非定型うつ病の2つの診断基準と診断の実際
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非定型うつ病は双極性障害に診断変更されることも
非定型うつ病の診断は、症状がその基準を満たせば診断されます。詳しくは後述しますが、うつ状態が認められて、その症状が典型的なうつ病とは異なる場合に診断されます。
非定型うつ病の場合は、脳の機能的な異常が明らかでもなく、抗うつ剤の反応もはっきりしません。このため、結果的に似たような症状になるけれども、その原因はさまざまな疾患が含まれていると考えられます。そうだとすれば非定型うつ病は、様々な病気の集合体ともいえるのです。
気分障害を診断するに当たっては、単極性か双極性かという点が重要になります。単極性とはうつ状態だけが問題になる状態で、双極性とはうつ状態と躁状態という気分の波が問題になる状態です。単極性であれば気持ちを持ち上げることを重視しますが、双極性であれば波を整えることを重視していきます。
非定型うつ病が単極性なのか双極性なのかについては、専門家のなかでも見解がわかれています。おそらく非定型うつ病は様々な病気が混在しているので、患者さんごとにどの要素が強いのかを考えていく必要があるのでしょう。
双極性の要素のことを「bipolarity」と呼びますが、非定型うつ病と診断しても、どの程度のbipolarityがあるのかを考えていくことは大切です。ときに非定型うつ病として治療していると、軽躁状態や躁状態が認められて双極性障害に診断を変更することもあります。
双極性障害で認められるうつ状態も、うつ病とは3つの点で異なることが多いと言われています。
- 不全性
- 易変性
- 部分性
うつ症状がすべてそろいにくく、すぐに症状がかわりやすいです。そして状況によって症状が認められるのです。このようなうつ状態の特徴は、非定型うつ病と見分けがつきにくいのです。
合併症が多いので複雑になる
非定型うつ病は、合併症がとても多い病気です。現在の診断基準では、合併症もあわせて診断していきます。だからといって、すべての合併症が横一線ではありません。本質的な病気に関係している合併症もあれば、病気の結果として生じた合併症もあります。
非定型うつ病であれば、不安が根底に強い病気です。不安になりやすい気質や対人恐怖は、非定型うつ病の特徴的症状である拒絶過敏性に発展していきます。そのような意味では、非定型うつ病に合併することの多い社会不安障害やパニック障害、全般性不安障害などは、「本質的な病気に関係している合併症」といえましょう。
また非定型うつ病では、原因不明の慢性疼痛疾患である線維筋痛症や、片頭痛といった痛みの合併が多いです。過敏性腸症候群や耳管開放症などの自律神経症状による身体の機能異常を合併することも多いです。これらは「病気の結果として生じた合併症」といえます。
さらに非定型うつ病では、病気によって性格の変化が認められます。症状や周囲との人間関係の破綻から思考や行動パターンが固定化してしまい、パーソナリティ障害になってしまうのです。具体的には、境界性パーソナリティ障害や回避性パーソナリティ障害が認められることがあります。
しかしながらパーソナリティ障害も、非定型うつ病が先なのか、パーソナリティ障害が先なのかもケースバイケースです。
これらの合併症があいまって、症状のあらわれかたは様々です。非定型うつ病と診断していく場合は、「あくまで病的なエネルギーの低下があるかどうか」という点をみていきます。
非定型うつ病の診断基準
非定型うつ病の診断基準をみていきましょう。
- DSM‐Ⅴ:APA(米国精神医学会)
- ICD-10:WHO(世界保健機関)
による2つの基準をご紹介していきます。
※非定型うつ病の症状について詳しく知りたい方は、「非定型うつ病の5大症状と合併症とは?」をお読みください。
DSM‐Ⅴ
アメリカの診断基準であるDSM‐Ⅴでは、非定型うつ病は2段階のステップで診断されます。
