【専門家が解説】STAI(状態‐特性不安尺度)
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STAI(状態‐特性不安尺度)とは?
STAIは、不安を測定する心理検査になります。
STAIの正式名称はState-Trait Anxiety Inventory(状態‐特性不安尺度)になりますが、これはSpilbergerの不安の特性・状態モデルに基づいて開発されました。
STAIは、
- 特性不安:
特性不安というのは、その人が普段から危険に対し回避的であったり、心配しやすかったりといった性格を表しています。また状態によって変わるものではないため、あまり変化することがありません。 - 状態不安:
状態不安とは、状況による不安になります。例えば、大事なテストの直前や、近くで怖い犬が吠えているといった場面では、だれでも緊張して不安になります。状態不安が高まっているといえます。
に分けて質問が載っています。両方とも不安には変わりありません。
不安を測定する心理検査は多々あったのですが、従来の心理テストでは特性不安を測るものしかありませんでした。
しかし発案者のSpielbergerは、不安と言われると多くの人は状態不安、つまり状況での不安を思い浮かべると考えました。そしてSTAIは、不安の質を特性不安と状態不安に分けて測定するという斬新な心理検査として開発されました。
不安の心理検査 STAIの目的
STAIの他の検査と異なる点は、場面や状況などによって変化する状態不安と特性不安を分けた点です。
従来の心理検査では不安傾向を測定し、それを状態不安にも当てはめていました。しかし不安傾向が強いからといって、どんな場面でも緊張し不安にかられているとは限りません。
ある時点では不安を感じない場合もあります。また特性不安があまり高くなくても、非常にストレスの高い場面や状況が続いていれば、強い不安を感じていることになります。
STAIではこの2つの不安に分けることにより、
- 特性不安としての不安からくる症状の把握
- ストレス状態での気持ちの変化
この両方を把握することができます。
それにより、不安障害やその他の精神症状からくる不安についての診断や、元々不安を感じやすい傾向などを知ることができます。これによってお薬の治療効果を判断したり、心理療法の取り組み方などを考えることができます。
STAIの料金
STAIは、健康保険が使える心理テストの一つです。
STAIは、検査のカテゴリーとしては認知機能心理検査に含まれます。その料金は検査の複雑さによって異なります。STAIは簡易な検査に含まれるので、80点になります。
簡易といっても粗末とか簡単なことしかわからないという意味ではなく、検査を受ける際、特別な時間や場所などを要さず、問題用紙を読んで患者さん自らが〇を付けられるから簡易となっています。
80点は800円に相当し、実際の窓口で支払う際は自己負担をかけた金額になります。3割負担の場合は、240円になります。
医師やカウンセラーが自由診療で診察をする際は、別途料金はかからないケースが多いです。ですが各機関のシステムがありますので、気になる場合は医療機関にご確認ください。
STAIの検査をする際の注意点
身体の具合が悪くなると、内科などに受診されるかと思います。
多くの医療機関では、患者さんの診察をして必要な検査をします。レントゲンや採血、CT、内視鏡など様々な検査がありますが、それらで病気を診断して治療を開始します。患者さんの実際の身体の状態は、身体の中を検査しなくてはわからないからです。
心の病気は、検査などで分かるものではありません。そのため心理検査を行うことで、患者さんの訴えている症状の程度や性質を見えるようにして、診断や治療の一助にすることができます。
もちろん、心理検査だけで決まることはありません。じっくりと問診を行い、治療を行いながら患者さんのことを理解していく中で、少しずつ診断が見えてくることも少なくありません。
心理検査は、面接だけではわからない客観的な症状の度合いや、心の病になりやすい考え方の傾向などを知るために行います。深く考えずに、ありのままの答えを書いてください。それがより良い診断・治療の一歩になります。
このようにSTAIは、点数が高ければよいとか、何点以上が合格というわけではないのです。心理検査ですので、症状によって得点の傾向を知ることはできます。例えば不安障害を患っている場合は、特性不安と状態不安、ともに高くなるなどの傾向はあります。
しかしそれはあくまでも傾向がわかり、治療を開始するための指針になるということです。
またSTAIの得点は、性格の良しあしなどを決めるものでもありません。わかることは、客観的な今の症状と考え方や物のとらえ方の傾向などです。真実をゆがめてしまえば、正しい診断・治療がしづらくなります。
あまり深く考えることはせず、思った通りに検査用紙に記入してください。そこから導き出された答えに基づいて治療を開始し、治療の過程で症状に改善がみられるかなど、客観的に診断や評価していくためにSTAIは使っていきます。
STAIの検査・採点方法
