ADHD(注意欠如多動性障害)の症状・診断・治療
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ADHD(注意欠如多動性障害)とは?
ADHDの名称は、「Attention Deficit Hyperactivity Disorder」のそれぞれの頭文字をとったものです。そのまま訳すと「注意欠如多動性障害」や「注意欠如多動症」という病名になりますが、ADHDの呼称の方が一般的に認知されています。
ADHDは、学校に行く前の子どもから成人まで幅広く見られる発達障害の1つで、不注意、多動症、衝動性の症状が特徴です。
- 勉強や作業に集中できない
- 席にじっと座っていられない
- 順番を待つことができない
など、集中力のなさや落ち着きのなさが見受けられ、学校生活や仕事、公私での人間関係などに支障をきたします
細かくは、
- 不注意が優位のタイプ
- 多動・衝動性が優位のタイプ
- 両方が混合しているタイプ
の3つに分類されています。
ADHDは生まれつき持った脳の機能的異常から生じる先天性の障害と考えられ、以前は成長とともに落ち着くと考えられていました。しかしながら思春期や大人になっても症状が続く人が多いことが分かり、近年は「大人のADHD」が注目されています。
学童期の子どものうち、ADHD の診断を受けるのは5~8%と報告されています。そのうち思春期に入っても診断基準を満たし続ける人が6~8割、成人しても症状が続いている人も6割を超えていることがわかってきています。
世界保健機構(WHO)の推定によると、世界的な成人期のADHD有病率は、全人口の3.4%と報告されています。日本でも2%~4%程度と推定されています。
ADHDについて簡潔に知りたい方は、以下をお読みください。
ADHDの3つの症状
ADHDの症状は、
- 不注意
- 多動性
- 衝動性
の3つにわけられます。
- 不注意だけが目立つタイプ
- 多動・衝動性だけが目立つタイプ
- 両方が混在するタイプ
の患者さんがいます。
一般的にADHDと聞くと、「とにかく動き回って言うことをきかない子」というイメージが持たれることも多いようですが、不注意だけが目立つ患者さんには大人しい性格の方もいます。両方の症状が必ず見られるわけではありませんし、現在はむしろ不注意がADHDの症状の中心と考えられています。
多動性や衝動性の症状は小さなお子さんではよく見られますが、年齢とともに落ち着いていくことが多いのです。一方、不注意の症状は多くが大人になっても持続します。大人のADHDの方は、不注意の症状に悩まされることが主になっています。
不注意
- すぐに気がそれる
- 集中できない
- 忍耐力がない
といった形であらわれます。具体的にみてみましょう。
子ども
- 与えられた課題や遊びに集中できない
- 1つの作業を最後までやり遂げられない
- 無くし物や忘れ物が多い
- 身の回りの整理整頓がとても苦手
- 人の話を聞いていない
大人
- 仕事に集中できない
- 単純なミスが多い
- 期限のある書類を仕上げることができない
- いつもうわの空のような印象を与える
- 指示されたことをすぐに忘れてしまう
- 仕事や生活の必需品をよく忘れたり無くしたりする
- 時間や約束を守れずトラブルになることが多い
- 部屋や職場の机がいつも散らかっている
などの症状があります。
多動性
- 動いてはいけない場面で動き回ってしまう
- しゃべるのが止められない
- 活動性が異常に高い
といった形であらわれます。具体的にみてみましょう。
子ども
- 授業中にじっと座っていられない
- 静かに本を読んだり遊んだりができない
- レストランなどで歩き回ってしまう
- 無意味に危険な行動をする
- 常におしゃべりをしている
大人
- 貧乏ゆすりやそわそわとした態度が仕事中にも目立つ
- 落ち着いて食事や会話ができない
などの症状があります。
衝動性
- 我慢がきかない
- 危険な行為でも思いつきで行動してしまう
- 欲求をすぐに満たそうとする
といった形であらわれます。具体的にみてみましょう。
子ども
- 遊びで自分の順番を待てない
- 相手の話を聞かず自分が話し出してしまう
- 他人のものでも勝手に使ってしまう
大人
- 会話で人の話を聞かない
- 列に並んだり待ったりするのが苦手
- すぐにイライラする
- 衝動買いが止められない
などの症状があります。
ADHDの診断基準をチェック
国際的な精神疾患の診断基準であるDSM(アメリカ精神医学会APAによる診断基準)では、ADHDは自閉症スペクトラム障害などとともに「神経発達症・神経発達障害群」に分類されています。
