精神科・心療内科の初診を充実させるには?
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初診の流れを理解して備えよう
精神科・心療内科を初診するときには、いろいろな心配事が頭をよぎると思います。
「主治医の先生は話しやすいかな?」
「ちゃんと自分のことを伝えられるかな?」
「薬ってどんなものを処方されるのかな?」
身体の病気とは違って血液検査や画像検査ができるわけでもなく、見た目にわかるものではありません。心の病気は「患者さんからの情報」が診断や治療にかかせません。ですから、患者さんが事前に話されることを整理していただけると、しっかりと情報をうけとることができるのです。
それには、医者がどんなことを知りたいのかを理解していただくことが大切だと思います。ここでは、「精神科や心療内科を初診を充実させるためには?」というタイトルで、初診の前に準備しておいた方がよいことを整理したいと思います。
当日の初診OKには要注意
心の病気の診療において、初診は非常に重要です。たいていの場合、30分程度の時間は必要となります。このため多くの精神科や心療内科では、初診は予約制となっていて、30分以上の時間を確保しています。
ですから心療内科や精神科では、
- 初診予約が取りにくい
ということは、まっとうな心の医療を行っている証でもあります。もちろん、開院当初のクリニックなどでは患者さんも少なく、すぐに初診がとれることもあるでしょう。心の病気は慢性的な治療経過をたどることが多いので、結果として患者さんはどんどん増えていきます。ですから良い先生ほど予約がどんどんと取りにくくなっていきます。
このため、
- 当日初診OK
- 予約なし初診OK
をうたっているところは気を付けたほうが良いです。また心の病気は、主治医との関係性で治療を組み立てていきます。このため、
- 主治医制をとっていない(毎回医師がかわる)
ことも治療となりません。一見すると患者さんにとっては、便利で都合よいかもしれません。ですが本当の意味で、治療にはなりません。
初診での問診内容とは?
どのような病気でもそうなのですが、はじめの診察は丁寧に行っていく必要があります。とくに精神科・心療内科では、血液検査や画像検査のような客観的なものがありません。心の病気を診断して治療の方向付けをしていくためには、患者さんから様々な情報を集めなければいけないのです。
精神科・心療内科の初診は、時間としては全部で30分程度と考えていただくと良いかと思います。次の予約患者さんのこともあるので、長くなってもせいぜい40分までというのが実情です。診断や治療の方向性の説明をすることを考えると、症状や悩みをお伝えいただくのは15~20分程度になります。
どのように伝えたらよいのだろうと不安な方もいれば、話きれないんじゃないかと不安になっている方もいらっしゃるでしょう。どちらの方も、初診される前に整理していただけると充実した診察となると思います。場合によっては、紙にまとめていただいてもよいでしょう。それをもとに、医師が説明していくのもよいかと思います。
医者が知りたいこととしては、以下の7つになります。
- 主訴・・・一番困っていることは何なのか?
- 現病歴・・・病気の時系列での流れ
- 症状・・・どのような症状があるのか?
- 生活歴・・・生い立ちや学歴、職歴など
- 家族歴・・・家族構成や家族の病気
- 既往歴・・・身体疾患とお薬
- 嗜好歴・・・お酒やタバコ
初診で伝えたくないことがある時は?
精神科・心療内科の診察では、患者さんからの情報が大切だということをお伝えしました。しかしながら、いきなり自分の抱えているすべてを初診で伝えなければいけないかというと、そんなことはありません。
心の病気を抱えている患者さんは、過去に深く傷ついた過去を抱えていることも多いです。親に虐待をうけていたり、ひどいいじめにあったり、思い出すだけでもパニックになってしまうような経験をされている方もいらっしゃいます。
そんな深い内容を、初対面の主治医に対してお話しできなくても当然です。信頼関係が築けて、この先生なら話してもいいと思えるようになったらお話してくれればいいのです。
そんなときは、「傷ついた過去がありますが、今はお話できません」と正直にいっていただいて大丈夫です。「とくに何もありません」と否定されてしまうと、医師に誤解して伝わってしまいます。多くの場合、深く掘り下げずに問診がすすみます。
初診時にお伝えいただきたい内容
それでは以下の7つの内容について、細かくみていきましょう。
- 主訴・・・一番困っていることは何なのか?
