ストレスから心を守る防衛機制とは?心の成熟度に合わせた4種類を紹介

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防衛機制とは、ストレスに対処するための無意識的な心の働きです。
ストレスから自分を守り、心身のバランスを保つものであり、さまざまな種類があります。しかし、防衛機制は不健康的なパターンから成熟したものまでがあり、心の成熟度によって異なります。
成熟した防衛機制を活用していくことで、柔軟にストレスに対処できるようになるでしょう。

今回は、ストレスマネジメントにも有効な防衛機制の考え方について解説します。リワークでも重要なストレス対処の方法について理解し、ストレス対応力をアップさせましょう。

防衛機制とは?

防衛機制とは?

防衛機制とは、不快な感情を弱めたり、避けたりすることで精神的な安定を保つ心の働きのことです。
不快な感情には、不安や憂うつ感、罪悪感や恥などの自分にとって受け入れがたい感情が含まれます。

「○○したい」という欲求があっても、いつでも叶えられるとは限りません。
例えば、「仕事で認められたい」と思い、必死に働いたのに、他の同僚の方が評価がよかったとします。
頑張った自分を恥ずかしく思ってしまうかもしれませんし、同僚を疎ましく感じることもあるでしょう。
そういった受け入れがたい気持ちに直面することを避けて、「ろくな会社じゃない」と合理化したり、無理に忘れようとしたりするのが防衛機制です。

ストレス対処と防衛機制の関係性は?

ストレス対処と防衛機制の関係性は?

防衛機制は、傷付いた心を安定させる働きがあり、誰にでも認められます。
しかし、特定の防衛機制が何度も繰り返し用いられると、メンタル不調につながりやすい性格が形成されることがあります。

ただ、防衛機制は無意識的に用いているものなので、あまり意識されません。そのため、ストレス対処においては、自分がどのような防衛機制を用いているかを理解することが大切なのです。

防衛機制の種類とは?

防衛機制の種類とは

防衛機制はいくつものパターンがありますが、アメリカの心理学者であるジョージ・E・ヴァイラントにより、以下の4つに分類されています。

  1. 病理的防衛
  2. 未熟な防衛
  3. 神経症的防衛
  4. 成熟した防衛

上記の4つの段階は、心の成熟度によって活用する防衛機制が発達していくことをあらわしています。
①~③の段階は、繰り返し用いるとメンタル不調や対人関係上のトラブルにつながりやすい防衛機制です。
④の成熟した防衛機制は、豊かな人生を送るために意識的に行うものです。

ストレスに柔軟に対処するためには、①~③に挙げられるような不健康的な防衛機制のパターンに気づくことが大切といえます。
そして、④の成熟したパターンを意識的に用いていくとよいでしょう。

①~③を不健康的なパターン、④を成熟したパターンとして、防衛機制の種類を解説します。

不健康的な防衛機制:3つの段階がある

不健康的な防衛機制は、3つの段階があり、下の段階であるほど、子どもっぽい反応の仕方であるといえます。それぞれの防衛機制について解説します。

病理的防衛

病理的防衛は、最も未熟な防衛機制であり、5歳以下の子どもによくみられるようなパターンです。一例としては、以下のような防衛機制があります。

病理的防衛の一例
防衛機制 説明 具体例
否認 受け入れがたい事実に心を閉ざしてなかったことにする アルコールに依存しているのに「自分は病気ではない」と受け入れない
分裂・理想化 良いところ、もしくは悪いところしか見ないようにする 短所がいくつもあるのに「あの人は欠点のない自分の理想の人だ」と言う
躁的防衛 ネガティブな気持ちを感じないよう、過度に明るく振る舞ったり、攻撃的になったりする 大切な人が亡くなったとき、無理やり仕事を入れて考えないようにする
未熟な防衛

未熟な防衛は、15歳ごろまでにみられる防衛機制です。短期的には苦しい気持ちを和らげるものですが、繰り返し用いると対人関係上のトラブルにつながる可能性があります。

未熟な防衛の一例
防衛機制 説明 具体例
退行 受け入れがたい状況に直面したときに、前の発達段階に戻り幼い対応をする 失恋のショックから部屋に閉じこもる、泣きじゃくって取り乱すなど子どもっぽい対応をする
投影 受け入れがたい自分の気持ちを、他人が持っているものとする 実際は自分が避けているのに「あの人は自分が嫌いで避けている」と考える
解離 ネガティブな記憶が一時的に抜けてしまう パートナーと喧嘩したときの記憶があまりない
神経症的防衛

