社会不安障害(社交不安障害)の症状・診断・治療
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社会不安障害とは?
社会不安障害は、人からの注目や人と接することへの緊張が過度となり、心身や生活に様々な支障がおよぶ病気です。
人前でまったく緊張しない人はめったにいませんし、人前が苦手、緊張しやすい等のシャイな性格傾向がある人は多いです。ですがその苦痛が強いと感じる場合には、それは自然な緊張や性格ではなく、社会不安障害という病気の「症状」の可能性があります。
この病気では、苦手な社会シーンになると、
- 緊張のあまり手がふるえる
- 冷汗が大量に出る
- 声が上ずってしまう
- 頭が真っ白になる
といった自律神経症状が伴い、元々感じている苦手意識の上に「こんな反応をしておかしい奴と思われていないだろうか?」「相手が不快に感じてはいないだろうか?」といった思考からエスカレートしてしまいます。
こうして苦手意識が高まってしまい、そういった社会シーンを避けがちになってしまうと、ますます苦手意識が高まってしまう悪循環がくり返されます。
世間では、「あがり症」や「赤面症」とよばれていたり、「対人恐怖症」や「社交不安障害」などと呼ばれたりしています。
社会不安障害の症状
社会不安障害の根底には、2つの恐怖のどちらかがあります。
- 他人にマイナスな評価をされてしまう恐怖
- 他人に迷惑をかけてしまう恐怖
これらの恐怖があるため、自分がまわりから拒絶されてしまうことを恐れてしまうのです。
こういった恐怖の裏側には、「よりよく周囲に受け入れられたい」という欲望があります。このため、「できるならば社交的になりたい」という思い(対人希求)が隠れている方が少なくありません。
ですがこういった恐怖のために、過度な不安や恐怖を抱くと、自律神経症状を生じます。その結果として失敗体験をしてしまうと、こういった状況をできるだけ避けようとしてしまいます。この回避行動が、社会不安障害の症状を悪化させていきます。
逃げてしまうと苦手意識はますます強くなってしまいます。「また失敗してしまうのでは?」という予期不安が強まっていき、社会不安障害の悪循環に陥っていきます。
社会不安障害の方が苦手意識を感じやすい社会シーン
- 人前で話す、発表をする、プレゼンなど
- 人との雑談
- 人目に触れる場所での飲食、会食
- 人前で字を書く
- 電話対応
- 美容院
- 合コンやデート等異性との交流
など
不安や緊張でおこりやすい自律神経症状の例
- 胸のドキドキ
- 息苦しさ
- めまいや吐き気
- 手足がふるえる
- 声がふるえる
- 腹痛、お腹を下す
- 口が異常に乾く
- ひどく汗をかく
- 赤面
- ほてりやのぼせ
など
社会不安障害の2つのタイプ
社会不安障害は、
- 限定したシーンにだけ強い恐怖を感じる「パフォーマンス限局型」
- 人と接することや社会の場の全体に恐怖がおよぶ「全般型」
の2つに分けられます。
パフォーマンス限局型とは、人前でのプレゼンや会食、異性との交流など、ある一定のいくつかのシーンに限って恐怖が強くなるタイプで、どのようなシーンが苦手かは人によって異なります。
パフォーマンス限局型の特徴は、日常での対人関係は特別な問題がなく過ごしているにも関わらず、苦手なシーンになると急激に緊張が高まってしまうことです。ふるえや発汗、顔のほてり、腹痛、吐き気など、自律神経の高ぶりにともなう身体症状が見られ、回数を重ねても慣れることがなく、むしろ不安や恐怖が高まっていきます。
そのような自律神経症状が人目に触れるのを気にしてしまい、さらに苦手意識と恐怖感が強まり、苦手なシーンを想像しただけで心身に不調を感じたり、その場を何とか避けようとしたりする行動パターンへ進行していきます。
それに対して全般型の特徴は、限定されたシーンだけではなく、人と接することや社会生活全体に恐怖感がつきまとう状態です。重度になると働けなくなったり、不登校・引きこもりに発展したりするケースも見られます。
限局型と全般型は病気の重症度の違いと見られているため、その境目ははっきりしないこともあります。比較的多くのシーンで恐怖は感じるけれど、全般型というほどには至っていない中間型の患者さんも見られます。
