全般性不安障害(不安神経症)の症状・診断・治療

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全般性不安障害(不安神経症)とは?

全般性不安障害の症状診断治療について、精神科医が詳しく解説します。

全般性不安障害は、毎日の生活の中で漠然とした不安や心配を慢性的に持ち続ける病気です。

ただ心配しているだけなら良いのですが、つきることない不安と心配のために徐々に身体症状や精神症状が表れるようになり、不安が悪循環していきます。そして少しずつ、日常生活をこなすことが困難になってしまいます。

日々過ごす日常の中では、様々な心配や不安は当然誰にでも起こります。

  • 「志望校の合否判定がギリギリ…落ちてしまうのではないか」
  • 「怒りっぽいと社内でも評判の人が上司になった…怒られてしまう」
  • 「新しい部署に異動してきた…うまく馴染めるか不安」

こういった不安や心配には、明確な理由や根拠があります。

しかし全般性不安障害では、特に大きな理由や根拠もなくなぜか身の回りのすべてのことが不安材料になってしまうのです。そして多くの場合、いつから病気がはじまったのか本人もわかりません。

パニック障害や社交不安障害は、苦手な状況がハッキリしています。しかし全般性不安障害では不安を感じる範囲は非常に広く、日常に起きる生活のすべてになります。

全くあり得ないようなことを心配しているのならば周りも病気と思うでしょうが、不安が日常生活に散らばっていることから、「他のひとよりも心配性」や「ちょっと神経質」と思い込んでしまい、病的な不安とは受け取られないのです。患者さん自身も、「自分は心配性な性格」と思っていることも少なくありません。

かつては全般性不安障害は、不安神経症と診断されていました。現在でも病名として使われることがありますが、正式な診断名ではありません。かつて不安神経症と診断されていた患者さんは、全般性不安障害に当てはまる患者さんが多いです。

全般性不安障害と心配性の違い

それでは全般性不安障害と、心配性や神経質は一体何が違うのでしょうか。この違いは、「治療対象になる不安なのかどうか」ということになります。

例えば洗濯物を干すとき、雨や風を心配するのはだれにでもあります。しかし、ベランダに飛行機が落ちてきたらどうしようと思うなら、明らかに過剰な心配です。

他に例を挙げますと、

  • 遠い土地での地震で自分が住んでいる地域に影響が及ぶわけないのに、地震に巻き込まれたらどうしようと思い悩む
  • 非常に稀な病気に、自分は罹ったらどうしようと心配する
  • 家族も健康で特に心配するような要素などないのに、家族がトラブルに巻き込まれるような不安を感じてしまう

などがあります。程度が軽ければ誰にでもでも起こりうるものですが、強く慢性的になって心身の健康に支障をともなうようになると、病的な不安といえます。

このように全般性不安障害では、心配性や神経質といった性格の傾向を超えた過剰な心配や不安が認められます。その違いは、大きく3つのポイントがあります。

  • 本人が苦しみ悩んでいたり、生活に影響があるのか
  • 行動面に大きな影響があるか
  • 精神症状や身体症状が目立つか

大きな理由や根拠もないのに悲観的な心配をしているのですから、当然本人は苦しみを感じているでしょう。心配が原因で外出がままならなくなったり、家事や仕事、学業が手につかないようでは行動面に影響が出ているといえましょう。

本人の自覚がないようでも、心配事をさけるために活動が狭まり、不安を打ち消すための準備に必要以上の時間がかかってるなどをしていては、一見すると普通に生活しているようにみえても、行動に大きな影響を及ぼしている状態です。

また心配性や神経質で、身体症状や精神症状といった症状はおきません。全般性不安障害では、様々な精神症状や身体症状が生じます。

全般性不安障害の症状

全般性不安障害による精神症状と身体症状とは、どういうものなのでしょうか?

全般性不安障害の症状の流れをまとめました。

強すぎる不安や心配がコントロールできず、心と体が悪循環してしまって心身の症状にあらわれてしまいます。

精神症状としては、日常生活にとりとめない不安や心配が続くことによって、精神的にも緊張が続いてしまいます。神経が過敏になってしまって、ちょっとしたことに動揺したり、ソワソワして落ちつかなくなってしまったり、集中力も落ちてしまいます。

このように張りつめた状態が続くと、エネルギーを使って疲れやすくなり、倦怠感などを感じやすくなってしまいます。心配や不安が次から次へとあり、夜にも考え事をしてしまうことで、寝つきが悪くなったり、途中で目が覚めてしまったり、眠りが浅くなるなどの睡眠障害を引き起こしてしまうことも多いです。

これらが続くことで、うつ病やパニック障害、アルコール依存症など様々な精神疾患を合併していくことも多いです。

身体症状としては、大きく2つに分けられます。

  • 自律神経症状
  • 筋緊張症状

自律神経症状としては、様々な症状が認められます。呼吸困難、動悸、発汗、口の渇き、めまい、吐き気、腹痛、体感異常、喉の異物感など、いわゆる自律神経失調症といわれている症状が人によってさまざまな形であらわれます。

また、身体の筋肉も過緊張になります。筋肉の緊張によって、肩こり、頭痛や腰痛などの身体の痛み、身体の震えやけいれんなどが認められます。

全般性不安障害の症状を精神症状と身体症状に分けてまとめました。

これらの症状をみていただくと、他の病気でも認められる症状が多いかと思います。全般性不安障害は慢性的な不安による症状なので、どうしても特徴がないのです。

それでは、他の病気との症状の違いはどのようなところにあるでしょうか。よく認められる症状としては、以下の6つの症状があります。そのうち3つ以上が認められると、全般性不安障害が疑わしくなります。

  • 落ちつきのなさ、緊張感、過敏さ
  • 筋肉の緊張
  • 集中困難
  • 易刺激性
  • 睡眠障害
  • 易疲労感

診断基準によれば、このうちでも「落ちつきのなさ、緊張感、過敏さ」と「筋肉の緊張」の2つが、全般性不安障害の診断をするうえで重要といわれています。

全般性不安障害をチェックする診断基準

全般性不安障害のような心の病気の診断は、身体の病気のように検査で客観的に診断できるものではありません。

医師が問診によって状態を把握し、自身の経験や感覚で診断をすると、医師によっての診断もばらついてしまいます。このため、全般性不安障害のような心の病気に対しても診断基準が設けられています。

全般性不安障害の考え方は歴史のなかで変化していますが、現在では最も新しいアメリカの診断基準であるDSM‐Ⅴが一般的によく使われています。

全般性不安障害の診断基準のポイントをまとめると、以下のようになります。

  1. 過剰な不安や心配がある
  2. 不安や心配がコントロールできない
  3. 精神症状や身体症状がある
  4. 苦痛や生活への支障がある
  5. 他の病気や物質のせいではない

それでは順番にチェックしてみましょう。

  • (仕事や学業などの)多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配(予期憂慮)が、起こる日のほうが起こらない日より多い状態が、少なくとも6か月間にわたる。

→全般性不安障害の中心症状は、過剰な不安と心配になります。全般性不安障害は慢性不安になるので、診断基準では6か月以上にわたって、心配している日の方が多いとしています。

全般性不安障害の患者さんは、不安と心配を毎日感じながら生きています。不安なこととしては学業だったり、仕事や家事など年齢的な傾向はありますが、日常生活での出来事に対して過剰に不安や心配をしています。

  • その人は、その心配を抑制することが難しいと感じている。

→全般性不安障害の患者さんでは、「こんなに不安になる必要なんてない…」「どうしてこんなこと気にしているんだ。ばかばかしい」といったように、自分でも過剰だという認識がある患者さんも多いです。まさにわかっているけどやめられない。抑制できないのです。

  • その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ以上を伴っている(過去6か月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。(注:子どもの場合は1項目だけが必要)
  1. 落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
  2. 疲労しやすいこと
  3. 集中困難、または心が空白になること
  4. 易怒性
  5. 筋肉の緊張
  6. 睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または、落ち着かず熟眠感のない睡眠)

→過剰不安や心配をしてしまうと、それによって心身のどちらにも様々な症状が認められます。

このうち、精神症状として「緊張感や過敏・集中困難・易怒性・睡眠障害」、身体症状として「易疲労感・筋緊張」の6つがあげられています。

  • その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

→全般性不安障害と診断されるような慢性的に不安は、「本人が困っているか」「生活に何らかの支障が生じているか」の2つの点で病的な不安かどうかの線引きをします。

  • 物質または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない
  • その障害は他の精神疾患ではうまく説明されない。

→アルコールや薬物によるものではなく、何か他の身体の病気ではないことが必要です。そして他の精神疾患が原因ではないことも必要です。

例えば社会不安障害の場合、人から注目される状況で不安が強まります。ですがそれだけであれば、社会不安障害と診断されるべきです。しかしながらその不安が広がって、日常の活動や出来事にも過剰な心配が及んでしまうと、全般性不安障害が合併したと考えます。

全般性不安障害と不安神経症

不安神経症(anxiety neurosis)という病気の概念は、かつては正式な病名として診断基準にも含まれていました。この病気の概念を作ったのは、かの有名なフロイトになります。

これまでは神経衰弱(極度の精神的な疲労状態による不適応)とされていたものから、病的な不安が認められる病気を分けたのです。

病的な不安は、

  • 急性不安
  • 慢性不安

に分けることができますが、不安神経症では明確に区別はしていませんでした。不安神経症という病気は、急性不安と慢性不安が入り混じる病気と考えられていたのです。

しかしながら、急性不安には明確な脳の要因があることが分かってきて、慢性不安とは区別するべきだと考えるようになりました。そして診断基準でも、パニック障害をはじめとする急性不安と、全般性不安障害などの慢性不安に分けられるようになりました。

正式な病名から不安神経症は姿を消しましたが、現在でも不安神経症と診断されることがあります。慢性不安と急性不安のどちらにでも使える病名ですので、使いやすさがあります。

しかしながら多くの場合は、慢性的な不安があります。ですから、不安神経症≒全般性不安障害であることが多いです。

全般性不安障害の治療

それでは全般性不安障害の治療はどのように行っていくのでしょう。

全般性不安障害の治療に当たってまず大切なことは、専門家のことを信じていただくことです。不安や心配が治療にも及んでしまうことが少なくなく、例えば「お薬が不安でどうしても使いたくない」という方もいらっしゃいます。

「自分の不安なことを聞いてほしい」と、不安や心配事を話し始めると止まらない方もいらっしゃいます。専門家はそれを受け止めながら治療をしていくのですが、時間的な制約の中で、できることも限界があります。

心配事が尽きないうちは、言葉だけで治療を進めていくのは困難です。心配が心配を呼んでいくような状態では、お薬を使って気持ちを落ちつけていくことが必要になります。

お薬によって、心身の症状をやわらげていくことができます。お薬によって症状が楽になってくると、不安を受け止めやすくなります。お薬によって症状が緩和してきたら、精神療法を行っていきます。

少しずつ考え方が変化していき、不安の感情を受け止めやすくなっていきます。生活習慣を整えたり、リラックス法などを覚えていくのも、再発を予防する意味でも大切です。

治療をすること自体が不安で仕方がなかったり、心配で押しつぶされそうかもしれませんが、まずは専門家を信用して治療を開始することが一歩です。

全般性不安障害での薬の役割

全般性不安障害でのお薬の役割について整理してみましょう。

先ほどお伝えしたように、不安が不安を呼んでいるような悪循環になっているときは、それをお薬によって断ち切る必要があります。

とくに以下のような場合には、お薬を使っていく必要があります。

  • うつ状態がひどい場合
  • 回避行動が強い場合

うつの状態がひどいということは、エネルギーが少なくなっている状態です。不安の治療には多大なエネルギーが必要です。まずはお薬によってうつ状態を改善してから、全般性不安障害の治療をしていく必要があります。

また回避行動が強いということは、不安や緊張が強いということです。回避行動をしてしまうと、次に同じ状況に直面した際にはさらに不安が強まってしまいます。

どちらの場合も、お薬を使わないと悪循環がとまらずに悪化してしまうことが多いです。お薬によって症状が和らぐと、柔軟な考え方を受け入れるようになっていきます。

お薬を不安に思われる方も多いかと思いますが、医師の処方に基づき用量を守り正しく服用していけば安全性は高いです。まずは専門家を信頼して、しっかりと服用することが肝心です。

全般性不安障害で良く使われるお薬とは?

全般性不安障害の治療では、以下の2種類のお薬の服用から開始することが多いです。

  • 抗うつ剤(SSRI・SNRI)
  • 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)

この薬以外にも患者さんの体質や症状の表れ方などによって、

  • 抗精神病薬
  • 気分安定薬
  • 睡眠薬
  • 漢方薬

などを使って症状の緩和をしていきます。

全般性不安障害では、一般的にはセロトニンの増強を目的とした抗うつ剤を使いますが、抗うつ剤は効果に時間がかかります。そのため、効果が早く出る抗不安薬も一緒に使うケースが多くみられます。

抗不安薬は即効性があり、飲み始めてすぐに効果の表れるという特徴があります。ですが、ずっと服用していると耐性(だんだん効かなくなること)と依存(やめられなくなること)が出てきてしまいます。

ですが医師の用法をまもって適切に使っていけば、やめられないお薬や後遺症の残るようなお薬ではありません。

抗うつ剤(SSRI)

全般性不安障害の患者さんでは、脳の中にある偏桃体とよばれる部分が過活動になっていると想定されています。この偏桃体は、私たちの不安や恐怖をコントロールしていると考えられています。

過活動になっている偏桃体では、セロトニンの働きが本来より弱くなっています。そのためセロトニンの働きを本来の働きに近寄せることが症状の緩和に有効なのです。

このため抗うつ剤のなかでも、セロトニンを増加させる効果が強いものが第一選択のお薬になります。それがSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)なのです。

現在日本で発売されているSSRIとしては、以下の4種類があります。

  • パキシル(一般名:パロキセチン)
  • ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)
  • レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)
  • ルボックス/デプロメール(一般名:フルボキサミン)

ただし、正式に全般性不安障害に適応が認められているお薬はありません。

SSRIが合わない場合は、その他の抗うつ剤を使うこともあります。

  • SNRI:意欲低下が目立つ(イフェクサー・サインバルタ)
  • NaSSA:吐き気や不眠が強い(リフレックス/レメロン)
  • 三環系抗うつ薬:他剤で効果が不十分(アナフラニール)

詳しくは、抗うつ剤のページをお読みください。

抗不安薬

抗不安薬は、主にベンゾジアゼピン系抗不安薬を使います。抗不安薬はGABAの働きを強めることで、脳の活動を抑制します。その結果として、不安や緊張を和らげる作用があります。

全般性不安障害には、以下のような抗不安薬(精神安定剤)が使われます。

  • メイラックス(一般名:ロフラゼプ酸エチル)
  • リボトリール/ランドセン(一般名:クロナゼパム)
  • セルシン/ホリゾン(一般名:ジアゼパム)
  • リーゼ(一般名:クロナゼパム)
  • ソラナックス/コンスタン(一般名:アルプラゾラム)
  • ワイパックス(一般名:ロラゼパム)
  • デパス(一般名:エチゾラム)
  • レキソタン(一般名:ブロマゼパム)

抗不安薬は依存性等を心配される方が多いですが、

  • 用法・用量を守ること
  • お酒を控えること
  • 落ちついてきたら減薬すること

を意識いただければ大丈夫です。抗不安薬は即効性があり、よくなっていく実感ももてる非常に有用なお薬です。

依存が心配される方は、アルコールを考えてみてください。アルコール中毒というように、アルコールは依存しやすい物質のひとつです。

抗不安薬よりも依存しやすいですが、皆さん何気なくお酒を楽しんでいるかと思います。それでも、誰もがアルコール中毒になるわけではありません。

晩酌を楽しみにしているお父さんや、飲み会で意識がなくなるほどにアルコールを服用しても、多くの方はアルコール中毒には発展しません。

このことから言えることは、

  • 決められた量の範囲であれば依存しにくい
  • 休肝日ならぬ休薬日があれば依存しにくい

ということです。使うときはしっかり使い、落ち着いたらお薬を減らすような意識の方が、全般性不安障害の治療の近道です。

詳しくは、抗不安薬(精神安定薬)のページをお読みください。

漢方薬

全般性不安障害では、抗うつ剤や抗不安薬を中心とした治療をしていくことが一般的です。しかしながら漢方薬にも不安を和らげる効果が期待できるものがあるので、漢方薬を使っていくこともあります。

漢方薬が強みを発揮するのは、不定愁訴や副作用の軽減になります。ですから不安障害の中では、全般性不安障害は漢方薬の効果が期待できます。

ですが漢方薬で改善しない場合は、漢方薬に固執しすぎないようにしてください。

全般性不安障害で使われることの多い漢方薬をご紹介します。

  • 柴胡加竜骨牡蛎湯:体力があって、不安やイライラが強い
  • 柴胡桂枝乾姜湯:体力が落ちていて、不安やイライラが強い
  • 桂枝加竜骨牡蛎湯:体力が落ちていて、緊張が強い
  • 半夏厚朴湯:のどや胸に違和感があり、詰まった感じがある
  • 加味逍遥散:女性で血のめぐりが悪く、不安が強い
  • 加味帰脾湯:疲れや食欲不振などが目立つ、不安の強い
  • 抑肝散:神経が高ぶり、イライラの強い
  • 甘麦大棗湯:不安が強いときの頓服

その他のお薬

全般性不安障害のお薬として、抗精神病薬や気分安定薬が使われることがあります。

このようなお薬が使われるのは、大きくわけて2つのケースになります。

  • 抗うつ剤の効果が不十分なとき
  • イライラや感情の起伏などが目立つとき

詳しくは、気分安定薬のページ抗精神病薬のページをお読みください。

全般性不安障害の精神療法

薬によって症状が落ち着いたら、精神療法をすすめていきます。

日々生活する上で漠然と抱えている不安や心配に対して、物事に受け止め方を変化させたり、不安や心配といった感情の対処を知ることにより、全般性不安障害の症状を緩和することができます。

またこういった精神療法を行っていくことは再発予防にも重要なので、全般性不安障害を完治・克服するためには必要な治療になります。

精神療法は、医師ではなく臨床心理士(公認心理士)が専門家になります。現在の健康保険の仕組みでは健康保険が適用されないため、自費診療となります。

費用の点で難しい場合は、医師による診察の範囲内で少しづつアドバイスをしていく形になります。

それでは全般性不安障害ではどのような精神療法がおこなわれるのでしょうか。ここでは使われる代表的な精神療法の考え方をお伝えしていきましょう。

認知行動療法

同じ出来事を経験したとしても、人によって受け止め方は様々です。それは過去の経験や自分が持った感情などに基づいて、それぞれの判断をしているからです。

認知行動療法とは、その受け止め方や行動及び感情の想起が、認知のあり方(ものの考え方や受け取り方)によって影響が出るということ理解していくことからはじめます。

そして認知の歪みや偏りを修正することにより、感情や行動を変化させ問題解決をしていく精神療法です。

現実の日常生活での出来事を振り返っていくことで、ひとりでに浮かんでくる考え方のクセ(自動思考)がみえてきます。それをたどっていくと、認知のゆがみが見えてきます。

そのゆがみが良い方向に行くこともあるのですが、悪い方向に行くとストレスとなり、不安を強める要因になります。その悪い部分を振り返り、少しずつどう考えればストレスにならないのかを身につけていきます。(適応的な思考)

森田療法

ストレスにさらされると、不安・恐怖・緊張などの感情や、動悸・ふるえ・発汗などの身体反応があらわれますが、森田療法では自然なものと考えます。

その感情や身体反応を消そうとすればするほど、自分に注意が集中してしまいます。そしてより激しく恐怖などの感情が生まれ、身体反応が強くなってしまう悪循環が生まれてしまいます。

ですから森田療法では、こういった感情や身体反応は自然なものと考え、「あってはならないもの」とはせず、むしろ何とか消し去ろうとすることが不自然ととらえています。

全般性不安障害の患者さんは日常生活の中で漠然とした不安や心配を抱え、常に心配にとらわれていますが、その裏には完璧主義ともいうべき「こうあるべき」という気持ちを持っている人が多くみられます。

つまり「あるべき姿」にとらわれ「より幸せに生きなくてはいけない」という気持ちから、不安や心配が生じていると考えられます。

森田療法では、これらの感情については仕方がないことと考えます。変えようとするのではなく、受け入れることを目指します。むしろその感情や身体的な反応に左右されて、行動を変えてしまうことが問題と考えます。

ですから全般性不安障害の患者さんでは、まずは現実的な不安と非現実的な不安を分けることから始めます。非現実的な不安はそのままにして、ほっておくと不安が小さくなることを感じるようになります。

こうして自分の感覚を受け止められるようになると、生きづらさは感じながらも何とかやり過ごせるようになります。

「ありのままの自分」を受け入れ「これでいい」と肯定することができると、次は「いかに生きていくか」という課題が生まれます。そして「あるべき姿」にとらわれたものではない、現実的な「より幸せに生きたい」について考えていきます。

もちろん生活する上では誰しも不安や心配もあるので、「少しも怖くない」とはなりませんが、病的な不安は緩和されていきます。

不安がつきないときは専門家を信じて治療を

全般性不安障害は、なかなか病気だという認識がされにくい病気です。

というのも、全般性不安障害の人の心配や不安は明らかにいきすぎた心配なのですが、全くあり得ないということではない、突拍子もない不安というわけではないからです。

仮に宇宙人の陰謀によってあり得ないような病気にかかるなどと恐れていたとしたら、周りだって心配性とは片付けないでしょう。しかし奇特な病で罹患する人の確率、もしくは発症している人がとても少ない病気を恐れていたら心配しすぎとはいえ、実際にその病気がある以上突拍子もないとはいえません。

そしてパニック障害のように、発作的な激しい恐怖におそわれるわけでもありません。そのため周囲からは、「なんでそんなこと心配するんだ」と一笑に付されてしまったり、本人までもが「なんでこんなことが不安になるんだろう。本当に小心者」など思ってしまい病的な不安を見過ぎしてしまうのです。

全般性不安障害は、20代後半~30代くらいに発症することが多いと言われていのですが、実際に治療を受けにこられる患者さんは、「中年」にさしかかっている方が少なくありません。おそらく発症から10年、20年と長い間、性格の問題として苦しまれたのだと思います。

そして何かをきっかけに受診する際、体の病気ではないかと心配になって内科等を受診される方が多いです。内科の先生がこころの病気を疑っていただけることもありますが、内科的な治療に終始してしまったり、心の病気を本人が受け入れられないこともあります。

全般性不安障害の方は、かりに心療内科などに受診されても、治療そのものに不安が尽きないことも多いです。

  • お薬を使わない方法はないですか?
  • お薬はやめられなくなりませんか?
  • お薬の副作用は本当に大丈夫ですか?

といった質問をされることが多いです。

そして説明してお薬を開始いただいても、次の診察のときには、「やっぱり薬はよくないと思って」「服用してみたら〇〇な感じがあったら怖くて」といった形で、ご自身で服薬を中断されてしまうこともあります。

お薬だけならまだよいのですが、病院に通院すること自体に不安を感じてしまうこともあります。「知人に会ってしまったらどうしよう」「家族にばれてしまうのではないか」といった不安から、通院を自己中断された方もいらっしゃいます。

このように全般性不安障害の方は、治療を継続して症状が落ち着くまでには、患者さんだけでなく医療者にも忍耐が必要になることが多いです。診察にも時間の限りがありますので、

  • 質問したいことは紙にまとめる
  • 1回の診察で質問する項目の数を決める

といったことを意識いただくと、治療関係も良好に治療がすすめられると思います。また、とりとめのない不安を我慢していくこと自体も治療的です。

尽きない不安に悩まされる全般性不安障害の方は、専門家を信じて治療を行っていただければ、少しずつ落ち着いて日常を取り戻せます。まずは医療機関で相談することからはじめてください。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:全般性不安障害(不安神経症)  投稿日:2023年3月23日

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