神経症的防衛は、大人になっても比較的よくみられる防衛機制で、生活に支障を及ぼさないことも多いでしょう。
しかし、繰り返し用いられると無意識的にストレスをためてしまったり、問題を避けてしまったりすることがあります。

神経症的防衛の一例
防衛機制 説明 具体例
抑圧 受け入れがたい気持ちを忘れる いじめやパワハラの経験を具体的には覚えていない
反動形成 ストレスを受けている方向とは逆方向の行動や態度を取る 実際は嫌いなのに、「○○さんは理想の上司だ」と言う
合理化 ネガティブな状況に理由をつけて気持ちを落ち着かせる 他人が優遇されているのを見て「こんなところで認められても意味がない」と開き直る

ストレス解消に役立つ「成熟した防衛機制」

成熟した防衛機制は、豊かな人生を送るために、ストレス状況に対処していくものです。
受け入れがたい感情を無意識的に避けるのではなく、感情を感じながら意識的に対処していくことが特徴だといえます。

成熟した防衛の一例
防衛機制 説明 具体例
抑制 ネガティブな感情や考えが生じていることを感じながら、それを抑制して目の前の状況に対応する プレゼンで緊張して「失敗したらどうしよう」と不安になるが、資料の説明に全力を尽くす
昇華 怒りや不安などのネガティブな感情や欲求を社会的に認められやすい形に変える 嫌いな人への怒りをエネルギーにして仕事に精を出す
先取り 将来を見越して先に対策を打っておく 「どこかで失敗するものだろう」と考えておく

働く上で防衛機制をうまく活かすには

防衛機制

防衛機制の種類をいくつか紹介しましたが、働く上ではどのようなところに役立つのでしょうか。

自分のストレス対処パターンに気づく

防衛機制を理解することで、自分のストレス対処パターンに気付けます。
防衛機制で生じる対処は、多くは無意識的なものです。知らないまま繰り返し用いることで心身のバランスを崩す原因となってしまうことがあります。
ストレスにつながるような対処パターンを繰り返し用いていないか、チェックすることが大切です。

防衛機制を意識するときに重要なのが、「成熟度」です。
神経症的防衛の「抑圧」と成熟した防衛の「抑制」は、受け入れがたい感情を感じないようにするという点では似ています。
しかし、抑制は感情を感じつつもとらわれない態度でいるのに対し、抑圧は無理に感じないようにするという違いがあります。
嫌な出来事に直面したときの対処として、どちらを用いているかを一度振り返って考えてみましょう。

対人関係上のトラブルを分析できる

防衛機制を理解すると、対人関係上のトラブルを分析するために役立ちます。

相手から過剰な怒りをぶつけられるとき、病理的防衛や未熟な防衛によって生じている行動という場合があります。
叱責されたり、敵意を向けられたりすると、「自分が悪いのでは…」と自信を失ってしまいかねません。
防衛機制の働きで生じているかもしれないと考えると、自分のせいではないと思えることが増えるでしょう。

例えば、忙しくしている上司が仕事の遅い部下に対して過度に叱責する場合、「投影」が働いている可能性があります。
「忙しくても文句を言わずに頑張っているのに、部下ときたら…」と感じ、過度に怒ってしまうのです。
忙しいことに対する怒りを「管理職なのだから」と感じないようにして、部下の方へ移し替えているのだといえるでしょう。

このように、防衛機制の働きを理解しておくと、周囲から過度に怒られたり、敵意を向けられたりする理由が分かりやすくなります。

防衛機制は自分の心を守るためのプロセス

防衛機制は、ストレス状況に対して心の安定を守るための無意識的なプロセスです。無意識的に繰り返し用いていると、生活の中で何らかの支障が及ぶ場合があるため、どの防衛機制を用いているかに気付いておくことが大切です。

無意識的なストレス対処パターンに気付き、健康な防衛機制に置き換えて、ストレスを軽減していきましょう。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:セルフケア  投稿日:2023年11月17日

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