従来は、ADHDは子ども特有の障害であり、成長とともに軽快するものと考えられていました。しかしながら症状が成人期まで続く患者さんが多いことがわかり、大人になれば自然と治まる障害ではないことが明らかになりました。
その事実を受け2013年改訂のDSM-5では、初めて大人のADHDについて具体的な定義がされました。17歳以上のADHD診断について、具体的な項目が追加されています。
一方、世界保健機構(WHO)による国際的な診断基準ICD-10では、ADHDは「多動性障害」として分類されています。大まかな部分はDSMと共通しているものの、不注意の症状についての解釈があいまいで、大人の診断基準に関しても具体的な記載が見られません。そのため、ADHDの診断には主にDSM-5が基準として用いられています。
DSM-5によるADHDの診断基準
DSM-Ⅴでは、以下のA~Eの項目をすべて満たすこととされています。
- A.不注意か多動性・衝動性、または両方の症状が見られる
- B.不注意、多動性・衝動性の症状は12歳以前から存在
- C.症状は特定の場面だけでなく、家庭と学校など2つ以上の状況で見られる
- D.症状が社会的、学業的、職業的な機能を明らかに支障している
- E.症状は他の精神疾患によるものではない
ADHDの診断の実際
ADHDは、生まれつき持った脳の微細な損傷が原因になっていると考えられていますが、検査でわかるようなものではありません。最近ではQEEG検査(脳波検査)で診断ができるとして高額な自費診療を進める医療機関が、学会でも警鐘が鳴らされています。
ADHDの診断は一筋縄ではいかないことが多く、本当に診断ができるのならば確実にガイドラインに掲載され、医療機関がこぞって導入します。診断のためには、日常生活で見られる不注意・多動性・衝動性に関する詳しいエピソードや、それが生活にどのような支障を及ぼしているかの細かな聞き取りが必要です。
ADHDは大人になって急に発症することは無く、12歳以前に症状が見られていたことが診断の基準となっています。そのため、思春期以降の患者さんの診断は、幼少期にまでさかのぼった詳しいエピソードを確認していきます。
ADHDの診断を確定するためには、不注意か多動性・衝動性のどちらかもしくは両方が診断基準のように存在し、学校、家庭、職場などでの生活に大きな障害となっていることが確認されなくてはいけません。
診断のためのエピソードは本人や保護者の話だけではなく、客観的な資料として、
- 通知表
- 母子手帳
- 学校や幼稚園の連絡ノート
なども参考にすることがあります。
これらの資料があると、幼少期に不注意や多動、衝動性といった症状があったかどうか、学校の先生のコメント欄やノートに書いてある文章や絵をみることで推察することができます。可能であれば、本人の小さい頃を知っている母親などが同席すると、より診断はしやすくなります。
ADHDと似た症状は他の発達障害や精神疾患でもおこるため、それらとの判別も大切です。
子どもの不注意は知的障害などによる理解不足の可能性もありますし、側頭葉てんかんのある子どもで似た症状がおこることもあります。多動性や衝動性は、心理的な反抗心から意図的にやっている場合もあります。
大人のADHDはさらに複雑で、成長過程で他の精神疾患がニ次的に合併していることがめずらしくありません。大人のADHDでは、気分障害(うつ病・躁うつ病など)、不安障害(社交不安・広場恐怖など)、強迫性障害、依存症(アルコール・薬物など)などが合併しやすいことが知られています。
合併症の治療のために精神科を訪れ、その後の経過でADHDの存在が明らかになる例も比較的多いのです。ADHDを疑うような症状があったとしても、問題行動の根本にあるものが何か、本当にADHDが存在しているのかどうかを慎重に見極めていくことが大切です。
診断が確定するまでには時間がかかります。
ADHD診断のタイミング
この障害は生まれつきのものと考えられていますが、乳幼児の頃に診断をつけることは難しいです。
ADHDの患者さんの乳幼児期に見られる特徴として、ベビーベッドの中でじっとせず、活発に動き、あまり眠らず、よく泣くなどがあげられていますが、それは活発な子どもにはよく見られることです。その段階でADHDと診断されることはまずありませんし、成長とともに落ち着いていけば、とくに問題はないのです。
ADHDとしての特徴がはっきり表れ始めるのは主に学童期で、受診や診断のタイミングもこの頃が一番適していると考えられます。不注意や多動・衝動性の傾向により、幼稚園や小学校でのトラブルが増え、困った保護者の方が相談に訪れます。
決まり事を守れない、忘れ物や無くし物が極端に多い、友達と仲良く遊ぶことができない、順番を守れない、授業中に歩き回ったり騒いだりするなどの行動がひどく、何度注意してもそれが全く改善されないようならADHDの可能性があります。
