不安をしずめてくれる漢方薬とは?

漢方薬は体への作用が注目されがちですが、不安・イライラ・不眠などへの効果が期待できるものもあります。

不安神経症の治療では、どのような漢方薬が使われているのでしょうか?

不安神経症に対して漢方薬を使うときの注意点

不安神経症に用いる漢方薬にはいくつかの種類がありますが、「不安神経症にはこの漢方!」という確定したものは存在しません。

というのも、漢方薬は個人の病状や身体の状態、体質などに合わせて選ぶことが重要で、同じ病名はついたとしても、どれが適しているかは人それぞれだからです。

ピンポイントの症状をターゲットにした西洋薬と異なり、漢方には独自の「証」という診断法があり、気・血・水のとどこおりや、身体の抵抗力などをひっくるめ、どこから不安がおこっているかを考えて漢方薬を処方していきます。

状態に合わない漢方薬では症状は改善されず、むしろ調子を崩してしまうこともあるため、注意してください。

また、漢方薬のみでの治療はなかなか難しく、ごく軽度な症状や、抗うつ剤などの補助や副作用の軽減などに用いることが一般的になります。治療中の方は主治医と相談の上で飲むようにしましょう。

※「証」について詳しくは、『漢方の「証」について』をお読みください。

不安神経症の治療を助ける漢方薬

それでは、具体的に不安神経症で用いられる漢方薬をみていきましょう。

①桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)

  • 適応:体質の虚弱な人で疲れやすく、興奮しやすいものの諸症
  • 証:陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(中)・気血水(気逆)

桂枝加竜骨牡蛎湯は、ストレスによって神経が高ぶったり、消耗している状態に効果のある漢方薬です。主に不安神経症の不安が強く、神経が衰弱している患者さんに用います。

②柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)

  • 適応:体力が弱く、冷え症、貧血気味で、動悸や息切れがあり、神経過敏のものの諸症
  • 証:陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・気血水(気うつ・気逆)

柴胡桂枝乾姜湯は、不安へのとらわれが強く、体力が低下していて動悸が激しい方に向いています。身体を温め効果のある生薬が体力を補ってくれます。

③柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

  • 適応:精神不安があって、動悸、不眠などを伴う諸症
  • 証:陰陽(陽)・虚実(中~実)・寒熱(熱)・気血水(気うつ・気逆)

柴胡加竜骨牡蛎湯は、漢方の中では効果が強いお薬です。比較的体力がある方に適応があり、虚弱体質な方には向きません。神経が過敏で動悸や不眠が強いときに使われます。

④半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

  • 適応:気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う諸症
  • 証:陰陽(中)・虚実(虚~中)・寒熱(寒~中)・気血水(気うつ)

半夏厚朴湯は、気がとどこおる「気うつ」に対する代表的な漢方です。何かがつかえた感じや息苦しい感じがする時に効果的で、とくにヒステリー球とよばれる喉の違和感に使われます。

⑤加味逍遥散(かみしょうようさん)

  • 適応:体質虚弱な婦人で、肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある諸症
  • 証:陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・気血水(血虚・瘀血・気逆)

加味逍遥散は、体力が低下していて冷えがちな女性に使われることが多い漢方薬です。不安や緊張、イライラを鎮めるだけでなく、血のめぐりをよくする働きがあるため、月経トラブルや更年期障害にもよく処方されます。

⑥加味帰脾湯(かみきひとう)

  • 適応:虚弱体質で血色の悪い人の諸症
  • 証:陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(中)・気血水(血虚・気虚)

加味帰脾湯は、虚弱体質にアプローチし、貧血や心身疲労を少しずつ改善していく作用があります。また、不安や緊張、イライラや抑うつなどをしずめ、寝つきを良くしてくれます。

⑦抑肝散(よくかんさん)

  • 適応:虚弱な体質で神経がたかぶるものの諸症
  • 証:陰陽(中間)・虚実(虚~中間)・寒熱(中間)・気血水(血虚・気逆)

抑肝散は、イライラや興奮に対する代表的な漢方薬です。神経の高ぶりや、そこから生じる筋肉の緊張もゆるめてくれます。不安神経症の患者さんに使うときは、発作的な落ち込みや怒りによる興奮への効果を期待します。

⑧黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

  • 適応:比較的体力があり、のぼせぎみで顔色赤く、いらいらする傾向のある諸症
  • 証:陰陽(陽証)・虚実(実証)・寒熱(熱証)・気血水(水毒・気逆)

黄連解毒湯は、神経が過敏な状態を鎮める効果が期待できます。比較的体力のある人に向き、イライラして不安や不眠が認められる時に使われます。

⑨甘麦大棗湯(かんばくだいとうゆ)

  • 適応:比較的体力の低下した人で、精神興奮がはなはだしく、不安、不眠、ひきつけなどのある場合
  • 証:陰陽(陰~中間)・虚実(虚~中間)・寒熱(熱)・気血水(気逆)

甘麦大棗湯は、漢方薬の中では即効性が期待できるので、不安への頓服としても使えます。

まとめ

不安神経症の治療では、様々な漢方が活躍してくれることがあります。

とはいえ、強い不安やピンポイントの症状には、やはり抗うつ剤が強く、上手く組み合わせて使うことが大切です。

漢方薬は体質や病状に合わせなければ、効果が期待できません。治療中で「飲んでみたい」と思ったときは主治医に相談しましょう。

※不安神経症と漢方については、『不安の治療に漢方薬は有効?』もお読みください。

カテゴリー:全般性不安障害(不安神経症)  投稿日:2023年3月23日

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