精神科や心療内科にいくと薬漬けにされるって本当?
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薬を出すほど医者と薬屋が儲かる?
「医者は薬を出すと儲かるから患者を薬漬けにする」
「薬屋はできるだけ医者に薬を出させようとする」
世間ではこのように信じられていることが多いです。確かに一時代前は、薬を出せば出すど医者や薬屋が儲かるという時代がありました。しかしながら現在は、そんなことはありません。
とくに精神科や心療内科では、薬を出せば出すほど医者や薬屋が損をするようになってきています。精神科や心療内科では、他の科よりも薬が多くなってしまうことが多いです。このため医療費負担を少しでも減らそうと、国は診療報酬を変えて薬の処方を減らすように促しているのです。
2016年度の診療報酬改定では、臨床現場で治療をしている医師からするとかなりハードなものとなりました。ここでは診療報酬改定も踏まえて、精神科や心療内科で薬漬けにされるのではという疑問にお答えしたいと思います。
病院と薬局の利益はどうなっているか
まずは病院と薬局はどのように収益を上げているのかについて、お伝えしていきたいと思います。
病院で受診したり薬局でお薬をもらう時には、私たちは全額自己負担にはなっていませんね。一般の方でしたら3割自己負担、高齢者では多くの方が1割自己負担になっているかと思います。
病院と薬局は、その多くが保険制度の中で経営をしています。病院であれば、診察費、検査費、特殊な治療費などが保険で認められています。薬局であれば、薬剤費、調剤技術料などがあります。
なかには自費診療を行っている病院や薬局もありますが、同じ医療機関の事業所では、保険診療と自費診療は混合できないという原則があります。一つの病気の診断や治療で保険では認められていない自費診療を行うと、保険の適応がすべて受けられなくなってしまうのです。
このため保険診療を行っている病院やその薬局では、国が決めた診療報酬に従って経営しています。
薬をたくさん出すと病院と薬局は儲からない
病院や薬局の収益は国が定めた診療報酬によって決まってくるということをお伝えしました。つまり、国のさじ加減でいくらでも診療報酬は変わってきます。
みなさんもご存知の通り、日本は高齢化社会を迎えています。国の医療費は年々増加していて、社会保障費の予算はどんどんと膨れ上がっています。これから団塊の世代が高齢者となってくると、ますます医療費は増加するでしょう。
使えるお金は限られているので、医療費はそんなに増やすことはできません。限られた中で何とかやりくりしていくしかないのです。そんな中で、お薬も当然ターゲットになっています。
薬局でもらうお薬にも保険が適応されています。つまり、国がお薬代を負担しているのです。ですから国としては、できるだけ薬はあまり使わないでほしいのです。このため、薬をたくさん使っても儲からないような仕組みにしています。
精神科や心療内科以外ですと、特にそのしわ寄せは薬局に向かっています。薬局では、お薬を販売して利益を上げているイメージがあるかもしれません。確かにこのようなお薬による利益もあります。ですが薬局の収益からみると、その割合は小さいです。
お薬の販売による利益は薬価差益といいますが、お薬の卸業者さんから購入する価格と患者さんに販売する価格の差になります。この薬価差益は昔は大きかったのですが、今ではとても小さくなっています。
薬局の利益としては、処方箋一枚ごとにもらえる調剤技術料が大きくなっています。この調剤技術料に関しては、多剤であっても単剤であっても大きくかわりません。多剤だと調剤に時間がかかるので、骨折り損のくたびれ儲けになってしまいます。
病院に関しては、薬を多く出しても診療報酬があがるわけではありません。ですから、儲けるために多剤処方をしているわけではないのです。多剤処方をする理由は他にあるのですが、その点は長くなるので後述いたします。
精神科や心療内科では、もっと儲からない
精神科においては、薬を出す方が損をするような診療報酬になっています。
2012年の診療報酬改定から多剤処方に対して減算が始まり、2014年の診療報酬改定から本格的に診療報酬が切り下げられるようになりました。
- 3種類以上の抗不安薬(2剤しか使えない)
- 3種類以上の睡眠薬(2剤しか使えない)
- 4種類以上の抗うつ剤(3剤しか使えない)
- 4種類以上の抗精神病薬(3剤しか使えない)
- 4種類以上の睡眠薬+抗不安薬(合計で3剤しか使えない)
これを超えるような処方をした場合、診療報酬の減算がされることになりました。
もちろん治療をしていると、やむなく3~4剤となってしまうことはあります。そのような場合には、専門性をもった医師に限って多剤併用することができるとされています。
その専門性をもった医師の条件として、
- 日本精神神経学会専門医
- 半日の研修会受講
この2つを満たす必要があります。
この経営的にマイナスのインセンティブをうけて、多剤処方を避ける傾向は強まりました。結果的には良い方向に心の医療が進んでいるように感じています。
どうして医者は多剤処方するのか