全般型の人では、他の恐怖症やパーソナリティ障害、うつ病などが併発しているケースもあり、比較的軽度の限局型の人とは対策や治療方針が異なります。
反対に、他の精神疾患の合併症として社交不安障害がおこっていたり、統合失調症や自閉症の症状として似たような状態が見られたりすることもあるので、慎重な見極めが必要となります。
社会不安障害は「性格」と思い込みがち
このような社会不安障害ですが、本人や周りが「性格」ととらえていることが非常に多いです。生きづらさは感じながらも、性格だから仕方がないと割り切っている方も少なくありません。
これは2つのどちらのタイプにも共通していて、パフォーマンス限局型では「ビビり」や「緊張しい」といった性格と思い込んでいることが多いです。人前に立つ機会を避けてしまったり、職業選択などにも影響することもあります。
あがり症といった言葉が使われることもありますが、こちらも「病気」というよりは「性格」というニュアンスで使われていることが多いです。
全般型では、「人見知り」や「引っ込み思案」な性格と思い込んでいることが多いです。不安や恐怖を感じることはできるだけ避けて生活をするようになり、ひきこもりや不登校といった形で、生活に影響が出てくることもあります。
このように社会不安障害は、性格ではなく症状と考えて治療をしていくことで、生き方が変わる可能性を秘めている病気です。
社会不安障害(社交不安障害)をチェックする診断基準
こころの病気の診断では、あらわれている症状をDSM-5やICD-10などの国際的な診断基準にあてはめて診断をくだす方法が主流となっています。
もちろん単純にそれだけで診断がつくわけではなく、実際には医師が患者さんとの面接の中で注意深く判断をしますが、ある程度診断基準に沿うことで診断のブレを少なくすることが目的とされています。
DSM‐5というAPA(米国精神医学会)による診断基準がわかりやすいので、こちらで紹介したいと思います。
- 他者から制止を受ける可能性のある社交場面に対して強い恐怖や不安がある。
- 自分のある振る舞い、またはその振る舞いに不安を感じているとわかる症状(発汗やふるえなど)が、他者から否定的に受け取られること(不快に思われる、バカにされるなど)を強く恐れている。
→社会不安障害の根底にある2つの恐怖になります。
- 苦手な社会的状況においては(全般型の場合は多くの社会的状況においては)ほとんど常に強い恐怖や不安を感じる。
- その社会的状況を避けて生活している、または、強い恐怖や不安を耐えながら我慢している状態にある。
- その社会的状況で感じる恐怖や不安が、一般的なレベルを明らかに超える不合理なものである。
→不安や恐怖がある一定レベル以上で、苦手な社会シーンと関係があることが必要です。
- 恐怖や不安、それにともなう回避行動は持続的で、6か月以上続く。
→苦手な社会シーンを回避してしまう傾向が続いています。
- 恐怖や不安、それにともなう回避行動が明らかな精神的苦痛や職業的・立場的に何らかの支障をおよぼしている。
→日常生活や社会生活に支障をきたしています。
- あらわれる症状は、アルコールや薬物の影響や他の身体疾患によるものではない。
- あらわれる症状は、パニック障害、醜形恐怖症、自閉症スペクトラム障害によるものなどではない。
- 他の疾患がある場合は、恐怖や不安や回避行動がその疾患によるものとは言えず、深い関連性がないと判断されること。
→他の病気による社会不安ではないことが必要です。他の病気による影響であることも少なくなく、社会不安障害の診断はそう単純ではありません。
- うつ病:気持ちの落ち込みとともに、人付き合いが苦手になりがちです。うつ病の回復とともによくなることが期待できます。
- 統合失調症:幻覚や妄想が明らかになる前に、物事に過敏になったり、人から見られているのではという被注察感が強まることがあります。
- 発達障害:コミュニケーションが周りとずれてしまい、回避行動をとってしまうことがあります。社会不安障害を合併することもあります。
こういったことを念頭に置き、診断を進めていきます。
社会不安障害の治療をすべき方とは?
