悲哀のプロセスとは?対人関係療法で扱う喪失体験への対応

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大切な人を失う体験について

大切な人を失う体験は、人生の中でも大きなストレスイベントであるとされています。
喪失体験を乗り越えていく過程では、行き場のない感情や身体症状など多様な反応が起こります。
人生における危機の一つといえますが、時間の経過とともに回復し立ち直っていくことが一般的です。
大切な人を失い、立ち直っていくまでのプロセスを「悲哀のプロセス」と呼びます。

しかし、何らかの原因によって、大切な人を失うことを受け止めきれなかったり、自然な気持ちを表現できなかったりする場合があります。
悲哀のプロセスが長期化し、うつ病などのメンタル不調に至るケースも少なくありません。
喪失体験に関する自然な感情を表現し、受け止めてもらえる安全な場所が必要となる場合があります。

うつ病を対象とした心理療法である「対人関係療法」では、悲哀のプロセスを治療テーマの一つとして扱います。
喪失体験に関する感情を「当たり前の気持ち」として受け止め、表現することをサポートする治療法です。

本記事では、対人関係療法の理論をもとに、喪失体験に対してどのように対処すればよいのかを解説します。

悲哀の3つのプロセス

大切な人を失い悲しんでいる女性

大切な人を失ったあと、人はどのように受け止めて立ち直っていくのでしょうか。
対人関係療法では、以下の3つのプロセスを経て回復していくものであるとしています。
3つのプロセスは通常2~4カ月のうちに進むものとされていますが、十分に悲しみきれないと長期化してしまう可能性があります。

  • 否認
  • 絶望
  • 脱愛着

否認:喪失体験を認められない段階

大切な人を失うと、激しいショックを受けて現実を受け入れられなくなることが多いでしょう。
深い悲しみに苦しみ、失ったことを認められず、大切な人がまだ生きているかのように振る舞うことが特徴です。

大切な人が急に亡くなった場合には、怒りが表現されることもあります。また「私のせいで亡くなったんだ」と罪悪感や自責の念にさいなまれ、苦しい思いをすることもあるでしょう。

絶望:喪失体験を受け入れるが無気力な段階

時間の経過とともに喪失体験を事実として受け入れるようになります。
事実として受け入れると同時に、激しい絶望を感じるようになり、無気力な状態に陥るのがこの時期の特徴です。
「あの人がいないと自分は生きていけない」と失意の念に襲われ、心を閉ざして引きこもりのようになりやすいでしょう。
大切な人とのつながりが解消されることを実感することで、強い悲しみを経験する段階だといえます。

脱愛着:新しい関係を築こうとする段階

「絶望」の段階で悲しみを十分に経験すると、やがて死を受け入れられるようになります。
大切な人への思いは穏やかな感情となり、「よい思い出」として残っているという状態です。
大切な人とのつながりがなくなり、新しい人との関係を築いていこうとする意欲が出てくる時期です。

対人関係療法で扱う悲哀のプロセス

悲哀のプロセスを進めている女性

対人関係療法では、正常な悲哀のプロセスが何らかの原因で滞っている状態に焦点を当てて治療を行います。
悲哀のプロセスが止まってしまうパターンとしてはどのようなものがあるのでしょうか。
代表的なケースを2つ紹介します。

悲哀のプロセスが遅れて生じる

大切な人を亡くしたあとではなく、命日のようなきっかけから、悲しみや喪失感が現れる状態です。ペットや知人など、他の対象を亡くしたことが引き金となり表面化することもあります。

悲哀のプロセスのうち「否認」の段階で停滞しており、大切な人の死を認められず、悲しみ切れていない状態です。
未解決の喪失体験が原因となり、メンタル不調を引き起こしてしまうパターンだといえます。

悲しみ続けてしまう

時間が経過しても、「脱愛着」の段階に至らず、悲しみ続けてしまう状態です。
大切な人を忘れることへの罪悪感から、悲しむことをやめられなくなってしまうのが特徴です。

たとえば、亡くなった人の所持品を片付けられなかったり、部屋をそのままの状態にしていたりすることがあります。
大切な人が「いつか帰ってくるのではないか」と、どこかで期待し生前の環境を保とうとします。
遺品を整理することはとてもつらい作業ですが、悲哀のプロセスを進めるためには大切な作業です。

喪失体験にまつわる感情は自然な気持ち

悲しみを乗り越えた女性

悲哀のプロセスは、大切な人を失ったときに生じる反応です。
そのプロセスの経過では、罪悪感や怒り、絶望感など一言では言い表せない感情を経験するでしょう。
悲哀のプロセスにおいては、複雑な感情を経験し、十分に悲しみ抜くことが回復のためには大切です。

しかし、「こんな気持ちになるなんて弱い人間だ」と考えて、我慢してしまうこともあるかもしれません。
ただ、喪失体験にまつわる感情は、人間なら体験して当然の気持ちです。
自然にわいてくる感情を、安心できる環境の中で自由に語ることが、悲しみ抜くためには必要なことがあります。
大切な人の喪失体験が原因で悩んでいる方は、対人関係療法などのカウンセリングを受けてみるとよいかもしれません。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:心理療法  投稿日:2024年3月29日

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