過食性障害(むちゃ食い障害)の症状・診断・治療
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過食性障害(むちゃ食い障害)とは?
一般的に『過食症』と呼ばれるもののうち、体型へのこだわりは並か低く、過食・食べ物への依存が中心の症状になる摂食障害です。
年齢・性別・体型へのこだわりにかかわらず、摂食障害を発症します。
一般的な「太りたくない」「過食で太ってしまって辛い」という気持ちはあったとしても、それに無茶な嘔吐や下剤乱用などで抵抗しようとはせず、病的なまでにやせや体重へこだわることはありません。
しかしながら、ダイエットの反動として過食がおこっている人や、それなりに痩せたい願望のある若い女性の場合は、過食が止まらないことで嘔吐を試みることがあるため、注意が必要です。
過食症は、過食だけのときより、過食嘔吐になったときの方が間違いなく症状は悪化し、抜け出すのがとても大変になります。
これの変形版として、夜間だけに過食してしまう(夜間食行動異常症候群)があります。
この過食症は過食の症状が夜間に限定されており、夕食後~睡眠にかけて過食し、過食しないと眠ることができないタイプや、就寝後に覚醒し、半分寝ぼけたように食べてしまうタイプがあります。
過食性障害(むちゃ食い障害)の症状
たまに食べ過ぎたり、ストレス解消のために好物をたくさん食べるなどのことは普通でもよくあることと思いますが、『過食』と呼ばれるのはそのようなものとは異なります。
過食の特徴は
- 精神的・肉体的な苦痛をともなう
- 食事時間や空腹とは無関係に衝動的にたくさん食べてしまう
- 普通の食事よりずっと速いスピードで食べてしまう
- 食べるものの内容や食べ方がコントロールできない
- 目の前に食べ物があると食べずにはいられなくなる
- あるものを食べつくすまで止められない
- 食べるものが無ければ買い出しに行ってでもたくさん食べる
- 我慢できなくて人のものを食べたり拾い食いをしてしまうことがある
- 食べた後に自分を責めたり、無気力になったりする
- 食べるものにかけるお金で経済的に困っている
- いつも食べ物のことを考えてしまう
- 常に食べるものがないと落ち着かない
- 食べる量が異常だと悩み人から隠れて食べる
- 食べることに時間や体力を費やし生活に支障が出ている
などの状態です。
過食の衝動は普通の食欲とは異なり、我慢しようと思ってもそれがきかず、内容や量や時間帯を選べず、異常なスピードで押し込むように食べてしまったり、目の前に食べ物があると制限がきかなくなったりします。
これらが常に続くとは限りません。
普段は普通の食事ができている人が、週に何回か過食の症状が出てしまうということもありますし、普通に食事をした後、衝動的に過食をしてしまうこともあります。
重症になると普段の食事も過食となり、人前では無理やり我慢した後、トイレなどにかけこんで過食をすることが日常的になっていることもあります。
診断基準に当てはまるほどではなくても、
- お腹が苦しくなっても食べるのを止められない
- 常に食べ物を口にしていないと落ち着かない
- これまでの自分に比べて明らかに食べ過ぎることが増えた
- 食べ物のことばかり考えてしまう
- 異常に食べ過ぎているのではと悩んでいる
などの状態がみられるようになれば、それは心や脳が疲れているサインや過食症の始まりかもしれません。
うつ病などの病気の始まりも、食欲低下ではなく、過食が症状として現れることもあります。
食べ過ぎる以外に、眠りづらい、気分の浮き沈みが激しい、頭痛やめまいに悩まされている、何らかのストレスを抱えて1人での対応ができないなどのことがあれば、心療内科や精神科へ相談してみましょう。
食べ過ぎと過食の違い
人間にとって「食べる」というのは、空腹を満たすという生理的役割以外に、楽しみを与えてくれる存在でもあります。
食べるのが好きな人、食べ歩きが趣味の人、やけ食い傾向のある人などはそこら中にあふれ、「思わず食べ過ぎてしまった」という経験は多くの人が持っているでしょう。
けれど、それを「過食症」とは呼びません。
では、どんなときに病気としての対応が必要になるかというと、
- 本人が精神的・身体的に強い苦痛を感じている
- 食べ物の内容・時間帯・食べ方をコントロールできない
- 生活や健康状態に明らかな支障がおよんでいる
- 食べ物にお金を使い過ぎて経済的に困っている
- 食べ過ぎたあとに自分を責めたり、うつ状態になったりする
- 食べ過ぎる以外に精神の不調を感じている
などの要素があるときです。
基本的に食べ過ぎというのは健康によくはありませんが、元来胃腸が丈夫でエネルギー代謝がよく、ときどき食べ過ぎても適度な手段でコントロールができ、健康に害がないのなら大きな問題にはならないでしょう。
たまには美味しいものをお腹いっぱい食べ、それによってまた元気に頑張れるというのなら、それはそれでいいと思います。
けれど、食べ過ぎが日常的になり、それが明らかに自分の体や活動量をオーバーした状態なのに止められないとなれば、精神的にも肉体的にも辛くなってきます。
とくに、食べ過ぎる自分を責めてしまったり、食べ過ぎた後にうつ状態となってしまうようなら病気の範囲になります。
また、食べ物にかけるお金によって経済的に苦しくなったり、食べることに時間と体力を費やして仕事や約束に遅刻したり、身体がだるくなって必要な家事などができないなどのことがあれば、問題です。
そして、もっとも病的とわかるのは、「食べる内容・時間帯をコントロールできない」という点です。
ストレス解消にせよ何にせよ、普通は自分の好きなものを、好きな時間帯に食べようとするはずです。
ところが、過食症の人はそれができません。
過食の衝動があるときは目の前に食べ物があると手を出さずにいられず、ときに仕事中や外などでも我慢できず口へ入れてしまいます。
多くの場合、ほとんど噛まずに飲み込んだり、何かにとりつかれたように味もわからず詰め込むように食べます。
重度になると、お店の品物や人のものを盗んだり、落ちている残飯を拾い食いしたり、カレールウやケチャップやバター、冷凍食品、生米などを丸ごと食べてしまうこともあります。
それによって身体が悲鳴を上げ、本格的な体の病気へと進行しても、歯がボロボロになっても止めることができなくなり、健康も社会生活もお金も失います。
そこまで進行してしまえば嘔吐がともなうこともあり、嘔吐がともなった過食は一気に幅が広がっていきます。
脳には依存性があるため、最悪食べ吐きによって1日が支配されてしまいます。
そんな重症例は一部ではありますが、その前段階として、「精神の不調をともなう苦しい食べ過ぎ」があり、軽度の過食症があります。
過食症は長引くほど依存の程度や合併症が増え、治療がとても大変になっていくため、早い段階で何らかの対処をすることが大切です。
また、過食の根本に他の精神の病気、発達障害やパーソナリティ障害などの生きづらさがかくれているときもあります。
食べ過ぎる以外にうつ状態や気分の浮き沈み、眠りづらさ、ストレスの多さなどを感じたときは、自分の心を振り返るとともに、専門家への相談を検討してみましょう。
過食の量とは?
具体的に食べる量は人によって様々ですが、本人の普段の食べる量・胃腸の許容量に比べ、明らかに多すぎると感じる量です。
それが食事以外に菓子パン3個、クッキーの大箱1つ程度のこともあれば、コンビニで数千円以上使うほどの量まで様々です。
元々の少食・大食・体型・胃の許容量によっても、過食と感じる量は異なります。
量そのものより、本人がそれを苦痛と感じるどうかが問題です。
過食性障害(むちゃ食い障害)の診断基準
医学上は主にアメリカ精神医学会のDSM-5という診断基準を目安にしていますが、様々な病態があるため、必ずこれに当てはまらないといけないというわけではありません。
実際の診療では、患者さんの心理状態や生活状況なども合わせ、過食が病的なものかどうかを判断していきます。
以下のA~Eに該当すること
- A.以下のような衝動的な過食行為がみられる
1.普通の食事以外に、一般的にみて明らかに多い量を食べる
2.過食の衝動は空腹にかかわらず、自分で食べるスピードや量や内容をコントロールできない。 - B.過食には、以下の特徴のうち3つがみられる
1.異常に速いスピードで食べる
2.お腹が苦しくなっても止められない
3.空腹を感じていないのに大量に食べる
4.過食している自分を見られたくなくて人目を避けて食べる
5.食べた後に自分を責めたり、うつ状態におちいる - C.過食の行為が明らかに強い苦痛を与えている
- D.過食の行為は3カ月以上の期間に平均して週1回以上ある
- E.過食は神経性過食症(肥満恐怖の強い過食症)のような排出行為(過食によって太ることのないよう嘔吐、下剤乱用、過剰な運動、絶食などを行う)をともなわない。また、神経症やせ症(拒食症)の反動によってのみおこっているわけではない。
過食性障害(むちゃ食い障害)の治療
過食性障害(むちゃ食い障害)の治療には、心理的アプローチを大切にしつつも、必要に応じて薬物療法を行っていきます。
内科的な治療や、時には入院治療が必要になることもあります。
心理的アプローチ
現在のところ、過食症の治療というのは確立されていませんが、基本的には過食をひきおこしているものが何か、自分を振り返っていくことにあります。
食べ物への依存が中心の過食症の治療では、その過食が何によって引き起こされているかを振り返ってみる心理的なアプローチが中心になります。
過食衝動のタイミングは人それぞれですが、過度のストレスがかかったときや、自分が苦手とする感情に出会ったとき、自分のトラウマを想起させる場面になったとき、目をそらしたい問題を抱えているときなどに過食衝動はおこりやすい傾向があります。
その内容は様々で、現在のストレスが引き金のこともあれば、過去の大きな傷や深刻なトラウマがかかわっていることもあります。
他の病気や発達障害などが基本にあり、そこから発する苦しみから過食へ走っていることもあります。
過食は、過食症状の内容そのものより、「何かがあるから過食するのだ」とまずは自覚することが大切です。
過食=意志が弱い、食い意地がはっていると自分を責める人も多いのですが、ただそれだけのことで、衝動的に、自分を苦しめるように食べることはおこりません。
過食があるとその症状を何とかしようとしてしまいがちですが、それが精神的な何かとつながっているかもしれないと客観視することで、対応がしやすくなります。
