精神科・心療内科5分診療の「いいわけ」と「本音」
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たかが5分
「何時間も待ったのに5分診療で終わってしまった。」
「先生は全然話を聞いてくれない。」
病院に受診してこのように感じられる方も多いかと思います。精神科や心療内科では、患者さんも話を聞いて欲しいと思っている方が多いです。ですから、診察時間の短さに疑問や不満を持たれる方も多いでしょう。
それでは話を聞いてくれる先生がいい先生なのかというと、決してそうとは限りません。
5分診療、ときには3分診療にもなってしまう背景には、どのような実情があるのでしょうか?精神科・心療内科における医療現場の「本音」をお伝えしたいと思います。「いいわけ」に過ぎないかも知れませんが、「たかが5分」を「されど5分」にしていく形を考えていきたいと思います。
どうして5分診察になるのか
精神科・心療内科の診察というと、「話をきいてくれる」と思って受診される患者さんが多いかと思います。実際に受診をしてみると、「話を聞いてくれたのは初診だけ」と感じるクリニックや病院が多いと思います。
それには、診療報酬の問題が関係しています。その中でも、通院精神療法という部分が大きいです。
精神科や心療内科は他の科と違って、検査や薬以外の治療は非常に少ないです。精神科医は言葉を武器に勝負をしているので、「精神療法」という専門的な技能が診療報酬に認められているのです。
ここはよく他の科の医師から批判されるところなのですが、ちゃんと精神療法的な関わりをしている精神科医はたくさんいます。
さて、この通院精神療法の診療報酬点数をみてみましょう。
- 30分以上→通院精神療法(30分超)→400点
- 5分以上→通院精神療法(30分未満)→330点
これが大きな原因です。5分でも29分でも、診療報酬は330点です。そして30分でも1時間でも400点です。1点=10円ですから、30分以上診察しても700円しか変わらないのです。
精神疾患の診察では、患者さんのことを把握していく必要があります。このため、初診は30分以上の診察時間をかけていくことが多いです。ですが再診になると、基本的には5分~10分というのが目安になってしまうのです。
5分診療で儲けているのか?
ここまでのお話しますと、5分診療している病院やクリニックは金儲けしか考えていないのかと思われるかもしれませんが、決してそんな医療機関ばかりではありません。
まず第一に、このように5分診療もしていかなければ経営が成り立たない制度になっているのです。そして患者さんは増えていってしまうので、必然的にギリギリの時間での診療となってしまいます。
ですからどんなにいい先生でも、5分診療となってしまう患者さんはいるのです。それでも「されど5分の診療」にしていくためには、
- 薬を処方するだけでなくて、一緒に歩いている感じがするか
- 患者さんによって診察時間に違いがあるか
この2つが大切だと感じます。
一緒に歩いている感じがするか
どうしても短い診療時間になると薬での治療が中心となってしまいます。ですから日本の精神医療は、薬物療法がベースになっています。もちろんお薬も大切なのですが、精神療法の積み重ねも大事です。
精神療法というと難しく聞こえるかもしれませんが、患者さん側から見れば「一緒に歩いている感じがするか」で測れると思います。ときには医師として厳しく言わなければいけない時もあります。ですが一方的で患者さんの治療にプラスにならなければ、自己満足にすぎなくなります。
精神科医は患者さんにとって嫌な話をする時は、関係性を築いた上でタイミングを見計らいます。ときには治療のために患者さんと距離をとるときもありますが、枠組みを守ることと見捨てることは違います。厳しく接しつつも手を差し伸べます。
ですから、「一緒に歩いている感じがするか?」というのが、限られた時間の中でも精神療法的な関わりを意識している先生なのかどうかを見極められるのではと思います。
患者さんによって診察時間に違いがあるか
患者さんによっても必要な診察時間は変わります。
最終的には患者さんが自立していくことを目指すのならば、長く聞くことが必ずしも治療的でないこともあります。そのような患者さんには、「聞くことではなく聴くこと」が大事に思います。患者さんの悩みであったり努力に耳を傾け、そっと言葉で背中を押してあげるだけで前に進める方も少なくありません。
このような患者さんでは、5分ともいかずに3分で終わってしまうこともあります。
その一方で、じっくりと話を聞くことが必要な方もいらっしゃいます。支えとなるような人がいなかったり、生きていくこと自体に常に苦しみを抱えている患者さんなどです。
このような方には、もちろん許される時間の中にはなりますが本人の言葉を聞いて、希望を探していくことが必要です。
このような患者さんでは、10分~15分かかることもあります。ですが早く終わる患者さんもいらっしゃるので、そこで帳尻をあわせているのが実情です。
もちろん状態が悪いときは、時間をかけた診察が必要になります。このように、診察時間が患者さんによって異なるのは差別をしているわけではなく、誠実に診察をしている証拠なのです。
されど5分
5分という時間はどのように感じられますでしょうか?
時間を5分間はかって、誰かの話を聞いてみてください。おそらく思ったより長く感じると思います。今度は誰かと5分間、会話をしてみてください。おそらくあっという間だと思います。
時間の感じ方は早く感じるかもしれませんが、5分の診察でも多くのやり取りができます。精神科の診察は、睡眠や食事、問題となっている症状を確認することから始まると思います。そして前回の診察からのイベントについて話を進めていきます。
流れがつかめてくると、伝えたいことはしっかりと伝えられるようになっていきます。そうすれば、5分診療も密度の濃いものになります。
このようにしていくために患者さんとして意識していただきたいのは、「話を聞いてもらう」ではなく「自分のことを伝えよう」ということです。伝えるということは、相手に自分のことを理解してもらうことです。そのように意識して話をすると、患者さんの悩みも先生に伝わりますし、治療的なアドバイスもしやすくなります。
上手く自分の口から伝えられない方は、要点をまとめたメモなどを用意してもよいかもしれません。つらつら書くのではなく、できるだけポイントを絞って書くようにしましょう。
たかが5分診療ですが、されど5分診療です。5分という限られた時間でも、中身のある治療をすすめていくこともできます。
まとめ
「5分診療」という言葉が使われるときは、たいてい不満の意味がこもっています。
医療の現場では、時間に追われて診察をしなくてはいけないこともあります。待ち時間が長くなると、患者さんも不満が高まります。診察時間が押してしまって待ち時間が長くなると、さらに診察時間が長くなってしまうという泥沼にはまってしまうこともあります。
日本の医療制度の中では、5分診療は批判されながらも仕方がないものなのです。そんな中で、5分診療で何が出来るのかを考えていくことの方が現実的です。
それには患者さん側の意識も不可欠ですし、ときには協力していただくことも必要です。ときには調子の悪い患者さんがいたりして、診察が押してしまってパンクしてしまうこともあります。そんな時、信頼してくださっている患者さんの中には状況を察してくれる方も多いです。
「今日は先生大変そうだし、私は調子はかわらないから同じお薬でいいですよ」といって思いやっていただけるのです。もちろんその患者さんが調子が悪いときはしっかりと向き合いますし、そうした連帯感が生まれてきます。
5分診療の中で何が出来るのか…試行錯誤の中で見つけていきたいと思います。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:精神科について 投稿日:2020年8月9日
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