不眠症(睡眠障害)の症状・診断・治療
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不眠症(睡眠障害)とは?
毎日ぐっすり眠れているのが当たり前・・・そのような方は意外と少ないです。
厚労省の睡眠に関する調査では、5人に1人が自分は不眠がちだと感じ、10人に1人は、長期間にわたって不眠に悩まされていると報告されています。そして3人に1人くらいは、過去に不眠で悩んだ時期があると報告されています。
統計上の数字なのでこれはあくまでも目安ですが、眠れないことで悩んでいる人は多く、「不眠症」はけしてめずらしくないことがわかります。
不眠症は、「十分な睡眠が取れず、生活や心身に何らかの支障を及ぼしている状態」です。
具体的に「何時間以上眠れなければ不眠症」「特定の症状がおこらなければ不眠症とは言えない」というわけではなく、本人が「十分に眠れていないと感じて困っている」なら不眠症と判断されます。
ただ、睡眠が十分にとれていない原因が多忙など「寝る暇がない」ことによるなら不眠症とは言えず、それは「睡眠不足」ということになります。
不眠症は、「眠ろうとしているのに、上手く眠れなくなった」「寝る時間はあるのに、自分で望むような睡眠が取れなくなった」「特別な要因が見当たらないのに、最近眠れなくなった」などと感じて困っている状態を指しています。
当院の睡眠外来については、以下をお読みください。
不眠症の4つの症状
不眠症の状態は人によって様々ですが、よく見られる症状を大きく分けると4つに区別できます。
- 入眠障害
- 中途覚醒
- 早朝覚醒
- 熟眠障害
これらの症状は1つに限られるわけではなく、合わさっていることも少なくありません。
入眠障害(なかなか寝付けない)
以前と比べて、明らかに寝つきが悪くなることです。
床についてから眠りに入るまでの時間には個人差があり、どの程度を苦痛と感じるかも人それぞれですが、寝つきが悪くなったことによって全体の睡眠時間が足りなくなってしまったり、その時間が苦痛に感じて困ったりしている場合には不眠症の症状と考えられます。
一般的には、健康な人が消灯してから入眠するまでの時間は30分以内程度と言われています。日本睡眠学会では、入眠障害を「寝つくまでの時間が普段より2時間以上多くかかる状態」と規定しています。
ただ、これらの時間はあくまで目安であり、一番の基準は「それによって本人が苦痛や支障を感じているかどうか」というところにあります。
中途覚醒(途中で何度も目が覚める)
途中で何度も目が覚めてしまう状態です。
蒸し暑い夏場・冬の寒さ・騒音などの明らかに寝苦しい原因があり、それが一時的なものなら不眠症の症状というわけではないですが、環境に特別な変化があるわけではないのに何度も目が覚めてしまい、精神的苦痛や睡眠不足を感じるようになった場合は、不眠症の症状として扱われます。
夜中に1回目が覚める程度なら健康な人でもめずらしくはなく、目が覚めても再入眠ができ、それによって日中の生活が問題なくおくれているのであれば不眠症とはなりません。
ですが、
- 目が覚めてもなかなか再入眠ができない
- 1晩に2回以上目が覚めてしまう
- 精神的な焦りや苦痛を感じて困っている
このような場合は中途覚醒の症状と考えます。
早朝覚醒(異常に早く目が覚める)
早朝覚醒とは以前に比べ目が覚める時間が早くなり、その後の再入眠ができずに困っている状態です。
年齢とともに目覚めが早くなることは自然ですが、まだ休んでいたいと感じたり疲れが全然取れていないのに目がさえてしまったりして苦痛なら、不眠症の症状と判断されます。
「早朝」と表現をしていますが、これも「何時」という具体的な取り決めはありません。睡眠時間や生活リズムはそれぞれですので、早朝という時間に関わらず、「自分が望んでいる予定時間よりも2時間以上早く目が覚めてしまい困っている状態」を早朝覚醒と呼んでいます。
早朝覚醒はうつ病で認められることが多いため、精神症状を詳しく確認する必要があります。
熟眠障害(眠りが浅い)
以前と同じくらいの時間は眠っているはずなのに、「全然疲れが取れていない」「眠った気がしない」と感じる状態です。
眠りの要素には「時間」と「質」の2つがあり、本当に必要なのは「時間」よりも「質」の方だと言われています。
十分に深い睡眠が取れたときには短時間でも疲れが回復し、反対に質の低下した眠りはどれだけ眠っても疲れが取れず、かえって体がしんどくなってしまうことがあります。
熟眠障害は不眠症の1種とされていますが、過眠(いくら眠っても眠くて生活に支障が出る状態)によって認められることもあります。
不眠症(睡眠障害)の診断基準
不眠症(睡眠障害)の国際的な診断基準をご紹介していきたいと思います。
睡眠障害国際分類(ICDS)という診断基準があり、2014年に第3版が発表されています。こちらでは不眠症の診断基準として、以下のように定められています。
- 睡眠の質に対する訴えがあること
- 訴えは適切な睡眠環境下においても生じていること
- 以下の日中の機能障害が少なくとも1つ認められていること
①倦怠感や不定愁訴
②集中力や注意、記憶の障害
③社会的機能の低下
④気分の障害や焦燥感
⑤日中の眠気
⑥動悸や意欲の障害
⑦仕事中や運転中のミスや事故の危険
⑧睡眠不足に伴う緊張や頭痛、消化器症状
⑨睡眠に関する不安
つまり、
- 普通の睡眠環境で、日中に何らかの影響があって、睡眠のことで困っていること
が不眠症の診断基準になります。
不眠症(睡眠障害)というと様々な原因がありますが、そのなかでも慢性的な不眠症の主な原因となる神経生理性不眠症の診断基準をご紹介します。
- 不眠症の基準を満たしている
- 不眠は少なくとも1ヶ月持続している
- 条件付けられた睡眠困難あるいは就寝時の過度の覚醒が認められる
①睡眠に関する過度の不安
②意図したときの入眠は困難だが、単調な作業中など眠りを意図しない際は眠れている
③自宅以外の方が入眠は容易である
④眠りを妨げる思考を止めることができないことによる覚醒
⑤身体的な緊張によってリラックスできずに入眠できない - 他の睡眠障害ではない
※DSM-Ⅴという国際的な診断基準では、3か月の不眠の持続が基準となります。
条件づけられた睡眠困難がイメージつきにくいと思いますので、具体例をあげてみましょう。
条件付けとは、「翌日に試験があるために早く眠らないければいけない」といったことです。このときにベッドに入ると、
- 早く寝なければいけない
- 良質な睡眠をとりたい
という思いが出てきます。すると眠ることを過剰に意識してしまい、からだが緊張してしまいます。眠れないことに不安や焦りが出てきてしまい、
- このまま眠れなかったらどうしよう
- もう〇〇時になってしまった
- 明日の朝おきれるかな?
といった睡眠を妨害するようなことを連想してしまいます。こうしてますます眠れなくなってしまいます。このように不眠恐怖と睡眠妨害連想が悪循環してしまい、ますます眠れなくなってしまいます。
次の項目で、不眠恐怖と睡眠妨害連想の悪循環によってどのように不眠が慢性化していくのかを説明したいと思います。
不眠恐怖と睡眠妨害連想による悪循環
慢性不眠は、
- 不眠恐怖
- 睡眠妨害連想
による悪循環が要因となることが多いです。つまり、不安の病気に近いところがあります。
眠ることに対する過度の恐怖(不眠恐怖)→眠ることへの過剰な努力→からだが緊張→睡眠を妨害する連想(睡眠妨害連想)→不眠恐怖→・・・
といった形で悪循環していきます。こういった不眠による不安や恐怖を繰り返していると、脳の覚醒に関係する部分(視床下部や網様体賦活系)にも影響を与えることが報告されています。この結果として、「からだが疲れていても眠れない」という状態になります。
このような悪循環になるきっかけには、睡眠に関する認知の問題が根底にあることが少なくありません。
- 8時間眠れなければ健康に良くない
- 睡眠時間が短いと認知症になってしまう
- 十分な眠りこそが健康や美の最大の秘訣
- 寝つきが悪かったら早く就寝しないといけない
- 若いころと同じように眠らなければいけない
といったように、「良い眠りとはこういうものだ」という認知が間違っていることがあります。
たしかに、睡眠は健康を維持するためにとても大切な要素です。ただ、適正な睡眠時間や睡眠のリズムにはかなりの個人差があり、いくら眠ろうとしても5時間が限度という人もいます。年齢とともに睡眠時間が短くなるのも、ある程度は自然の流れです。
さらには、実際に寝ている時間を測ってみると、本人が思っているよりもずっと長かったりすることもあります。こういった睡眠に対する間違った思い込みがあることが少なくありません。
こういった睡眠に関する偏った考え方が、
- 睡眠覚醒のリズムの乱れ
- 間違った睡眠対策
などを引き起こして、不眠をより慢性化してしまうことがあります。このため、正しい睡眠に関する知識を伝えること(睡眠衛生教育)は、不眠症の治療において重要です。
不眠症の考え方と不眠症になる原因
不眠症の原因について、従来は原因の有無によって分けていました。
- 原発性不眠:原因が不明
- 続発性不眠:何らかの病気が原因
しかしながら、
- 慢性不眠の治療法はかわらない
- 原因となる精神疾患が良くなっても不眠が残ることも多い
といったことから、
- 急性不眠
- 慢性不眠
として分けるようになっています。
はじめは些細な事がきっかけで不眠が始まり、それが不眠恐怖の悪循環で慢性化してしまうこともあります。不眠症の原因としては、大きく以下の5つがあります。
- 精神疾患
- 身体疾患
- お薬の副作用
- 生理的な原因
- 心理的な原因
精神疾患
精神疾患にかかると、睡眠に影響を及ぼすことが非常に多いです。精神的ストレスを抱えた人が不眠症によってますます心身が疲労し、精神疾患が発症することもあります。
精神疾患は様々ありますが、
- うつ病:中途覚醒や早朝覚醒が多い
- 双極性障害(躁うつ病):中途覚醒や早朝覚醒が多い
- 統合失調症:症状によって過敏になり入眠障害が多い
- 不安障害:不眠恐怖による入眠障害が多い
誰かに相談しても、「眠れないなんて誰にだってあるよ」「くよくよしているから眠れないんだ」などと言われてしまい、孤独な思いを抱える方もいらっしゃいます。
こういった精神疾患による不眠症は、生活習慣改善などの努力だけでは効果が現れにくく、眠れないことによって余計に不安感や抑うつ感が増していく悪循環に陥りがちです。
さらには通常の睡眠薬などでは効果が乏しいことも多いです。その原因となる精神疾患によって、抗うつ剤や抗精神病薬などの適切な薬を使っていく必要があります。
身体疾患
- 痛み
- しびれ
- かゆみ
- 圧迫感
- 息苦しさ
などの身体的ストレスは、不眠の原因になることがあります。
慢性的な痛みやかゆみなどの不快な身体感覚は、安らかな眠りを妨げる要因になります。その感覚が何からおこっているかによって対応は異なりますが、はっきりとしたこれらの要因がある場合には、睡眠薬よりも適切なからだの治療が必要になります。
具体的には、
- COPDなどの呼吸器疾患
- アトピー性皮膚炎などによる痒み
- 高血圧や糖尿病などの生活習慣病
- 前立腺肥大症などによる頻尿
- 甲状腺等のホルモン異常
- 脳の腫瘍
などの病気があります。
お薬の副作用
- 抗うつ剤
- ステロイド剤
- パーキンソン病治療薬
- 降圧剤
- 甲状腺治療薬
- 喘息の治療薬
- アルコール
- カフェイン
など、内科や他の科で使用されている薬の中にも、不眠が副作用としてあげられているものがあります。
長期間飲んでいるものが、ある日突然不眠の原因となることは通常おこりませんので、不眠となった時期にちょうど飲み始めた新しい薬があれば、それが原因の可能性も考えられます。
先ほど例示したお薬のすべてに不眠の副作用があるわけではなく、また、すべての人に副作用が認められるわけではありません。副作用は非常に個人差が大きいです。もし薬を飲み始めたあとに明らかに不眠の症状が出たと感じる場合には、医師に伝えてください。
生理的な原因
生理的な原因としては、
- 体内時計のリズムの乱れ
- 加齢による変化
などがあります。
体内時計のリズムの乱れとしては、
- 昼夜逆転生活
- 昼寝のしすぎ
- 一日中室内にいて外気を浴びていない
- 眠る直前や寝床のなかでもスマホやゲームをしている
- PC作業を深夜までしている
こういったことがあげられます。
人間の睡眠リズムは、自律神経の切り替えによって調整されています。そこには光や温度、活動のオン・オフ、食事時間などの影響が深く関わるため、それらにメリハリが無い生活や不規則な生活を続けていると、不眠症の原因となることがあります。
とくに現代では、スマホやポータブルゲームなどが生活の一部になっています。それらの光や音の刺激は脳を興奮させ、眠りを妨げる原因になります。
また加齢によっても、睡眠状態は悪化していきます。体内時計のリズムにはメラトニンというホルモンの働きが関係していることが知られていますが、10代をピークに加齢に伴って低下してしまいます。
日中に光を浴びるとメラトニンの分泌が高まることが知られており、高齢の方は日光浴なども不眠改善につながることがあります。
心理的な原因
眠りとの関わりが深いと考えられているのが、精神的なストレスです。
大きな悩みごとやイライラする要素があるとなかなか寝付けなくなる…精神的なショックを受けると眠れなくなる…なんて経験は多くの人が持っていると思いますが、これが継続すると不眠症につながります。
また、自分で自覚できているストレスではなく、無意識にかかっている精神的な負担が不眠を引き起こしていたり、嬉しい出来事が不眠の原因となったりすることもあります。
「精神的ストレス」というとネガティブなものだけを想像しがちですが、変化があることはよいこともストレスになります。仕事の昇進などでも、周囲からの期待やこれからの不安などから不眠になってしまうこともあります。
ストレスは大切な活力でもあり、適度な範囲ならばもちろん問題はありません。ですが長く続いて不眠症になり、体や集中力・判断力などに不具合がおこり、普段の仕事や生活に支障が出てしまうなら、何らかの対処が必要になります。
その他の睡眠障害に関係する病気
様々な病気が不眠の原因となります。よく認められるものとして、以下のような病気があります。
- レストレスレッグ症候群
- 周期性四肢運動障害
- 睡眠時無呼吸症候群
- レム睡眠行動障害
- ナルコレプシー
- 特発性過眠症
- 睡眠相後退症候群
レストレスレッグ症候群とは、夜に眠ろうとすると足がむずむずしてしまい、足を動かさないと落ち着かない病気です。原因はよくわかっていませんが、ドパミン機能や鉄分の異常が考えられています。
このレストレスレッグ症候群と合併することも多いのが、周期性四肢運動障害です。寝ている間に足をぴくぴく動かしたり、ひざ蹴りをしたり、ひじをのばしたりします。ある程度は健康な方にも認められますが、一定レベルを超えると睡眠の質が低下してしまいます。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸がうまくとれなくなってしまい、いびきをかいたり、息が止まってしまう病気です。睡眠が浅くなるだけでなく、心臓にも負担がかかってしまいます。詳しくは、睡眠時無呼吸症候群のページをお読みください。
レム睡眠行動障害は、夢をみているレム睡眠時に異常行動をしてしまう病気です。夢に合わせて大声で寝言をいってしまったり、立ち上がって行動してしまったりします。
これまでの睡眠に関係する病気は、睡眠の質に関係する病気です。それに対してナルコレプシーや特発性過眠症は、中枢性過眠症と呼ばれています。睡眠に関係する中枢神経の機能的な異常が原因と考えられていて、睡眠発作と呼ばれる突然の睡眠が認められます。
また、サーカディアンリズムと呼ばれる体内時計の異常が原因のこともあります。私たちは25時間くらいの体内時計を常に1時間早めてリセットしていますが、それがうまくいかないと睡眠相が後ろにずれていってしまいます。睡眠相後退症候群といいます。
不眠症(睡眠障害)の治療方針
不眠症の治療についてみていきましょう。
まずは不眠の原因について考えていく必要があります。不眠症の背景に心身の病気が隠れていることも少なくありません。睡眠障害しかない場合でも、気分や思考、不安などを問診で確認していきます。
場合によっては、これまでの生育歴や現在の生活の状況、アルコールやタバコ、カフェインなどについても確認をしたりします。
そして睡眠障害について、具体的に確認していきます。
- いつ頃から不眠で悩んでいるのか
- いつベッドに入るのか
- 実際に何時ごろに寝ているのか
- 何時くらいにおきてしまうか
- 本当は何時に起床したいのか
- 昼寝はしているか
- 土日と平日の起床時間にずれはないか
こうした問診から、不眠の状態を把握します。睡眠に関して間違って認知していたり、不適切な対策を行っていることが少なくありません。このような場合、まずは睡眠衛生教育を行います。
睡眠衛生教育とは、睡眠に良い生活習慣に関する正しい知識を身につけていただくことに他なりません。生活の中で不眠の原因となっていると考えられる習慣などがあれば、睡眠環境や生活リズムを可能な限り整えるようなアドバイスを行い、睡眠環境の改善をすすめていきます。
※睡眠衛生教育について詳しく知りたい方は、『不眠症を生活習慣から解消する方法』をお読みください。
そのうえで、原因に応じて適切なお薬を選んでいきます。心理療法的なアプローチを組み合わせてお薬を使っていくこともあります。
不眠症に悩む患者さんは、眠れない焦りや苦痛によって冷静な判断力を失い、実際の状態よりも悲観的に自分の状態をとらえてしまいがちです。医師とのやり取りの中で自分の客観的な状態が見えるようになり、いざとなったら頼れる薬があると知ると安心感が増し、結局薬は必要なくなったというケースもあります。
病院での治療は単純に薬の処方だけが目的ではなく、そのような心理面や睡眠環境、生活状態の整備なども含め、不眠症を根本から改善していくものとなります。
不眠症の薬物療法
不眠症の治療は、そのタイプによって対応が異なります。多くの場合は一時的に睡眠薬を使うことが多いですが、症状によっては他の薬の使用が向いていたり、薬を使わない治療もあわせて行っていくこともあります。
睡眠薬については昔の悪いイメージが残っている方も多いようですが、現在病院で取り扱っている睡眠薬は非常に進化しており、安全性の高い色々なタイプの睡眠薬が発売されています。専門の医師の指導の下で適正に使用する限り、むやみに依存してやめれなくなったり、体に大きな害を及ぼしたりする類のものではありません。
ただ、睡眠薬はその特性が様々なので、症状や体質に合わせて上手に使い分けていくことが重要な薬です。例えば高齢者ではふらつきを避ける必要があるため、筋弛緩作用が少ないお薬や、作用時間の短いお薬を使っていくことになります。
そして精神疾患などが背景にある場合は睡眠薬の効果が乏しいこともあるため、不眠症の治療は心療内科や精神科が専門になります。お薬自体も使い慣れているため、患者さんに合ったお薬を選択できます。
軽い睡眠薬は内科などでも処方することができますが、安易な自己判断による睡眠薬の継続的な使用はかえって状態を悪化させてしまう恐れもあります。少なくとも一つのお薬で効果が認められない場合は、心療内科か精神科でご相談いただいたほうが良いです。
睡眠に支障が出る状態が長く続くと心身が消耗し、仕事や生活にも、全身の健康状態や精神状態にも影響が及び、とても辛いものです。自分で可能な限りの生活改善をしてみても効果が現れず、根本的な治療を望む場合には、専門の治療科での相談を検討してみましょう。
※睡眠薬について詳しく知りたい方は、『睡眠薬(睡眠導入剤)のページ』をお読みください。
不眠症の心理療法
不眠症の治療には何らかの薬を使っていくことが多いですが、薬以外の心理療法やリラクゼーション法などを併用していくこともあります。
心理療法を行うことで薬の必要性が無くなったり、薬の量が減らせたり、不眠症の再発を予防したりする効果が期待されます。
睡眠の心理療法を行うにあたっては、睡眠日誌をつけていくことが多いです。
自分の睡眠状態を記録することで、客観的視点で事実を冷静に見極め、不眠に対してふくらんでしまった過度な不安やマイナスイメージを改善していく方法です。
不眠症の状態が続くと心身が疲労し、普段は明るい人でも悲観的な思考回路になりがちです。そうなると、本当は5時間眠れているのに「今日もまた全然眠れなかった」とか、実際には問題なく仕事が行えたはずなのに「不眠のせいでいつも仕事に集中できていない」などの思考にとらわれ、自分の内部でどんどん状態を重症化させてしまう悪循環に陥りやすくなります。
また、人間の記憶というのは非常に曖昧で、「以前は8時間ぐっすり眠れていたはずなのに」とか、「今月は一度もちゃんと眠れた日が無かった」とか、事実をねじ曲げてインプットしがちです。そのようなときに睡眠日誌をつけ、実際の就寝時間や起床時間、睡眠の状態、体調、その日一日に行えた行動などを客観的に記録してみると、自分の過度な思い込みに気づくことができます。
客観的事実は、他人から指摘されてしまうと「自分の苦しみが理解されていない」と感じることもあり、かえってマイナスの作用になりやすいものです。記録という形で自分自身を客観的に、長いスパンで見られるようになると、焦りや不安が緩和され、実際にやるべき対処がわかりやすくなります。
認知行動療法
不眠症に対する代表的な心理療法としては、「認知行動療法」があります。認知行動療法は、ストレスを増やしやすい物事に対する考え方やとらえ方(認知)のクセに注目し、適正な範囲に修正する事で症状の改善をはかる方法です。
睡眠に関しても認知がゆがんでいることが多く、少しずつ睡眠に対するとらえ方を現実的なものにしていきます。
場合によっては、睡眠制限を組み合わせることもあります。睡眠時間をしぼれば、その中で眠れる時間の割合は増えていきます。眠れる認知を作っていき、少しずつ睡眠時間を延ばしていきます。
具体的には睡眠時間の平均をまずは測定します。5時間未満の場合は、5時間とします。自然に眠れる日が増えてきたら、15分ずつ就寝時間を前倒ししていきます。
漸進的筋弛緩法(リラクゼーション)
漸進的筋弛緩法は、緊張している筋肉を意識的に緩める訓練を行い、体の方から精神の状態にアプローチしていく方法です。リラクゼーションとも呼ばれています。
眠れないときは多くの場合、心身ともに緊張してこわばっています。その作用は一方通行ではなく、心がリラックスすれば体も緩み、反対に体を緩めれば心が安定しやすくなります。
まずは緊張状態を理解することから始めます。そしてリラックス状態を覚えるのですが、一度力を入れてから脱力することではじめてリラックスができます。
このようにして少しずつ、緊張状態とリラックス状態を体に覚えさせていきます。
自律訓練法
自己暗示によって気持ちをリラックスさせられるようにしていく方法です。
まずは呼吸に注意を向けていきます。吐く時間を長くとった腹式呼吸を意識し、気持ちを落ちつけます。
そしてリラックスしているときの状態を自分で作り出していきます。
- 手足が重たい
- 手足が温かい
- 心臓が静かに脈打っている
- 呼吸が楽にできる
- お腹が温かい
- ひたいが涼しい
これらを心で唱えながら、順番に体感していきます。
全ては難しいので、上の2つの「手足が重たい」「手足が温かい」からはじめていきましょう。少しずつリラックス状態を自分で作れるようになっていき、眠りにつきやすくなっていきます。
当院の『睡眠外来』のご紹介
田町三田こころみクリニックでは、不眠症をはじめとした睡眠外来の診療を行っています。不眠や過眠でお困りの方は、ぜひ当院にご相談ください。
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カテゴリー:不眠症(睡眠障害) 投稿日:2023年3月23日
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