【医師が解説】月経前症候群(PMS)の症状・診断・治療

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月経前症候群(PMS)とは?

月経前症候群PMSについて、精神科医が症状、診断、治療について詳しく解説します。

生理が近づいてくると心身が不安定になる女性は多いのではないでしょうか。

やけにイライラしたり、気分が落ち込んだり、涙もろくなったり。胸が張ったり、肌荒れしたり、頭痛がしたり。甘いものが異常に欲しくなったり。

月経の周期に連動し、「こころ」にも「からだ」にも様々な変化がみられることがあります。

ある程度の変化はホルモンの影響による自然なことですが、通常は上手く付き合える程度です。

ところが、自律神経の乱れやストレスなどがあると症状が強くなり、毎月月経前は辛い症状に苦しめられてしまうことがあります。

それが『月経前症候群(PMS)』と呼ばれる状態です。

精神の不安定さがとくに強い重症例『月経前不快気分障害(PMDD)』と区別されています。

月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)とは?

生理の出血が始まる7~10日くらいの期間に様々な心身の不快症状がおこり、日常生活に支障をきたす状態を『月経前症候群(PMS)』といいます。

症状は人によって様々ですが、多くは「こころ」と「からだ」の両方に症状がみられます。

「こころ」では、イライラ、感情の起伏が激しくなる、涙もろくなる、意欲や集中力の低下などがおこります。

「からだ」では、お腹・胸の張りや痛み、片頭痛、腰痛、疲労感、食欲の高まりなどがみられます。

このような変化は月経周期のホルモン変動による自然なものでもありますが、通常は自分で上手く付き合える範囲です。

毎月生理前の期間に明らかな心身の不安定があり、その症状によって仕事や生活に支障をきたしたり、精神的に辛かったりするときは『月経前症候群(PMS)』と考えられます。

そのうちで、「こころ」の不安定さが際立って目立つときは『月経前不快気分障害(PMDD)』と区別されています。

その原因ははっきりとわかっていませんが、ストレスや生活習慣の影響などによる自律神経の乱れ、脳⇔卵巣間でおこるホルモンの相互作用などが関わっているのではないかと考えられています。

近年では、脳内神経伝達物質のセロトニンやGABAと、女性ホルモンの相互作用の関連が注目されています。

月経前症候群(PMS)の方は、基本的に排卵・月経の機能そのものは正常です。

治療のためには、ストレスコントロールや生活習慣の見直しなど、心身のバランスをトータルに整えることが根本の改善につながります。

月経前症候群(PMS)は婦人科で治療されることが多いですが、現在は婦人科でも「こころ」の要素や自律神経の乱れなどを重視して対応する考え方が中心になってきています。

とくに、不安、イライラ、抑うつなど「こころ」の症状が強い方や、婦人科の治療で効果を感じない場合には、心療内科への受診も勧められています。

月経前不快気分障害(PMDD)とは?

月経前症候群(PMS)の中でも「こころ」の症状が非常に強く、対人関係に影響したり、引きこもりがちになったりする状態は『月経前不快気分障害(PMDD)』として区別されています。

自分ではコントロールできないほどのイライラや怒りの衝動、激しい感情の起伏、抑うつ、不安、緊張などがみられ、本人が苦しいのはもちろんのこと、人との衝突や摩擦が増えたり、社会活動や対人関係に支障がおよぶことがあり、より深刻な状態と言えます。

うつ病、パニック障害、気分変調性障害、パーソナリティ障害などが合併している可能性もあるため、症状の重いときは心療内科・精神科での治療が勧められます。

月経前症候群(PMS)の症状

症状は人によって様々ですが、生理開始前の7~10日くらいの期間に、多くは「こころ」と「からだ」の両方に何らかの変化がみられます。

「こころ」の症状

  • 抑うつ状態(気分が落ち込む)
  • 感情の起伏が激しくなる
  • イライラ
  • 抑えがたい怒り・衝動感
  • 不安が高まる
  • 緊張が高まる
  • 涙もろくなる
  • 意欲や集中力が低下する
  • 人に会いたくなくなる
  • 不眠・過眠

など。

「からだ」の症状

  • 頭痛、片頭痛
  • 手足のむくみ
  • 乳房の張り・痛み
  • お腹の張り・膨満感
  • 下腹部の痛み
  • 腰痛
  • ほてり
  • 便秘、下痢
  • 疲労感・だるさ
  • 肌荒れ
  • 食欲が高まる
  • 甘いものが異常に欲しくなる

など。

これらの症状のうち、「こころ」の症状がとくに重く、精神の不安定さから人と衝突や摩擦が増えたり、引きこもりがちになって社会活動に支障をおよぼしたりするときは『月経前不快気分障害(PMDD)』の症状と考えられます

月経前症候群(PMS)の症状の特徴

月経前症候群(PMS)の症状には以下のような特徴があります。

  • 月経開始前7~10日前ごろから症状が現れる
  • 生理開始とともに症状は軽減し、生理終了後にはほぼ消失する

人によっては排卵時(生理開始前14日前後)にも症状がみられたり、生理終了時まで症状が持続することもありますが、いずれにしても生理終了後~排卵までの期間には症状がみられなくなるのが特徴です。

症状は、ある程度までは自然な生理現象でもあり、自分で上手く付き合いながら安定した日常が過ごせているなら問題はありません。

月経周期によって「こころ」や「からだ」がある程度変化するのは女性として正常なことです。

ですが症状によって、

  • 辛いのを我慢して無理をしている
  • 毎月生理前の期間が憂うつで仕方がない
  • 仕事や学校に行きたくなくなる
  • 仕事でミスが増える
  • 必要な家事や用事ができない
  • 家族や恋人にあたって関係が悪くなってしまう
  • 大切な予定をキャンセルしてしまう
  • 自分をコントロールできずに困っている
  • その場しのぎの痛み止めなどを常用している

などの状態があれば、『月経前症候群(PMS)』と考えられます。

月経周期と症状の関連性

女性の月経周期は平均で28日です。

その期間に新しい卵子が育ちながら子宮内膜(受精卵を守り育てるためのもの)が増殖し、排卵がおこり、受精がなければ卵子は委縮して子宮内膜ははがれて出血として外に流れ、再び新しい卵子の成熟がうながされます。

その周期に合わせ、脳から卵巣へと刺激ホルモンが分泌され、卵巣や子宮では様々な変化がおこります。

  • 月経終了直後~次回月経14日前

卵巣で卵子が成熟していく期間です。この時期は卵胞期と呼ばれ、卵胞ホルモンのエストロゲンが主に分泌されます。

子宮では受精に備え、受精卵を守るための子宮内膜が増殖して厚くなっていきます。心身ともに安定しやすい期間です。

  • 次回月経開始前14日前後(排卵)

成熟した卵子が外に出て排卵がおこり、受精に備えて準備をします。

ホルモンは卵胞ホルモンのエストロゲンから黄体ホルモンのプロゲステロンが主になり、子宮内膜はさらに厚くなります。

  • 次回月経開始前14日前後~月経直前(月経前症候群の症状期間)

排卵後は黄体期に入り、受精したときに備え、妊娠に適した状態に身体を整えていきます。

月経前症候群の症状がおこるのは、この黄体期の期間です。

  • 月経開始

受精がおこらなかったときは卵子が委縮し、プロゲステロン・エストロゲンともに急速に減少します。

それとともに月経前症候群(PMS)の症状も緩和されていきます。

妊娠に備えて準備された子宮内膜ははがれ、出血として外に流れ出ます。

出血終了後は再び新しい卵子が成熟していく卵胞期に入り、心身は安定しやすくなります。

月経前症候群(PMS)の検査

現在のところ、医学上の検査で客観的に診断するための指標はありません。

ホルモンの分泌状態などは血液検査で調べることはできますが、多くの場合ホルモンに異常は見つからず、月経機能自体は正常です。

診断のためには、生理2周期以上にわたり症状の変化を観察し、

  • 苦痛な症状が確実に月経周期と連動していること
  • 症状は月経終了とともにほぼ消失すること
  • 症状が与える社会的支障・精神的苦痛が大きいこと

の点を重視して診断をつけます。

月経前症候群(PMS)は、

  • 毎月、月経開始前7~10日前ごろから症状が現れる
  • 症状は生理開始とともに軽減し、生理終了後にはほぼ消失する

というのが特徴です。

以下のような状態があるときは、他の婦人科系の病気である可能性が高いと考えられます。

  • 月経前より月経中の方が症状が辛い
  • 月経の周期が一定していない
  • 月経時の出血がなかなか止まらない
  • 月経時に多量出血がある

これらのときは症状に応じ、婦人科でのホルモン値の測定、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮頸がんの検査などが勧められます。

また、何かの持病がある場合、多くの病気では月経前に症状が強くなります。

うつ病や不安障害などでも、生理前は普段以上に症状が重くなるという人は多いですし、身体の病気も同じです。

けれどその場合は、生理が終了後に症状が緩和されることはあっても、消失することはありません

月経周期と持病の症状変化の関連がかなり深いときは、他の病気と月経前症候群(PMS)が合併していると考えられます。

月経前症候群(PMS)の診断基準

月経前症候群(PMS)と月経前不快気分障害(PMDD)には、それぞれ標準的な診断基準があります。

PMSはアメリカ産科婦人科学会の診断基準、PMDDはアメリカ精神医学会の診断基準を参考にしています。

実際の診断では、これらを参考に、

  • 苦痛な症状が確実に月経周期と連動していること
  • 症状は月経終了とともにほぼ消失すること
  • 症状が与える社会的支障・精神的苦痛が大きいこと

などを見て診断をつけます。

月経前症候群(PMS)の診断基準(アメリカ産科婦人科学会)

以下の①~⑤に該当すること

  1. 過去3周期の月経で、月経開始前の5日間に以下の身体・精神の症状が1つ以上連続して現れた
    (精神症状)
    ・抑うつ
    ・抑えがたい怒り
    ・イライラ
    ・混乱
    ・不安
    ・ひきこもり
    (身体症状)
    ・乳房の痛み
    ・腹部の膨満感
    ・頭痛
    ・手足のむくみ
  2. 症状は月経開始から4日以内に消失し、月経周期13日目までは再燃しない
  3. 症状は薬物やアルコールの影響ではない
  4. 2周期の記録によって症状の出現が確認される
  5. 症状によって社会的な障害がおよんでいる

月経前不快気分障害(PMDD)診断基準(アメリカ精神医学会)

次の①~⑥に該当すること

  1. ほとんどの月経周期で月経開始1週間前に5つ以上の症状が出現する。症状は月経開始後数日以内に軽減し、月経終了後はほぼ消失する
  2. 症状は(カテゴリー1)から1つ以上、(カテゴリー2)から1つ以上が存在し、合計5つ以上が確認される
    (カテゴリー1)
    ・感情が激しく不安定(突然泣き出す、拒絶に対して過敏になるなど)
    ・激しいイライラや怒りの感情が続く
    ・明らかな落ち込み、絶望感、自責の念の高まり
    ・強すぎる不安、緊張、高ぶり、いらだち
    (カテゴリー2)
    ・仕事・学校・友人関係・趣味など日常活動への意欲低下
    ・集中力低下の自覚
    ・倦怠感、疲れやすさ、気力の欠如
    ・過食、甘いものが極端に欲しくなるなど食欲の変化
    ・過眠または不眠
    ・自分を制御することができないという感覚
    ・乳房の腫れや痛み、関節痛や筋肉痛、体重の増加やむくみなどの身体症状
  3. 症状には明らかな苦痛が認められ、対人、仕事、学校などに支障をおよぼしている
  4. うつ病、パニック障害、気分変調性障害、パーソナリティ障害の増悪によってだけおこっているわけではない(合併の可能性はあり)
  5. 2周期以上にわたる症状の記録で確認される
  6. 症状は薬物やアルコール、他の病気の生理学的な作用によるものではない

月経前症候群(PMS)の原因

月経には女性ホルモンが大きく影響し、周期的に変動しています。女性ホルモンは、大きく分けると2つの種類があります。

  • エストロゲン(卵胞ホルモン)
  • プロゲステロン(黄体ホルモン)

エストロゲンは卵子を成長させるためのホルモンです。

月経の出血終了直後~排卵(月経開始14日前後)までに分泌量が上昇し、排卵後は急速に減少します。それに対し、黄体ホルモンのプロゲステロンは排卵後に分泌量が上昇し、月経がはじまると急激に下がります。

月経前症候群(PMS)の症状は、黄体ホルモンのプロゲステロンの分泌が増える排卵後~月経開始前にかけておこるため、プロゲステロンの作用が心身に様々な影響をおよぼすと考えられてきました。

しかし近年では、プロゲステロンそのものの作用以上に、脳と女性ホルモンとの相互作用や、自律神経との関連性が注目されています。

とくに脳内神経伝達物質のセロトニン・GABAと女性ホルモンの相互作用は、月経前症候群(PMS)の「こころ」の症状とかかわっているのではないかと考えられています。

セロトニンはドーパミンやノルアドレナリンなどとともに精神状態へ大きく関与します。

脳内のセロトニンが減少すると、抑うつ、不安、緊張、イライラなどが高まりやすくなったり、痛みを感じやすくなったりします。

GABAは脳内の抑制系神経伝達物質です。脳の活動を抑えおだやかにする働きがあり、働きが悪くなると不安、緊張、イライラ、気分の高まりなどが出現します。

ストレス

女性ホルモンのバランスには、ストレスが大きくかかわります。

ストレスによって生理が止まってしまったり、痛みが増したりということもめずらしくはないように、ストレスと月経は深い関連性があります。

女性ホルモンの分泌は脳の視床下部から下垂体を通して卵巣へと指令が伝わり、その分泌が調整されています。

脳が月経をコントロールしているため、ストレスによってホルモンバランスが影響を受けやすいのです。

また、自律神経も同じ視床下部が中枢になっているため、ストレスはホルモンバランス・自律神経のバランスの両方を乱し、心身に様々な不調が現れるようになります。

睡眠リズムの乱れ

ホルモンの分泌や自律神経の安定には、適度な睡眠が欠かせません。生理前にはやけに眠くなるという人も多いと思います。

それは、身体が妊娠に備えて守りの体制に入るため、ある程度は自然の働きと言われています。

ところが、仕事などで忙しい状態にあると十分な睡眠が取れず、心身の不調やイライラ感が増したり、反対に過眠によってむくみや抑うつなどの症状につながったりすることがあります。

カフェイン

海外の研究によると、カフェインを多く摂る人は月経前症候群(PMS)になりやすいという報告があります。

カフェインは脳を興奮させ、不安やイライラを高める原因になるため、月経前症候群(PMS)の人はカフェインを控えることが推奨されています。

塩分・糖分の摂り過ぎ

塩分の摂り過ぎはむくみの症状を悪化させます。

また、白砂糖の摂り過ぎは急速に血糖値を上げ、それが下がったときの低血糖状態からイライラなどがおこりやすくなると言われています。

食事バランスの乱れ

カフェインや塩分・糖分だけではなく、ビタミンやミネラル、タンパク質や糖質など食事のバランスが全体に乱れていると、月経前症候群(PMS)の症状が不安定になります。

月経前症候群(PMS)の治療

月経前症候群(PMS)の治療では、心身のバランスを整えるお薬の使用やストレスコントロール、生活習慣の見直しなどをトータルに行います。

婦人科では低用量ピル(人工ホルモン剤)の処方を中心に治療を行いますが、月経前症候群(PMS)に対してのピルの有用性は確実ではなく、個人差が大きいようです。

そのため日本産婦人科学会では、その効果が見られないときや、抑うつ・不安・イライラなどの症状が強い方に対しては、抗うつ剤・抗不安薬・漢方薬の使用や、心理療法・リラクゼーション法などの併用を検討することとしています。

月経前症候群(PMS)の中でも「こころ」の症状が重い月経前不快気分障害(PMDD)に関しては、うつ病や不安障害などが合併していることもあり、抗うつ剤や抗不安薬以外の向精神薬が有効なこともあるため、婦人科よりも心療内科・精神科の受診が勧められます。

ただし、他の婦人科系疾患の可能性が除外されていないときには、先に婦人科で検査を受けることも必要です。

心療内科の月経前症候群(PMS)の治療では、「こころ」と「からだ」両面をトータルでみていくことを重視しています。

漢方薬や安定剤を使って心身の安定をはかりながら、ストレスコントロール、生活習慣の見直し、認知行動療法的なアプローチ、リラクゼーションなどを状態に合わせて組み合わせ、心身のバランスを全体に整えることで症状の改善を目指します。

月経前症候群(PMS)で使われるお薬

お薬での治療は状態に応じ、「こころ」のバランスを整えるお薬と、「からだ」の症状を緩和させるお薬を組み合わせます。

心身両面を整える漢方薬を使うこともあります。

 

こころの薬

  • 抗うつ剤
  • 抗不安薬(精神安定剤)
  • 睡眠薬(不眠があるとき)

などが使われます。

月経前症候群(PMS)で抑うつ、情緒不安定、イライラ、不安、緊張などの症状が強い方には、セロトニンを増やすSSRIという抗うつ剤や、GABAを増やす抗不安薬が辛い症状の緩和に有用と考えられています。

状態によっては他のお薬が適しているときもあります。

精神に作用するお薬に対しては、怖いイメージを持たれている方も少なくはないのですが、例えばSSRIのレクサプロは、海外ではPMDD(月経前不快気分障害)への適応が正式に認められています。

適切に使えば有用性の高いお薬です。副作用をしっかりと確認しながら少量から調整をし、症状が落ち着いてきたら徐々に減薬していきます。

※詳しくは、『抗うつ剤のページ』、「抗不安薬のページ」をご覧ください。

からだの薬

身体の症状に対しては、患者さんの苦痛に応じ、症状を緩和するお薬を処方することもあります。

  • 痛み止め

月経前症候群(PMS)でよくおこる頭痛・腹痛・腰痛などが辛いときは、痛み止めを使うことがあります。

市販薬で対処している方も多いのですが、市販薬はあくまで一時的・緊急時の使用を目的に販売されています。

医師の診察を受けないまま、慢性的に市販薬で対処するのはお勧めできません。定期的に使用するときは、医師にご確認ください。

  • 利尿剤・下剤など

むくみがひどいときや、便秘が続くときは利尿剤や下剤を使うこともあります。

  • 低用量ピル

婦人科の治療では、症状全般の改善を期待して低用量ピルを使う場合が多いです。

ピルは卵巣ホルモンのエストロゲン・プロゲステロンの合剤で、人工的に卵巣ホルモンを入れることで脳の刺激ホルモン⇔卵巣ホルモンの連動を減少させ、排卵を抑制します。

排卵がおこらないためホルモンの変動がおだやかになり、月経前症候群(PMS)の症状の緩和が期待されるのです。

本来ピルは避妊薬・月経調整薬としての使用が主でしたが、現在は様々なタイプが販売され、月経困難症や月経前症候群(PMS)の治療用に使われるものがあります。

月経困難症(月経中の強い不快症状)の治療では有用性が高く評価されていますが、月経前症候群(PMS)に対しての効果は個人差が大きいようです。

PMSで使われる漢方薬

漢方薬は西洋薬と違って「ピンポイントの症状に作用する」わけではなく、「体質を全体に整え辛い症状を改善していく」働きのお薬です。

自然由来の生薬が組み合わされています。月経前症候群(PMS)のように原因が定かではなく、心身全体のバランスの乱れや体質がかかわると考えられる状態には、漢方薬が良い効果を発揮することもあります。

漢方薬は市販もされていますが、体質に合わせたものを選ぶ必要があり、合わないものを使うと逆効果になることがあります。

できれば病院で診察のうえ、処方を受けましょう。

月経前症候群(PMS)の治療で使われる漢方薬には以下のようなお薬があります。

  • 桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

このお薬は体のとどこおった気・血液の流れを改善し、全体的に辛い症状を緩和します。漢方では「気血水」の流れのバランスが重要とされ、気・血・水それぞれが体をスムーズにめぐっていることが良い状態です。

気血水のバランスの乱れには様々な状態がありますが、月経前症候群(PMS)では「瘀血(おけつ)」の状態が強いと考えられます。

「瘀血」は、血液の循環が悪くなることです。

とくに月経のある女性が瘀血になるとさまざまな症状が出やすいため、血液の流れを整えておくことが大切です。

また、気・血・水はお互いに影響し合うため、瘀血の状態があると「気逆」の状態もおこりやすくなります。

気逆になると血圧が上昇し、のぼせやイライラ、怒りっぽくなるなど、月経前症候群(PMS)の症状につながることがあります。

桃核承気湯は血流を良くして「瘀血」の状態を改善し、血流をよくすることで「気逆」の状態も改善します。

「からだ」の不快症状だけでなく、「こころ」の症状もおだやかにする効果を持ちます。

  • 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

体を温め、気と血の流れを良くすることが主な効能のお薬です。鎮静作用のある生薬も配合されているため、精神の安定も期待されます。

月経前症候群(PMS)の他、更年期障害、月経困難、月経過多、子宮内膜炎、卵巣炎などの女性ホルモンがかかわる病気や、血流が悪くのぼせや冷えのある人などに有効です。

ホットフラッシュがあるときによく使われる漢方です。

  • 香附子(こうぶし)

気を整え、月経周期のバランスも整えます。また、ストレスによるイライラを緩和させたり、ストレスからくる胃腸の不調を改善する作用もあります。

体力が無く冷え性で、神経質なタイプの人に向いています。

  • 帰脾湯(きひとう)

体力のない人の消化機能を高め、不安や緊張を落ち着かせる精神安定作用が中心のお薬です。

血や気のとどこおりを改善する働きもあります。

  • 加味帰脾湯(かみきひとう)

帰脾湯に柴胡と山梔子という生薬を加えたもので、帰脾湯よりも鎮静作用が強くなります。イライラや不安が強い方に向いています。

  • 加味逍遥散(かみしょうようさん)

むくみ、倦怠感、消化不良、身体の痛みなど、様々な症状に対して改善が期待できるお薬です。

血のめぐりを良くする働きもあるため、月経前症候群(PMS)の治療でも使われます。

  • 抑肝散(よくかんさん)

抑肝散は、イライラして興奮するような状態を落ち着かせてくれる漢方薬になります。

漢方薬の中でも科学的な裏付けがされていて、認知症をはじめとして使われることが多い漢方薬です。

月経前症候群でも、気持ちの高ぶりが大きいときに使われることがあります。

月経前症候群(PMS)とストレスや生活習慣

ホルモンバランスや自律神経のバランスを整えるためには、ストレスとうまく付き合う必要があります。

そして、日々の生活習慣の見直しも欠かせません。睡眠、運動、食事、カフェイン、飲酒、喫煙など、ホルモンや自律神経を乱す習慣があれば見直していきましょう。

ストレス

ストレスはホルモンや自律神経の働きを乱します。

ストレスから不安や緊張が高まると月経前症候群(PMS)の症状も出やすくなり、症状によってストレスへの感度も上がってしまうため、悪循環になってしまいます。

月経前症候群(PMS)の改善のためには、ストレスを整理して言語化し、「ストレスと上手くつきあう方法」を身に着けていくことも大切です。

睡眠

起床や就寝の時間が一定しなかったり、不眠、過眠の状態があると自律神経のバランスは乱れ、月経前症候群(PMS)の症状も強くなります。

寝不足では普通のときでもイライラやストレスへの感度が増しますし、過眠は意欲や集中力の低下、頭痛、むくみなどの症状を高めます。

自力での改善が難しいときは適切なお薬なども使いながら、リズムを整えていくことが大切です。

適度な運動

心地良い範囲で身体を動かす習慣は、月経前症候群(PMS)の改善にも有効です。

とくに呼吸をしながら行える有酸素運動は自律神経の安定にもつながるため、ウォーキングや軽いジョギングが推奨されています。

また、リラクセーション効果の高いストレッチやヨガも辛い症状改善や、心身のバランスを整えるために役立ちます。

食事バランス

食事のバランスは、ホルモン・自律神経の安定にも欠かせない要素です。

とくに女性の方はダイエットをしている方が多いのですが、エネルギーや栄養が不足するとイライラや精神不安定、身体の不調がおこりやすくなります。

3食を基本に、ビタミンやミネラルを含んだ野菜や海藻、ホルモンの原料にもなるたんぱく源の魚や肉、大豆製品などをバランス良く食べることが勧められています。

とくにカルシウムやマグネシウム、ビタミンB₆やビタミンEの不足は、月経前症候群(PMS)との関連が深いという報告があります。

また、砂糖は摂り過ぎるとかえってイライラを増したり、健康を害したりすることが知られていますが、過度な糖質制限でお米やパンなどの主食類までが不足してしまうと、イライラや精神不安定が高まり、異常に甘いものが欲しくなったりする症状が加速しやすくなります。

食事に関しては、バランスよく食べることを心掛けれていれば、過度に意識してサプリメントを摂取する必要もありません

カフェイン・飲酒・喫煙を控える

カフェインは脳を興奮させ、不安や緊張を高めます。

カフェイン摂取の多い人は月経前症候群(PMS)の割合が高いという報告もあるため、できるだけカフェインを控えましょう。

また、飲酒も量が増えてくると依存になり、シラフのときのイライラや不安が高まりやすくなります。

喫煙も同じように、依存になるとイライラを加速させる原因になり、全身や脳の血流を妨げ、様々な不調の元になります。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:月経前症候群(PMS)  投稿日:2023年3月23日

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