ADHDの人は、勉強や運動の能力が低いとは限らず、むしろ優秀な場合もあります。けれど課題や試験などはやり遂げられなかったり、スポーツや遊びのルールを守れなかったり、他人の順番や物を横取りしてしまったりということがあり、集団生活では劣等生として扱われてしまう結果になります。
患者さん本人も、悪気があったりやる気がなかったりして問題行動をおこしているわけではなく、周囲の人たちと上手くいかないことで傷つき、劣等意識を深めてしまうことが少なくありません。
ADHDは生まれつきの障害で、その傾向自体は一生付き合っていかなければいけないものです。けれど、問題になる症状に対しては有効なお薬があり、対処の仕方にも一定のコツがあります。
適切な病院にかかりADHDとして対応することで、社会適応がしやすくなるメリットがあります。
大人のADHDの特徴
ADHDは生まれ持った脳の障害で、大人になってから急に発症するものではありません。ですが子どもの頃にはその傾向が目立たなかった人が、生活の変化でADHDの存在がはっきりしてくるケースもあります。
就職、結婚、出産などで生活が大きく変わり、子ども時代よりも周囲との調和が強く求められる環境下でのストレスで、自分の処理能力に無理がいくようになるのです。
ADHDの人は、与えられた仕事や予定を順序良く処理したり、周囲のペースに合わせて動いたりするのが基本的に苦手です。子どもの頃は何とかやってこられた人も、大人になって対応しなければいけないことが増え、そこで初めて自分の問題に目が向いたり、職場などで指摘されたりして「もしかしたら自分はADHDかも?」と思い当たる方も多いようです。
大人のADHDには成長の過程で様々な要素が積み重なり、子ども以上に診断や判別が難しい面があります。
似たような症状は各種パーソナリティ障害や双極性障害でも見られますし、根本のADHDに他のパーソナリティ障害や精神疾患が合併してしまっていることも珍しくありません。
パーソナリティ障害とは、年齢相応の対人関係を築くことやその場にふさわしい行動が難しい、衝動に対する抑制力が弱い、ストレス耐性が低いなど、社会適応が困難になりやすい状態です。
様々なタイプがありますが、ADHDと似たような不注意や衝動性が見られる場合があります。パーソナリティ障害と診断されている人のなかには、下地にADHDなどの発達障害を抱えている人も多いと見られ、その区切りは難しいものです。
ADHDの原因
ADHDの原因については現在も研究が進められている最中で、はっきりとした原因はまだはっきりとわかってはいません。
ですが、
- 生まれつき脳に何らかの脳の機能的異常がある
ことはほぼ間違いがないと考えられています。
数々の研究では、ADHDの患者さんの調査で
- 脳の容積に少ない部位がある
- 脳神経の活性に低い部位がある
ことが報告され、
- 脳神経に影響するお薬がADHDの症状を抑える効果がある
ことがわかってきています。
脳のなかでも前頭前野といわれる大脳の機能のバランスが崩れているといわれています。その結果として、脳のネットワークが乱れているとも考えられています。
原因はよくわかっていないのですが、脳内の神経伝達物質のうち、ドパミンとノルアドレナリンの働きが低下していることがわかっています。
- 報酬系の機能:ドパミンが関与し、自分にとってメリットがあるときを判断する機能
- 実行系の機能:ノルアドレナリンとドパミンが関与し、目的に向かって計画を立て、それを実行する機能。
が関係しています。このため、
- 報酬系の障害:待つべき時に待てなくなる
- 実行系の障害:順序立てて行動できない
といったことにつながってしまうと考えられています。
つまり、ADHDは生まれつきの障害で、心の病というわけではありませんし、患者さん自身に悪気があって問題行動をおこしているわけではないのです。
障害を知らない人は「親の育て方が悪い」「性格が悪い」のように言うことがありますが、ADHDは育て方や性格の問題によっておこるのではなく、脳の微細な損傷などによって生じる機能障害の1つと考えられています。
そのような機能異常がおこる原因については諸説あり、
- 遺伝性
- 胎児期の有害物質の影響
- 出生時の仮死状態
などが関わるという説が報告されていますが、詳しいことはわかっていません。
ADHDの合併症
言語能力や運動能力の遅れなどはADHDの症状ではありませんが、それらが合併している患者さんも少なくはありません。気分が落ち着かないことから不眠の症状が見られることもあります。
また、ADHDは周囲との摩擦がおきやすく、家庭や学校でも「反抗児」「言うことが聞けないダメな子」と誤解され、その葛藤から新たな気分障害や不安障害が二次的に発症してしまうケースも見られます。
