認知症の人に言ってはいけない言葉とは?
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認知症の人を介護していると、つい間違った言葉をかけてしまい、相手を傷つけることがあります。悪気はなかったのに、相手から信用されなくなり、介護に支障をきたすこともあるはずです。そういった事態に陥らないためには、どうしたらよいのでしょうか?
この記事では、認知症の人に言ってはいけない言葉とは何か、言ってはいけない言葉が出る理由と対策について解説します。認知症の人にかけるべき正しい言葉を身につける際に役立ててみてください。
認知症の人に言ってはいけない言葉とは?
まず認知症の人に言ってはいけない言葉について解説します。また代替えの言葉もご紹介します。
否定するような言葉
言ってはいけない言葉の事例を示します。
- 「それは間違っていますよ」
- 「食事はもう食べましたよ」
- 「そこには誰もいませんよ」
認知症の人は、記憶障害や幻覚がみられるため、たびたび事実と違うことを言います。
過去のできごとを、今起こっているかのように語る。
食事をしたばかりなのにまだ食べていないと言う。
誰もいないのに姿が見えたと言うなどです。
全て現実に反する内容ですが、本人は間違っているとは認識していません。
それを頭ごなしに否定されると、気分を害し、動揺し、激しい怒りを起こすことがあります。
また暴言や徘徊などの症状につながることもあるのです。
さらにたびたび否定されると自己肯定感まで下げてしまいます。
代替えの言葉は以下のとおりです。
- 「そういうことがあるのですね」
- 「おなかが空きましたか?」
- 「どのような人ですか?」
相手に寄り添うように対応すれば、相手に信頼してもらえ、ケアするのが楽になります。
強要するような言葉
- 「言うことを聞きなさい」
- 「どうして嫌がるの?」
- 「ガーゼを交換しないとダメでしょう」
- 「おとなしく座っていてください」
こちらの指示に従ってくれない、傷口のガーゼ交換をさせてくれない、じっとしておらず歩き回るなどのケースで見られる言葉です。
こちらの都合を押し付けるような言葉はよくありません。
相手の都合を無視しており、抵抗感・恐怖感を与えることがあります。
まずなぜ嫌なのかを尋ねることが必要です。
たとえばガーゼをはがすときに痛むのが嫌なのかもしれません。
そのうえで理由をちゃんと説明して、穏やかに頼んでみてください。
- 「放っておくと化膿してしまいますよ。痛くないように、そっと剝がします」
- 「危ないから、こちらに座って話しませんか?」
責めるような言葉
- 「何やってるの」
- 「そこに置かないでって言ったでしょう」
- 「またこぼした」
- 「またトイレに行くの?ついさっき、行ったばかりでしょう」
汚れた物を食卓に置く、たびたび食べ物をこぼす、頻回にトイレに行くなどのケースでみられる言葉です。
認知症の人は、認知力が低下したり、動作がうまくいかなくなったりします。
自分でうまくできなくなったことに苦しんでいる場合もあるでしょう。
その際に責めるように言われると、自尊心が失われ、うつ状態になることがあります。
また不適切な行動でも、認知症のためであることを理解し、ていねいな対応が必要です。
代替えの言葉の事例を示します。
- 「ごめん、ちゃんと説明しておけばよかったね」
- 「置く場所が分かりにくかったですか?」
- 「すぐに拭きますからね」
尊厳を踏みにじるような言葉
- 「もう、ダメな人ね」
- 「うわ、汚い」
- 本人のいる前で、他の人に「排便あった?」と聞く
- 「どうせできないんだから」
これらは相手の尊厳を踏みにじる言葉であり、認知症の人を悲しませます。
傷つき、意欲を失ったり、介護者に不信感をいだいたりするでしょう。
発言する前に、不適切な言葉でないか考えることが必要です。
急かすような言葉
- 「まだですか」
- 「早くして」
認知症の人は食事・トイレなどの動作がゆっくりしていることが多くみられます。
その際に急かすような言葉をかけると、本人が萎縮したり、ペースが乱れたりしてストレスになるでしょう。
パニックにおちいり、不穏状態になることもあります。
時間がかかってもなるべく本人がするのがよいですし、穏やかな言葉をかけてください。
- 「そろそろ終わりですか?」
- 「お手伝いしましょうか?」
激励しすぎる言葉
- 「もっと頑張ればできます」
- 「あきらめずにもう一回やってみましょう」
本人がどうしてもできないことがあるとき、過度に励ますのはよくありません。
本人はできなくなったことを気にしているかもしれないからです。
その際には、できるはずのことができないという現実を突きつけてしまいます。
できたことを認めてあげるとよいでしょう。
- 「よく頑張ったね」
- 「ここまでできたのはさすがですね」
認知症の人に言ってはいけない言葉が出る理由と対策
事例としてあげた大半の言葉は、人を傷つけるため、言ってはいけないことが分かるでしょう。
ごく当たり前のことであり、誰にでも理解できるはずです。
冷静に発言すれば、決して使わない言葉かもしれません。
しかし現実に認知症の人を介護していると、よくみられる言葉です。
同じ間違いを繰り返されたり、予想外のことをされたりすると、理性を失って口走ってしまいます。
相手が自分の両親だと、以前とまったく違った言動に耐え切れず、理性的な対応ができないのかもしれません。
それでも相手を傷つけたり、尊厳を踏みにじったりしないようにすることは大切です。
常に本人の立場にたち、ペースを合わせて、分かりやすく、本人を尊重した言葉をかけてください。
最初は難しくても、徐々に正しい言葉を身につけて、認知症の人を安心させる介護ができるようになりましょう。
そして介護者が冷静に対応できるためにも、ショートケアなどを利用して介護者の負担を軽減することも大切です。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:認知症 投稿日:2024年1月20日
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