インフルエンザの予防接種や治療薬は授乳中に大丈夫?
【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。
診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。
授乳中にインフルエンザワクチン予防接種は安全なの?
ワクチンには2つの種類があり、生ワクチンと不活化ワクチンに分けることができます。生ワクチンはウイルスを弱らせたもの、不活化ワクチンはウイルスの死骸のようなものです。
インフルエンザワクチンは不活化ワクチンになりますので、ウイルスによって感染してしまうようなことはありません。ですから、母乳からウイルスが伝わって赤ちゃんが感染してしまう・・・なんてことはありません。
そもそもインフルエンザウイルスにかかっても、ウイルスが母乳に出てくることはありません。むしろ、予防接種によってお母さんにできた免疫が、わずかですが母乳を通して赤ちゃんにも伝えられるという報告もあります。ワクチンを接種する目的は、敵を身体に覚えさせることです。身体の免疫は、一度戦った敵のことを覚えます。メモリーB細胞という免疫細胞に記憶しておくのです。そして、次に同じ敵が来た時に、すぐに見つけて一気に攻撃体制を整えます。
妊婦さんとは違って、産後にインフルエンザが重症化しやすいとはいわれていませんので、積極的に受けた方がよいとはいわれていません。
ですが、もしもインフルエンザに感染してしまったら、お母さんと濃密に接している赤ちゃんにインフルエンザがうつってしまうこともあります。ワクチンも100%大丈夫ではないので、予防を徹底することはもちろん大切ですが、しっかりとインフルエンザワクチンを接種したほうが良いと思われます。米国疾病管理センター(CDC)においても、授乳中のインフルエンザワクチンは安全であるとして接種を推奨しています。
※インフルエンザワクチンについて詳しく知りたい方は、『インフルエンザワクチン』をお読みください。
予防も忘れずに
インフルエンザにかかってしまったら、お母さんから赤ちゃんへ感染してしまうことも考えられます。また、薬での治療もしなくてはいけません。ですから、できるだけインフルエンザにかからないように、予防することが何より大切です。
ワクチン打てば大丈夫と安心してはいけません。ワクチンは必ず防げるわけではありませんので、インフルエンザの流行シーズンには予防を大切にしましょう。
インフルエンザの予防としてできることは5つあります。
- 人込みに出ない
- 正しい手洗い・うがい
- マスクを着用
- 適度な湿度
- 口呼吸を改善
授乳中に使えるインフルエンザ治療薬
授乳中にインフルエンザにかかってしまっても、感染予防のために授乳をやめる必要はありません。手洗いをしっかりとして、マスクを着用して、赤ちゃんに感染しないように気を付けましょう。その上で、お母さんの治療をしていきましょう。
インフルエンザの治療は、インフルエンザウイルスの感染の広がりを抑えてくれるインフルエンザ治療薬と、発熱・頭痛・咳・鼻炎などの症状を抑えるための風邪薬の2種類に分かれます。風邪薬については、大きな問題がないものばかりなので、症状に合わせて使っていきます。
※詳しく知りたい方は、「授乳中に風邪薬を使っても大丈夫?」をお読みください。
インフルエンザの治療薬は10歳未満の子供の場合は、できれば使わないで様子をみます。子供に薬を使った時に、副作用として異常行動がみられて、衝動的な行動から命を落とすことも報告されているためです。これを聞くと怖くなるかと思いますが、授乳ではほとんど問題ないと考えられています。ごく微量しか母乳にいかないので影響は極めて小さいですし、1歳半のお子さんは行動力もないし、お母さんが目を離すことも少ないと思います。
ですが、製薬会社の説明書(添付文章)には、「授乳は避けること」とされています。ですから医師としては、「安全だとはいわれているけど、最終的には自己判断してください」という返答になってしまいがちです。
確かに、ネズミの実験では母乳にインフルエンザ薬が移行してしまうことが示されています。ですが、ヒトの場合では、母乳によって問題が起きたとするエビデンスはありません。このため、米国疾病センター(CDC)では、インフルエンザ治療薬の使用を推奨しています。これらを受けて日本産婦人科学会としても、効果が期待できるならば使っても問題ないとしています。
インフルエンザ治療薬を具体的にみていきましょう。タミフルも安全とはいわれていますが、飲み薬なので控えた方がよいかも知れません。リレンザやイナビルは吸入薬ですので、ほとんど血中に移行しません。このため、母乳にもほとんど届きませんので安全性は高いと考えられています。ラピアクタも、ヒトでは乳汁に移行が認められていないです。ゾフルーザも乳汁への移行はあるものの、移行率は高くないと考えられています。
総じて問題はないかと思いますが、吸入薬のリレンザやイナビルがより安全性が高いと思われます。
まとめ
授乳中でもインフルエンザワクチンは安全ですので、接種した方がよいです。
人込みに出ない・正しい手洗いうがい・マスクの着用・適度な湿度・口呼吸改善などの予防を意識しましょう。
イナビルやリレンザは、比較的安全性が高いといわれています。
【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。
診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。
(医)こころみ採用HP取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:妊娠・授乳について 投稿日:2020年8月23日
関連記事
高齢者のうつ病の症状とは?家族の対応4つをわかりやすく解説します
「親の表情がくらい」「親がふさぎこんでいる」このような悩みはありませんか? これは高齢者のうつ病かもしれません。 仕事の退職や大切な人との死別などのライフステージの変化により、うつ病を発症するリスクが高まります。 高齢者… 続きを読む 高齢者のうつ病の症状とは?家族の対応4つをわかりやすく解説します
投稿日:
人気記事
デエビゴ(レンボレキサント)の効果と副作用
デエビゴ(レンボレキサント)とは? デエビゴ(一般名:レンボレキサント)は、覚醒の維持に重要な物質であるオレキシンの働きをブロックすることで、睡眠状態を促す新しいお薬です。 オレキシン受容体拮抗薬に分類され、脳と体の覚醒… 続きを読む デエビゴ(レンボレキサント)の効果と副作用
投稿日: