レム睡眠行動障害の症状・診断・治療
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レム睡眠行動障害とは?
夜中、睡眠中に突然はっきりとしゃべりだす。腕や足を振り回す。ときには立って動き出す。
そのような状態がみられるときは、単なるねぼけではなく「レム睡眠行動障害」という病気かもしれません。
レム睡眠行動障害は、
- 見ている夢に合わせて行動してしまう
レム睡眠とは、脳は活動していて体が眠っている浅い眠りです。脳が活動するので様々な夢をみますが、体の筋肉は脱力しているため、通常は夢の内容に体が連動して大きく動くことはありません。健康な状態では軽く手足がピクピクしたり、むにゃむにゃと口を動かしたりする程度です。
ところが、レム睡眠行動障害の人はレム睡眠時にも体の筋肉がゆるまず、脳の見ている夢に合わせて口や体がしっかりと動いてしまうのです。
患者さんの多くが男性で、40代後半~50代以降を中心に発症します。まれに若い人や小児にもおこります。その原因ははっきりわかっていませんが、6割程度はストレスなどによるもの、4割程度が神経変性の病気などとの関連で発症すると考えられています。
近年では、パーキンソン病やレビー小体型認知症の前触れとして現れるケースも報告されています。
レム睡眠行動障害の症状
この病気の症状は、
- 睡眠中、見ている夢に合わせて体がうごいてしまう
ことです。
ですので、具体的な症状は見ている夢によって様々なパターンがあり、日によっても違います。
症状は、
- 行動中に起こすとすぐに起きる
- 覚醒後意識はしっかりとしている
- 見ていた夢の内容をはっきり覚えている
という特徴があります。意識が混乱していたり、もうろうとしていることはありません。
軽い症状では、
- 睡眠中に手足をバタバタさせる
- 何かを食べたり書いたりするように手を動かす
- 誰かと会話しているようなはっきりとした寝言をいう
- 睡眠中、急に笑い出す
などがあります。この程度ならそう大きな被害はありませんが、
- 周囲のものを突然投げる
- 急に外へ飛び出そうとして壁にぶつかる
- こぶしや足を振り回す
- となりに眠っている人に暴力的な行為をする
など、見ている夢の内容が激しいものになると、その行動が患者さん自身や一緒に寝ている人に被害をおよぼしてしまいます。
夢の内容は自分でコントロールができません。例えば、ラクビーをしている夢を見ていて、タックルをしようとして壁にぶつかったり、けんかする夢を見ていて、こぶしを突き出したら横で寝ていた奥さんにあたってしまったりと、激しい内容の夢になるほど危害がおよびやすくなります。
これらの症状は、かならず毎晩おこるとは限りません。毎晩現れる場合から、月に数回だけなど様々なケースがあります。
また、1日の睡眠のうちではレム睡眠が増える睡眠の後半に多くみられますが、レム睡眠の周期に合わせて2~3回くり返すこともあります。
レム睡眠行動障害のチェック
一緒に寝ている人がいれば指摘されて気づくことができますが、1人で寝ていると外から自分の行動を知ることは難しいですよね。そのときは以下のような状態に思い当たるかをチェックしてみましょう。
- 自分の大声で目が覚めることがよくある
- 睡眠中ベッドから落ちたり、壁を蹴ったりして目が覚めることがある
- 朝おきたらケガをしていた
- いつの間にか周囲のものが壊れていた
などの状態があれば、レム睡眠行動障害の可能性が考えられます。
レム睡眠行動障害の診断・検査
一般の外来では、
- ご家族からの症状の聞き取り
によって診断をつけることが多いです。
レム睡眠行動障害を診断するポイントは以下のようなものがあります。
- 睡眠中に発声や大きな動きをともなう異常行動がみられる
- 睡眠の後半に異常行動が多い
- 症状時に起こすとすぐに覚醒し、意識がはっきりしている
- 見ていた夢の内容を覚えている
これらの特徴があれば、レム睡眠行動障害の可能性が高くなります。
判断が難しいとき、他の病気の疑いがあるとき、確定診断の必要なときなどは、大きな病院で詳細な検査を行うこともあります。
レム睡眠行動障害の確定診断で行う検査は、
- 終夜睡眠ポリソムノグラフィ検査
です。
睡眠ポリソムノグラフィ検査はセンサーや電極を全身に取りつけたまま眠り、脳波・眼の動き・筋肉の動き・血中の酸素濃度などを測定する検査です。一般の外来で気軽に行えるものではないため、大きな病院で1泊入院して検査します。
レム睡眠行動障害では、レム睡眠中に筋肉の緊張がみられるのが特徴で、それが確認されれば診断が確定します。
また、パーキンソン病やレビー小体型認知症などの前段階であることもあるため、疑った場合にはMIBG心筋シンチグラフィー検査を行うこともあります。レム睡眠行動障害では嗅覚障害が認められることが多く、これも診断の参考になります。
レム睡眠行動障害の原因・種類
レム睡眠行動障害の直接的な原因は、
- レム睡眠中に筋肉の緊張がとかれないこと
です。
この障害は、レム睡眠や筋肉の緊張と関係が深い「脳幹」という脳の部位の何らかの変異や、感情をコントロールしている大脳辺縁系の障害と考えられています。
健康な人ではレム睡眠中は体が眠り、だらんとゆるんでいます。脳から運動神経を麻痺させる指令が出され、夢に合わせて動かないシステムになっているのです。ところが、レム睡眠行動障害の患者さんはレム睡眠中も筋肉の緊張がゆるまず、見ている夢に合わせて体がしっかりと動いてしまうのです。
また、夢のメカニズムについてはわかっていない部分も多いですが、感情を司る大脳もかかわっていると考えられています。レム睡眠行動障害の患者さんはこの大脳にも何らかの変異があると推定されており、激しい感情をともなう夢が増えるのではないかという説があります。
なぜそのようなことが起こってしまうのかの原因については、大きく2つに分けて考えられています。レム睡眠行動障害は、原因により、
- 特発性
- 症候性
の2つに区別されています。
「特発性」は、原因となる病気や薬物が見当たらないケースです。はっきりした原因というのはわかっていないのですが、主に心身のストレスや過度のアルコールが引き金になって発症するのではないかと考えられています。
「症候性」は、何らかの病気や薬物が影響していると推定されるケースです。原因となる病気としては、
- パーキンソン病
- レビー小体型認知症
- 脊髄小脳変性症
- シャイ・ドレーガー症候群
などがあります。
このなかでもパーキンソン病とレビー小体型認知症との関連が多く報告されています。その他の神経変性の病気、脳血管障害、炎症性の病気、ナルコレプシーなどに合併することもあります
ストレス・アルコール
レム睡眠行動障害では、夢の内容が口論をする、追いかけられる、けんかをするなど激しく不快な場合も多く、心身のストレスが強いと悪化しやすい傾向もあることから、心身に過度なストレスがかかることで脳の機能を変異させるのではと推定されています。
ストレスは精神的なものだけではなく、疲労や過度のアルコール、不規則な生活習慣など、身体に負担がかかったときも発症しやすくなると言われています。
お酒を多く飲む人ほどレム睡眠行動障害が発症しやすくなるという報告もあります。とくに寝酒は睡眠の質を下げ、浅い眠りのレム睡眠を増加させてしまいます。
パーキンソン病
パーキンソン病は40~50代以降を中心に発症する原因不明の神経変性の難病で、主にドパミン神経系に変異がおこります。止まっているときに手足が震えたり、立ち止まった後に筋肉が硬直して動けなくなったりという運動障害がおこります。
この病気の初期症状として、嗅覚の障害、自律神経の障害、気分障害などがみられますが、それと並んでレム睡眠行動障害が注目されてきています。
ある調査によると、50歳以上の患者さんの約38%が、平均12.7年でパーキンソン病を発症したと報告されています。
レビー小体型認知症
パーキンソン病と並び、レム睡眠行動障害との関連が深いと考えられています。
神経細胞に生じる特殊な「レビー小体」というタンパク質が原因の認知症で、レビー小体が、大脳皮質(ものを考えるときの中枢)や脳幹(呼吸・血液循環など、生命を維持するための中枢)に多数出現し、神経細胞が減少してしまうことで認知症の症状が現れます。
レム睡眠行動障害の治療
レム睡眠行動障害の治療は、
- お薬での治療
- 睡眠環境を整える
- 心身のストレスや生活習慣の見直し
の3つで行います。
お薬での治療では、
- クロナゼパム(リボトリール・ランドセン)
という抗てんかん・抗不安薬が多く使われます。このお薬は脳の働きを抑え、筋肉の緊張をゆるめたり、不安や緊張をやわらげたりする作用があります。
高齢者や睡眠時無呼吸症候群などがある方は、
- ラメルテオン(ロゼレム)
が使われることがあります。このお薬は体内時計のリズムを司っているメラトニンの働きを整えるお薬で、睡眠の安定が期待できます。
また、レム睡眠行動障害の症状は、
- ストレス
- 疲労
- 生活リズムの乱れ
- アルコール
- 過度のカフェイン
などによって悪化しやすい傾向があります。
日常生活の中で、心身に負担をかけ過ぎていないかを見直し、ストレスをためこまないことや、リズムの整った健康的な生活習慣を心がけていくことも大切です。
【参考】レム睡眠とは?
レム睡眠は、体が眠り、脳は活動している浅い眠りです。
脳が起きているため、外からみたときは眼の急速な運動が確認されるのですが、この眼の運動を英語でRapid(急速な)Eye(眼)Movement(動き)と呼ぶため、その頭文字をとってREM(レム)睡眠と名付けられました。
私たちの睡眠は、
- レム睡眠
- ノンレム睡眠(脳が休み体は寝返りをうつ深い睡眠)
の2つを周期的にくり返し、脳と身体を効率的に休ませています。この2つはどちらも必要で、ノンレム睡眠→レム睡眠の流れが一つの単位を形成し、80~120分(平均90分)ごとに、一晩で3~5回くり返されています。
レム睡眠では脳が活発に働き、交感神経がやや緊張して呼吸は浅く速くなっています。一方、ノンレム睡眠では副交感神経が十分に働き、ゆったりとした深い寝息で眠っています。
夢を見るのは主にレム睡眠のときです。レム睡眠や夢を見ることのメカニズムはわかっていない部分も多いですが、この期間に脳が記憶をランダムに引き出して情報処理を行い、それらが合成されて夢がつくられると考えられています。
健康な状態では、レム睡眠の間は下あごや手足の緊張がとかれ、動かしたくても動かすことができません。けれど、レム睡眠行動障害の人は、レム睡眠時にも筋肉の緊張が持続してしまうため、夢に合わせて体が大きく動いてしまったり、睡眠中とは思えないほどはっきりとした寝言が続いたりしてしまうのです。
レム睡眠行動障害と似た症状の病気
レム睡眠行動障害と似た症状の病気には、以下のようなものがあります。
- 夢遊病(睡眠時遊行症)
- 夜驚症(睡眠時驚愕症)
この2つとレム睡眠行動障害は、「睡眠時随伴症(ずいはんしょう)」というカテゴリーの睡眠障害にまとめられています。
夢遊病(睡眠時遊行症)
睡眠中に突然動き出す病気といえば、「夢遊病」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、レム睡眠行動障害と夢遊病はまったく別の病気です。
夢遊病は「睡眠時遊行症」とも呼ばれ、3歳から8歳ごろの子どもに多くみられます。症状はレム睡眠時ではなく深いノンレム睡眠時におこり、行動時に起こそうとしても難しく、起きたあとは自分の行動を思い出せないのが特徴です。
夜驚症(睡眠時驚愕症)
夢遊病と同じくノンレム睡眠時におこり、睡眠中、突然恐怖感をともなう悲鳴や叫び声をあげ、ときに逃げ出そうとベッドから走り出すことがあります。
夢遊病同様、行動中に覚醒させることは難しく、しばらくすると自然と落ち着き再度眠りにつきます。こちらも3歳から8歳ごろの子どもに多くみられます。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:不眠症(睡眠障害) 投稿日:2023年3月23日
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