【精神科医が解説】神経性やせ症(神経性無食欲症)の症状・診断・治療
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神経性やせ症(神経性無食欲症)とは?
神経性やせ症はいわゆる『拒食症』です。
と言っても、実際は「食べること」を拒否しているわけではなく、「カロリーを摂って太ること」に激しく抵抗します。
本能的な食欲はむしろ強いことも多いため、症状は過食+嘔吐や下剤乱用などカロリー代償行為や、低カロリー食の過食など過食の要素が目立つケースが中心です。
厳しいカロリー制限だけを追求するタイプは「制限型」、代償行為をともなうタイプは「過食・排出型」とされますが、多くの場合はこれらが混合します。
この病気では、食べ方とともに、自分の体型や体重の感じ方に異常がおこります。
患者さんは厳しいカロリー制限に走り明らかにやせていきますが、それでも「まだまだ太っている」「もっとやせなければ」という意識が止まりません。
一般的なダイエット願望とは異なり、スタイルアップを目指すというより体重やウエストサイズなどの数字に異常なこだわりを見せたりもします。
常に体重やサイズをはかり、それが1g・1mmの変化であっても許せないなど、体型の認識や体重へのとらわれに異常が見られます。
軽度の状態だと、自分の体型への感じ方がおかしいと自覚はしながらも、「食べるのがなぜか怖くてたまらない」「もっとやせなければと感じてしまう」と悩んでいる人もいます。
最初は厳しいカロリー制限から始まり順調にやせていきますが、多くの場合、途中で本能的な食欲が爆発し、過食の衝動がおこります。
けれど、「やせなければ」という観念も強力のため、過食の後に嘔吐、下剤乱用、利尿剤ややせ薬などの乱用、過剰な運動や発汗、絶食などのカロリー代償行為を徹底して行い、やせた体型を維持しようとします。
この病気は学童期から発症することもあり、多くは10代~20代前半に発症します。症状が進めば栄養不足で身体的に深刻な影響を及ぼし、命の危険が及ぶことも少なくありません。
このため、拒食症では早期の段階で心身両面からのケアが必要で、拒食症を専門に扱える体制の病院での対応が求められます。
当院では残念ながら、拒食症の専門的な治療は行えておりません。
神経性やせ症の症状
- 糖質・脂質・タンパク質などを極端に制限する
- ごく1部の食品しか口にしない
- 刻み食や流動食など独自の食べ方にこだわる
- 厳密なカロリー計算をしている
- 常に体重やウエストなどをはかり、1g・1㎜でも増えたら不安になる
- 周囲が「やせすぎだ」と言っても自分はまだまだ太っていると感じる
- やせていると前向きで、体重が増えるとうつ状態になる
- 普段は極端な制限食をするが、過食衝動がおこればコントロールを失う
- 過食後は、過食前の体重に戻るまで嘔吐・下剤乱用・運動などを徹底する
- 普通の内容や量の食事でも吐く
- 食べ物を噛むだけで吐き出す行為を繰り返している
- 吐く目的で過食をしている
- 普通の食事はとれず、過食嘔吐か極端な制限食しかできない
- 自分は食べないのに大量の料理をつくって人にすすめる
などになります。
神経性やせ症の診断基準
以下のA~Cにすべて該当すること
- A.年齢・性別・体型からして明らかに少ないカロリーしかとらず、各年齢で最低限必要とされる体重を下回る
- B.明らかにやせ過ぎにもかかわらず、本人は体重が増えることを怖がり、カロリー摂取に抵抗しようとする
- C.やせていることに絶対的な価値観が置かれ、病的にやせていることが身体的に深刻な状況という認識がない
神経性やせ症では、体重や太ることへの過度なこだわりだけでなく、病的な「ボディーイメージの歪み」という認知の歪みが認められます。
周囲からみれば病的にみえるほどに痩せていても、本人は太っているという恐怖を感じてしまっていたりします。
体重基準と重症度
- 軽度:BMI≧17
- 中等度:BMI16~16.99
- 重度:BMI15~15.99
- 最重度:BMI<15
※BMI=体重kg÷(身長m×身長m)
神経性やせ症の体の症状
この病気では、不適切な食事内容や代償行為により栄養が不足し、身体にも以下のような症状がおこる可能性があります。
- 筋力低下
- だるさ、疲れやすさ
- 生理が止まる
- 冷え
- 低血圧
- 便秘
- むくみ
- 背中に濃い産毛が生える
- 皮膚が乾燥する
- 手のひらや足の裏が黄色くなる
- 骨が弱くなる
などになります。
血液検査上では、
- 脱水
- 貧血
- 白血球の減少
- 肝機能異常
- 低たんぱく血症
- 電解質異常
- 腎機能障害
などの異常が見られます。低体重の状態が長く続くと脳の萎縮が見られることもあります。
神経性やせ症の治療
治療では、身体面の治療とともに、偏った心理状態に専門的なアプローチが必要です。
一般的な精神科・心療内科外来での対応は難しく、拒食症へ専門的に対応できる病院への受診が勧められます。
精神アプローチでは、認知行動療法や森田療法、家族療法などの心理療法が有効とされています。
薬物療法はあくまでも補助ですが、強いこだわりや衝動性を緩和するために、一部の向精神薬や気分安定薬を用いることがあります。
神経性やせ症の治療では、患者さんの年齢が低い場合も多いことから、ご家族の理解と協力が欠かせません。
その際は客観的な医療者の介入が必要で、医療介入なしに本人のこだわりや食行動をご家族の指導だけで正そうとするのは逆効果になります。
この病気では、患者さん自身が積極的に病院を訪れようとすることは稀です。
多くの場合は病識がないため、まずはご家族の相談を専門の病院が受け付けていることもあります。
病院へ連れていくときはご家族も一緒に医師の説明を受け、患者さんとともに病気への正しい理解を深めることが治療の第一歩になります。
そのためのサポートを行う家族会やNPO法人などもあります。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:摂食障害 投稿日:2023年3月23日
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