限局型のタイプでは、普段の生活はむしろ活発で社交的という人も多く、苦手なシーンを避けて上手く生活ができるような環境ならば問題にはなりませんし、一時的に強く緊張はするもののそのまま行動ができ、心身や生活に特別な支障がなければ無理に治療をする必要はありません。
しかし、そのような場面における精神的苦痛が大きく、心身に影響がでている場合や、苦手なシーンを避けようとするがために生活上の不利益が生じているのなら、社会不安障害の症状として治療がすすめられます。
具体的には、
- 立場上避けられないシーンで常に恐怖があって精神的苦痛が大きい
- 苦手なシーンに向かうためにお酒の力が必要になっている
- 苦手なシーンのことを考えるだけで心身に不調を感じる
- 会食を避けるために対人関係に支障がでている
- 結婚を望んでいるのに異性との交流の場を避けてしまう
こういった状況になります。
それに対して全般型では、社会生活全体に不安がつきまとってしまうので、生活への支障は非常に大きいです。このため、しっかりと治療を行っていくことが必要になります。
社交不安障害は学童期や思春期の比較的早い年齢で発症することも多く、治療せずに放置してしまうと、進学・就職・結婚など人生の大切な場面での制約がかかりやすくなります。
「積極的に社会や人と関わりたい」という本人の希望とはうらはらに、恐怖を感じる社会・対人シーンを避け、できる限り人と関わらずにすむように消極的な生活へと流れ、自信喪失から病態が悪化していくパターンがよく見られます。
この病気で大切なことは、「これは性格だから」とあきらめてしまわず、自分が苦痛や不利益を感じているなら、思い切って「治療」に踏み出すことです。現在はその治療法はかなり体系化され、薬や精神療法にも有効性が認められているものがわかってきています。
社会不安障害の治療
それでは、社会不安障害の治療について考えていきましょう。
社会不安障害の治療は、生活への支障の大きさをもとに大きく2つの方針にわかれます。
- レスキューのお薬でしのいでいく
- お薬をしっかりと使って精神療法を積み重ねていく
とくにパフォーマンス限局型の社会不安障害の場合は、苦手な状況だけしのげるようにするというのも一つの考え方です。
しかしながら不安の頻度が多かったり、生き方に影響している場合は、しっかりとお薬を使って治療を進めていった方が良いと思います。社交不安障害は治療のできる病気です。治療によって長年の苦痛や不自由から解放され、人生の流れが大きく変わっていく患者さんもいます。
社会不安障害はお薬の効果も期待することができます。お薬によってつらい症状がコントロールできるようになると、少しずつ苦手なシーンに挑戦し、上手な不安との付き合い方を身につけていく精神療法を重ねていきます。そして生活習慣が乱れると症状が悪化しやすいので、生活習慣を整える努力も必要です。
社会不安障害の治療には、ある程度の時間や積み重ねが必要です。同じ社交不安障害であっても、目指すゴールは人によって違います。それぞれの性格、生活環境、重症度などに合わせ、無理のない範囲で焦らず治療を続けていくことが克服の大きなポイントです。
治療によって、非常に社交的で前向きな性格となる人もいますが、それは本来の性格傾向がそのようなものだった場合です。元来の性質そのものがシャイで控えめ、多くの社交は苦手だというタイプの人も多く、それはけして悪いことではありません。
社交不安障害治療の目的は、すべての人を社交的で前向きな性格に変えてしまうものではなく、強すぎる恐怖や辛い症状を取り除き、その人本来の性質を生かしながら、目的の行動へ向かえるようにすることです。
症状は後戻りすることがありますが、治療を積み重ねることで少しずつ安定し、快方へと向かっていきます。焦らず、人と比べず、地道に続けることが大切です。
社会不安障害での薬の役割
社会不安障害においては、お薬には大きく2つの役割があります。
- 気になる症状を止めるレスキューの役割
- 1日を通して、苦手な状況へのとらわれを薄れさせる役割
まずは苦手な社会シーンに直面したときに生じる不安や緊張、身体の反応をやわらげてあげることで、やり過ごせるようにしていくことが大切です。そういったレスキューの役割を果たすお薬は重要です。
「このお薬があれば何とかなる」というお守りにもなりますし、苦手な状況に挑むときに背中を押してくれることもあります。社会不安障害の症状の悪循環を断ち切っていく必要があります。
そして社会不安障害をしっかりと治療していくためには、1日を通して不安や緊張を軽減する必要があります。そもそも不安や緊張を感じにくくしていくことを目指していきます。
社交不安障害の患者さんでは、恐怖の感情を司る偏桃体という部位が過敏になり過ぎ、脳内のバランスが乱れているといわれています。このバランスを整えていくことで、少しずつ過敏さが薄れていくといわれています。
社会不安障害で使われるお薬とは?
社会不安障害で使われるお薬について、具体的にみていきましょう。社会不安障害の治療薬としては、
- レスキューのお薬
- 1日中効果を期待するお薬
この2つが使われます。
レスキューのお薬としては、即効性がある必要があります。社会不安障害の症状に応じて、使い分けていきます。
- 抗不安薬:不安や緊張を軽減させる
- β遮断薬:動悸やふるえを軽減させる
- 抗コリン薬:発汗を軽減させる
- 制吐剤:吐き気を軽減させる
これに対して1日中効果を期待するお薬は、長期間にわたって継続的に使っていきます。このため、
- 作用時間が長い
- 依存性の少ない
といった特徴のお薬が理想です。こういったお薬としては、
- 抗うつ剤:SSRI
- 抗不安薬:長時間作用型
があげられます。
先ほど、社会不安障害の患者さんでは偏桃体が過敏になっているとお伝えしましたが、セロトニンを増加させる抗うつ剤は、この偏桃体の働きを落ちつかせてくれると考えられています。
ですから社会不安障害のしっかりとした治療を行っていく場合、抗うつ剤を中心にしていくことがスタンダートな治療となります。
抗うつ剤(SSRI)
社会不安障害の治療で主に使われる抗うつ剤にみていきましょう。
社交不安障害では偏桃体の働きを正常化させるために、セロトニンを増加させる作用の強い抗うつ剤が使われます。抗うつ剤はいずれもセロトニンを増加させる作用がありますが、とくにSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)というお薬が良く使われます。
SSRIはその名前の通り、セロトニンだけを選択的に増加させるお薬です。SSRIは、以下の4種類が発売されています。
- パキシル(一般名:パロキセチン)
- ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)
- レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)
- ルボックス/デプロメール(一般名:フルボキサミン)
このうち社会不安障害の適応が正式に認められているのは、
- パキシル
- ルボックス/デプロメール
- レクサプロ
になります。
ジェイゾロフトの効果がないわけではなく、社会不安障害に効果があるかどうかの研究を行っていないだけです。理論的には効果が期待できます。
これらの抗うつ剤が合わない場合は、
- SNRI:意欲低下が目立つ方
(イフェクサー・サインバルタ・トレドミン) - NaSSA:吐き気でSSRIが使えない方
(リフレックス/レメロン) - 三環系抗うつ薬:SSRIで効果が不十分な方
(アナフラニール)
などが使われます。
抗うつ剤は飲み忘れなく継続して服用することが大切です。飲み続けることで少しずつ効果が安定していきます。また急にお薬を中止してしまうと、離脱症状が生じてしまうこともあります。
抗うつ剤について詳しく知りたい方は、抗うつ剤のページをお読みください。
抗不安薬
効果の実感までに時間のかかる抗うつ剤に対し、抗不安薬では即効性が期待できます。不安や緊張を落ちつける効果が期待できます。
このため、不安が強まった時のお守りとしても使われますし、抗うつ剤の効果が出てくるまでの間の症状を緩和させるために使われます。
即効性を期待する場合によく使われるのは、
- リボトリール/ランドセン(一般名:クロナゼパム)
- レキソタン(一般名:ブロマゼパム)
