【専門家が解説】AQ(自閉症スペクトラム指数)
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AQとは?
AQとは、Autism(自閉症)-Spectrum(連続体)Quotient(指数)の略です。自閉症スペクトラム障害のスクリーニングテストとして使われている心理検査になります。
自閉症スペクトラム障害とは、いわゆる発達障害の傾向があって、生活に支障がある方すべてを含みます。社会的なコミュニケーションの取り方の困難さ、こだわりの強さを大きな特徴とします。
そのような特徴は人によって濃さが異なります。自閉症スペクトラム障害では、特徴が強い人と弱い人を濃さの違いとして、連続的なものとしてとして考えていきます。
このような特徴や傾向をスクリーニングするため、英国人のSimon Baron-CohenとSally Wheelwrightたちによって考案されたのがAQになります。
日本語版は千葉大学の若林昭雄教授によって日本版として構造化され、研究・臨床の両面から広く利用されています。
当院ではスクリーニング目的で検査を行いますが、残念ながら複雑心理検査が実施できません。より深い検査をご希望の方は、発達障害の専門的な治療をしていただける医療機関でご相談ください。
AQの目的
AQは、個人の自閉症傾向を測定することが目的の検査です。
高機能自閉症やアスペルガー症候群など、いわゆる自閉症スペクトラム障害のスクリーニングにも実施されています。自閉症スペクトラム障害の傾向が見られる、もしくは患者さん本人が疑いを持っている場合に実施することで、特徴を数字によって客観化できます。
AQの検査では、
- 社会的スキル
- 注意の切り替え
- 細部への注意
- コミュニケーション
- 想像力
の5つの項目がありますが、これらはすべて自閉症傾向を知るために重要な項目となります。
AQでは総合得点だけでなく、これらの5つの下位尺度についても測定することができます。それぞれの傾向を参考にしながら、自閉症スペクトラムとしての特徴を推測することができます。
ここで注意しておきますが、AQでは医学的な診断はつきません。あくまで傾向があるかないかなど、その人の特性を知るためを目的とした検査なのです。
AQの料金
AQは健康保険で請求できる心理テストの一つです。認知機能心理検査に分類されます。
心理検査の料金は、検査の複雑さによって異なります。医療機関によって差があるわけではなく、保険請求できる点数として決まっています。
AQは心理検査の中でも簡易な検査になるので、80点になります。80点は800円になりますので、3割負担の場合は窓口で支払う料金は240円になります。
簡易といっても簡単なことしかわからないという意味ではなく、検査を受ける際、特別な時間や場所などを要さず、問題用紙を読んで患者さん自らが〇を付けるから簡易となっています。
自閉症の特徴の一つであるコミュニケーションの取り方が苦手な場合でも、受けやすい検査になります。
医師やカウンセラーが自由診療で診察をする際は保険の適応にはなりませんが、別途料金はかからないケースが多いです。しかしながら自費で、その施設の設定した料金がかかる場合もありますので、ご確認ください。
AQの検査をする際の注意点
毎日健康に生活していたとしても、ある日具合が悪くなることもあります。何の病気か気が気でない日々を過ごすことになります。
そのような場合、何の病気か知るため、そして病気だったらどうすれば良いか知るために医療機関に出向くことになるでしょう。そして必要に応じて採血やレントゲン、心電図などの検査を行うことで、診断を確定して治療を行っていきます。
心の病は、採血やレントゲンのような検査で診断することはできません。心理検査は直接的な診断というよりは、患者さんの特性や状態を推測する材料にすぎません。その結果を参考にしながら、心の病の本質をさぐる一助にしていきます。
心理検査は心理テストという言い方もされますが、学校の試験や考査ではありません。AQが基準点よりも低いからと言って、正常だというわけでもありません。
もちろんAQは自閉症スペクトラム障害のスクリーニング検査なので、その傾向を知ることは出来ます。しかしあくまでも傾向を知ることであり、性格の良し悪しなどを図るものではありません。
もし自分で自閉症スペクトラム障害を疑い、検査をしてAQの点数が低かったとしても、本人がコミュニケーションの大変さなどの困難を抱えているのなら、そのことに対する治療を行いますし、検査をしたからといって、自閉症スペクトラム障害と決めているわけでもないのです。
自閉症スペクトラム障害の検査だと不安にならず、ありのまま本当の自分を記入してください。それがあるべき治療の一歩につながります。