ADHDの存在に気づけず、それがただの性格と捉えてしまうと、周囲も本人も否定的になり、生活や人間関係が上手くいかない苦しみや劣等感がよけいADHDの症状を強める悪循環におちいっていきます。そのままの状態で思春期に入った場合、非行、薬物依存などに発展していくこともあります。
さらに大人になると、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、睡眠障害、社交不安障害、パーソナリティ障害などが合併し、元々の問題がどこにあったのかが見えなくなってしまうケースもあります。
ADHDと同じ神経発達障害には、自閉スペクトラム障害と学習障害があります。
自閉スペクトラム障害は主に対人コミュニケーションが困難になる障害で、相手の気持ちや空気を読むことが苦手だったり、相手の発言の真の意味が理解できなかったり、特定のことに強いこだわりを持ったりします。
学習障害は、全体的な知能の遅れはないのに特定のこと(聞く、話す、読む、書く、計算するなど)に限定して学習が困難になってしまう状態です。
これら3つの発達障害はオーバーラップしておこる場合も多く、はっきりと区別して診断をつけるのが難しい状態の患者さんもよく見られます。
ADHDを診断をするメリットと治療方針
ADHDはうつ病などの病気とは違い、生まれ持った脳の微細な機能異常が元でおこると考えられています。そのため薬で簡単に治せるものではなく、その障害自体は付き合っていかなければいけない特性ということになります。
ADHDを診断するメリットは、「自分の障害を知ることで、生活上でおこる問題に対処しやすくすること」です。ADHDを薬で治すことはできないですが、症状を抑えやすくするお薬には効果的なものがいくつかあります。
ですがお薬によってスッキリ治るわけではありません。ADHDの症状を自覚して、そのつきあい方を学んでいくことで、日常生活を少しずつ過ごしやすくしていくのが治療目標です。
お薬の力を借りながら、自分の苦手や障害からおこる問題を意識しながら日々を過ごすことで、周囲との調和や社会適応がしやすくなります。また、周囲の人にも障害を知ってもらうことで、お互いに感情的にならず、円満な関係が築きやすくなる場合もあります。
ただ、「あなたには障害があります」と診断されることで、かえって傷ついたり劣等感を抱えてしまったりする方もいて、診断は性格や生活環境を見極めながら慎重に行います。
ADHDも含め発達障害は、どのレベルまでを「障害」と分けるかは難しい問題です。
子どもの頃にはかなりやんちゃできかん気の強かった人が、上手く合った仕事について優秀な大人に変貌することもありますし、一応普通に社会生活を送っている大人の中にも、注意力がひどく散漫な人もいます。
それを区別する基準は、医学的な見地より、「本人や周囲の生活に大きな支障を及ぼしているかどうか」「障害と診断することでメリットがあるかどうか」ということです。
生活への支障が大きいのであれば、日常生活での工夫を重ね、お薬での治療で症状を和らげていきます。
ADHDのお薬の役割と治療ゴール
ADHDにはいくつかの治療薬があります。
お薬がADHDの根本原因である脳の微小な機能障害を治せるわけではありませんが、ADHDの症状に深く関わるドパミンの異常を調整し、ADHDの症状を緩和させるお薬がわかっています。
ADHDの主な症状である不注意・多動・衝動性の3つの症状は、主に脳内の2つの機能が関係していると考えられています。
- 報酬系の機能:自分にとってメリットがあるときを判断する機能
- 実行系の機能:目的に向かって計画を立て、それを実行する機能。
が関係しています。こレが障害されることで、
- 報酬系の障害:待つべき時に待てなくなる
- 実行系の障害:順序立てて行動できない
このような症状につながると考えられています。
- 報酬系:ドパミンが関与
- 実行系:ノルアドレナリンとドパミンが関与
となり、とくにドパミンの働きが低下が大きな影響を及ぼすと考えられています。ADHDの治療薬は、この2つの神経伝達物質の働きを強めることで、症状の改善を期待するお薬になります。
このようにADHD治療薬は、ADHDの本質的な症状を軽減することが期待できるお薬になります。しかしながらお薬を使ってスッキリよくなる方は多くはなく、あくまで生活のサポートにすぎません。
ADHD治療薬の役割は、少しでも症状を軽減することで生活での支障をやわらげ、日常生活の工夫などをしやすくしていくことです。そして工夫がうまくできるようになっていけば、特に幼少期から治療している方はお薬を少しずつ減薬していくこともできます。
ADHDで使われるお薬とは?