- 現病歴・・・病気の時系列での流れ
- 症状・・・どのような症状があるのか?
- 生活歴・・・生い立ちや学歴、職歴など
- 家族歴・・・家族構成や家族の病気
- 既往歴・・・身体疾患とお薬
- 嗜好歴・・・お酒やタバコ
主訴
精神科の患者さんでは、症状は決して一つではありません。多くの症状で苦しんでいる患者さんはたくさんいます。その中でも、患者さんの苦しみが一番大きいものが主訴になります。
これが一番つらいという症状を、しっかりと伝えてください。ここでの症状とは、身体の症状だけでなく精神的な症状も含んでいます。「気持ちが晴れない」「趣味すらも楽しいと思えない」といったことから、「人前に出るのが不安」「同じミスを繰り返してしまう」なども主訴になります。
症状かどうかわからなかったとしても、とにかく自分が一番困っていることを短く伝えてください。
主訴を知ることは、治療を進めていく上でとても大切です。患者さんが一番困っていることを大事にして治療を行っていくことで、しっかりとした治療関係が築けます。一番困っていることがよくなっていかなければ、患者さんとしても信頼して治療を任せられません。
ときには主訴と病気の本質的な症状が異なることもあります。それを主治医から指摘するのは、治療関係が築けてからです。
現病歴
主訴が伝えられたら、次は現病歴について伝えていきましょう。現病歴とは、不調になったキッカケから現在に至るまでの経過のことです。
現病歴は非常に大切です。心の病気はいま現在の症状だけでは診断ができません。時間の経過の中で症状が変化する病気もあります。いつから始まった病気なのかも大事です。
例えば双極性障害(躁うつ病)では、患者さんが困って病院にくるのはうつ状態の時ですが、多くの方が若くから発症していて、躁状態とうつ状態を繰り返していることが多いです。同じうつ状態でも、うつ病では中年に発症し、双極性障害とは異なって繰り返しにくいです。
- いつから始まっているのか?
- どのような経過をたどっているのか?
この情報は、正しい方向に見立てて治療を開始していくには欠かせません。
現病歴を伝える時には、時系列を意識していただけると上手に伝えられます。はじめて不調を感じた時のことから、時間経過を意識して整理しておいてください。
「はじめて不調を感じたのは大学2年生の頃です。その時は□□□な症状がありました。その後はしばらく落ち着いていたのですが、就職して2年目の今年に入ると、△△なことがきっかけで、再び□□□な症状が出てきました。だんだん悪くなってきたので、今日受診しました。」
といった形です。過去から現在の時間の流れを意識してお伝えください。すでに他の病院で治療を受けてきた方も、時系列を意識してください。病院での治療に関して伝えていただきたいことは、以下になります。わかる範囲で伝えてください。
- どの病院か
- どれくらいの期間か
- 診断されていたら病名は何か
- どんな治療(薬の名前)を受けていたか
症状
今ある症状をしっかりと伝えなければいけません。しかしながら心の病気の症状は、出たり引っ込んだりすることがあります。いったん症状が落ち着いてしまうと、思い出せないこともあります。
困っている症状をきっちりお伝えするために、心の病気に関係する症状のチェックリストに目を通してみてください。
- □寝つきが悪い □途中で目が覚める □早く目が覚める □昼夜逆転している
- □食欲がない □食べ過ぎてしまう □吐いてしまう
- □動悸・胸痛 □呼吸困難感 □腹痛・下痢・便秘 □頭痛 □めまい・ふらつき
□肩がこる □身体が痛い・しびれる □疲れやすい □だるい - □憂うつで塞ぎこむ □物事が楽しめない □やる気が出ない
□人に会いたくない □消えてしまいたい □死にたいと思う - □情緒不安定 □怒りっぽい □おしゃべりがとまらない □興奮しやすい
- □漠然と不安 □決まった場所や状況( )が苦手
□物事を必要以上に確認してしまう □意味のないことを繰り返し考える - □誰かに悪口を言われているような気がする □うわさされている
□見張られているような気がする □いないはずの人の声や物音が聞こえる - □お酒がやめられない □無駄な買い物ばかりしてしまう □薬がやめられない
- □物忘れが困る
- □人間関係で悩んでいる(家族・職場) □仕事が合わない
- □その他( )
その上で、症状が全体的に社会生活にどの程度の影響があるかを伝えてください。
- 症状は全体的にどの程度でしょうか?
□家事・仕事・勉強が手につかない (いつごろから: )
□家事・仕事・勉強ができない □引きこもっている (いつごろから: )
生活歴
心の病気の場合は、これまでの生い立ちや生活のあり方が大きく関係することがあります。このため関係ないと思われるかもしれませんが、個人的なことについてお聞きしていきます。
どうしても答えたくないことに関しては、誤魔化さずに「話しづらいのですみません。」と、正直に伝えてください。それでは代表的な生活歴でお聞きしていくことを見ていきましょう。
- どこで生まれてどこで育ったのか
→地域によって気質や価値観の違いがあります。患者さんがどこで生まれ、どこで育ったのかということは、人生に対して何らかの影響があることが多いです。 - 兄弟・姉妹は何人いて、そのうち何番目か
→兄弟や姉妹は、幼少期から一番多く時間を共に過ごします。家族での立ち位置が、性格や考え方に影響します。 - 産まれた時に異常はなかったか
→出産時に何らかの異常があれば、病気としての先天的な(生まれもっての)要素を考えるきっかけにもなります。早産や新生児仮死がなかったか、未熟児といわれていなかったかなどをお伝えください。詳細がわからなくても、帝王切開で産まれた方は伝えてください。 - 発達の遅れなどを指摘されていないか
→この世に生をうけると、少しずつ身体や神経(脳)が発達していきます。そのスピードは人それぞれですが、だいたいのペースが決まっています。まわりとペースが遅れていないか、年齢ごとに健診をしてみていきます。そこで何かを指摘されたことがある方はお伝えください。
これまで指摘されていなかった方でも、発達障害が疑われる方は、母子手帳や学校の通知表などがあるとよくわかります。幼少期の絵をみることで、人物の表情や描き方に特徴がみられることがあります。 - 家庭環境は円満だったか
→家庭が円満で両親からの愛情をうけて育つことは、人に対する基本的な信頼感を築き上げていくためには必要不可欠です。家庭内暴力や両親の離婚、育児放棄などはもちろん、両親のケンカが絶えなかったり、厳格すぎる育て方なども、性格や考え方の形成に影響を及ぼします。現在の精神症状とも深く関係することも多いです。 - 学校でのトラブルや不登校などはなかったか
→子供にとっての社会生活の場である学校も、性格や考え方に大きく影響を及ぼします。仲間との関わりあいの中で少しずつ自己を確立していきます。そんな中での激しいイジメやそれによる不登校は、健全な自己を育むのを邪魔してしまいます。 - 学歴・職歴
→どんな学校を卒業し、どんな職業についてきたのかで、その人の知的水準や社会生活水準がある程度わかります。仕事に現実的な悩みを抱えているのでしたら、これまでの仕事の内容も医師に伝える必要があります。学校を中退された方は、そのこともお伝えください。 - 結婚歴
→結婚をするということは、人生をともにするパートナーができたということです。家族をもつということは、人生の大きな転機になります。言いにくいとは思いますが、離婚歴やその理由も患者さんを理解する一助になります。無理のない範囲で伝えていただければと思います。
家族歴
心の病気を診断・治療していくに当たって、家族の関係性と遺伝性を把握することはとても大切です。
ほとんどの患者さんにとって、家族は何よりも重要な人間関係です。本当の意味での家族の理解があれば、多くの病気で症状がよくなっていきます。一目で関係性がわかる「ジェノグラム」と呼ばれる家系図みたいなものを作成することもあります。
これをもとに、診察をすすめていきます。家族の変化は精神症状に大きく影響するので、具体的な相談になることも多いです。
遺伝歴も大切です。心の病気の中には、遺伝が関係するものがあります。
もっとも遺伝の関連性が強いのが、双極性障害(躁うつ病)です。家族の方に双極性障害と診断された方がいるかを確認するのはもちろんのこと、「家族の方で気分の波が大きい方はいますか?」というように私は質問しています。
その他にも、統合失調症や発達障害でも遺伝が原因で発症することもあります。うつ病や不安障害でも遺伝傾向が認められることもあります。