- うつ病の診断基準を満たすこと
- 非定型の特徴を認めること
DSM‐Ⅴは、非定型うつ病は単極性と考えて、その本質的な症状は気分反応性という考え方です。
つまり非定型うつ病は、うつ病のひとつのタイプという考え方になります。
DSM‐Ⅴのうつ病の診断基準
まずはうつ病の診断基準を認めるほどに、落ち込みが深い状態である必要があります。
- 以下の症状のうち5つ以上が2週間の間にほとんど毎日存在し、抑うつ気分か興味・喜びの喪失のどちらかがあること
①抑うつ気分
②興味・喜びの喪失
③体重減少・食欲減退または体重増加・食欲増加
④不眠または過眠
⑤精神運動焦燥または制止
⑥疲労感または気力減退
⑦無価値観または罪責感
⑧思考力低下・集中力低下・決断力低下
⑨希死念慮・自殺企図 - 非常に強い苦痛や社会的・職業的なデメリットがある
- 薬やアルコールやその他の病気のせいではないこと
非定型うつ病と診断するには、このようなうつ病の診断基準をみたすような抑うつ気分が認められる必要があります。
DSM‐Ⅴの非定型うつ病の診断基準
うつ病の診断基準を満たしたうえで、非定型の特徴を満たすものを非定型うつ病といいます。
- 気分の反応性がある
- 以下のうち2つ以上を認める
①体重増加・食欲増加
②過眠
③鉛様の麻痺
④拒絶過敏性が社会的・職業的なデメリットになっている - メランコリーの特徴や緊張病の特徴を認めない
気分の反応性とは、基本的には気持ちが落ちこんでいる「抑うつ気分」が続いているのですが、何か良い出来事があると気持ちが持ち上がることをいいます。もちろん嫌なことがあれば、それに敏感に反応して気持ちは沈み込んでしまいます。
DSM‐Ⅴでは、気分反応性を必須の症状としています。気分の落差が大きいことが非定型うつ病の本質的な症状で、そのせいで物事の考え方や周囲との人間関係にも影響が及んでしまうという考え方に基づいています。
定型うつ病では食欲不振や不眠となることが多いのに対して、非定型うつ病では過食や過眠になることが多いです。
鉛様の麻痺とは、身体が鉛になったように重たくなり、起き上がれないほどの全身のだるさを感じます。
拒絶過敏性とは、他人からの批判や指摘に過度に敏感となっていて、ささいな一言に悪意を感じてしまったり、ちょっと叱られただけで自分の全てを否定されたかのように感じてしまいます。
ICD‐10
DSM‐Ⅴでは非定型うつ病に対して明確な診断基準がありました。しかしながらICD‐10では、非定型うつ病についての規準はもうけられていません。
F32.8の「他のうつ病エピソード」というカテゴリーに、「うつ病エピソードの記述には適合しないが、全般的な診断的印象からその本質において抑うつ的と示唆されるエピソード」とされています。
このように非定型うつ病が明確にされていないのは、ICD‐10が1992年に作られた診断基準であることもあげられます。もちろんこの頃から非定型うつ病は知られていましたが、それを一つのカテゴリーとするほどには成熟していませんでした。
はじめて診断基準として登場するのは、先ほどのアメリカの診断基準であるDSM‐Ⅳが1994年に発売されてからです。このため非定型うつ病の診断基準としては、DSM‐Ⅴを用いていきます。
まとめ
非定型うつ病は、双極性の要素(bipolarity)がどれくらいあるのか考えながら診断することが大切です。
非定型うつ病は、社会不安障害やパニック障害などの不安障害、線維筋痛症や片頭痛といった疼痛性障害、境界性パーソナリティ障害や回避性パーソナリティ障害といった合併症が多いです。
ICD‐10とDSM‐Ⅴの2つの診断基準があります。非定型うつ病では、DSM‐Ⅴを診断基準として用います。
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カテゴリー:うつ病 投稿日:2023年3月23日
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