現在使われているADHDの治療薬についてみていきましょう。現在ADHDの治療薬としては、大きく3つのお薬が使われています。
- 精神刺激薬:コンサータ
- 非精神刺激薬:ストラテラ・インチュニブ
それぞれのお薬について、みていきましょう。
なお当院では、精神刺激薬の処方が可能な医師が限定されています。そして適応外の処方は絶対に行いませんし、初診時から処方することは極めてまれです。精神刺激薬を希望される方は、あらかじめご了承ください。
精神刺激薬
ADHDの治療薬として最もよく使われてきたのが、
- コンサータ(一般名:メチルフェニデート)
というお薬です。
コンサータはADHDへの適応が認められた精神刺激薬で、ノルアドレナリンとドパミンの両方の働きを強めますが、おもに脳内のドパミンの働きを強めます。
- 集中力の無さ
- 過活動
- 衝動性
- 日中の眠気
- 疲労感
- 抑うつ状態
などを緩和させる効果が期待されます。
コンサータは、ADHDの症状に対する有効性が認められていますが、覚せい剤に近い作用があるため依存や乱用の恐れがあり、第三者委員会によって流通が管理されています。
コンサータが処方できるのは処方医として登録された医師のみで、病院ならどこででも処方できるお薬ではありません。子どもの患者さんに使う場合には、誤って量を多く飲み過ぎないよう保護者の厳重な管理が必要です。
覚せい剤に近い作用と聞くと怖いお薬のように感じる方もいるかもしれませんが、適切な範囲で用いれば薬物依存は起こらないことが報告されています。
コンサータが認可される以前は、同じメチルフェニデートのリタリンというお薬が用いられていました。この2つは成分としては同系列ですが、リタリンは作用が短時間しか続かないデメリットがありました。
コンサータはリタリンに比べゆっくりと吸収され、長時間効果が持続するような仕組みになっています。そのため、1日に何度も飲む必要が無く、学校や仕事をしている人には便利です。
また、短時間作用型のお薬は依存性もつきやすいため、コンサータはリタリンよりは依存のリスクが低いです。コンサータは多くのADHDの患者さんに有効性が認められていますが、食欲不振や不眠の副作用が認められます。
またカプセルのため、調節がしづらかったり、お薬の服用が難しい患者さんもいらっしゃいます。
非精神刺激薬
精神刺激薬とは異なるお薬として、
- ストラテラ(一般名:アトモキセチン)
が2009年より発売され、2012年には大人にも使えるようになりました。
ステラトラも両方の物質の働きを強めますが、おもにノルアドレナリンの働きを強めます。コンサータよりも効果がマイルドで副作用も少なく、流通管理もないために、まず使われることが多いお薬です。
ストラテラには吐き気の副作用があるため、少量から少しずつ増量していきます。効果が認められるにも時間がかかり、有効用量に達してからおよそ2~3週で実感できるようになります。
また2017年からは、
- インチュニブ錠(一般名:グアンファシン塩酸塩徐放錠)
というお薬がADHDの治療薬として保険適用されています。
このお薬は従来のものと異なる作用の仕方で、神経伝達物質を増やすのではなく、受け取りやすくする働きがあります。
- 効果の出方が速い
- 他のお薬との併用での増強効果が期待できる
- 依存性や乱用のリスクが少ない
などのメリットがあり注目されています。
パソコンに例えると、コンサータがCPUを高めて処理能力を高めるイメージで、インチュニブはメモリーを増設して広く考えられるようになるイメージです。
インチュニブのほうがマイルドですが、ADHDの本質的な症状の改善につながる印象があります。もともとは血圧を下げるお薬として作られたという経緯があり、血圧低下に注意が必要です。心臓に病気がある方は避けたほうが良いでしょう。また眠気の副作用も多いです。
その他のお薬
ADHDに他の病気の症状が合併している患者さんの場合には、気分安定薬や抗精神病薬を併用することがあります。ですが基本は、ADHD治療薬単剤での治療を行っていきます。
その患者さんにとって一番症状が抑えやすいお薬を探し、副作用や効果を見ながら使っていきます。
ADHDのお薬以外の治療法
