不眠症を生活習慣から解消する方法(睡眠衛生教育)
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はじめに
「今日もまた寝れるのかな・・・」
不安をかかえながらベッドに入る方はたくさんいらっしゃるかと思います。
不眠で悩まれている方も、時には睡眠により生活習慣を心がけるだけで解消されることもあります。また睡眠薬を使っていく場合でも、そういった生活への意識があるかどうかは非常に重要です。最終的に薬から離れることができたり、もしくは薬を少なくコントロールできたりします。
ここでは、睡眠に大事な3つのポイントをもとに、不眠を解消する具体的な方法をご紹介していきます。
良質な睡眠に大切な3つのポイント
厚生労働省では、「健康づくりのための睡眠指針2014」というものを公開しています。その内容を踏まえて、睡眠に良い生活習慣をまとめていきたいと思います。
まずは、
- アルコール
- タバコ
- カフェイン
について見直してみましょう。
いずれも生活の一部になってしまっていることが多く、いきなりやめろと言われても難しいと思います。どれも不眠につながりますので、少なくとも寝る前は避けてください。とくに寝酒は不眠症を悪化させてしまうため、絶対に控えてください。
そして睡眠時間にとらわれないことも大切です。睡眠の目的は、「日中に過度な眠気がなく活動できること」にあります。年を取るとともに睡眠は浅くなるもので、とくに男性は朝型になりやすいです。とくに日中に眠気がなければ、「こういうものだ」という割り切りも大切になります。
そして睡眠の生活習慣としては、以下の3つに気をつけていくことが大切です。
- リズム
- 体温
- 自信
それぞれ具体的にお伝えしていきます。
【補足】生理的な条件と3つのポイント
一般的に、円滑な入眠や熟眠の条件としては、
- 十分な睡眠欲求
- 深部体温が下がること
- 手足などの末梢からの熱放散
- 交感神経から副交感神経への切り替え
- 脳の興奮を鎮める
ということが重要といわれています。
十分な睡眠欲求は「リズム」でつくられます。深部体温がさがることや末梢からの熱の放散は「体温」です。交感神経から副交感神経の切り替え、脳の興奮を鎮めることは、「リズム」と「自信」が関係するところになります。
「リズム」から不眠を解消する
私たちは体内時計のリズムに従って、睡眠と覚醒を繰り返しています。このリズムのメリハリをつけることは、より良い睡眠のためには重要です。
リズムのメリハリをつける生活習慣としては、以下のようなことがあげられます。
- 起床時間ある程度一定にする
- 昼寝を短時間にする
- 夜に光の刺激を避ける
- 朝食をしっかりととる
- 夜食は控える
体内時計は、起床時間からスタートします。土日と平日で起床時間に差がある方は、できれば1~2時間にとどめておくようにしましょう。30分程度の短時間の昼寝は、むしろとったほうがメリハリがつくこともあります。
そして体内時計には、光が大きく影響を与えます。体内時計にはメラトニンというホルモンが関係していますが、日中の光はメラトニンを分泌させ、夜間の光は抑えることが分かっています。
朝はしっかりと光を浴び、夜はスマホやテレビのブルーライトなどをできるだけ避けたほうが望ましいです。
そして朝食はからだを覚醒させるために重要で、しっかりと毎日とったほうが良いです。反対に夜食は入眠を妨げますし、睡眠薬を使う場合は効果を弱めてしまいます。
それではリズムに関して取り組める方法を3つに整理して、もう少し掘り下げてご説明します。
光を意識して生活をする
光は、体内時計の調整に大きな影響があります。朝の光は体内時計を早めて、夕方の光は体内時計を遅くします。このため、朝の光を浴びると睡眠相が前進して、夕方の光は睡眠相が後退します。
ですから、朝が起きられない若者は、朝の光が有効です。極端に早起きしてしまう高齢の方は、夕方に散歩がお勧めです。
朝が起きられない方が光をとる方法を、具体的に考えてみましょう。
プライバシーとの兼ね合いがありますが、寝室のカーテンをレースのみにすることで、自然光を取り入れられる場合もあります。寝室にテレビがある方は、オンタイマーで起床することもおすすめです。TVの音声でゆっくり目覚めると同時に、光の刺激が瞼裏に入ります。
これらが難しい方でも、毎日午前中に光を浴びた生活を意識していくと、少しずつリズムがとりやすくなっていきます。
次に、早起きしてしまう高齢の方では夕方の日光浴がおすすめです。日中に十分に光を浴びることでメラトニンが上昇して、睡眠の質が上がります。また、睡眠相が後退するので起きる時間が遅くなっていきます。
起床時刻を決める
睡眠不足が続いてしまうと、つい休日に寝だめをしがちです。体内時計のリズムの観点からは、休日も起床時間が平日と1時間以上(ガイドラインでは2時間)ずれないように心がけましょう。
リズムが乱れているときは、寝る時間を意識するよりも起きる時間を意識することが効果的です。体内時計のリズムに合わない時間に無理に寝ようとしても難しいです。
まずは現在起きている時間よりも、1時間ずつ早く起きる時間を目標設定します。少しずつ前倒ししていくことで、自然と眠る時間も早くなります。
ある程度整ったら、ペースメーカーを見つけましょう。朝の時間に、楽しくて翌日も気になるようなものを見つけましょう。朝の時間に余裕のある方には、私はNHKの朝ドラをお勧めしています。
昼寝は30分まで
睡眠不足を感じてしまう場合は、短時間の昼寝で補うことが大切です。昼食後~午後3時の短時間の仮眠は、眠気に対して非常に効果的といわれています。海外ではシエスタという昼寝の習慣がありますが、これはとても理にかなっています。
質のよい睡眠を確保するにあたって、一日の活動のメリハリが重要です。特に高齢者ではメリハリが低下しがちで、夜間の睡眠が悪化してしまいます。そのような時は、短い昼寝を取り午後の活動性を高めます。そして夕方以降の居眠りを減らすことが重要です。
昼寝を短時間にするコツは、ベッドに入らずに机などで眠ることです。寝返りが打てないと自然と目が覚めます。アラームで起きれる方は、それでも大丈夫です。
カフェインの入った飲み物をとることもひとつの手です。カフェインは15~30分ほどで効果が出始めます。このため昼寝には効果的です。ただ、不安が強い方では動悸が出てしまうこともあるので控えてくださいね。
昼寝ができなかったとしても、眼を閉じているだけでも脳の視覚からの情報処理が減ります。視覚からの情報が8~9割といわれていますから、これだけでも十分に脳の疲労は減ります。
「体温」から不眠を解消する
冬眠を考えていただくと分かりやすいです。獲物がとれない冬はエネルギー消費を抑えるために、体温を下げて眠ることで活動を抑えているのです。
このように睡眠中は活動することもないので、体温は低くなっています。このため、体温が高い状態から低下するときに、睡眠はとりやすくなります。
このために具体的には、
- ぬるま湯のお風呂にゆっくりつかる
- ストレッチなどで体をあたためる
- 日中の運動習慣をつくる
- 寝室の環境をととのえる
このようなことがあげられます。
およそ40~42度くらいのぬるま湯につかることで、交感神経を刺激しすぎることなく末梢血管をひらきます。お風呂から出た後に熱が奪われていき、体温が下がっていきます。同じようにストレッチなどで優しく体をあたためることも、睡眠にはプラスに働きます。
日中の運動習慣をつくることは、体温の観点からもリズムの観点からも有効です。
寝室の環境も大切で、熱がからだから逃げていくようにする必要があります。吸汗性のよい寝具をつかったり、空気の流れを作ってあげることで熱が逃げやすくすることも有効です。
それでは体温に関して取り組める方法を3つに整理して、もう少し掘り下げてご説明します。
ぬるめのお風呂にゆっくりつかる
入浴に関しては42℃を超えるような熱い風呂への入浴は、体温を過剰に上昇させ、長時間交感神経を興奮させます。ですから、38~40℃程度のぬるめの入浴が望ましいといわれています。
ただ38~40℃というと、体感ではかなりぬるく感じます。適宜調整していただいて大丈夫ですが、熱すぎないというのがポイントです。
また、就寝直前は入浴を避けたほうがよく、夕食時~就寝1時間前ほどにした方がよいです。ゆっくりとつかることで深部体温をしっかりとあげます。
ただし長時間の入浴時は、十分に水分を取るように気を付けてください。長めの入浴では水分が失われやすくなります。また身体の血管が広がることで血液が身体に集まり、脳にいく血液が減ります。長風呂が意識消失につながることもあるので、高齢の方は気を付けてください。
運動をする
運動によって、身体の深部体温が高まります。夕方に運動をすることで深部体温があがりますので、寝つきが改善していきます。仕事の帰り道に、できるだけ階段を使うなど、身体を使うように意識してみてください。
また、運動によって体内時計のリズムがしっかりとしたものになります。朝が起きられない方は午前中に運動することでリズムがととのっていきます。また、高齢の方などで生活のメリハリが低下して早朝に目が覚めてしまう場合は、夕方に軽い運動や散歩をすることで睡眠が改善されます。
そして、運動をすると、リラックスする脳内物質であるセロトニンの神経活動が高まることが明らかにされています。また、ストレスによって分泌されるホルモン(視床下部-脳下垂体-副腎系)の働きを抑えるのではと考えられています。
運動の具体的な実施方法としては、週に3回以上の運動で、健康維持のために必要となる中等度くらいの強度で継続していくことがすすめられています。
吸汗性のよい寝具にする
体温に関しては、高いところから下がっていくことが睡眠によい条件でした。また、質のよい睡眠を維持するには、就寝中に熱が身体から逃げ、体温が低い状態が維持される必要があります。
室温自体が低ければ就寝中に体温も上がりにくく、眠りが浅くなることも少ないです。ですが夏場は室温が高いので、必然的に眠りが浅くなってしまいます。ですから、熱がうまく逃げていくようにすることが必要です。
人間が体温を下げる一番の手段は汗です。汗が蒸発し体温を下げます。このため、熱がスムーズに逃げていけるように、寝具を吸汗性のよいものにした方がよいです。
またクーラーをつける場合は、扇風機を回して気流をつくると良いといわれています。電気代が少しもったいないですが、夏場に暑さで寝苦しい方は試してみてください。
「自信」から不眠を解消する
睡眠には、自信も大切です。
慢性不眠が発展していく原因として睡眠恐怖と睡眠妨害連想の話をさせていただきましたが、不安障害に近い部分もあります。ベッドに入れば寝れるという自信は、とても大切になります。
具体的な生活習慣としては、
- 眠気を感じてからベッドに入る
- 眠れないときはベッドから離れる
- ベッドでゴロゴロしない
このようなことが大切です。
しっかりと眠れているという感覚を作るためには、眠れている時間の割合を高めることが大切です。ですから無理に時間を決めて寝ようとするのは逆効果で、「眠たくなったらベッドに入ろう」くらいの意識の方がよいです。
現実的には仕事や学校などがありますから、デッドラインを決めて、それまでは自然な眠気が来たら就寝していただくようにお願いしています。
そしてなかなか寝付けないときは、あきらめて一度ベッドから出てしまったほうが良いです。オレンジ色の光でしたら刺激になりにくいので、白熱灯の下で本を読んだり、ストレッチなどして気持ちを切り替えてから寝付くことがおすすめです。
なかにはベッドの上で日中を過ごしている方もいますが、ベッドは寝るとき以外にはいないようにしましょう。リズムのメリハリの意味もありますが、ベッドは眠る場所という意識付けの意味でも大切です。
それでは自信に関しての3つの方法を、もう少し掘り下げてご説明します。
ベッドでゴロゴロしない
ベッドは眠るところです。
「ベッドに入ればすぐに眠れる!」
この意識づけを強くしましょう。
ベッドの上で本を読んだり、テレビを見たりすることがあるかと思います。これらは控えた方がよいです。ベッドでは眠る行為以外を行わないようにします。すると、自然と眠る場所という意識づけができるようになります。
眠くなってからベッドに入る
ベッドに入ったらすぐに眠れるという感覚を作っていくことが重要です。このためには、自然な眠気を待ちましょう。
いつでも眠れる体制を整えておきます。そして、眠気が出てきたらベッドに入るようにしましょう。ただし、デッドラインを決めておいた方がよいです。起床の5時間~6時間前にはベッドに入るようにします。
小学生の頃の遠足の前日を思い返してみてください。翌日に備えて、いつもより早くベッドに入ったことはありませんか?そういう時には、かえって眠れない経験をしたことがありませんか?
普段の入眠時刻の2~4時間前は、リズムの関係でもっとも眠りにくいといわれています。ですから、リズムに従った自然な眠気を待った方がよいのです。
寝付けない時はベッドから出る
寝付けない時は、あまりベッドで粘らない方がよいです。このままいくと1時間以上寝付けないと感じたら、一度ベッドから出て気持ちを整える方がよいです。
白熱灯でしたら睡眠への影響が少ないので、本を読んだり、軽くストレッチをしたりしてリラックスしてください。少し落ち着いてから再びベッドに入るようにします。
その日寝られなかったら、まわりめぐって次の日に寝やすくなると考えてみた方が気持ちが楽になります。
まとめ
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カテゴリー:不眠症(睡眠障害) 投稿日:2023年3月23日
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