【医師が解説】機能性ディスペプシアの症状・診断・治療
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機能性ディスペプシアとは?
特別な病気がないのに胃がもたれる。すぐに胃が張ってあまり食べられない。みぞおちが痛む。そのような状態を『機能性ディスペプシア』といいます。ディスペプシアは消化不良の意味で、胃痛や胃もたれなど胃の不快症状を指す医学用語です。
つまり、「特別な病気がなく、胃の機能低下によって胃の不快症状に悩まされる状態」です。英語名のfunctional dyspepsiaの頭文字をとって『FD』と表現されることもあります。
胃の不調を訴え胃カメラや検査を受けても原因となる特別な病気は見当たらず、それでも続く胃の不調に悩まされる人は多くいます。
胃がんなど重大な病気が見つからないのは喜ばしいのですが、病気が見つからなければ治療方法もわからず、胃に慢性の不調を抱え毎日の食事に支障がおよぶなど、辛い状態です。日本では約10人~4人に1人が抱えると言われるありふれたもので、その場しのぎの胃薬などで対応している方も多いのではないでしょうか。
機能性ディスペプシアには、ストレスや生活習慣が大きく関わります。人それぞれの状態に合わせた適切なお薬を選ぶとともに、ストレスコントロールや生活の見直しなど、「こころ」と「からだ」両面からのトータルな治療が根本の改善につながります。
慢性胃炎・神経性胃炎との違い
機能性ディスペプシアは、近年新しく確立した病態のとらえ方です。それ以前は、特別な病気のない胃の不快症状の多くは『慢性胃炎』『神経性胃炎』などと診断されていました。慢性胃炎は主にピロリ菌感染がかかわる胃炎(他の原因もあり)、神経性胃炎はストレスから胃炎をくり返す病気です。
しかしながら、胃の不快症状は炎症によるものばかりとは限りません。胃もたれや膨満感は炎症のあるなしに関わらず発生します。反対に炎症があってもとくに不快症状を感じていない方もいます。
昔は、病変や炎症のない胃の不快症状は「胃弱」の一言で片づけられ、医療は介入しないのが通常でした。けれど、近年はストレスコントロールや生活習慣の見直しによって改善できるケースも多いことがわかり、お薬も進化しました。
そこで、炎症のあるなしに関わらず、「原因となる病気(胃潰瘍や胃がんなど)が見つからず、胃の機能低下による不快症状に苦しめられている状態」を『機能性ディスペプシア』とし、生活習慣の見直しやストレスコントロールなども含め、トータルに改善を目指していくことになったのです。
機能性ディスペプシアのなかには従来『慢性胃炎』『神経性胃炎』と診断されていた方も含まれますが、機能性ディスペプシアでは炎症のあるなしは重視せず、患者さんが訴える不快症状の強さを中心にみています。医学的には炎症などの異変が見当たらない場合でも、患者さん自身が辛い胃もたれやみぞおちの痛みによって苦しみ、改善を望んでいるときは治療の対象となります。
機能性ディスペプシアの症状
症状は人によって様々ですが、以下のようなものがあります。
- 食後に胃がもたれる
- 少量食べるだけでお腹が張る
- 胃にものがつかえる感じがする
- ムカムカする
- よく吐き気がする
- みぞおちのあたりがいつも痛む
- 胸焼けがする
- 吐き気がする
- げっぷが多い
などになります。
これらの症状はタイプによって
- 食後愁訴(しゅうそ)症候群(PDS)
…食後の胃もたれや膨満感が主な訴え
- 心窩部(しんかぶ)症候群(EPS)
…食事にかかわらないみぞおちの痛みや焼けるような感じの持続が主な訴え
に分けられます。
多くの場合は両方が混在し、日によって感じる症状が変化するなど、線引きが難しいケースがよくあります。
機能性ディスペプシアの検査
機能性ディスペプシアは、「胃の不調の原因となる病気がないこと」が前提になっています。
確定診断のためには、胃がんなど重大な病気ではないことを検査で確認することが必要です。
判別が必要な病気は、
- 胃潰瘍
- 十二指腸潰瘍
- 胃がん
などです。
胃以外のすい臓、胆のう、肝臓などの病気や、全身的な病気から胃の不快症状がおこることもあります。これらの確認のため、まずは患者さんの症状をよく聞き、そこから疑われる病気を除外するための検査が勧められます。
検査としては、
- 上部内視鏡検査(胃カメラ)
- 血液検査
が基本で、症状によっては
- ピロリ菌感染の確認検査
- 腹部エコー(超音波)
- 腹部CT
などを追加することもあります。
検査によって特別な病気が見当たらず、それでも胃の不快症状が続き、患者さんに苦痛や生活の質の低下が認められるときに機能性ディスペプシアと診断されます。
機能性ディスペプシアの診断基準
機能性ディスペプシアには、ローマⅢ基準という標準的な診断基準があります。それによると、次の1~3に当てはまることが基準となっています。
- 以下の症状が1つ以上みられる
・苦痛に感じる食後の胃もたれ
・早期膨満感(少し食べただけでお腹がいっぱいになってしまう)
・心窩部痛(みぞおちあたりが痛むこと)
・心窩部灼熱感(みぞおちあたりが焼け付くように感じること) - 症状を説明できる腫瘍などの病気が内視鏡検査で見つからない
- 1、2の状態を直近の3カ月以上満たし、なおかつ6カ月以上前から症状が認められていた
実際の診療ではこの基準を参考に、患者さんの訴えや生活状態、ストレスとの関連性などをトータルで判断し、診断をつけて治療方針を決めていきます。
さらに細かくは、
- 食後愁訴症候群(PDS)
- 心窩部症候群(EPS)
を区別するための基準もあります。
【参考】食後愁訴症候群(PDS)の診断基準
以下の症状のうち1つ以上があること
- 普通の食事量でも辛いと感じる胃もたれが週数回以上おこる
- 普通の食事量が膨満感のために食べきれないことが週数回以上ある
※症状は6カ月以上前からみられ、直近3カ月の期間は上記基準を満たしている
※上腹部の張り、むかつき、大量のげっぷをともなうこともある
※心窩部症候群(EPS)が併存していることもある
【参考】心窩部症候群(EPS)の診断基準
以下のすべてに当てはまること
- 心窩部(みぞおちあたり)に集中した中等度以上の痛み、または灼熱感(しゃくねつかん・焼け付く感じ)が週に1回以上おこる
- 痛み・灼熱感は間欠的でずっと持続することはない
- 痛み・灼熱感は限局的で、腹部全体や上腹部以外の胸腹部にわたってはいない
- 痛みは排便やガスによって緩和されない
- 機能性胆障害・オッジ括約筋障害の基準を満たしていない
※症状は6カ月以上前からみられ、直近3カ月の期間は上記基準を満たしている
※痛みは食事で誘発されることが多いが、空腹時におこることもある
※食後愁訴症候群(PDS)が併存していることもある
機能性ディスペプシアの原因
機能性ディスペプシアの直接的な原因は、胃の機能低下・機能障害です。
機能低下・機能障害をまねく原因には「こころ」の要素と「からだ」の要素があり、人によって複数の原因が関与して発症すると考えられており、ストレス、神経質な性質、食習慣、睡眠不足や過労、カフェインやアルコール、ピロリ菌の関与、体質などが要因としてあげられています。。
直接的な原因
胃の機能低下
口から摂取した飲食物は胃におくられます。胃は食べ物をためるために緊張をゆるめてふくらみ、ぜん動運動によって十二指腸へと食物を送り出していきます。食べ物をためる機能は適応性弛緩、十二指腸へ送り出す運動機能は胃排出能といいます。
これらの機能が何らかの原因で低下すると、胃もたれや膨満感などを引き起こします。
胃の知覚過敏
ストレスなどで脳の働きが過剰になったときは胃の知覚過敏がおこることがあります。少量の食べ物でも胃酸が多くですぎたり、通常量の胃酸であっても刺激を感じてしまうことがあります。
また、飲食物にも敏感な反応をし、すぐにお腹がいっぱいになって感じたり、炎症がおきやすい状態になることもあります。炎症をくり返すと胃の粘膜が弱くなり、さらに知覚過敏が進行し、機能低下が悪循環しやすくなります。
胃酸過多
胃酸の分泌が過剰になると十二指腸に胃酸が流れ込み、胃の運動機能を低下させるとともに、痛みや焼けた感じを引き起こすことがあります。
胃の機能低下を引き起こす原因
上記のような胃の機能低下・異常を引き起こす原因についてみていきましょう。
ストレス
胃はストレスの影響が出やすい代表器官です。悩み事があって胃が痛んだり、ものが食べられなくなったりする人は多いのではないでしょうか。
昔から「ストレス性胃炎」「ストレス性胃潰瘍」などの病名があり、「ストレスで胃に穴があいた」と言われるように、精神的なストレスが胃を弱らせてしまうことはよく知られています。
ストレスは脳を過敏にし、自律神経の働きも乱します。とくに不安や緊張やイライラは交感神経を刺激し、消化器官の働きを抑制してしまいます。
そして胃酸の分泌が強まり、胃酸過多となります。
神経質な性質
ストレスというのは人によって感じ方が異なります。とくべつ大きなストレス要因がなかったとしても、元々神経質で物事に敏感な人や、不安を感じやすい性格の人は日常的に小さなストレスが積み重なりやすく、多くの場合は胃の不快症状を抱えています。
身体の疲れ
ストレスは精神的なものばかりとは限りません。睡眠不足や過労、暑さ・寒さなど身体的な負担も胃の機能を低下させます。
食習慣
胃の機能低下には食習慣が大きく関与します。元来自分が持っている胃の機能をオーバーする過食、消化の悪い高脂肪食や高カロリーな糖質の摂り過ぎ、スパイシーなものや、冷たいものをよく食べるなどの状態があると胃が弱りやすくなります。
カフェイン・アルコール・喫煙
過度なアルコールやカフェインの摂り過ぎも機能性ディスペプシアの原因の1つになります。過度のアルコールは胃酸の分泌を強めます。カフェインは胃の刺激となるばかりではなく、脳を刺激し不安や緊張を高める原因にもなります。
タバコは胃の血液量を低下させ、活動力を弱めてしまうことがあります。
薬の影響(痛み止めの常用など)
普段常用している薬の副作用によって胃腸障害がおこることがあります。とくに痛み止め・解熱剤としてよく使用されるNSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)のなかには胃を荒らしやすいものが多いため、常用している人は注意が必要です。
体質
体格や体力が人によって違うように、内臓にも生まれ持った機能の強弱があります。元来痩せ型で胃の小さい人や、胃の消化能が低い人はストレスや疲労の影響も受けやすくなります。
ピロリ菌感染
ピロリ菌は、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・慢性胃炎・胃がんなどの病気と関与の深い、胃粘膜に住み着く細菌です。慢性胃炎の多くはピロリ菌感染によるものと考えられています。
機能性ディスペプシア自体との関連性は定かになっていませんが、慢性胃炎とともにピロリ菌感染が確認されたときは除菌療法を行い、除菌後も自覚症状がなくならないときに機能性ディスペプシアとして治療を行います。
感染性胃腸炎
激しい嘔吐や下痢を症状とするサルモネラ菌など感染性胃腸炎にかかった後は、胃の機能が低下します。症状が重く期間が長引いたときは胃腸の機能がなかなか回復せず、機能性ディスペプシアの引き金になることがあります。
胃の形態
瀑状胃(ばくじょうい:胃の上部が拡張したもの)など胃の変形があると症状が出やすくなることがあります
機能性ディスペプシアとストレス・自律神経
機能性ディスペプシアの原因には様々なものが関与すると考えられていますが、一番大きいのはやはり「ストレス」と「生活習慣」です。
人の内臓はストレスによって様々な影響を受けます。脳と内臓は自律神経系・内分泌(ホルモン)系・免疫系を介して密接につながり、お互いに影響をおよぼしあって作用しているため、「こころ」に不調があれば「からだ」も辛くなり、「からだ」に症状があれば、「こころ」も辛くなります。
また、睡眠、食事、運動、などの生活習慣のリズムは、自律神経のバランスに大きく関わります。
「からだ」に不快な症状があれば、身体に何か原因があるのだろうと考えるのが普通ですが、実際には、ストレスや生活習慣の積み重ねが主な原因となって「からだ」に影響しているケースはとても多いのです。
機能性ディスペプシアでは胃を中心に不快症状がおこっていますが、ストレスや生活習慣によって自律神経のバランスが乱れれば、全身の様々な部位に影響がおこります。とくに不安や緊張などで交感神経が過度になると、
- 胃腸の消化活動が抑制される
- 唾液の分泌が減少する
- インスリンの分泌が低下する
など、消化にかかわる全体の流れが悪くなってしまいます。
それ以外にも、自律神経の乱れによっておきる病気・不調はとてもたくさんの種類があります。
機能性ディスペプシアは、他のストレス性障害や自律神経失調症の中の1症状として現れていることも多く、胃だけへのアプローチでは改善が難しいものです。
胃に限って症状があるなら「からだ」の要素が強いとも考えられますが、それ以外にも「なんとなく心身が不調」と感じるときは、「こころ」にも目を向け、ストレスコントロールや生活の見直しなども含め、トータルで改善していくことが大切です。
機能性ディスペプシアの治療
上でお伝えしたように、機能性ディスペプシアの治療ではストレスや生活習慣の見直しが欠かせません。とはいえ、それらでの改善には時間がかかります。患者さんは現在の不快症状によって辛い状態にあり、その症状自体がストレスとなってさらに状態が辛くなる悪循環をおこしていることが多いため、辛い症状に対しては適切なお薬を組み合わせていきます。
お薬によって症状をやわらげながら、ストレスについて整理したり、不安や緊張を感じやすい状態へ心理的なアプローチをしたり、生活習慣を整えていくことを地道に積み重ね、自分の「こころ」や「からだ」と上手に付き合っていける状態を目指します。
機能性ディスペプシアは、お薬で完治させられる「病気」ではありません。日々のストレスとの付き合い方や、生活習慣、元来の性質、体質などが組み合わさった結果の「胃の機能低下」です。
お薬の治療で不快症状がなくなっても、再びストレスをためこんだり、心身に負担のかかる生活習慣に戻れば症状は再発する可能性があるのです。
根本的な改善のためには、日ごろから自分にかかっているストレスを振り返るようにしたり、睡眠・食事・運動などの習慣に注意するなどのことを継続的に行っていくことが大切です。それらの積み重ねは機能性ディスペプシアの改善だけではなく、様々なストレス性障害や生活習慣病を予防することにもつながります。
機能性ディスペプシアの治療で使うお薬
機能性ディスペプシアでは、症状に応じて様々なお薬を組み合わせます。
続く胃の不調には市販の胃腸薬を利用されている方も多いかもしれませんが、胃腸薬は多くの種類があり、働きも様々です。症状や体質によって向いているお薬は異なるため、できれば病院で診察を受けた上で処方を受けましょう。
症状による苦痛でうつ状態におちいっている方や、ストレスや不安・緊張の要素が強いと考えられる方には、「こころ」のお薬も有効です。心身を全体に整えていく漢方薬を使う場合もあります。
神経性ディスペプシアは不安や緊張を感じやすい方や、抑うつ傾向のあるときに発症しやすいと言われています。不安障害や軽症うつ病などに合併していることもあります。
とくに不安傾向の強い方やストレスがかかって抑うつ状態にある方、元来神経症ぎみの方などには適切なお薬の使用が有効です。
機能性ディスペプシアの消化器内科治療ガイドラインでも、「からだ」のお薬の効果があまり良くないときや、精神的要素の強いときは抗うつ剤や抗不安薬の併用が勧められています。
「からだ」のお薬では、状態に応じた胃腸薬や下剤、整腸剤などを組み合わせます。ひとつずつみていきましょう。
消化管運動機能改善薬(アコファイド、ガスモチンなど)
胃もたれや、少し食べただけですぐにお腹がいっぱいになってしまう症状には、消化管の動きを活発にする胃腸薬を主に使います。
そのなかでもアコファイドは、機能性ディスペプシア治療薬として適応が認められた制開発のお薬になります。アセチルコリンの量を増やし(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)、副交感神経の刺激を強めて胃運動を活発にします。
新しいお薬でもあるため、内視鏡によって他の病気がないことを証明しなと保険適用で処方は難しいです。
その他にも、セロトニン5-HT4受容体作動薬のガスモチン(一般名:モサプリド)などが使われます。
胃酸分泌抑制薬(ガスター、ネキシウム、タケキャブなど)
胃酸が過剰になると十二指腸に胃酸が流れ込み、胃の運動機能を低下させるとともに痛みや焼けた感じを引き起こすことがあります。また、胃が知覚過敏の状態にあると、正常量の胃酸にも痛みを感じてしまうこともあります。
これらの状態には胃酸の分泌を抑えるタイプの胃薬がよく使われます。
ガスターを代表にしたヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)や、ネキシウム、タケキャブなどのプロトンポンプ阻害薬(PPI)があります。
消化酵素製剤
糖質などの分解を助ける消化酵素が入ったお薬です。エクセラーゼやベリチームなど、様々なお薬があります。
ピロリ菌除菌薬
ピロリ菌に感染している方の場合は、ピロリ菌除菌のための3種類のお薬を使うこともあります。
3種類の薬は抗菌薬2種類とプロトンポンプ阻害薬を組み合わせ、7日間飲み続けます。
慢性胃炎が認められれば保険が適応されますが、状態によっては保険適用外になります。
機能性ディスペプシアに使われる漢方薬(六君子湯)
機能性ディスペプシアの治療ガイドラインでは、状態に応じ漢方薬の併用も推奨されています。漢方は複数の生薬を組み合わせて作られたもので、即効性がなく効果に個人差がありますが、「こころ」と「からだ」の両面に作用し、効く人には優れた効果を発揮します。
漢方はそれぞれの体質に合わせたものを選ぶ必要があり、安全性が高いといっても副作用がないわけではありません。自己判断で市販薬を使うのはあまりお勧めできません。できれば病院で診察を受けた上で処方してもらいましょう。また、確実性のある西洋薬の使用が有効なことも多いので、主治医とよく相談をしてください。
機能性ディスペプシアの治療でとくによく使われるのは、
- 六君子湯
というお薬です。
胃腸の働きを高めながら気力を補い、水分の代謝を整えてくれます。多くの胃腸障害で使われる代表的な漢方薬で、胃腸の働きを良くし、胃痛、胃もたれ、慢性胃炎、吐き気などを改善します。全身の倦怠感や疲れやすさ、意欲減退などの改善も期待できます。
このお薬は、四君子湯と二陳湯という2つの漢方薬を合わせたものです。
四君子湯は人参・甘草・蒼朮・茯苓という4種類の生薬が主に含まれます。人参は消化吸収を良くし、体力や気力を増強します。甘草も胃腸の調子を整える働きがあり、筋肉の緊張をゆるめる作用も持ちます。蒼朮と茯苓には水分のとどこおりを改善し、利尿や発汗の作用があります。二陳湯は陳皮と半夏という2種類の生薬が入っています。どちらも健胃作用が中心です。これらの他、身体を温め胃腸を活発にする生姜なども含まれ、胃腸の働きを整える効果が強い漢方薬です。
近年は漢方の作用に対して科学的な研究も進められており、六君子湯には消化管運動の亢進や、グレリンという胃から分泌される摂食ホルモンの働きが高まることが確認されています。
機能性ディスペプシアと生活習慣
機能性ディスペプシアの治療では、お薬の治療や精神的アプローチとともに生活習慣を振り返り、少しずつ改善していくことが欠かせません。
胃の状態を整えていくためにも、ストレスに対応しやすくするためにも、生活習慣の見直しはとても重要です。食事はもちろんのこと、自律神経のバランスに関わる睡眠や生活リズムなどをトータルで整えていくことが大切です。
習慣というのはなかなか変えづらいものですが、できるところから地道に取り組みましょう。積み重ねは必ず良い結果として現れ、機能性ディスペプシアの改善ばかりではなく、その他の心身症やメンタル不調、生活習慣病などを予防することにもつながります。
睡眠
睡眠時間を必要量取ることはもちろん大切ですが、起床・就寝のタイミングをできるだけ一定にし、リズムを整えていくこともポイントです。
軽い昼寝は有効ですが、昼間から布団に入って長時間横になっていたり、昼近くまで寝ているようなことがあると胃の働きはかえって低下し、自律神経のバランスも乱れてしまいます。
食生活
機能性ディスペプシアの改善で食事の見直しは欠かせません。
- 早食いをせずよく噛んでゆっくり食べる
- できるだけ消化の良いものを食べる
- 3食に分けて1回の食事量は控えめにする
- 脂っこいものや甘い物を控える
- 香辛料など刺激物を控える
- 冷たい物や熱い物を控える
などの点を意識してみましょう。
とくに、よく噛んでゆっくり食べることは大切です。噛むことによって唾液が分泌されて消化を助け、脳に刺激が伝わり胃の働きを良くします。精神的なリラックスにもつながり、食べ過ぎも防げます。
脂っこいものや甘いものは消化に負担がかかり、香辛料は胃の刺激になるため、できるだけ控えるようにしましょう。
食事はバランスが大切ですが、消化不良をおこしているときは繊維の多い生野菜の摂り過ぎも負担です。野菜は火を通した煮物などの方が消化は良くなります。山芋やオクラなどのネバネバやキャベツには胃を保護する働きがあります。
肉や魚は脂の多いものや繊維の多いものは消化に負担がかかるため、高たんぱく低脂肪の鶏肉や白身の魚、比較的脂の少ないアジなどの青魚が胃には優しく、焼き物よりは煮物の方が消化吸収は良くなります。
また、近年は健康効果の高さから玄米や雑穀、小麦ブランなどを積極的に取っている方も多いのですが、これらは消化が悪い特徴があります。胃の不調を感じるときは控えるか取り過ぎに注意し、食べるときはよく噛んで食べるようにしましょう。
冷たい飲食物は胃腸の機能を低下させます。熱すぎる物も胃を刺激します。水分の摂り過ぎも胃の機能を低下させるため、飲み物は常温からぬる目のものをゆっくりと飲み、冷えたデザートや生のものを摂り過ぎないように注意しましょう。
運動
胃腸は適度な運動によって活発に動くようになります。自律神経のバランスを整え、精神的なリラックスのためにも適度な運動はとても有効です。
胃が不調の方は体力が無いことが多いため、無理な運動をする必要はありません。軽いウォーキングや、通勤時に歩く距離を増やしてみたり、家にいるときは軽いストレッチや体操をするなど、疲れすぎない範囲で体を動かしてみましょう。
運動が習慣になるとセロトニン神経の働きも活発になり、胃腸の活動や精神状態が安定しやすくなります。
カフェイン
カフェインを多く含むコーヒーは胃の刺激となるばかりではなく、脳を興奮させて不安や緊張を増してしまいます。
とくにストレスや不安から胃の痛みを感じるような人はカフェインを控えましょう。
アルコール
不安やストレスを感じやすい方は飲酒習慣のあることも多いですが、過度のアルコールは胃酸の分泌を過剰にします。
また、依存してしまうとかえって不安やイライラを強めてしまうことにもなります。機能性ディスペプシアの治療で使うお薬のなかにはアルコールとの飲み合わせが悪いものもあるため、できるだけアルコールは控えましょう。なかなか止められないという方は主治医とよく相談してください。
喫煙
改善されない機能性ディスペプシアを抱える方には、禁煙が推奨されています。
タバコは胃の血流量を低下させ、活動を妨げてしまうことがあります。ニコチンへの依存が強くなると不安やイライラをつのらす原因にもなり、全身の健康にも良くないので悪循環です。
禁煙は難しい面もあるかと思いますが、自分では無理なときは禁煙外来などを利用し、控えていきましょう。
機能性ディスペプシアと心理療法
機能性ディスペプシアにはストレスや不安などが影響することも多いため、それらに対する心理的なアプローチも大切な治療になります。ストレスや不安を感じやすい思考回路や行動パターンが根本にあると、お薬で一時的に症状が楽になっても再発をくり返してしまいます。
どのような心理療法が向いているかは状態によって異なり、本格的な心理療法はまとまった時間や費用が必要な場合もありますが、心療内科の外来では医師が診療の範囲内でさまざまな心理療法を意識したアプローチを行っています。それを少しずつ積み上げていくことで、ストレスや不安に対応しやすい状態を目指します。
より深い心理的な関与が必要と考えられるときは、臨床心理士による専門の心理療法が勧められることもあります。
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カテゴリー:心身症 投稿日:2023年3月23日
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