STAIの検査を受ける対象は中学生以上になり、一般成人、老人まで幅広く実施できます。
大体が5~7分で終了しますが、時間制限は設けていないので、慌てずじっくり取り組めます。
STAIの検査は、特性不安と状態不安に分かれて設問があります。各20問づつ、合計40問になっています。4段階の評価になっています。
特性不安の評価は、
- しょっちゅう
- しばしば
- ときたま
- ほとんどない
状態不安は、
- 全くちがう
- いくらか
- まあそうだ
- その通りだ
の4段階の中で、自分に当てはまるものに丸を付けます。1~20までは、今の自分の気持ちで〇を付けます。21~40までは普段の気持ちで〇を付けます。
今の気持ちである状態不安には、おもに現在置かれている状況に対しての気持ちに関連した設問を設置しています。
不安や心配の傾向に当たる特性不安は、失敗や気になることに対しての緊張など、心配事や不安緊張がその人の思考の中でどれくらいの割合を占めているか、などに対しての設問になります。
- 特性不安:男性44点、女性45点以上
- 状態不安:男性41点、女性42点以上
だと高いになります。
STAIの男女差
STAIでは、男性と女性に点差があります。理由としては、日本版を作成するときの統計があります。
基準値を出すため、一般的な地域で生活している方々の男性422名、女性502名の合計924名にSTAIを解いてもらいました。その際の平均点を割り出し、75%以上になる場合を高不安としました。
その時の平均点から、
- 男性:特性不安44点以上、状態不安41点以上
- 女性:特性不安45点以上、状態不安42点以上
が高不安のラインとなりました。多数のサンプルの中から平均した得点がこのようになり、男女差が認められたのです。
STAIで分かること
不安というのは、多かれ少なかれ誰にでも存在します。
絶対に遅刻が許されない状況で電車の遅延のニュースを聞けば不安になりますし、社運を賭けたプロジェクトに抜擢されたらうれしい反面、不安も襲ってきます。しかしほとんどの場合、その不安は一時的です。この一時的でうつろいやすい不安が、状態不安と呼ばれているものです。
特性不安とは、その人が普段から持ち合わせている不安や怯えなどになります。失敗が頭から離れず不安になったり、気になることがあるとそればかりが気になってしまい、動揺したり緊張したりしてしまうケースです。
不安障害の患者さんは、この特性不安が高いケースがほとんどになります。不安障害の治療にあたって、診断や治療効果の指標になります。
またうつ状態で来院したケースでも、不安の強い場合は検査をすることがあります。このようにうつ状態によって不安が強くなっている場合、状態不安は高まっています。
特性不安は、もともと不安気質の方は高くなり、うつ状態で不安が強まっている方はそこまで目立ちません。
前者の場合は、不安になりやすさにも治療的なアプローチを考えていく必要があります。その一方で後者の場合は、うつ状態を改善することで不安が軽減する可能性があります。
STAIで分かる心の病気の傾向
実際の心の病気の患者さんでは、STAIはどのようになっているでしょうか。
不安障害(不安神経症)や心身症のために総合病院の精神科の外来に通院している患者さんにSTAIを実施し、その標準偏差を出した研究報告があります。
データからわかることは、何らかの不安障害にかかっている人は特性不安が高いことから、不安傾向がもともと強いことがわかるかと思います。状態不安も高いことから、日常的にも不安が高いことがわかります。
ストレスが身体症状となる心身症の方は、状態不安と特性不安がともにやや高めではあります。しかしながらそれほど顕著ではないため、ストレスが不安という形で顕在化しにくい点がわかりました。
このようにSTAIは、心療内科・精神科領域の疾患に対しての不安の傾向がわかる心理検査になります。
STAI検査は治療経過の評価にも有用
STAIの検査をすることにより、状態不安・特性不安の得点から不安に対しての傾向を読み取ることができます。
もちろん、心理検査でも表面化しない不安もあります。そのため他の心理検査を併用したり、医師による診察を受け面接をしていく必要があります。
最初はとても不安が強くて点数も高得点だった場合でも、治療を進めていく過程の中で不安の度合いが低くなることも多々あります。
しかし患者さんの中には自覚が乏しいことも多く、再度検査をすることで改善を実感するフィードバックになることがあります。数字でよくなっていれば、客観的なデータにもなります。
そのため、治療の過程でSTAIをするケースも出てきます。はじめに一度だけ検査をするというものでもありません。
STAIだけでなくすべての心理検査で言えることですが、現在の症状を客観的に評価していくことで、治療によってどれだけ変化が見られたかを知ることができます。このために心理検査は必要となります。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:心理検査 投稿日:2019年5月14日
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