暴露療法(エクスポージャー)とはどういう治療法なのか
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はじめに
暴露療法(エクスポージャー)は、不安障害の治療によく使われる精神療法です。行動面にアプローチする治療法なので、大きくみれば行動療法に含まれます。
暴露療法は、不安にさらされていると次第に慣れていくことを利用した治療法です。不安障害の治療では、どこかの時点で不安に立ち向かっていき、克服して自信をつけていく必要があります。
暴露療法は、パニック障害や社交不安障害、恐怖症など、不安の対象がはっきりしている病気に効果的です。薬物療法と組み合わせて治療をしていきます。
ここでは、暴露療法(エクスポージャー)とその実際の治療の流れについてお伝えしていきます。
暴露療法の原理とは?
暴露療法とは、ざっくり言ってしまうと不安に慣らせていく治療法です。この治療法の原理としては、苦手なものに暴露された時に感じる不安の「2つの慣れ」があります。
- 不安は一時的に上昇するものの、時間と共に減っていく
- 何度も練習していくうちに、不安の大きさが全体的に小さくなる
暴露療法では、不安や不快感の程度をSUD(Subjective Unit of Distress)という表し方をします。もっとも強い不安を100点として、不安の程度を相対的に点数化していきます。点数にすることで、不安が軽減していくのを目に見える形にするのは大切なことです。
苦手なものに暴露された時の不安の点数の変化をみていくと、上記の2つの特徴があることがハッキリします。まずは取りくみやすいものから、実際に暴露してみて実験すると、不安の性質が理解できます。
暴露療法と暴露反応妨害法
暴露反応妨害法という治療法をお聞きになったことがある方もいらっしゃると思います。暴露療法と暴露反応妨害法、果たしてどのような違いがあるのでしょうか?
例えば、不潔恐怖の方を例に想像していきましょう。不潔恐怖の方は、汚いものに触ると不安が高鳴り、動悸がしたり汗が止まらなくなったりすると思います。このような身体の無条件の反応を、レスポンデント反応といいます。
これに対して、汚いものに触ってしまったら思わず何度も手を洗いたくなってしまうとします。これをオペラント反応といいます。
暴露療法は、このレスポンデント反応を少しずつ慣らしていく治療法です。それに対して暴露反応妨害法は、暴露してレスポンデント反応に慣らして、反応妨害することでオペラント反応を減らしていきます。
暴露療法は、不安を下げるような安全行動をとらなくても治っていく病気で行われます。パニック障害や社交不安障害、恐怖症やPTSDなどです。
暴露反応妨害法は、反応妨害しないと治療ができない病気で行われます。おもに強迫性障害です。その他の不安障害でも、重症になると安全行動をとってしまいます。このため、反応妨害が必要になります。
暴露療法の前に行動分析
暴露反応を始めていく前に、患者さんの取っている行動をしっかりと見極める必要があります。そして、どのようにしてアプローチしていくのが治療的なのかを考えていく必要があります。
そのためには、2つの分析が必要です。
- 刺激と反応の関係を具体的に整理して分析
- さまざまな問題での刺激と反応の関係を分析
まずは、患者さんの主訴である「困っていること」に対して、どのような刺激がきっかけでどのような反応につながっていくのかを見ていきます。
先ほどの不潔恐怖の例でみてみましょう。「トイレを出ようとすると汚れが気になって仕方がない」と困っているときは以下のようになります。
- トイレにいった(先行刺激)
- 汚れが手についてしまっているのではと考える(強迫観念)
- 不安が高まる
- 何度も手を洗う(強迫行為)
- 一時的に不安が軽減する
- トイレに出来るだけいかないようにする
このように刺激と反応をたどっていくことで、どうして症状が起こっているのかを患者さんも理解しやすくなります。そして状況の変化によって、どのように不安や行動が変化するのかを明らかにしていきます。このようにすることで、治療としてはどこにアプローチすれば効果的か、推測することができます。
さらに、もっと大きな視点で分析をしていきます。患者さんが一番困っていること以外にも、様々な問題を抱えていることがあります。それらの問題の関係性をみていきます。強迫症状の背景には、夫婦関係や親子関係、仕事や学校、本人の要因や飲酒などの問題が影響しあっていることがあります。
主訴である強迫症状を中心として、これらの関係を整理していくことで、どこから優先的に治療をすすめていくのかを考えていくことができます。
暴露療法の実際の進め方
治療のアプローチが定まったら、暴露反応妨害法を進めていきます。
まずは不安階層表というものを作っていただきます。SUD(主観的不安尺度)を使って、日常生活で不安に思うことを100点満点で点数をつけていきます。
不安階層表をもとに、できそうな段階から不安に立ち向かっていくようにしていきます。できそうなものの中でも、成功したら達成感が大きいものから始めていった方がよいでしょう。
SUDが低めのものから順番に不安に身を任せて、安全行動をとらないように我慢します。暴露された直後の点数をつけてもらい、15分以上たってからの不安の点数を再度つけてもらいます。これによって、不安は慣れていくものだという実感が得られます。
行動ができない方は、まずは想像から始めていきます。不安なシチュエーションをイメージして、そのイメージを持ち続けていると不安が和らいでいくことを実感していくのです。
克服できるにつれて、少しずつ点数の高いものに挑戦していきます。このように、暴露療法はエネルギーが必要な治療なので、患者さんのモチベーションを保つことが医師としても大切です。このためにも、行動分析をすることで暴露療法のことを患者さん自身が理解することも大切なのです。
効果的に進めていく方法
暴露療法は、患者さんにもエネルギーが必要な治療ということをお伝えしてきました。苦手なものにチャレンジして克服していく必要がある治療です。
モチベーションを維持し、少しでもハードルを乗り越えやすくしていくにはどのようにしていけばよいでしょうか?その方法をご紹介していきます。
ほめること
もっとも効果的で大切なことは、「褒めること」です。こういう言い方をすると、医者は上から目線だと受け止められてしまうかもしれませんが、非常に大切なことです。
人のモチベーションを維持していく上で最も効果的なことは「褒めること」なのです。
皆さん、「これまでで一番うれしかったこと」を思い返してみてください。ほとんどの方が、「上司から褒められたこと」「家族が喜んで褒めてくれたこと」などが思い浮かぶと思います。
「いい上司・いい先輩」といわれて思い浮かぶ人はどのような人でしょうか?おそらく褒めるのが上手な人です。決してたくさん奢ってくれる人ではないと思います。金銭的なモチベーションは持続しませんが、褒めることでのモチベーションは持続することが証明されています。
ですから患者さんも良く褒めてくれる先生を選んだ方が、不安障害の治療も続けられると思います。
モデルになる
人は社会の中で学習していきます。誰かをみて学び、それを真似することで行動しやすくなります。
ですから医師や看護師などがモデルとなって実践し、それを患者さんにその通りにやっていただくというモデリングという方法があります。行動ができずに暴露療法が進まなくなってしまった場合は、このように治療者がモデルになるのも一つの方法です。
もちろん、モデルになれない内容もあります。そのような時は実際の行動のイメージを共有するだけでも効果があります。
自分の行動を記録する
自分自身の行動を観察して、それを記録して評価していくことは、それ自体にとても意味があります。暴露療法の進み具合を評価することもできますし、自分自身の症状に対する理解も深まっていきます。
記録をとることでモチベーションも維持されやすいですし、上手くいったことに対する達成感も得られやすいです。
このようなセルフモニタリングは、暴露療法を効率的に進めていく一つの武器になります。
動作をともなった確認をする
暴露療法では、不安から逃れるために安全行動をとってしまう時は反応妨害をしていきます。
しかしながら、どうしても確認行動をを取り除けないこともあります。そのような時は、まずは確認をできるだけ少なくして生活への支障がないことを目指します。
例えば外出時に家の鍵を6回も7回もかけてしまうのならば、1~2回であれば生活への支障はなくなってきます。そのような時には、動作をともなった確認をするようにします。鍵がかかったことを指さし確認することで、さらなる確認行動をガマンしやすくなります。
本来の暴露療法では確認行動をいっさい行わないようにしますが、現実的にはこのようにステップを踏んでいくこともあります。
薬物療法をうまく組み合わせる
不安障害の治療には、精神療法だけでなく薬物療法も効果的です。薬物療法を併用しながら治療をすすめていくこともできます。
お薬によって過敏さをやわらげ、その上で苦手なものを少しずつ克服していきます。不安が薄れてきたら、少しずつお薬を弱めてチャレンジしていくのです。
暴露療法をすすめていって、あるところまでは順調にきたけれどもそれ以上進めなくなってしまったら、お薬を増量したり頓服を追加することで守りを強くします。その上でチャレンジをして、苦手なことに慣れていけばよいのです。
まとめ
暴露されていると次第に慣れていくこと、繰り返し暴露されると不安が全体的に小さくなること、この2つが暴露療法の原理です。
暴露反応妨害法は、暴露した時に不安を軽減する安全行動を妨害する治療法です。どうしても安全行動をとってしまう強迫性障害などで行われます。
どこに治療アプローチをしていくかを判断するために、ミクロな分析とマクロな分析をしていきます。
不安階層表を作って、取りくみやすいものから順番にチャレンジしていきます。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:心理療法 投稿日:2020年9月12日
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