認知症による攻撃的言動がみられる原因と対処法
【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。
診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。
認知症になると暴言・暴力などの攻撃的言動がみられることがあります。
本記事では、攻撃的言動の種類、攻撃的になりやすい認知症の種類、攻撃的になる理由、対応する際の心がまえ、対処法について解説します。
これを読めば、認知症による攻撃的言動の概略が分かるでしょう。
認知症の方を介護する際に役立ててみてください。
1.認知症による攻撃的言動とは
認知症になると怒りやすくなり、暴言・暴力・被害妄想がみられることがあります。
1-1.易怒性
認知症の方は昔と比べると性格が変わったようになり、怒りやすくなります。
さらに不安感やいらだちが強くなると、叫んだり攻撃的になったりします。
1-2.暴言・暴力
大声で乱暴な声を出す暴言、殴る、かみつくなどの暴力行為がみられることがあります。
また性的な言葉を投げかけたり、身体を触ったりするセクハラ行為もあります。
1-3.被害妄想
「家族に嫌われている」「物を盗られた」といった妄想がみられることがあります。
加害者として身近な介護者が疑われることが少なくありません。
事実に反することでも、不安や孤独感から被害妄想を抱くのです。
2.攻撃的になりやすい認知症の種類
認知症の中でも前頭側頭型認知症とレビー小体型認知症は、攻撃的になりやすいタイプです。
2-1.前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症では「感情の脱制御」といった症状がみられます。
感情のコントロールがうまくいかなくなり、攻撃的言動を起こしてしまいます。
2-2.レビー小体型認知症
レビー小体型認知症では、よく幻覚症状がみられます。
幻覚に対して不安・恐怖を抱き、暴力を奮う行為が生ずるのです。
3.認知症の方はなぜ攻撃的になるのか
認知症の方が攻撃的になるのは、不安を感じている、自尊心を傷つけられた、感情のコントロールができない、体調が悪いなどの理由からです。
3-1.不安を感じている
認知症の方は周囲の状況を十分に理解できず、不安を感じやすくなります。
たとえば「目の前にいる人がだれか分からない」といった状況などです。
また周囲の人が暗い表情をみせていると、理由が分からず不安になることがあります。
周囲の人の感情が認知症の方に影響しているのです。
不安から暴力・暴言などの攻撃的言動を起こすことがあります。
3-2.自尊心を傷つけられている
認知症の方は自分で認知症の自覚がなくても、能力の低下には気づいています。
自分の能力の低下を指摘されると自尊心が傷つけられます。
家族に悪気がなくても、知らぬ間に認知症の方の自尊心を傷つけてしまいます。
これも攻撃的言動の原因の一つです。
3-3.感情のコントロールができない
認知症の方は感情のコントロールがうまくできず、攻撃的になることがあります。
感情をコントロールする前頭葉が萎縮するためです。
本人の意思とは関係なく興奮してしまいます。
3-4.体調が悪い
認知症の方は体調不良や痛みがあっても、周囲にうまく伝えられません。
また体調が悪いなら病院に行けばよいことが分かりません。
家族が病院に連れて行こうとすると、「どこへ連れて行こうとするのか」と怒りを覚えることがあります。
これらがストレスとなり、興奮を引き起こします。
4.認知症による攻撃的言動に対応する際の心がまえ
攻撃的な言動に対応する際には、理由を理解する、自尊心を傷つけない、感情を受け止める、否定しない、要望をていねいに聞きだすということを心がけてください。
4-1.理由を理解する
認知症の方が攻撃的になる場合は何か理由があります。
話に耳を傾けて理由を探ってください。
理由を知ることが攻撃的言動に対応するための第一歩です。
4-2.自尊心を傷つけないようにする
認知症の方の尊厳を守る介護を行うことが大切です。
本人ができると思っていることまで介護してしまうと、自尊心を傷つけます。
何でも介護してしまうのではなく、自分でできることは本人に任せましょう。
4-3.認知症の方の感情を受け止める
認知症による攻撃的言動には必ず理由があります。
たとえ本人の一方的な理由であっても、決して責めたりせず、感情を理解して受け止めてください。
そうすれば認知症の方は落ち着く可能性があります。
4-4.否定しない
興奮して攻撃的になっている人を否定することは逆効果です。
たとえ理不尽なことであっても、まず本人を尊重して受け止めてください。
4-5.要望をていねいに聞きだす
認知症の方は不安や恐れを抱いているとき、どうしたらよいのか分かりません。
自分はどうしてほしいのか順序だてて聞き出してください。
「どこの調子が悪いのか」「そっとしておいてほしいのか」「調子をよくしたいのか」などを聞きましょう。
5.認知症による攻撃的言動への対処法
対処法は、距離を置く、家族・ケアマネージャーなどに相談する、医師に相談するなどです。
5-1.距離を置く
もっとも簡単で日常的に行える対処法は、物理的・心理的に距離を置くことです。
暴言・暴力がみられる際に同等のやり方で対抗すると、さらに状況を悪化させてしまいます。
無理に対処せず、物理的に距離をとりましょう。
できれば別の人に介護者を代わってもらってください。
その点、介護ヘルパーは対応の仕方を熟知しており、援助してもらうのに最適です。
また攻撃的言動の介護者に対する負担は計り知れません。
無理をしすぎると心身ともに疲れ果ててしまいます。
介護から離れ、心理的に距離を置き、息抜きが必要です。
5-2.家族・ケアマネージャーなどに相談する
周囲に協力を求めることが大切です。
一人だけで介護していると、正しい対処法が分からなくなります。
その際には、家族・ケアマネージャーなど第3者の意見を取り入れると問題が解決するかもしれません。
また相談することで気持ちが楽になるでしょう。
5-3.医師に相談する
薬の副作用が攻撃的言動の原因になることがあります。
困ったときには医師に相談してください。
医師は薬を減らしたり、変更したりするかもしれません。
また興奮を抑える薬が処方されることもあります。
まとめ
認知症になると怒りやすくなり、暴言・暴力・被害妄想がみられることがあります。
前頭側頭型認知症とレビー小体型認知症は、攻撃的になりやすいタイプです。
攻撃的になる理由は、不安を感じている、自尊心を傷つけられた、感情のコントロールができない、体調が悪いなどです。
攻撃的な言動に対応する際には、理由を理解する、自尊心を傷つけない、感情を受け止める、否定しない、要望をていねいに聞きだすということを心がけてください。
対処法は、距離を置く、家族・ケアマネージャーなどに相談する、医師に相談するなどです。
【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。
診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。
(医)こころみ採用HP取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:認知症 投稿日:2024年3月19日
関連記事
高齢者のうつ病の症状とは?家族の対応4つをわかりやすく解説します
「親の表情がくらい」「親がふさぎこんでいる」このような悩みはありませんか? これは高齢者のうつ病かもしれません。 仕事の退職や大切な人との死別などのライフステージの変化により、うつ病を発症するリスクが高まります。 高齢者… 続きを読む 高齢者のうつ病の症状とは?家族の対応4つをわかりやすく解説します
投稿日:
人気記事
デエビゴ(レンボレキサント)の効果と副作用
デエビゴ(レンボレキサント)とは? デエビゴ(一般名:レンボレキサント)は、覚醒の維持に重要な物質であるオレキシンの働きをブロックすることで、睡眠状態を促す新しいお薬です。 オレキシン受容体拮抗薬に分類され、脳と体の覚醒… 続きを読む デエビゴ(レンボレキサント)の効果と副作用
投稿日: