【医師が解説】パーソナリティ障害の症状・診断・治療
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パーソナリティ障害とは?
人にはみな、パーソナリティ(性格)があります。内気な人。目立ちたがりな人。生真面目な人。大ざっぱな人。
誰しも何らかの性格傾向を持っていて、良い面と悪い面があります。
どんな性格傾向であったとしても、
- 周囲に被害をおよぼさない
- 自分自身も苦に感じない
- 自分なりに生きていける道がある
なら問題はありません。
けれど、考え方や感情のバランスが極度に偏り、そのことから
- 仕事・学校・対人関係などに問題がおこっている
- 自分自身が苦しんでいる
- 周囲の人が被害を受けている
の状態になったときは、「パーソナリティ障害」という1つの病気として考えます。その特徴から9つのタイプに分類されています。
この障害は、ある日突然発症するものではなく、生まれ持った性格傾向+経験の積み重ねによって少しずつ作り上げられていくものです。
9つの分類を見てみると、「障害とまでは言えないけれど、自分もこれに近いかもしれない…」と思う部分があるかもしれません。
けれど、誤解しないでいただきたいのは、パーソナリティの特徴自体が「障害」なわけではなく、「極端な偏り」が問題になってくるのです。
パーソナリティ障害とまでは言えなくても、性格傾向の弱点が「生きづらさ」やうつ病などの精神疾患の原因になってしまうことは少なくありません。
※当院では残念ながら、パーソナリティ障害について専門的な治療を行うことはできておりません。熟練した臨床心理士によるカウンセリングが必要になります。
当院の受診については、詳しくはこちらをご覧ください。
パーソナリティ障害のタイプ
パーソナリティ障害には、多くの種類があります。
はっきり「このタイプ」と区別できる典型的なケースばかりではなく、複数のパーソナリティ障害や、他の病気が混合していることもありますが、大きく分けると
- A群:「変わり者」のタイプ
- B群:感情や行動が激しく不安定なタイプ
- C群:不安や恐怖心の強い内気なタイプ
の3つに分けられます。
A群:「変わり者」のタイプ
周囲からは理解しづらい独特な考え方や生活様式を持ち、社会適応の難しいタイプです。
- 妄想性パーソナリティ障害
非常に疑い深く、被害妄想を打ち消すことができません。
- 統合失調質(スキゾイド)パーソナリティ障害
他者への関心が薄く、孤独を好みます。感情表現も乏しく冷たい印象を与えがちです。
- 統合失調型パーソナリティ障害
常識や現実から外れた奇妙な言動が見られます。統合失調症に近い状態におちいることがあります。
B群:感情や行動が激しく不安定なタイプ
衝動性や感情の振れ幅が大きく派手な行動が目立ち、周囲を巻き込んでしまうタイプです。
- 反社会性パーソナリティ障害
反社会的な行為に罪悪感がわかず、道徳心や他者への共感に欠けます。本人に問題意識はありません。
- 境界性パーソナリティ障害
若い女性に多く見られ、感情や対人関係が極度に不安定です。
近しい人の言動に激しく左右され、自傷・過食などの衝動行為に走りやすい特徴があります。
- 自己愛性パーソナリティ障害
自己評価が過大で、周囲が同じように評価してくれないと強い不満を抱きます。他者への共感にも欠けます。
- 演技性パーソナリティ障害
派手な外見や、芝居がかった言動で他人の注目を集めようします。酷くなると詐欺まがいの行為に発展することがあります。
C群:不安の強い内気なタイプ
不安や恐れが強く、内にこもってしまうタイプです。本人に精神的な負担がかかりやすく、対人・生活の範囲が制限されてしまいます。
- 回避性パーソナリティ障害
他者からの評価や拒絶、恥をかくことを強く恐れ、対人や社会活動の機会を避けてしまいます。重度になると引きこもりになります。
- 依存性パーソナリティ障害
人に強く依存し、過度に周囲へ合わせようとします。孤独に弱いため自己主張ができず、自ら責任を取るのも怖がり決断力に欠けます。
- 強迫性パーソナリティ障害
几帳面さや道徳観念が極端で、自分のこだわりが強く完璧さを求め、かえって仕事や生活に混乱をきたします。
パーソナリティ障害に共通の症状
パーソナリティ障害の症状はタイプによってそれぞれですが、共通してみられる3つの症状があります。
- 認知(物事のとらえ方)が偏っている
- 感情・衝動のコントロールが苦手
- 安定した人間関係や社会生活が築けない
認知(物事のとらえ方)が偏っている
同じ出来事に対しても、そのとらえ方は人によって大きく違うものです。
パーソナリティ障害の患者さんは、このとらえ方がかなり偏っていて、過度に被害妄想的であったり、過度に自己中心的であったりします。
その結果、一般的な範囲とは違った行動パターンになってしまうのです。
感情・衝動のコントロールが苦手
多くの場合、自分の感情調整や衝動をコントロールすることが苦手です。
不安定さの強いタイプ(境界性・自己愛性など)では、機嫌がジェットコースターのように変わったり、向こう見ずな行動に出たりします。
反対に感情が内にこもってしまい、何を考えているのかがよくわからないタイプ(回避性・依存性など)もあり、いずれにしても対人・社会生活で支障をきたします。
安定した人間関係や社会生活が築けない
認知の偏りや感情コントロールの問題があれば、安定した人間関係を築くことができません。
人間関係が上手くいかなければ社会生活が困難になり、孤立してしまったり、誰かに利用されてしまったりと、何らかの問題が生じます。
パーソナリティ障害に共通の特徴
認知の偏りや感情の不安定・衝動性などは他の精神疾患でもおこりますが、パーソナリティ障害には2つの大きな特徴があります。
- 症状は若い頃から続いている
- 生活全般に支障を及ぼす
パーソナリティ障害の特徴は、何かの病気や重大な出来事などに関係なく、症状の傾向が早ければ幼少期、遅くとも20代前半頃から継続し、生活の全般に影響をおよぼすことです。
例えば「社交不安障害」では症状が社会的なシーンに限定されていますが、「回避性パーソナリティ障害」では、家庭や普段の生活全般で苦しい状態が続いてしまいます。
パーソナリティ障害の診断
パーソナリティ障害の診断は、多くの場合時間がかかります。
患者さんの多くは、自分のパーソナリティに問題があるとは自覚していません。
ほとんどの場合、合併症の抑うつ状態・不安・不眠などを訴えたり、問題行動が目立って家族に連れられたりして受診します。
わかりやすい典型例であれば、早期でパーソナリティ障害を診断できることもありますが、たいていは患者さんとの治療関係を築いていく中で、少しずつ本質の問題が見えてくるものです。
A群のパーソナリティ障害(妄想性・スキゾイド・統合失調型)では、統合失調症の可能性も考え、慎重に診断を進めていかなければいけません。
B群のパーソナリティ障害(反社会性・境界性・演技性)では、周囲を巻き込んでの派手な行動が目立つことが多いので、具体的なエピソードを聞くことができれば診断を早めにつけていくこともできます。
ただし、反社会性パーソナリティ障害は上手く自分の問題を隠し、病院や医師すら利用しようとすることがあり、診断が非常に難しいことがあります。
C群のパーソナリティ障害(回避性・依存性・強迫性)は、本人の苦しみが強いタイプです。
合併症の治療の中で患者さんとの関係性が深まれば、見えてくることが多いです。
パーソナリティ障害の合併症
パーソナリティ障害を抱えていると、普段の生活全般が苦しくなります。
人間関係や学校や仕事で上手くいかないことが多く、ストレスがかかり続けます。そのため、
- 不安障害
- 抑うつ状態
- うつ病
- 統合失調症
- アルコール依存症
- 摂食障害
など、様々な精神疾患を合併してしまうことがあります。
パーソナリティ障害による苦しみがベースになっている場合、お薬での治療だけでは改善されません。
お薬で治療をしながら、パーソナリティの問題にも目を向け、認知の偏りの改善や、自分と上手く付き合える方法を身につけていくことが大切です。
パーソナリティ障害の患者さんが受診するタイミング
自分が「パーソナリティ障害」と自覚し、それを治療しようと受診する方は少ないです。
多くの場合は、その生きづらさから抑うつや不安などの合併症が発生し、その症状を何とかしてほしくて受診します。
反社会性や演技性のように「他者を利用しよう」という意識が高いタイプでは、病院の受診を自分の目的のために使うこともあります。
一方で、「自分は(身近な誰かが)パーソナリティ障害かもしれない」と悩みながら、なかなか病院へ相談できない方も多いようです。
最近はネットの情報などもありますから、それを見て気になる方も増えてきています。
パーソナリティの問題は、自分ではなかなか判断がつきません。「生きづらさ」には発達障害や脳の問題がかかわっていることもあります。
不安をお持ちの方や苦しい症状に悩まされている方は、パーソナリティ障害に対応できる病院に相談してみましょう。
パーソナリティ障害の治療の進め方
パーソナリティ障害の治療は、精神療法の積み重ねが柱となりますが、状態に合わせて少しずつ進めます。
治療のときは以下のような流れになります。
- 治療関係をしっかりと築く
- タイミングを見てパーソナリティの問題を直面化させる
- 精神療法を少しずつ積み重ねる
- お薬でサポートする
治療関係をしっかりと築く
まずは医師と患者さんの間に信頼関係があることが大切です。合併症の治療を行いながら、治療関係をしっかりと築いていきます。
パーソナリティの部分に向き合っていく場合には、治療の枠組みを作っていくことが必要になります。
とくに周囲を巻き込むタイプのB型パーソナリティ障害では、「治療契約」が必要になります。
医師や心理士が患者さんにとって思うようにならないときに、望む形に操作されてしまったら治療になりません。
できることとできないことを理解していただき、治療上で必要なルールを守らなければ継続ができないことを理解していただく必要があります。
枠組みを作ったうえで、治療に入っていきます。
タイミングを見てパーソナリティの問題を直面化させる
パーソナリティ障害の問題は、患者さん自身もなかなか目を向けることができません。
突然「あなたには○○のような偏りがありますよ」と言われても、すぐに認めることは難しいです。
合併症がひどいときは冷静に受け止めることができず、かえって心が閉じてしまうこともあります。
ですから、合併症の治療を進める中でタイミングを見計らい、少しずつパーソナリティの問題を直面化していきます。
精神療法を少しずつ積み重ねる
パーソナリティの問題を直面化させながら、それを改善していくための精神療法を少しずつ積み重ねていきます。
パーソナリティ障害は、生まれ持った性質+長年の経験が積み重なって築かれたものです。
それを改善するためには、時間と根気がかかります。数年から数十年の単位で、日常生活を通した治療をしていきます。
金銭的に余裕がある方は、カウンセリングの併用も行いながら治療を進めていきます。
精神病理が深い方は、熟練した臨床心理士によるカウンセリング必要になります。
お薬でサポートする
パーソナリティ障害の根本治療は精神療法ですが、お薬もそれを助けるために有効です。
感情や衝動性をおだやかにしたり、不安や緊張を和らげたりすることができます。
パーソナリティ障害の治療をサポートするお薬
パーソナリティ障害でのお薬の役割は、主に2つです。
- 抑うつ・不安・不眠など合併症の改善
- 衝動性・攻撃性の抑制や情動の安定
パーソナリティ障害の治療でお薬を使うにあたっては、症状の一つ一つにとらわれ過ぎないことが大切です。
その症状を治療するというより、患者さんを全体的にみた上で適切なお薬を選んでいきます。
お薬で心身の状態が安定することで、精神療法を効果的に進めていくことができます。
精神療法は、自分と向き合っていくエネルギーのいる治療になります。
そのためには、ある程度の余裕が必要で、状態があまりに悪いときは建設的にすすみません。
抗うつ剤
SSRI・ SNRI・NaSSAなどの抗うつ剤は、パーソナリティ障害の患者さんにもよく使われます。抑うつを改善させるだけでなく、緊張や不安をやわらげたり、気持ちを落ち着かせたりする働きがあります。
※詳しくは、『抗うつ剤のページ』をお読みください。
気分安定薬
主にてんかんや双極性障害の治療で使われるお薬ですが、脳の興奮を抑えるので衝動性・情動の不安定さをやわらげ、安定した状態を持続させてくれます。
※詳しくは、『気分安定薬のページ』をお読みください。
抗精神病薬
気分安定と鎮静の作用が期待できるお薬です。衝動性・攻撃性が激しいときや、興奮や焦燥感を早期に抑えたいときにある時に使われます。
※詳しくは『抗精神病薬のページ』をお読みください。
抗不安薬
不安や恐怖をやわらげ、即効性があるお薬です。パーソナリティ障害の患者さんは依存しやすい傾向があるため慎重な投与が必要です。
※詳しくは、『抗不安薬(精神安定剤)のページ』をお読みください。
パーソナリティ障害の精神療法
パーソナリティ障害の治療では、臨床心理士によるカウンセリングを受けることが理想ですが、合併症が強いときはまずお薬も使い、ある程度安定した状態になってから精神療法を開始します。
金銭的・時間的に可能なら、臨床心理士によるカウンセリングを受け、時間をかけてじっくりと自分の問題に向き合っていくことが勧められます。
臨床心理士によるカウンセリングを受けることが難しい場合は、医師による外来での診察の範囲の中で治療をしていくことになります。
日常生活を通し、少しずつ積み上げていきます。
カウンセリングでは、臨床心理士の様々なアプローチで治療を行っていきます。
- 心の内面に目を向け、自分のパーソナリティを理解する
- 過去の葛藤を抱えているときはそれを少しずつ解消する
- 認知や思考の偏りを修正する
など、地道な積み重ねのくり返しです。
その中で、少しずつ自分の問題がわかるようになり、上手く付き合いながら生きていく方法が身についていきます。
その期間は長く、数年から十年以上かかる場合もあります。
パーソナリティ障害の治療で目指すこと
治療で目指していくのは、パーソナリティの特徴の過度な部分をやわらげ、個性を生かしながら社会適応できるようにしていくということです。
反社会性や暴力性の部分を除き、性格そのものを無理に変える必要はありませんし、劇的に変えられるわけでもありません。
どのような性格にも、それぞれいい部分があります。
その特徴が極端だったり、精神的に未熟だったりして、生活や対人関係に支障を及ぼしている状態がパーソナリティ障害なのです。
ですから、その「障害」の部分を適正な範囲に戻し、成熟したパーソナリティへと成長していくのが目標となります。
それは簡単なことではありませんが、地道に精神療法を積み重ねればかならず結果はみえてきます。
調子には波がありますから、あせらずに向き合うことが必要です。
ですが、あきらめずに、自分自身が「変わりたい」という意欲を持ち、根気よく取り組んでください。
パーソナリティ障害と家族や周囲の方の接し方
パーソナリティのタイプや状況によって、家族や周囲の方の接し方も違ってきます。
このため、まずはパーソナリティ障害に対応できる病院を受診し、治療につなぐことが大切です。
本人に受診の意志がないときは、まずは本人の話をよく聞き、何に苦しんでいるかを理解する姿勢を示しましょう。
意思がないのに無理に受診させると、治療につながらないばかりか、医療に対して不信感を持ってしまうことも少なくありません。
暴力・自傷・引きこもりなどの場合も、まずは冷静に話を聞いてあげる姿勢を見せてください。
その苦しみに寄り添い、病院がその助けになることを話し、受診をすすめてみるといいでしょう。
また、心やパーソナリティの問題を他人から指摘されると反発が強くなります。
そのようなときは、抑うつや不眠、食欲低下など、客観的にみてわかる症状を心配する形で治療をすすめてください。
それでも拒否する場合には、ご家族だけで精神科や心療内科を受診し、対応を相談することができる場合もあります。(家族相談は、自費になることが原則)
ご家族だけで対応するのは難しいことも多いと思いますので、抱え込んでしまわず、まずは専門家に相談してみてください。
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カテゴリー:パーソナリティ障害 投稿日:2023年3月23日
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