、睡眠状態を促すお薬… 続きを読む デエビゴ(レンボレキサント)の効果と副作用

投稿日:

睡眠薬(睡眠導入剤)の効果と副作用

睡眠薬(精神導入剤)とは? こころの病気では、睡眠が不安定になってしまうことは非常に多いです。 睡眠が十分にとれないと心身の疲労が回復せず、集中力低下や自律神経症状などにつながってしまいます。ですから睡眠を整えることは、… 続きを読む 睡眠薬(睡眠導入剤)の効果と副作用

投稿日:

抗不安薬(精神安定剤)の効果と作用時間の比較

過度な不安が辛いときに有効な『抗不安薬』 不安は非常に辛い症状です。心身へのストレスも強く、身体の自律神経のバランスも崩れてしまいます。 抗不安薬(精神安定剤)は、耐えがたい不安で苦しんでいる方には非常に有用なお薬です。… 続きを読む 抗不安薬(精神安定剤)の効果と作用時間の比較

投稿日: