認知症に伴うBPSDとは?背景因子・対応法について解説
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厚生労働省老健局が公示した「厚生労働省の認知症施策等の概要について」によると、認知症の症状には、認知機能が低下したことによる「中核症状」に加え、環境や周囲の人々との関わりの中で、感情的な反応や行動上の反応として発現する「行動・心理症状(BPSD)」があります。
それではBPSDとは、どのような症状なのでしょうか?
本記事では、BPSDとは何か、BPSDの種類ならびに背景因子・対応方法について分かりやすく解説します。
認知症の方を介護する際に役立ててみてください。
BPSDについて
BPSDとは何か、およびその種類について解説します。
認知症BPSDとは
認知症に伴う行動・心理症状 Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)のことです。
日本においては、周辺症状、副症状、問題行動、非認知症状などと呼ばれてきました。
認知症の中核症状である認知機能低下という一義的な把握ではとらえきれない状態です。
BPSDは病前性格や社会的要因に関連して出現します。認知症は進行性の病気ですが、BPSDの治療によって認知症患者の全体像が軽快する可能性があります。
BPSDの種類
BPSDは活動性亢進、精神病症状、感情障害、アパシー関連の大きく4つに分類できます。
活動性亢進
- 易刺激性:ささいな刺激に対して反応しやすくなること
- 焦燥・興奮:イライラしたり、興奮したりすること
- 脱抑制 :薬物やアルコールといった外的な刺激によって抑制が効かなくなった状態
- 異常行動:徘徊・暴言・暴力・拒絶・介護への抵抗など
精神病症状
- 妄想:もの盗られ妄想、嫉妬妄想がよくみられます
- 幻覚:レビー小体型認知症では、他人には見えないものが見えるといった幻視があります
- 夜間行動異常など:レビー小体型認知症や認知症を伴うパーキンソン病では、レム睡眠時に激しく体を動かすことがあります
感情障害
- 不安:記憶障害のため自分の言動につじつまが合わないことに気づき、自信を失い、不安感がつのる
- うつ状態:不安感、自責の念、焦燥から、うつ状態になりやすい
- 多幸感など
アパシー関連
- アパシー:自発性・意欲の低下から社会活動への興味が薄れ、周囲に対する関心が低下すること
- 食行動異常など:異食や過食が前頭側頭型認知症で見られることがある
BPSDの背景因子
BPSDの背景にはさまざまな要因が存在し、BPSDの病因になっています。
これらを解消していくと、BPSDの予防・治療に有効です。
介入困難な背景因子
- 個性
- 地域・文化
- 生活史
- 認知症の中核症状など
介入が可能な背景因子
- 高齢期疾患
- 薬剤
- せん妄
- 居住環境
- ケア技術・関係性
- 不安・喪失感・心配事など
BPSDへの対応方法
認知症の人にBPSDが出現した場合、まず背景因子を評価して問題点の改善を図ります。そのうえで認知症の人の嗜好・技能・能力に合わせて、非薬物療法を実施します。
さらに高度のBPSDには抗精神病薬を考慮していきます。
参考サイト:認知症への対応・治療の原則と 選択肢|日本神経学会 p.76
非薬物療法
多くの種類の非薬物療法がありますが、認知、刺激、行動、感情のうちいずれかを標的として用いられます。
- 芳香療法
- 認知刺激療法
- 音楽療法
- ペットセラピー
- マッサージなど
参考サイト:認知症への対応・治療の原則と 選択肢|日本神経学会 p.117
薬物療法
薬物量は軽度から中等度のBPSDには有害事例のリスクがあるため、第1選択にはなりません。
一般的には、高度のBPSDに対して抗精神病薬を考慮します。
その際に薬物用量は少量より開始し、認知機能とBPSDの定期的な評価・見直しを行いながら治療します。
以下に各BPSDに対する治療薬の一例を示します。
- 不安に対して:ペロスピロン・オランザピン・クエチアピン
- 不眠に対して:トラゾドン・クエチアピン・スボレキサント・レンボレキサント・ラメルテオン
- 焦燥・興奮に対して:クエチアピン・オランザピン・アリピプラゾール・ブレクスピプラゾール
- 幻覚・妄想に対して:アリピプラゾール・ブレクスピプラゾール・リスペリドン・オランザピン
- うつ状態に対して:抗うつ剤(MaSSA・SSRI・SNRI)・ドグマチール
ベンゾジアゼピン系も少量で使っていくことはありますが、せん妄リスクなどにもつながるので、なるべく避けます。
まとめ
BPSDとは、認知症に伴う行動・心理症状であり、活動性亢進、精神病症状、感情障害、アパシー関連の4つに分類されます。
病因となる背景因子は、個性、地域・文化、ケア技術、不安、喪失感・心配事などです。
認知症の人にBPSDが出現した場合、まず背景因子を評価して問題点の改善を図ります。 そのうえで認知症の人の嗜好・技能・能力に合わせて、非薬物療法を実施します。
さらに高度のBPSDには抗精神病薬を中心とした薬物療法を考慮するのが、一般的な治療法です。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:認知症 投稿日:2023年12月14日
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