対人関係療法とは?4つの領域から短期集中で行う治療法を解説
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対人関係療法とは、1970年代にアメリカの精神科医であるクラーマンらによって、うつ病治療のために開発された心理療法です。
精神疾患の症状と対人関係の問題との関係性を正しく理解し、どのように対処していくかを考えます。
アメリカ精神医学会のうつ病治療ガイドラインにおいて、効果的な治療法の一つとされており、エビデンスのある治療法だといえるでしょう。
本記事では、うつ病治療に短期的に治療を行う対人関係療法について、特徴と扱う4つのテーマを解説します。
対人関係療法の3つの特徴
対人関係療法には、他の心理療法と比べると、以下の3つの特徴があります。
特徴①:現在の対人関係を扱う
現在の対人関係に焦点を当てることが大きな特徴です。
過去の重要な人物との関係性を扱いますが、それ自体を治療の対象とはしません。
例えば、「母親に対する葛藤」ではなく、「夫とうまくいかないこと」などの現在の関係に焦点を当てます。
あくまでも、現在の対人関係で感じたことや起きている出来事を理解し、適切に対処することを目指します。
特徴②:短期間での治療を目指す
短期集中型の治療であることも特徴で、通常は12~16回のセッションで治療を行います。
また、集中して取り組むために、対人関係の問題を4つの領域に分けて、その中から1つか2つを選んで話し合っていきます。
期間や取り組むテーマが明確に決まっているため、治療の進展を実感しやすいでしょう。
特徴③:「病気のせい」だと考える
対人関係療法は、「そう考えてしまうのは病気のせいだ」と捉えます。
例えば、認知行動療法ではネガティブな考えを「認知の歪み」であると捉え、修正するようなアプローチを行います。
一方で、対人関係療法では、思考の癖に焦点を当てません。
「相手と自分の間に何が起きているか」を理解していくことに重点が置かれます。
そして、「ネガティブに考えてしまうのは、うつ病の症状だ」と捉え、その症状によって相手や自分がどのように感じるかを扱います。
「病気の症状なので、そう考えるのは仕方がない」という前提のもとに行われる、温かみのある治療法だといえるでしょう。
対人関係療法で扱う4つの領域とは?
対人関係療法では、抱えている問題を以下の4つの領域から理解し、そのうち1~2つのテーマに絞って治療を行います。
- 悲哀
- 対人関係上の役割をめぐる不和
- 役割の変化
- 対人関係の欠如
悲哀:身近な人の死
家族やパートナーなどの身近な人との死別体験を扱う領域です。
死別体験に伴うショックは「悲嘆反応」と呼ばれ、死を受け入れるための正常なプロセスだとされています。
通常は2~4カ月ほどで落ち着き、通常の生活を送れるようになるのが一般的です。
しかし、死を認められなかったり、悲しみ続けることが使命のようになったりするなど、受け入れるプロセスが停滞することがあります。
このことが、うつ病発症のきっかけとなるケースがあるのです。
対人関係療法では、死にまつわる感情を安心して表現し、理解することで、悲嘆反応のプロセスを乗り越えていけるように取り組みます。
対人関係上の役割をめぐる不和:役割のズレ
うつ病の発症や長期化には、身近な人との関係性が関係しているケースがあります。
例えば、うつ症状によって「自分が悪い」「迷惑をかけている」と自信を持てず、言いたいことをうまく表現できないかもしれません。
そして、誤解されて落ち込んだり、うつ症状がひどいのに無理に動こうとしてしまったりするなど、精神面に悪影響を及ぼします。
大切な人との関係性やコミュニケーションにズレが生まれ、ストレスやうつ病などの病気につながっていくのです。
対人関係療法では、大切な人との間にある「役割期待」を理解することを重視します。
役割期待とは、お互いが相手に抱いている期待のことです。
例えば、「もっと家事を手伝ってほしい」「子どもの面倒をみてほしい」というような、パートナーに抱く期待を指します。
相手が「経済的に安定させるために仕事を頑張りたい」と思っていると、お互いの役割期待がズレてしまいます。
一方は「家事を手伝って支えるパートナー」、もう一方は「働いて家庭を支えるパートナー」と、期待する役割がズレているのです。
ズレを埋めるには、お互いの役割期待を理解し、言葉のやり取りで修正していくことが大切です。
「どのようにやり取りをすればズレがなくせるか」に焦点を当てて、具体的なやり取りについても練習していきます。
役割の変化:結婚や転勤などのライフイベントに伴う変化
転勤や結婚に伴う役割の変化も、精神疾患の原因となる可能性があります。
例えば、「仕事を完璧にこなそうとする」という性格の人が昇進して部下を持つというようなときです。
それまでは、自分さえ頑張れば何とかこなせていた仕事が、業務量が増えて無理をしてしまい、調子を崩すということがあるかもしれません。
これまでの対処スタイルでは適応できないことが大きなストレスとなるのです。
対人関係療法では、これまでの役割が変化したことを受け入れ、新たな役割に必要なスキルを得られるように取り組みます。
役割の変化を乗り越えられるよう、治療者とともに取り組むことが特徴だといえるでしょう。
対人関係の欠如:孤独や孤立した状態
抱えている問題が、「悲哀」「不和」「役割の変化」のいずれのテーマにも当てはまらない場合に取り組むものです。
対人関係を築いたり、続けたりすることが難しい人を対象とします。
ただ、対人関係療法では、対人関係自体を扱うため、テーマとして選ばれることは少ないでしょう。
可能な限り、これまでに挙げた3つのテーマから問題を理解し、解決しようとすることが一般的です。
治療においては、孤立した状態を減らして新しい人間関係を築けるように取り組んでいきます。
そのために、治療者との関係をテーマにしながら進めていくことがあります。
相手との間で何が起きているかは意外と分からないもの
対人関係療法は、こころの病が対人関係によって起こり、改善せずに慢性化すると考える治療法です。
抱えている悩みを4つの領域から理解し、身近な相手との間で起きていることや自分の望みを整理していきます。
身近な関係であるほど、失ったときの喪失感や相手への甘え、欲求など特別な感情を抱くものです。
特別な感情を「当然のもの」としつつ、乗り越えていくといった治療者との温かい関係が対人関係療法の特徴といえるでしょう。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:心理療法 投稿日:2024年3月18日
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