AQの検査・採点方法
AQの検査は、成人用は16歳からになります。検査時間は10~15分になります。問題は50問になります。
質問に対し当てはまるものに自分自身で〇をつけていく、自己記入式の検査になります。
- そうである
- どちらかといえばそうである
- どちらかといえばそうではない(違う)
- そうではない(違う)
の4段階に分かれます
点数は50点が満点になり、33点以上が高得点と考えて自閉症スペクトラム障害の傾向が強いと考えます。
設問では、
- 社会的スキル
- 注意の切り替え
- 細部への注意
- コミュニケーション
- 想像力
この5つの要素について測定しています。
AQで分かること
AQの日本語版を作成する際、千葉大学の若林明雄教授たちは3つのグループ分けをして調査をし点数の目安を作成しました。
そして成人の自閉症スペクトラム障害の方の9割近くが33点以上になったのに対し、健常者で33点以上になったのは3%弱という結果になりました。
このような結果を踏まえ、回答の合計から以下のような目安を作りました。
- ①33点以上:発達障害の診断がつく可能性が高いといえます。日常生活に差し障りがあると思われます。
- ②27~32点:発達障害の傾向がある程度あるといえます。日常生活に差し障りはないと思われますが、一部の人は何らかの差し障りがあるかもしれません。
- ③26点以下:発達障害の傾向はあまりありません。日常生活にも差し障りなく過ごせていると思われます。
多くのサンプルから割り出した目安ですので、比較的精度の高いスクリーニングテストになります。
AQからわかる5つの傾向
AQでは、
- 社会的スキル
- 注意の切り替え
- 細部への注意
- コミュニケーション
- 想像力
の5つの分野を計測し、自閉症スペクトラム障害の程度を割り出します。
【社会的スキル】社会的スキルの低さ
- 社交的な場面が苦手
- 自分の置かれている社会的な状況が理解できない
- 新しい友人をつくれない
【注意の切り替え】注意の切り替えの難しさ
- 二つのことを同時にできない
- 今までやっていたことを中断して他のことができない
- 没頭しやすい
【細部への注意】細部への異常なこだわり
- 他の人が気づかない物音に気づく
- 数字や時刻表などの数字へのこだわりが強い
- 細かい点を気にし全体的なものの見方ができない
【コミュニケーション】他者とのコミュニケーション能力の低さ
- 雑談ができない
- 話を始めたり、終えたりするタイミングがわからない
- 一方的に話をする
【想像力】想像力の乏しさ
- 作話されても気づかない
- 小説などを読んでも登場人物や背景が想像し難い
- ごっこ遊びが苦手
AQの検査を受けてから
AQの検査を受けてわかることは、自閉症スペクトラム障害の程度です。
点数が高く傾向が強いと出た場合、自閉症スペクトラム障害の可能性も視野に入れて診察をしていきますが、あくまで可能性があるということで確定診断にはなりません。
また低かったとしても、本人がコミュニケーションの問題を訴えたり、社会的なスキルの獲得がうまくいっていない点で悩んでいたら、その点も踏まえて治療を開始します。
AQを行って自閉症スペクトラム障害障害の傾向があったとしても、患者さんがうつ状態やパニック障害の症状を発症していたら、そちらの治療を優先することもあります。
AQの検査を受けることによって得られるのは、自分の傾向や特性への理解です。検査の結果をよく理解し、自分の考え方のくせや物事の受け取り方、コミュニケーションの問題点などを知ることが大切です。
それによって自分の身の回りの人に説明をしやすくなったり、環境を整える努力をすることもできます。「自分自身もどうしてこう考えるんだろう?」「どうして指示通りに行動できないのかな?」など、自分では普通のつもりなのにといった悩みを理解することによって、自分の特性と向き合いやすくなることがあります。
障害そのものに変化は見られなくても、日常生活でのストレスが軽減して楽になる方もいらっしゃいます。AQの検査をうけることで、自分自身の特性を理解する一助になります。
そしてもっと細かく調べていくためには、ウェクスラー式知能検査(WAIS)などの複雑心理検査を行っていく必要もあります。こちらは当院では実施できず、他院様をご受診いただく形になります。
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医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:心理検査 投稿日:2019年5月14日
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