うつや不安を和らげる音楽療法の効果とは?
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はじめに
心地のよい音色をきくと心が落ち着く、皆さんも経験されたことがあると思います。音楽にリラックス効果があることは、経験的にも知られてきていました。多くの医療や福祉の現場では、音楽が取り入れられています。
治療効果というよりも、人がいるところに音楽があることは自然なことなのかもしれません。音楽はいつの時代にも人の営みと共にあり、心を通わせてきました。
現在では、音楽療法という形で意識的にうつや不安をはじめ、様々な精神科治療に取り入れられてきています。ここでは、音楽療法のもつ治療的意義をお伝えしたいと思います。
音楽療法とは?
まだ有効な薬もない昔から、音楽には人を癒す力があるということは経験的に知られていました。心の病気でも、うつ病やストレス障害、認知症などの患者さんに、音楽は一定の治療効果があることがわかっていました。
このような経験に基づいて、欧米を中心に音楽療法として積極的に医療や福祉の現場に取り入れられてきました。
音楽療法は患者さんを選ばず、うつ病や不安障害などの患者さんにも受け入れやすいというメリットがあります。音楽の精神への効果としては、鎮静、緊張緩和、催眠、抗うつ、不安の解消、鎮痛などのリラックス作用があると考えられています。身体の病気もストレスによって強まることが多いので、心が穏やかになることで症状が軽減されます。
音楽療法とは、このような音楽の力を意図的に利用して、心身の回復を促す治療法です。
海外では公認の音楽療法士が存在し、専門職として医療現場などで活躍されています。その効果の根拠がはっきりとはしていませんが、欧米では保険適用になっている国もあります。日本ではそこまでは認知がすすんでいませんが、民間資格としてですが日本音楽療法士学会が認定する音楽療法士があります。
音楽療法の2つの方法
音楽療法には、大きく2つの方法の違いがあります。
- 受動的音楽療法:聴くことが中心となる方法
- 能動的音楽療法:歌ったり、楽器を演奏したり、自らが音楽を楽しむ方法
受動的音楽療法
受動的音楽療法では、音に過敏になっている患者さんを除けば、大抵の患者さんで行えます。私の勤務していた病院でも、昼食どきは必ず音楽をかけていました。クリスマスの時はクリスマスソングなどといったことはありますが、基本的には心地が良いと感じる音楽を流しています。
受動的音楽療法では、とくにこの音楽がいいというものがあるわけではありません。
かつては「音楽処方」とよばれ、「不眠に効く音楽」や「不安に効く音楽」などが選ばれていましたが、今では行いません。音楽の完成は人それぞれですし、音楽を聴く環境によっても受け止め方は異なります。
受動的音楽療法と自由連想法を組み合わせて、音楽によるイメージ誘導法という治療方法もあります。音楽を聴いて患者さんが思い浮かぶイメージを話し、治療者がそれに対して関わります。
このようにリラックスした意識状態の中で、少しずつ治療に結び付けていくことができます。
能動的音楽療法
能動的音楽療法では、実際に患者さんに音楽を楽しんでいただきます。歌を歌ったり、楽器で演奏していただきます。日本ではみんなで合唱することも多いですが、能動的音楽療法としては一般的ではありません。
また、能動的音楽療法は、決まった音楽をおこなうわけでもありません。基本的には「即興」が中心で、決まったことではないので間違えることもありません。自由な自己表現をしながら、治療者と一緒に音楽を完成させます。
能動的音楽療法では、音楽によるリラックス効果はもちろんのこと、こうした作業療法を通しての効果も期待ができます。
「音楽」というツールによって、治療者だけでなく仲間とのコミュニケーションもできます。対人交流を通して、コミュニケーション能力向上したり、感情表出が豊かになったりします。
音楽療法のうつ病への効果
音楽療法は、うつ病の治療やリハビリなどで広く取り入れらています。音楽療法とまでいかなくても、個人的なレベルで好きな音楽を聴くことで気持ちが落ち着くという方もいらっしゃいます。
音楽療法がなぜ効果があるのかは、実のところはっきりとわかっていません。その効果は経験的な部分に頼っているのですが、音楽の人への影響に関してはさまざまに研究されています。その中で分かってきたこととしては、大きく3つあります。
- コルチゾールなどの抗ストレスホルモンが低下する
- 神経の可塑性を高めて、神経機能が高まる
- 脳の神経細胞の修復・再生をする
抗ストレスホルモンが低下するため、音楽がストレスを軽減する効果があることは証明されているといえます。神経可塑性や神経修復・再生に関しては、そこまではっきりとした結果がでたわけではありませんが、音楽が記憶(記銘と再生)や学習に効果がある可能性が示唆されます。
うつ病に対する効果は、実践の場でも研究されています。ただ、音楽療法を構造化して同一条件で行うことが難しいので、そこまで多くの研究は報告されていません。
しかしながら、うつ病、統合失調症、不眠症、自閉症、認知症、不安障害に対して有効とする報告や、抗うつ剤の増強効果も報告されています。
治療法がしっかりと作られているわけではありませんが、音楽には心を癒す効果が期待できるのは間違いがなさそうです。音楽を聴くということ自体での効果もありますが、音楽を通したコミュニケーションが大きな役割があると思われます。音楽は基本的には副作用が無くて安全性も高く、薬に比べてお金もかからない治療法といえるでしょう。
まとめ
音楽療法とは、音楽の力を意図的に利用して、心身の回復を促す治療法です。日本には民間資格ですが、音楽療法士という専門職の方もいます。
音楽を聴くことにも効果が期待できますが、音楽をツールとした周囲とのコミュニケーションに重要な役割があります。
音楽にはストレスを軽減し、記憶(記銘と再生)や学習に効果があると考えられています。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:セルフケア 投稿日:2020年9月12日
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