過呼吸(過換気症候群)でみられる症状とその原因
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息苦しさが止まらない!「過換気症候群」の症状とは?
誰しも不安が強くなってくると、「何だか息苦しい」と感じることがあるかと思います。
それがエスカレートし、息苦しさを自分でコントロールできなくなってしまうと「過呼吸」の状態になります。吸っても吸っても息苦しさが改善せず、呼吸がドンドンと速くなって身体にも様々な症状が現れるようになります。
そんな過呼吸が慢性的にくり返す状態を「過換気症候群」といいます。精神的なストレスをきっかけに発症し、パニック障害などに合併することも多い病気です。
過換気症候群ではどのような症状がおこるのでしょうか?
過換気症候群の症状
過換気症候群の主な症状には
- 過呼吸
- めまい・ふらつき・失神・頭痛
- 動悸・胸痛・不整脈
- 吐き気・腹痛
- 発汗・口の渇き
- しびれ・けいれん・硬直
などがあります。
これらの症状は、主に2つの症状が増幅しあって発展していきます。
- 過呼吸による過換気症状
- 不安による交感神経症状
過呼吸は身体の病気が原因のこともあるので決して油断してはいけないのですが、多くの場合は精神的なストレスや不安が元になっています。
ストレス・不安で息苦しさがおこると、「もっと息を吸わなければ」と焦り、
- 不安が高まることで交感神経症状が認められる
- そうすると呼吸が速くなり、息苦しさが増して過呼吸になっていく
- 過呼吸による過換気症状によってますます不安になり、交感神経症状が強まる
このようにして、さまざまな症状が認められるようになるのです。
過呼吸による過換気症状
呼吸の主な目的は、肺に新鮮な空気を取り入れ、血液中の二酸化炭素と酸素を交換することです。
「過換気症候群」では、通常の呼吸でも十分に酸素はいきわたっているにも関わらず、過呼吸になってしまいます。
酸素量が必要以上に多いことは、特に問題にはなりません。換気を繰り返すことによって、身体から二酸化炭素がどんどん抜けてしまうことが問題となります。
二酸化炭素が体から抜けていくと、以下のような変化が身体におこります。
- 身体が過換気に順応しようとし、脳や心臓の血管が収縮する
- ミネラルのバランス(Ca)が崩れる
それにともない、
- めまい・失神・頭痛
- 胸の痛み・動悸
- 吐き気・腹痛
- しびれ・けいれん・硬直
などの過換気症状が生じるようになります。
不安による交感神経症状
過換気症状がおこると、不安が高まることでの交感神経症状も認められるようになります。
交感神経は全身の様々な機能を調整している自律神経の1つです。
交感神経は身体を「戦うモード」に切り替える神経で、
- 心拍数が増える
- 呼吸が速くなる
- 筋肉は緊張してこわばる
などの変化を身体におこします。それが上の過換気症状と合わさり、様々な症状を増幅させていくのです。
過換気症候群の代表的な症状をさらに詳しくみていきましょう。
過換気症候群の症状①-過呼吸と息苦しさ
過換気症候群のもっとも特徴的な症状は、その名のとおり過呼吸です。
過呼吸は、
- 突然の恐怖や緊張によって急激に発展していく
- 日常的に不安や疲労感があって、それが強まることで過呼吸に発展してしまう
のパターンがありますが、いずれの場合にも、
- 「何だか息苦しい」という感覚から始まっていきます。
息苦しさがあると、「もっと空気を吸わなければ」という気持ちが働き、息が浅くなって呼吸数が増えていきます。
しかしながら、
- この息苦しさは、身体の酸素が足りないわけではありません。
過呼吸のときに酸素濃度をはかるパルスキシメーターを指に挟むと、ほとんどのケースで100%近くとなっているのです。
つまり、
- この息苦しさは呼吸の問題ではなく、不安感からくる息苦しさなのです。
過剰な不安によって、延髄にある呼吸中枢のバランスが崩れ、息苦しさが止まらなくなっていると考えられます。
ですから、いくら呼吸をしたところで息苦しさは改善せず、「もっと息を吸わなければ」と過呼吸になってしまうのです。不安感が落ち着いてくれば、自然と過呼吸も落ち着いていきます。
過呼吸のときに大切なのは、
- 吸うよりも吐くことを意識して呼吸を整えること
- 気持ちを落ち着けること
です。
過換気症候群による過呼吸発作は、長くても30分ほどで落ち着くことがほとんどです。このことを正しく理解するだけでも、過呼吸が改善される方もいらっしゃいます。
※くわしい対処法については、『過呼吸(過換気症候群)の正しい対処法とは?袋は使うべき?』をお読みください。
過換気症候群の症状②-「めまい」「頭痛」「吐き気」
- 過換気で二酸化炭素が減少したことによる血管収縮
- 不安による交感神経の高ぶり
の2つが重なると、
- めまい・ふらつき・失神・頭痛
- 動悸・胸痛・不整脈
- 吐き気・腹痛
- 発汗・口の渇き
などがおこります。
めまい・ふらつき・失神・頭痛
普通に呼吸ができている状況では、酸素は十分に体にいきわたっています。酸素飽和度は100%近くになっています。
過呼吸になると換気が活発に行われ、酸素はもともと飽和しているので変わりないのですが、不要な二酸化炭素がどんどん身体から抜けていきます。ですから血中では、二酸化炭素が少なくなります。
二酸化炭素が少なくなると、酸が抜けて血液がアルカリ性に傾きます(呼吸性アルカローシス)。
この状態では、「二酸化炭素が少ない=酸素が十分にある」と身体が判断し、血流を抑えようと全身の血管(肺を除く)が収縮してしまいます。
脳の血管が収縮すれば、脳の血流が低下してめまいやふらつきが認められます。意識が遠のいて失神してしまったり、頭痛がみられることもあります。
動悸・胸痛・不整脈
上記の呼吸性アルカローシスによって心臓を栄養する血管(冠動脈)が収縮してしまうと、動悸や胸痛がしたり、脈が速くなって不整脈になることもあります。
また、過呼吸によって不安が強まり交感神経が刺激されることで、動悸や頻脈は強まります
吐き気・腹痛
胃腸を栄養する血管が収縮すると、胃腸の動きが乱れ、吐き気や腹痛が認められます。
そこに交感神経の高まりが加わり、消化活動が抑えられてさらに胃腸の働きが悪くなってしまいます。
発汗・口の渇き
交感神経が高まると、汗をたくさんかいて、口は渇いてしまいます。
過換気症候群の症状③-「しびれ」や「硬直」
過換気症候群では、
- 手足や口唇の急なしびれ
- 筋肉がけいれんして硬直する
などの症状もみられることがあります。
最初はしびれを感じることから始めり、それが不安になり過呼吸がひどくなり、筋肉のけいれんや硬直にまで発展していきます。
このような症状に襲われるとビックリして不安になってしまうかもしれませんが、
- すべては過呼吸で血中の(遊離)カルシウムイオン濃度が低下してしまうことが原因です。
呼吸が落ち着けばカルシウムイオンも正常に戻り、後遺症を残すことなく症状は改善していきます。
過呼吸でカルシウムイオン濃度が低下する理由
通常の血液では、pHは7.35~7.45の間で調節されています。過呼吸になると二酸化炭素が抜けていくので、pHが上がってアルカリ性になっていきます。pH7.45以上になると、身体は元に戻すようにバランスをとろうとします。
血液がアルカリ性の状態とは、水素イオン(H+)が少ないということを意味しています。ですから、水素イオンを増やすために、血液中のタンパク質の大部分を占めているアルブミンから水素イオンを切り離します。
水素イオンを失ったアルブミンは、その代りとしてカルシウムイオン(Ca2+)と結合し、血液中のカルシウムイオンが減ってしまいます。
減ったといっても血液トータルでみればカルシウムの量は変わらないので、採血をしても低カルシウム血症になっているわけではありません。
カルシウムイオンは、神経の興奮を抑えるために重要な働きをしています。神経は、カルシウムイオン(Ca+)とナトリウムイオン(Na+)のバランスで収縮しています。ライバルのカルシウムイオンがいなくなれば、ナトリウムイオンが暴走して神経が興奮しやすくなってしまうのです。
その結果、手足や口唇といった末梢神経がしびれたり、神経が支配している筋肉が異常に収縮してしまって硬直やけいれんが生じるのです。
過呼吸に後遺症はあるの?
- ストレスが原因の過呼吸に後遺症はありません。
- 呼吸が落ち着き不安がおさまれば、症状は消えていきます。
これまで症状をお伝えしてきた中でくり返してきましたが、過換気症候群が原因での過呼吸は、あくまで一時的な症状にすぎません。
過呼吸の症状の原因は、大きくたどると2つでしたね。
- 過呼吸による血管収縮と低カルシウムイオン
- 交感神経による過緊張
どちらも一時的な身体の変化なので、原因の過呼吸と交感神経が落ち着けば、症状はすべて消えていきます。何かしらの後遺症が残ったりするようなこともありません。
まとめ
ストレスによる過換気症候群・過呼吸は、様々なこころの病気にも合併し、それ自体がひとつの症状のようなものです。そのなかでもパニック障害でみられることが多く、パニック発作での強烈な不安から過呼吸になってしまうことが多いです。
なかには身体の病気からおこる過呼吸もあるので、初めて過呼吸をおこしたときや、持病のある方は、医師の診察を受けることが大切です。
身体に異常がなく、過換気症候群と診断がついた場合でも、精神的な病気に対する治療をしていかなければ、過呼吸は何度もくり返してしまいます。改善されないときは精神科や心療内科を受診し、治療を受けましょう。
※パニック障害・精神疾患と過呼吸については、『過呼吸・過換気症候群の原因とは?パニック障害との関係』をお読みください。
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カテゴリー:パニック障害 投稿日:2023年3月23日
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