妊婦への薬の影響と時期・タイミング
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赤ちゃんの成長の過程とは?
妊娠すると、赤ちゃんはお腹の中で少しずつ大きくなっていきますね。だからといって、赤ちゃんは少しずつ身体に必要なものを作っているわけではありません。
妊娠の初めの方に、一気に重要なものを作ってしまいます。この時期を「器官形成期」といって、最後に生理が終わった日から4週~7週が特に重要な時期といわれています。
この時期は、なかなか妊娠自体に気づいていないことも多いかともいます。この時期をすぎると、赤ちゃんがお腹の中でしていることは大く2つになります。身体を大きくすることと、臓器の機能を成熟させることです。妊娠36週を超えると、いつでも妊娠できる状態になっていきます。
妊娠初期で注意すること
妊娠の初期には、薬はどのように影響しているでしょうか?具体的には、どのようなことに注意すればよいでしょうか?
薬の影響
妊娠の最初の1か月間1週から3週末までの4週間)でのお薬の影響は全くないといわれています。
最後の生理から2週間後に排卵されて受精が成立します。その後の2週間では、受精卵がどんどんと細胞分裂していきます。この段階で影響があったとしても、着床しなかったり流産してしまうか、完全に修復されて問題がなくなるといわれています。「全か無か」の時期とも呼ばれています。
妊娠の4週目をすぎると、身体の重要な器官を作っていきます。ですから、この時期に薬が影響して問題になるのは、「奇形」です。
妊娠4週4週は絶対過敏期といわれていて、大きな奇形がおこるリスクがあります。妊娠8週目~15週目は相対過敏期といわれていて、少しずつリスクは少なくなっていきます。12週目までですと小さな奇形がみられることもあります13週をすぎると機能異常などがみられることはあっても、奇形はほぼ大丈夫といわれています。
催奇形性のある精神科の薬
この時期は、催奇形性のある薬はできるだけ避けなければいけません。
精神科の薬で最も注意が必要なのは、気分安定薬や抗てんかん薬です。これらの多くで神経管の欠損がみられたり、デパケンで顔面奇形、リーマスでエブスタイン奇形という心臓の奇形がみられたりします。
それ以外にも、抗不安薬や睡眠導入剤であるベンゾジアゼピン系のお薬では、口唇・口蓋裂のリスクが高まるとかんがえられていましたが、現在は催奇形性は否定的になっています。
抗うつ薬としては、パキシルで心臓の奇形が増えるという報告がありましたが、大きく変わらないという報告もあります。決着はついていませんが、アメリカのガイドラインでは使わない方がよいとされる「カテゴリーD」に分類されています。
その他のお薬やサプリメント
催奇形性のあるお薬はいろいろ報告されていますが、妊娠適齢期の方が注意しなければいけないものは少ないです。
ときに問題となるのが、男性ホルモンや女性ホルモンになります。近年は、美容や性の不一致の治療などに幅広く使われるようになってきています。これらは赤ちゃんの生殖器に影響を与えます。
また、飲まれている方は少ないと思いますが、血液をサラサラにするワーファリンも奇形の報告があります。
もっとも身近で、それでいてリスクのあるものはお酒です。アルコールをこの時期に服用していると、顔面奇形や心臓奇形、中枢神経の発達の遅れなどがみられます。妊娠したらお酒は控えましょう。
また、サプリメントなどに含まれていることもあるビタミンAを過剰にとり過ぎると奇形がみられるという報告があります。通常の量では問題ないのですが、1日摂取量の2~3倍を取り続けている場合です。
ビタミンAは脂溶性ビタミンなので、身体にとりこまれたら蓄積しやすいのです。水頭症や心奇形などのリスクがあります。
妊娠中期~後期で注意すること
妊娠中期~後期では、薬はどのように影響しているでしょうか?具体的には、どのようなことに注意すればよいでしょうか?
妊娠中期~後期の薬の影響
妊娠の後期には、赤ちゃんの発育や機能に影響が出てきます。奇形のような見た目の異常はでてきませんが、赤ちゃんの身体の成長が遅れたり、身体の機能が低下してしまいます。このような悪影響を「胎児毒性」といいます。
お母さんが服用した薬は、胎盤を通して赤ちゃんにも伝わります。赤ちゃんの肝臓の機能は不十分なので薬が分解されにくく、血液のタンパク質が少ないので薬が吸着されません。このため、思っている以上に赤ちゃんに薬の影響してしまいます。さらには、赤ちゃんの中枢神経系は未発達なので、脳への影響も考えられます。
また、出産の前では直接薬の作用が赤ちゃんに及びます。薬の効果が問題になることもありますし、急に薬がなくなってしまったことで離脱症状を起こすこともあります。
胎児毒性のある精神科の薬
精神科の薬としては、抗不安薬や睡眠導入剤で注意が必要です。
胎盤を通して赤ちゃんに伝わるので、赤ちゃんが薬を飲んでいるのと同じことになります。このため、生まれた直後に筋肉の緊張がなくなってしまい、力なく生まれてきます。
また、長期でお薬を服用していると赤ちゃんの身体に薬があることが当たり前になっていきます。出産と同時に薬が身体から抜けてしまうと、離脱症状がでてきてしまいます。SSRIでも離脱症状の報告はあります。
その他の薬の胎児毒性はあまりいわれていませんが、ジプレキサは代謝を悪化させるために、体重増加がみられたとの報告があります。
その他のお薬やサプリメント
よく使われているお薬としては、鎮痛剤と降圧薬のAARBとACE阻害薬に気を付ける必要があります。
ほとんどの鎮痛剤では、プロスタグランジン阻害作用というものがあります。
プロスタグランジンは、胎児の動脈管という血管を広げる働きをしています。これが邪魔されてしまいますので、動脈管が収縮してしまいます。その結果として、血のめぐりが悪くなって肺高血圧症という病気になってしまうことがあります。
また、腎臓に負担になっておっしこができなくなり、赤ちゃんのおっしこである羊水が少なくなってしまうことがあります。
ARBやACE阻害薬は、母体に作用して血圧を下げるように働きますが、子宮の血流も少なくなってしまいます。このため、胎児にいく血液が少なくなってしまい、羊水が少なくなってしまいます。その結果、赤ちゃんの発育が遅れてしまいます。
最近はあまり使われなくなりましたが、テトラサイクリンという抗菌薬をこの時期に使うと、歯の色が変色してしまいます。黄色っぽくなったり、黒っぽくなったりします。最近はホワイトニングで改善することができるようにもなってきています。
薬以外で気を付けていただきたいのは、タバコとお酒です。
妊娠中にタバコを吸っていると、胎盤の機能が低下してしまいます。これにタバコの有害物質による毒性も加わって、赤ちゃんの成長が遅れます。早産にもなりやすくなります。
また妊娠中にアルコールを取り続けていると、胎盤を通して赤ちゃんの発達を妨げます。成長が遅れて、中枢神経にダメージをあたえます。胎児性アルコール症候群といわれています。
まとめ
赤ちゃんは、はじめに重要な器官を作り上げます。そして少しずつ身体を大きくし、臓器を成熟させていきます。
妊娠初期の薬は、奇形につながる可能性があります。気分安定薬や抗てんかん薬は明らかなリスクがあります。念のため、ベンゾジアゼピン系の薬・パキシルも使わない方がよいです。アルコールも控えましょう。
妊娠中期~後期の薬は、胎児毒性や離脱症状などが生じます。ベンゾジアゼピン系の薬に注意が必要です。お酒とタバコは控えましょう。ARB・ACE 阻害薬は中止し、鎮痛剤はできるだけ控えましょう。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:妊娠・授乳について 投稿日:2020年8月11日
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