両親や兄弟だけでなく、血の繋がっている祖父母までの病気や性格傾向などを確認していきます。
既往歴
既往歴とは、これまでかかっていた病気のことです。心の病気に限らず、どんな病気でも既往歴は大切です。
精神疾患の中には、身体の病気が精神症状と関係する場合があります。病名でいうと、器質性精神障害と症状性精神障害といわれたりして、幻覚・妄想状態や躁状態、うつ状態など、あらゆる症状が認められることがあるのです。
器質性精神障害では、脳神経の直接的な異常が原因となって精神症状が認められます。例えば、頭部外傷や脳腫瘍、脳梗塞や脳出血といった脳血管のトラブルなどがあげられます。
症状性精神障害では、身体の病気が原因となって精神症状が認められます。例えば、甲状腺機能異常症、SLEなどの膠原病(自己免疫疾患)、糖尿病などの代謝性疾患、炎症性疾患などがあげられます。
それ以外にも、お薬に関する情報も大切です。お薬によって精神症状が出現することもあります。ステロイドやインタフェロン、降圧剤の一部や経口避妊薬などには注意が必要です。
お薬のことで確認することは2点です。
- 現在服用している薬はどのようなものか?
- これまでアレルギー症状が生じた薬はあるか?
現在服用している薬の中には、飲み合わせに注意しなければいけないものもあります。中には併用してはいけない薬もあるので、できればお薬手帳を持参してください。
また、お薬を飲んでいて発疹やかゆみがみられたことがある方は、必ずその薬を医師に伝えてください。このような症状は、お薬のアレルギーである可能性が高いです。
嗜好歴
嗜好歴とは、一般的にはお酒やタバコのことを指しています。どちらも依存しやすく、ストレスを感じると量が増える方も多いと思います。
お酒やタバコも精神状態やお薬の効果に与える影響はとても大きいです。どれくらいの量なのか、いつぐらいから始めているのかを知る必要があります。お酒は、アルコール依存症を合併してしまう方もいるので注意しなくてはいけません。
お酒やタバコは、やめられたらやめるに越したことはありません。しかしながら、すぐにやめられるものでもありません。「治療するなら絶対に酒とタバコはダメ!」とは、ほとんどの医師は言いません。ちゃんと伝えてください。
もしも過去に覚醒剤や大麻、シンナーといった違法な薬物の使用歴があれば、それに関しても伝えてください。過去のことに関しては通報などはされません。
薬物が関係している精神障害の方は突然に興奮が強まることもあるので、入院施設のある病院での治療が適切です。
まとめ
症状や悩みなどを伝えていただくのは、15~20分ほどになります。伝える内容を整理していきましょう。要点が整理される問診票を作成したので、参考にしてください。
すべてを伝えなければいけないというわけではありません。ただ何かある時は、「なにもありません」と否定するのではなく、「いまは伝えられない」と正直にいってください。
初診では、以下のようなことをお聞きしていきますので、整理しておいてください。
- 主訴・・・一番困っていることは何なのか?
- 現病歴・・・病気の時系列での流れ
- 症状・・・どのような症状があるのか?
- 生活歴・・・生い立ちや学歴、職歴など
- 家族歴・・・家族構成や家族の病気
- 既往歴・・・身体疾患とお薬
- 嗜好歴・・・タバコとお酒
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診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。
【お読みいただいた方へ】
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「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:精神科について 投稿日:2020年8月8日
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