認知症の治療はできる?治療薬・非薬物的治療法を解説

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認知症は治らない病気で治療できないと言われることがあります。
しかし実際はどうなのでしょうか?
この記事では、認知症の治療はできることを解説します、
また治療法として、薬物療法、外科的治療法、非薬物療法をご紹介します。
認知症の治療法のことを理解いただき、認知症の方の介護をする際に役立ててください。

認知症の治療はできる?

治療とは、病気やけがを治すことです。
病気を治癒させたり、症状を軽快させたり、病気の進行を遅らせたりすることも含まれます。
広い意味で、認知症の治療は可能です。
ただし治癒する可能性がある認知症は少なく、大半の認知症は徐々に進行していきます。

治癒する可能性がある認知症

脳外科手術や薬物療法で治癒したり、症状が改善したりする可能性がある認知症です。

  • 正常圧水頭症
  • 慢性硬膜下血種
  • 甲状腺機能低下症

進行を遅らせることができる認知症

病気を治癒させる薬はないのですが、進行を遅らせる薬がある認知症は以下の2種類です。

  • アルツハイマー型認知症
  • レビー小体型認知症

症状を軽減させられる認知症

進行を遅らせる薬はないのですが、周辺症状を軽減させられる認知症です。

  • 前頭側頭型認知症

予防ができる認知症

生活習慣病の治療などにより、発病・再発を予防できる認知症です。

  • 血管性認知症

認知症の治療薬

認知症の進行を止めたり、治したりする薬はありません。
治療薬としては以下の2種類があります。

  • 認知症の進行を遅らせる薬
  • 認知症の周辺症状を軽くする薬

認知症の進行を遅らせる薬

生き残っている脳神経細胞を活性化させ、認知機能をある程度保たせる薬を使います。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬NMDA受容体拮抗薬の2種類があり、原則は1種類の薬を使うのですが、2種類を併用することも可能です。
吐き気や徐脈などの副作用がまれにみられます。
継続して服用しなければ効果はないため、副作用がみられなければ、続けて服薬するほうがよいでしょう。

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

アセチルコリンとは、脳の神経伝達物質です。
アセチルコリンエステラーゼは、アセチルコリンを分解する酵素です。
この酵素の働きを阻害することで、アセチルコリンの減少を防ぎ、脳の神経伝達を改善させます。
アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症に適応のある薬です。
アリセプト・レミニール・イクセロンパッチ・リバスタッチの4種類があります。
効果はそれほど変わらないため、体に合っていて、副作用のみられない薬を選ぶとよいでしょう。

  • ドネペジル(商品名:アリセプト・アリドネパッチ)
  • ガランタミン(商品名:レミニール)
  • リバスチグミン(商品名:イクセロンパッチ・リバスタッチ)
NMDA受容体拮抗薬

興奮性の神経伝達物質としてグルタミン酸があります。
グルタミン酸を受け取るNMDA受容体が過度に活性化すると、脳神経細胞が傷つきます。
NMDA受容体拮抗薬は、受容体の活性化を抑えて、脳神経細胞を守る薬です。
メマリー1種類のみで、アルツハイマー型認知症に適用があります。
イライラした感情を抑え、気持ちを落ち着ける作用が特徴です。
逆に副作用として、活気がなくなる場合があるため、注意してください。

  • メマンチン(商品名:メマリー)

認知症の周辺症状を軽くする薬

不安・興奮・幻覚などの行動・心理症状(BPSD)を軽くする薬です。
介護者の介護負担を軽くするのに役立つことがあります。

  • 抑肝散
  • 抗不安薬
  • 抗精神病薬
  • 抗てんかん薬

認知症に対する外科的治療法

脳周辺の病気によって認知症になっている場合、外科的治療が行われることがあります。
手術によって認知症が治癒することが期待できる病気です。

  • 慢性硬膜下血種
  • 正常圧水頭症
  • 脳腫瘍

認知症の非薬物的治療法

不安・うつ状態・無気力といった認知症の周辺症状を改善させる治療法です。
認知症の方にできることを行ってもらい、脳を活性化させる効果があります。
またBPSDが改善することがあるのも特徴です。
認知症の方が楽しみながら行えるのが理想であり、仲間と一緒に楽しむと続けやすいでしょう。
ただし本人がやりたがらない場合は、無理強いしないでください。

回想法

若いころの記憶を回想する治療法です。
認知機能の低下の予防が期待できますし、自信を取り戻し、心身を活性化させます。

認知リハビリテーション

ゲーム・書き取り、計算ドリルなどで脳のトレーニングをする治療法です。
認知機能の維持・回復を目指します。

リアリティ・オリエンテーション

日時・場所・人物・名前などの質問に回答することをくり返す治療法です。
季節・月日を知り、見当識障害に効果があるとされています。

音楽療法

音楽を聴いたり、演奏したりすることで、自信を取り戻し、不安を解消する治療法です。
音楽が思い出を回想させ、脳を刺激します。
言葉がうまく出ない人でも、歌ならはっきり発声できることがあります。

園芸療法

園芸を通じて、土・草花に触れる治療法です。
季節を感じることで、見当識障害に効果があるとされています。
昔の記憶や触覚がよみがえることもあります。

芸術療法

絵画・折り紙などを行い、脳の活性化を図る治療法です。
自分の好きなことを行えば、続けやすいでしょう。

まとめ

慢性硬膜下血種・正常圧水頭症・脳腫瘍が原因となる認知症では、外科療法で認知症が治癒する可能性があります。
それ以外の認知症では、根本的な治療法はなく、徐々に進行していきます。
ただしアルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症では、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬を使って、アルツハイマー型認知症ではNMDA受容体拮抗薬を使って病気の進行を遅らせることが可能です。
また全ての認知症では、不安・興奮・幻覚などの行動・心理症状(BPSD)を軽快させる薬もあります。
さらに回想法・認知リハビリテーションなどの非薬物的治療法を併用すれば、不安・うつ状態・無気力といった認知症の周辺症状を改善することが可能です。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:認知症  投稿日:2023年11月17日

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