そして、過食の原動力となってしまっている何かが見つかれば、それに対応するためにストレス対処法を身につけたり、ストレスを抱えやすい認知へのアプローチを行ったり、現実に解決できる問題に向かったり、自分の感情を表現する練習をしたりと、自分の課題へ1つずつ取り組んでいきます。
過食症は依存症の1種として、自助グループやNPO法人、電話やネットを利用した心理療法などを行っているところもあります。
それらの併用も有効ですが、いずれにしても過食症にはうつ状態などが併発することが多いので、心療内科・精神科は受診することが勧められます。
その上で、主治医とも相談しながら外部のつながりを利用していくのが望ましいでしょう。
病識教育・内科的治療
過食という行為にあまり危機感がないときは、過食が身体に与える影響などを教育していくこともあります。
まずは病気という認識をしっかりと持つことで治す意識を高めます。また、体の方に影響が出ているときは内科的な治療も必要になります。
薬物療法
過食を抑える薬はありませんが、うつ状態のひどいときや衝動性の強いときは、抗うつ剤や抗精神病薬、気分安定薬などを使うことが治療の助けになります。
過食に他の精神的な病気が関わっていると考えられるケースでは、その病気に対する薬物治療を行います。
入院治療
入院で一時的に過食を管理しても治すことはできませんが、身体状況が悪化しているときや、教育的な食事指導が必要なとき、他の病気を合併して何らかの治療が必要なときなどに入院治療が勧められることがあります。
それはただ食管理をするだけではなく、その期間に心理的なアプローチや心理療法も行っていくことが大切です。
過食症の原因
過食症には様々な側面があります。
- 自傷行為としての側面
- 衝動統制不良としての側面
- 依存症としての側面
人によっても過食症の背景は異なり、複雑にからみあっていることが多いです。
過食症の方の性格傾向として、自己肯定感が低くて「自分がない」方が少なくありません。
また、過食が続いて自分へ自信を失っている方も多いです。
過食をしている自分が知られるのが怖くなり、食べ過ぎと指摘されるのが怖くなって人との付き合いを避け、引きこもりがちになってしまうこともあります。
重症になればほぼ引きこもりになっているケースもあります。
過食嘔吐をするということは、「苦しいくらいに食べて吐く」というある種の自傷行為としての側面があります。
自分の存在を、過食するということで実感しているという部分があるのかもしれません。
また衝動統制が苦手という側面もあります。
過食症の人は、長期的な計画に基づいてコツコツと行動していくことが苦手なことが多いです。
自分をコントロールするという衝動統制が苦手であることが多く、窃盗症(クレプトマニア)が合併している方もいます。
過食以外の自傷行為や、暴力や暴言といった衝動的な行動が認められることもあります。
また過食症は、アディクション(依存症)の1種と捉えられる側面もあります。
食べることには快楽もともなうため、麻薬やアルコール、ギャンブルなどと同じように脳が食べ物へ依存してしまいます。
普通の状態でも、甘いものを食べるとホッとしたり、嫌なことがあると憂さ晴らしに食べ放題に行ったりということはよくあると思います。
それらに自分の意志がきいて経済や健康や生活を害さず、精神的な苦痛をともなわないのならば病気ということになりませんが、それがコントロールを失い、何らかの支障が及ぶようになれば、過食症となっていきます。
過食症の合併症
過食が長く続くと、多くの合併症がともなうことがあります。精神的な合併症だけでなく、内科的な合併症もあります。
代表的なものをご紹介していきます。
うつ状態
多くの場合、過食後はうつ状態になったり、無気力になったりします。
過食中は頭が真っ白になったり、夢中でやったりしているのですが、終わった後は急速にむなしくなります。
それが続くうち、他事への意欲や興味を失い、身体が重たいせいもあって活動力が低下してしまいます。
うつ状態がひどくなると過食も増す傾向があるので悪循環におちいってしまいがちです。
アルコール依存症
元々お酒を飲む習慣のある人に過食衝動が加わると、アルコール依存と過食症が合併してしまう可能性が高くなります。
この場合は過食症以上にアルコール依存の方へ早急な対処が必要です。
生活習慣病
過食で食べるのはパンなどの主食類、高カロリーのお菓子やジャンクフードなどが中心になるケースが多いため、それが続けば高中性脂肪・高コレステロール・高血糖・塩分過多による高血圧などを引き起こしやすくなります。
胃腸障害
お腹が苦しくなるまで食べることが続けば、胃腸は常に重たく、消化力が低下していきます。
衝動的な食べ方から胃腸炎や食道炎を引き起こすこともあります。
肝障害・腎障害
たくさんのものを食べれば、それを処理するために肝臓も腎臓も休むことができません。
肝障害や腎障害におよぶことがあります。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:摂食障害 投稿日:2023年3月23日
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