精神科や心療内科では、お薬の量が多くなりがちです。これには様々な理由があり、仕方なく多剤になってしまう患者さんもいらっしゃいます。
私はできるだけシンプルに薬を使いたいと意識してお薬を使っていますが、どうにも症状がコントロールできなくて薬の量が増えてしまうこともあります。疾患によっては、薬を十分に使わなければいけない病気もあります。
しかしながら、不適切な多剤併用があるのも事実です。その原因としては、大きく2つがあげられるかと思います。
- 従来の教育では多剤併用が許容されていた
- 薬を出してしまう方が楽
今でこそ、精神科や心療内科のお薬は単剤で使うことが推奨されています。できるだけ単剤で使う方が効果や副作用もシンプルで分かりやすく、評価しやすいという考えがスタンダードになってきています。
しかしながら一昔前は違いました。最先端の教育機関である大学病院ですら、1990年代は多剤併用が標準的でした。そこから20年たった今ですが、当時身につけた考え方で治療を続けている先生も少なくありません。また、その先生たちから指導をうけて育っているので、理屈ではわかっていても多剤に対する抵抗感はそれほどないのが実情です。
確かに併用すると上手くいくことがあるのも確かです。薬のデメリットをカバーしあうこともあります。しかしながら多くなってくると作用が複雑になってしまいますし、医者が変わってしまうと意図が分からなくなってしまうことも多いです。
もう一つの理由が、薬を出してしまう方が楽だからです。これは精神科や心療内科に限らず、すべての科に言えることだと思います。
日本では国民皆保険制度により、だれもが安価に医療サービスを受けることができます。自己負担は少ないので、病気になったら病院にいこうと気軽に思えます。救急車にいたってはタダで利用できてしまいます。
そんな恵まれた医療制度なのですが、そのせいで本来は必要がない医療がたくさんあります。ちょっと調子が悪いと思ったら、すぐに病院に受診できます。救急車に至っては、タクシー代わりに使う人もいるくらいです。
このような状況なので、欧米にくらべると一人の医者が診察しなければいけない患者さんがとても多いです。時間に追われながら診察をしていることが多いのです。
そうなってくると、患者さんが薬を求めているならば薬を出した方が楽です。患者さんの訴えが多いなら、話をして説明するよりも薬を出した方が楽です。こうしてどんどんと、薬が増えてしまうことがあります。
薬漬けにされないためには?
ここまでお読みいただけると、医者も好き好んで薬漬けにしていないということが分かっていただけるかと思います。薬を出すことでの医者のメリットといえば、「楽」ということくらいです。
しかしながら患者さんをできるだけ早く診察するために、薬をバンバンだす医師が少なくないのも事実です。それでは薬漬けにされないためには、一体どうしたらよいでしょうか。
なかなか患者さんからは判断がつきにくいかと思います。薬を中途半端しか使わないことが良いわけでもありません。精神疾患では、薬をしっかりと使うべき病気もあります。また最近では、薬を使わないことを売りにするクリニックもありますが、ビジネス的な側面が強いことも多いです。
それではどのようにして、主治医を見つけていけばよいのでしょうか。それは結局のところ、初診で診察を受けてみて判断するより他内科と思います。口コミサイトも当てにならず、ネガティブに一方的にかかれてしまうこともありますし、一方でサクラを雇っているところもあります。
ご自身であって判断いただくポイントとしては、
- 薬の目的についてちゃんと説明してくれる
- 薬の出口についても説明してくれる
- 精神療法的な関わりがある
といったことが大切かと思います。心の治療では、薬のことをちゃんと患者さんが理解して使っていくのも治療に大切です。そして薬をどのようにして止めていくのかについても、質問したら説明してくれる先生がよいでしょう。
そして精神療法的な関わりには様々なものがありますが、薬だけでない生活や考え方の道筋を示していただけるかで判断したらよいかと思います。
まとめ
精神科や心療内科に受診すると、薬漬けにされてしまうのではと恐れている方は少なくありません。医者にも薬局にもメリットがないということを理解していただき、病院への受診をためらわないでいただけたらと思い、この記事を書きました。
精神疾患はどれも、発症してから時間が経てば経つほど、治療にも時間がかかります。できるだけ早くに専門家に相談していただきたいのです。
とはいっても、私も目を疑うような処方をみたこともあります。このような心無い医師がいるのも事実です。薬漬けとまでいくのは極端なケースですが、医者の薬の使い方には患者さんへの良心や誠意が現れます。
患者さんの立場では診察を受けてみないとわからないかと思いますが、治療に対する誠実さは伝わるものだと思います。ぜひ二人三脚で治療を行える主治医をみつけて、心の治療を行っていただけたら幸いです。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:精神科について 投稿日:2020年8月8日
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