自律神経失調症とうつ病・パニック障害の違いはどこにあるのか

【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。

診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。

自律神経失調症とは、全身の臓器や血管に張り巡らされている交感神経や副交感神経のバランスが乱れてしまう状態のことです。

このため、全身にさまざまな症状が生じることがあります。

実は「自律神経失調症」とは正式な病名ではありません。国際的な診断基準での病名はなく、あくまで「自律神経症状が認められている状態」のことをさしています。

自律神経失調症は広い概念で、様々な病気で認められる状態になるのです。

原因がはっきりしないけれども自律神経症状が認められる場合、暫定的に自律神経失調症と診断されることも少なくありません。

そのため、うつ病やパニック障害の患者さんでも自律神経失調症と診断されますが、後になって診断が変わることもあります。

この記事は、自律神経失調症とうつ病、パニック障害の違いについて詳しく伝えていきます。自律神経失調症という診断についても考えていきましょう。

 

自律神経失調症とうつ状態は「病気」ではなく「状態」

自律神経失調症は、うつ状態と同じで「病気」ではなく「状態」のことを意味しています。

自律神経のバランスが崩れている「状態」のことをさします。

自律神経失調症とは、自律神経である交感神経と副交感神経のバランスが乱れてしまい、身体に症状が認められている状態になります。

冒頭でお話ししましたが、実は正式な病名ではありません。日本では広く認識されている病気ではありますが、国際的な診断基準には含まれてはいないのです。

日本心身医学会では、自律神経失調症を以下のように定義しています。

種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの

つまり、

  • 様々な自律神経症状が認められること
  • 検査でハッキリした身体疾患が見つからないこと
  • 明らかな精神障害が認められないこと

これを満たすような状態のことを自律神経失調症と定義しているのです。

ですから、うつ病やパニック障害といった精神障害が認められれば、自律神経失調症とは診断ができないということになります。

しかしながら実際には、自律神経失調状態≒自律神経失調症として使われています。

うつ病やパニック障害でも、便宜的に自律神経失調症と診断されることもあるのです。

自律神経失調症と同じように使われる診断として、「うつ状態」や「抑うつ状態」があります。

うつ状態や抑うつ状態も、うつ病というわけではありません。精神エネルギーが低下していて、落ち込みが深くなっている状態のことをさしています。

ストレスがかかればどのような病気でもうつ状態になりえます。

それと同じで、ストレスがかかればどのような病気でも自律神経失調症になりうるのです。本来の病気が診断されるべきなのですが、自律神経失調症と診断されることも少なくありません。

その理由については、後述していきたいと思います。

 

自律神経失調症とうつ病の違い

うつ病は、エネルギーの低下による精神症状が認められている状態です。

一方で自律神経失調症は、あくまで自律神経のバランスが乱れている状態になります。

うつ病と自律神経失調症は、どちらも同じくらい広く知られている病名になります。

患者さんの中には、自律神経失調症と診断されていたけど、後からうつ病に診断変更されたという方もいらっしゃるかと思います。

診断基準などに詳しくない医師から、うつ病と自律神経失調症の両方を診断された患者さんもいるかもしれません。

上でお伝えしたように、うつ病の患者さんは自律神経失調症とは診断しません。自律神経症状は、うつ病の症状とみるのです。

ですから自律神経症状が認められていても、うつ病の診断基準を満たしていれば、うつ病と診断されます。

うつ病は精神エネルギーの低下によって、様々な精神症状が認められます。

うつ病の診断基準は、以下の①と②のどちらかの症状を必須として、9つのうち5つ以上が2週間認められることとなっています。

  1. 抑うつ気分(気分の落ち込み)
  2. 興味や喜びの減退(楽しみや興味がもてない)
  3. 食欲の異常・体重の変動(体重減少が多い)
  4. 睡眠の異常(不眠が多い)
  5. 不安・焦燥感
  6. 易疲労性・気力の減退
  7. 罪責感(自分を責めてしまうこと)
  8. 思考力低下・集中力低下・決断力低下
  9. 希死念慮(死にたいという考え)

うつ病ではこのような精神症状だけでなく、自律神経症状が認められることが非常に多いです。下痢や便秘、頭痛や肩こり、吐き気やめまいなど様々な自律神経症状が認められます。

ですから、精神エネルギー低下による精神症状が認められても、うつ病の診断基準を満たすほどではない場合、自律神経失調症と診断されることもあります。のちになってうつ病がひどくなって、診断変更されることもあります。

うつ病の診断について詳しく知りたい方は、「うつ病の診断基準とうつ状態との診断の違い」をお読みください。

 

自律神経失調症とパニック障害の違い

パニック障害の自律神経症状は、パニック発作とともに一気に襲ってきます。闘病が長引くと、ストレスから自律神経症状が普段から生じることもあります。

パニック障害は、突然の激しい恐怖と不安におそわれるパニック発作を繰り返してしまう病気です。

不安障害の一種とされていて、あまりに過剰で病的な不安に襲われる病気です。病的な不安という精神症状が認められるのが、自律神経失調症との違いです。

パニック障害で認められるパニック発作では、自律神経症状が認められます。

典型的なパニック障害では広場恐怖という「逃げ出せない場所」での恐怖が引き金になってパニック発作が誘発されます。

例えば、電車のなかが込み合ってくると、「逃げ出せない」という恐怖から不安が高鳴ります。ドキドキして、冷や汗が出てきます。それが不安を増していき、強烈な不安・恐怖に襲われます。

パニック障害の診断基準では、以下のような自律神経症状が列挙されています。

  1. 動悸・心悸亢進・心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身震い・震え
  4. 息切れ感・息苦しさ
  5. 窒息感
  6. 胸痛・胸部不快感
  7. 嘔気・腹部不快感
  8. めまい感・ふらつく感じ・頭が軽くなる感じ・気が遠くなる感じ
  9. 寒気・熱感
  10. 異常感覚(感覚麻痺・うずき感)

パニック障害の自律神経症状は、パニック発作のときに急激に襲ってくる症状になります。

患者さんは普段から不安にとらわれて生活するようになり「またパニック発作になってしまったらどうしよう」という予期不安が強まってしまいます。

このストレスにより、日常生活から自律神経症状が生じてしまうこともあります。

そのような場合もパニック障害と診断されていれば、自律神経失調症とは診断されるべきではありません。

パニック障害の診断について詳しく知りたい方は、「パニック障害・広場恐怖症の診断基準と診断の流れ」をお読みください。

 

自律神経失調症と診断されるのはどのようなとき?

自律神経症状だけが認められていたり、診断がつけられない場合に自律神経失調症と診断されます。また、診断の印象を和らげて患者さんを守るために、自律神経失調症とつけられることもあります。

自律神経失調症はこのように、自律神経失調している状態ということを意味しています。

このような「状態」なので、あらゆる病気で認められる幅広い概念になります。

自律神経症状は、うつ病やパニック障害に限らず、不安障害や統合失調症、双極性障害など、ありとあらゆる精神疾患の患者さんで認められます。

このように自律神経失調症は広い概念のため、曖昧な部分が大きくなってしまいます。

ですから、明らかな精神疾患が認められる場合、うつ病やパニック障害といった具体的な病名がつけられるべきなのです。そのほうが適切な治療を受けられます。

それでは、「自律神経失調症」と診断されるのはどのような時なのでしょうか。自律神経失調症と診断されるのは、

  • 自律神経症状だけが認められる場合
  • 現時点では診断できない場合
  • 診断書を書くときに患者さんを守る場合

自律神経症状だけが認められる場合に、暫定的に自律神経失調症と診断することがあります。

また、診断が現時点でできない場合にも、自律神経失調状態があれば診断することがあります。

診断ができないというのは、いろいろな場合があります。医師の診療能力がないという場合というよりは、そもそも精神疾患は、一時点だけではわからないことも多いのです。

患者さんのことを知り、症状の経過をみていくうちに診断がついていきます。

また診断書を会社などに提出するのにあたっては、患者さんを守るためにやわらかい診断名にすることがあります。そのときに自律神経失調症を使うことがよくあります。

心の病気に対する社会の認識はだいぶ広がったとはいえ、いまだに根強い偏見があります。ですから患者さんのことを考えて、印象がやわらかい病名にするのです。

詳しく知りたい方は、「なぜ精神科や心療内科では、病名や診断が告げられないのか」「精神科・心療内科での診断書の実情とは?」をお読みください。

 

まとめ

自律神経失調症は、うつ状態と同じで「病気」ではなく「状態」のことを意味しています。

自律神経のバランスが崩れている状態のことをさします。

自律神経症状だけが認められていたり、診断がつけられない場合に自律神経失調症と診断されます。

診断の印象を和らげて患者さんを守るために、自律神経失調症とつけられることもあります。

【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。

診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、磁気刺激によるrTMS療法を先進的に取り組むなど、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
精神科医をはじめとした医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。

TMS治療とは? (医)こころみ採用HP

またメンタルヘルス対策にお悩みの企業様に対して、労務管理にも通じた精神科医による顧問サービスを提供しています。
(株)こころみらいHP

取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。

カテゴリー:自律神経失調症  投稿日:2023年5月18日

\ この記事をシェアする /

TWITTER FACEBOOK はてな POCKET LINE

関連記事

せん妄とは?認知症との違い・原因・対応方法・薬物治療について

認知症の方が入院すると、認知症が悪化したようにみえることがあります。 その際に興奮したり、妄想をいだいたりするのですが、これは認知症の症状ではなく、せん妄という意識レベルの低下によるものです。 この記事では、せん妄の意味… 続きを読む せん妄とは?認知症との違い・原因・対応方法・薬物治療について

投稿日:

認知症の年齢別の発症率について|認知症で年齢を間違えるのはなぜ?

年をとると認知症になりやすいようですが、何歳ごろにどのくらいの割合で起こるのでしょうか? この記事では、認知症の年齢別の発症率(割合)、認知症の原因となる疾患の好発年齢について解説します。 また認知症になると自分の年齢を… 続きを読む 認知症の年齢別の発症率について|認知症で年齢を間違えるのはなぜ?

投稿日:

睡眠薬は認知症を悪化させる?ガイドラインに沿った睡眠薬の使い方

本記事では、睡眠薬は認知症を悪化させるのかどうか、BPSDに対する睡眠薬使用ガイドライン、睡眠薬を使用すべき認知症の周辺症状、睡眠薬の種類と注意点について解説します。 これを読めば、認知症の方に睡眠薬を用いる方法が分かり… 続きを読む 睡眠薬は認知症を悪化させる?ガイドラインに沿った睡眠薬の使い方

投稿日:

人気記事

デエビゴ(レンボレキサント)の効果と副作用

デエビゴ(レンボレキサント)とは? デエビゴ(一般名:レンボレキサント)は、オレキシン受容体拮抗薬に分類される新しい睡眠薬になります。 覚醒の維持に重要な物質であるオレキシンの働きをブロックすることで、睡眠状態を促すお薬… 続きを読む デエビゴ(レンボレキサント)の効果と副作用

投稿日:

睡眠薬(睡眠導入剤)の効果と副作用

睡眠薬(精神導入剤)とは? こころの病気では、睡眠が不安定になってしまうことは非常に多いです。 睡眠が十分にとれないと心身の疲労が回復せず、集中力低下や自律神経症状などにつながってしまいます。ですから睡眠を整えることは、… 続きを読む 睡眠薬(睡眠導入剤)の効果と副作用

投稿日:

抗不安薬(精神安定剤)の効果と作用時間の比較

過度な不安が辛いときに有効な『抗不安薬』 不安は非常に辛い症状です。心身へのストレスも強く、身体の自律神経のバランスも崩れてしまいます。 抗不安薬(精神安定剤)は、耐えがたい不安で苦しんでいる方には非常に有用なお薬です。… 続きを読む 抗不安薬(精神安定剤)の効果と作用時間の比較

投稿日: