向精神薬による妊娠への影響のリスク比較
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精神薬の妊娠への影響が気になる方へ
お薬の妊娠への影響は、気になる方が多いと思います。
お母さんが何かのお薬を飲んだとき、どの程度の影響が赤ちゃんにあるかは、動物実験や、実際に飲みながら妊娠・出産された方のデータを集め、そのリスクを推定していきます。
日本にはそれらのデータを客観的にまとめたガイドラインがありませんが、アメリカではFDA(食品医療衛生局)が『薬剤胎児危険度分類基準』というものを発表しており、それを参考にリスクを考えていくことができます。(2015年6月より撤廃されました)
FDAのガイドラインを元に、向精神薬(脳に作用するお薬)に分類される
- 抗うつ剤
- 抗不安薬(精神安定剤)
- 気分安定薬
- 睡眠薬
のリスク比較を一覧表でまとめてみました。
※お薬の妊娠への影響について詳しくは、「妊娠へのお薬の影響とは?よくある7つに疑問」をお読みください。
FDAによる薬の妊娠リスクガイドラインとは?
FDA(アメリカ食品医薬品局)は、お薬ごとの妊娠リスクを示した『薬剤胎児危険度分類基準』というガイドラインを出しています。
このガイドラインでは、動物実験や、これまでの実績などのデータを集め、そのリスクを「A・B・C・D・×」の5段階に区分しています。Aがもっとも安全性が高く、×は妊娠中は使用禁止とされています。
2015年6月からはこのカテゴリ分類が廃止され、「薬ごとに具体的な安全性とリスク評価を添付文書に示すこと」とアメリカでは義務付けられましたが、従来のカテゴリ分類は、全体でみたときのリスク基準の参考にされています。
<FDAの薬剤妊娠リスク分類>
- A:ヒト対象試験で、危険性がみいだされない
- B:ヒトでの危険性の証拠はない
- C:危険性を否定することができない
- D:危険性を示す確かな証拠がある
- ×:妊娠中は禁忌
一方、日本にはFDA基準のような客観的なガイドラインはありませんが、薬の説明書(添付文章・インタビューフォーム)を参考に妊娠・授乳への危険度を示した『山下の分類』というものがあります。こちらでは、「A・B・C・E・E・E+・F・-」の8段階で、妊娠と授乳をひっくるめて分類しています。この基準はAが「投与禁止」で、-が「絶対安全」で、FDAとは反対です。
こちらは製薬会社によるリスク判断をそのまま示したものであり、各メーカーの考え方によってその基準が変化するため、客観的な評価の参考にはしにくい難点があります。
<山下の分類>
- A:投与禁止
- B:投与禁止が望ましい
- C:授乳禁止
- E:有益性使用
- E:3か月以内と後期では有益性使用
- E+:可能な限り単独使用
- F:慎重使用
- -:注意なし(≠絶対安全)
抗うつ剤の妊娠リスク比較一覧
<FDA分類>
- B:ヒトでの危険性の証拠はない
- C:危険性を否定することができない
- D:危険性を示す確かな証拠がある
- ?:アメリカでのデータがない
<山下分類>
- B:投与禁止が望ましい
- E:有益性使用
パキシルと三環系抗うつ剤(アモキサン除く)がFDA分類の「D:危険性を示す確かな証拠がある」とされていますが、どのお薬にも妊娠初期の服用で赤ちゃんの奇形発生率を高めるリスクが報告されています。
他の抗うつ剤では現段階で具体的なリスクは報告されておらず、「絶対安全とはいえないけれど、病状安定のメリットが高いときは慎重に使用する」という扱いになっています。
※抗うつ剤と妊娠について詳しくは、『抗うつ剤の妊娠への影響とは?』をお読みください。
抗不安薬(精神安定剤)の妊娠リスク比較一覧
<FDA分類>
- D:危険性を示す確かな証拠がある
- ?アメリカでのデータがない
<山下分類>
- A:投与禁止
- E:有益性使用
- E:3か月以内と後期では有益性使用
抗不安薬(精神安定剤)のFDA分類では、ベンゾジアゼピン系はすべて「リスクD(危険性を示す確かな証拠がある)」に分類されています。これは過去に「口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)」という奇形への関連が疑われていたからです。
しかし、その後の詳しい調査では因果関係が認められなかったという報告もあり、現在では奇形のリスクはほぼないのではないかと考えられるようになっています。
抗ヒスタミン受容体拮抗薬の「アタラックス」だけは、山下分類「A:妊娠中の使用禁止」となっているので、使用ができません。
※抗不安薬(精神安定剤)の妊娠への影響について詳しくは、『抗不安薬(精神安定剤)の妊娠への影響とは?』をお読みください。
睡眠薬の妊娠リスク比較一覧
<FDA分類>
- C:危険性を否定することができない
- D:危険性を示す確かな証拠がある
- ×:妊娠中は禁忌
<山下分類>
- B:投与禁止が望ましい
- E:有益性使用
- E:3か月以内と後期では有益性使用
- F:慎重使用
FDAの基準でみると、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は「D:危険性を示す確かな証拠がある」~「×:使用禁止」と厳しい評価になっています。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、出産直前に飲んでいると産後の赤ちゃんに離脱症状や鎮静症状がおきることがあります。ハルシオンやサイレースなどのように依存性・効果の高いお薬ほどその影響が大きくなるため、「使用禁止」と厳しい評価になっているようです。
また、「睡眠薬は飲まなくても生きていける」という考え方も反映されています。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、どれも評価「C:危険性を否定できない」とされ、ベンゾジアゼピン系よりもリスクが低いと考えられています。
気分安定薬の妊娠リスク一覧
<FDA分類>
- C:危険性を否定することができない
- D:危険性を示す確かな証拠がある
<山下分類>
- A:投与禁止
- E:有益性使用
- E:3か月以内と後期では有益性使用
- E+:可能な限り単独使用
気分安定薬はとくに妊娠への影響に注意が必要で、ラミクタールを除くリーマス、デパケン、テグレトールの3剤はどれも妊娠初期の服用で赤ちゃんの奇形率を高める可能性が報告されています。
中でもデパケンはそのリスクが多く、どうしても必要性のある方には単剤使用、減量など、できる限りリスクを低くする配慮をしていかなくてはいけません。
※気分安定薬の妊娠への影響について詳しくは、『デパケンの妊娠への影響とは?』『ラミクタールは妊娠・授乳中でも安全って本当?』をお読みください。
向精神病薬の妊娠リスク一覧
<FDA分類>
- C:危険性を否定することができない
向精神病薬は、全体的に妊娠への影響はあまり大きくないと考えられていて、FDA分類ではすべて「リスクC」に分類されています。ただし、セレネースだけは日本の添付文書で「妊娠中の投与禁止」となっているため、使用することができません。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:妊娠・授乳について 投稿日:2019年8月22日
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