お薬はADHDの症状を抑えるのに有効ですが、ADHD治療の本質は「障害と上手くつきあい、生活をスムーズにおくる術を身に着けていくこと」にあります。
お薬で症状がある程度抑えられたとしても、健常な人に比べて社会生活での苦手が多いことには変わりはなく、その障害を自分の特性と知り、トラブルがおきにくいような生活の習慣を身に着けていくことがADHDの治療では一番重要です。
「ADHDとはこういう障害だよ」ということがわかっても、その傾向を自分の意志で変えるのは容易ではありませんし、患者さん本人やご家族の方だけで対応するのはなかなか困難です。
病院の治療では、客観的な専門家である医師が関われるメリットがあります。
医師は、お薬の調整と対応へのアドバイスを診察で行い、実際の生活では、患者さんとご家族・周囲の方に対応を実践していただきます。しかしながら診察では時間が限られてしまうため、じっくり行う必要がある場合はカウンセリングと併用していきます。
- 職場や学校などの環境調整
- 親子関係の調整
- ソーシャルスキルトレーニング(SST)
などを行っていきながら、生活での適応をみながらお薬も調整していきます。
ADHDの治療は、このようにして生活の中で少しずつ治療をすすめていきます。
同じADHDの患者さんであっても、症状や性格や家庭環境は様々で治療法は一定ではありませんし、上手く付き合っていく方法を身に着けていくまでには患者さん本人も周囲の方も大変です。
ですが、根気よくそれを続けていくことでだんだん社会適応がしやすくなり、生活や周囲との関係が落ち着いてくるとADHDの症状自体も穏やかになる傾向があります。
焦らず、地道な積み重ねをしていくことが大切です。
ADHDの家族や周囲の対処法
病院ではお薬の調整や簡単なアドバイスを行っていきますが、実際の日常生活では障害からおこる様々な問題に患者さん自身やご家族が対処していくことになります。
多動性・衝動性については無理に抑えることがなかなか困難なので、お薬の力が有効です。お薬が効いて気分が落ち着いているときに、少しずつ我慢することを覚えていきます。
ADHDの患者さんの場合は、何らかの報酬や結果が見えるとイライラや衝動をコントロールしやすい傾向があります。子どもなら、決まり事が守れたら好きなシールを貼っていけるような達成表をつくったり、ご褒美制度をつくったりすると上手くいくことがあります。(トークンエコノミー)
不注意の症状に関しては、単純な注意力散漫だけでなく、発達障害特有のこだわりの強さがよけい作業や仕事を難しくしる場合があります。
例えば、
- こうでなければいけないという取り決めが多い
- 十分に納得してからでないと動けない
- 本筋と関係ない枝葉の部分にこだわってしまう
などです。色々とこだわり過ぎるから気軽に仕事に取りかかれず、後回しにしたり仕事を放棄したりということもおこります。
これらの傾向も無理に買えるのは困難なので、必要な課題や仕事に関してはマニュアルやリストをつくり、それを順番にこなすような練習をしたり、優先順位をつける訓練をくり返していきます。
我慢と同じで結果や報酬が見えるとやる気が持続しやすいので、マニュアル化やリスト化、ルール作りによって作業が進みやすくなる人は多いです。
また、ADHDの患者さんは会話のやり取りが苦手です。相手の話を聞かず自分が話し始めてしまい、肝心の用件が全然伝わっていないこともあります。
そこでADHDの患者さんには相手の話を聞く必要性を理解し、会話の訓練を積み重ねていきます。「相手に伺いを立てて話しかける」「相手の話が終わるまで待つ」「話が被ってしまったときは相手にゆずる」といったルールを決めることも方法です。
このような対応は、すべての人に当てはまるというわけではありませんし、一般論として言われていることです。医師も患者さん本人も、合った方法にたどりつくまでは試行錯誤が必要ですが、それを繰り返していると少しずつ効果は現れていきます。
ADHDの仕事での向き合い方
子どもの頃からADHDとして対応し、適切な治療や学校での環境調整などで障害と折り合う生活をしてきた人ならば、会社や周囲に対する配慮は比較的受けやすいでしょう。
しかし子どもの頃にはその傾向に気づかずじ進学し、そのまま就職をした場合は、職場でADHDによる問題が目立ち始めて職場での理解や折り合いに悩むことが多いです。そこで自分はADHDではないかと疑い、医療機関を受診したとしても、大人のADHDの診断は子ども以上に難しく、時間がかかります。
また、仮にADHDの診断が下されたとしても、会社の体制によっては、その診断を告げることが必ず状況を良くするとは限りません。
もちろん現在は大人のADHDに使えるお薬などもありますし、診断・治療を考えることは有効なのですが、大人の方の場合は「ADHDの診断を受けて職場に理解を求めること」にこだわってしまうと、かえって状況が悪くなっていく可能性もあります。
大人の方がADHDの傾向と上手く付き合い仕事を続けていくためには、診断書によって周囲の理解を得ようとすることを中心に考えるのではなく、自分自身が自分の苦手や特性を知り、どのように工夫すれば仕事や生活がスムーズにいくかを中心に考えた方が良いでしょう。
どうしても上手くいかないときに、診断書による医療機関から理解と環境調整を求めていくというスタンスがよいかと思います。
症状を落ち着かせて安定して働ける就労環境を整えるためには、自分のADHDの特性を理解して対処できるようにしていくことが大切です。
強みを伸ばして、弱みを生活の工夫でカバーしていくことが基本になります。
ですからまずは自分の特性や苦手を知り、具体的にどのようなことが仕事に支障を及ぼしているかを治療の中で整理し、順番に対応を考えていくことが大切です。
ADHDの人に向いている仕事とは?
ADHDに限らず発達障害の傾向を持つ方は、自分や周囲の状況を客観的にみたり振り返ったりすることが苦手です。とくに自分を客観視することが難しく、自分の特性に気づいていないこともしばしばあります。その特性に気づけるか気づけないかで、生きづらさはだいぶ変わってきます。
同じADHDの方でも、症状や性格は様々です。一概に「ADHDの人にはこんな仕事が向いている」と決めることはできず、患者さん個々の症状や特性から判断することが重要です。
ただ、基本的にはできるだけ自分のペースで行動でき、臨機対応な場面が少ない仕事の方が折り合いはしやすいと考えられます。
大勢の人と臨機応変に対応しなければいけない職場では、気持ちの切り替えの早さやこだわりの少ない柔軟性、素早い判断力、人に譲ることなどの要素が求められますが、ADHDの方はどれも苦手なことが多く、それに対応しようとするとかなりハードルが上がってしまいます。
苦手な部署に回され悩む人は大勢いますし、努力や工夫をしてもついていけないこともあります。
どうしても環境が合わない場合は上司の方と相談し、可能であれば業務上の配慮を行っていただくことも方法です。
そのときに大切なのは、患者さん自身が自分の特性や苦手をある程度わかっていることです。ただ単に「私はADHDなので」と伝えたところで、職場も何をどう変えてあげればいいのか困ってしまいます。具体的に自分の苦手ややりやすい仕事を伝えることができれば、比較的配慮が受けやすくなります。
仕事においてADHDの特性は障害になることは多いのですが、特定の仕事においてはかえって強みとなるケースもあります。自分の好きな分野なら集中力が発揮されたり、体を動かす仕事が合っている場合もあります。
また、ソフトウェアや製品をチェックしたり、保守管理をしたり、ある程度マニュアル化された流れ作業や、入力などの淡々とした事務補助などならやりやすい人が多いようです。
けれどこれらはあくまでひとつの例で、ADHDの特性は十人十色です。必ずこれが良いという答えがあるわけではないので、主治医や周囲の人とも相談の上、少しでも仕事がやりやすい方法を考えていきましょう。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
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精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:ADHD(注意欠如多動性障害) 投稿日:2023年3月23日
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