- デパス(一般名:エチゾラム)
- ワイパックス(一般名:ロラゼパム)
- ソラナックス/コンスタン(一般名:アルプラゾラム)
になります。
とくにリボトリール/ランドセンは、社会不安障害に効果が実証されている唯一のお薬になります。といっても他のお薬も有効で、例えば緊張が強い場合などは、レキソタンやデパスなどが良く使われます。
ただ、長期連用してしまうと「慣れ」がおこって効かなくなったり、依存してしまうことがあります。ですからできれば、一時的に使うか、頓服として使うことが向いているお薬です。
長期間服用していく場合は、作用時間が長いお薬を使っていきます。
- メイラックス(一般名:ロフラゼプ酸エチル)
が良く使われます。
抗不安薬ついて詳しく知りたい方は、抗不安薬(精神安定剤)のページをお読みください。
漢方薬
患者さんのなかには、漢方薬による治療を希望される方もいらっしゃいます。
社交不安障害の治療では、SSRIなどの抗うつ剤の有効性が認められているため、基本的にはそちらがメインで使われます。ただ、副作用や妊娠との関係、薬への不安が大きい場合などでは漢方薬を使っていくこともあります。
漢方薬は効果を見極めるまでに時間がかかり、社交不安障害への効果は見えづらいので、不安にアプローチする精神療法と併用し、じっくりと治療に取り組んでいく必要があります。
社会不安障害では、以下のような漢方薬が使われます。
- 柴胡加竜骨牡蛎湯:比較的体力があって、不安が強い方
- 柴胡桂枝乾姜湯:体力が低下し、不安が強い方
- 桂枝加竜骨牡蛎湯:体力が低下し、疲れと緊張が強い方
- 半夏厚朴湯:のどや胸に違和感がある方
- 加味逍遥散:女性で血のめぐりが悪く、不安が強い方
- 加味帰脾湯:疲れや食欲不振などが目立つ、不安の強い方
- 抑肝散:神経が高ぶり、イライラの強い方
- 甘麦大棗湯:不安が強い方の頓服として
社会不安障害で使われるその他の頓服薬
社会不安障害の頓服薬として、不安や緊張を抑えるために抗不安薬が良く使われます。
しかしながら抗不安薬だけでは、身体の反応をコントロールしきれないことも少なくありません。こういったときには、その症状を抑えられるような頓服を使っていきます。
社会不安障害の症状のなかでも、周りの人からも分かってしまう以下の3つの症状が残ってしまうことがあります。
- 手足のふるえ
- 声のふるえ
- 大量の発汗
抗不安薬でこれらの症状がコントロールできない場合は、ピンポイントで止めてくれるお薬を使っていきます。
- β遮断薬:手足のふるえ・声のふるえ・動悸
(アロチノロール・インデラル) - 抗コリン薬:発汗
(プロ-バンサイン) - 制吐剤:吐き気
(ナウゼリン・プリンペラン)
社会不安障害の精神療法
お薬の治療によって不安や恐怖、身体の症状がある程度コントロールできるようになると、不安と上手に付き合うための精神療法を積み重ねていくことが必要になります。
苦手意識や回避の行動パターンは長年積み重ねられたものなので、すぐにはよくなりません。お薬でコントロールしながら、少しずつそれを当たり前にしていきます。
社交不安障害の人は根本的に「より良く生きたい」「多くの人に認められる存在でありたい」という高い欲求を持っていたり、周囲との調和を重視したりする性格が下地にあることが多く、その分社交の場で緊張がかかりやすい傾向があります。
上手く生かせば社会的に優れた要素となりますが、過度にとらわれが強くなるとマイナス方向に作用し、大きな恐怖を生む原因となってしまいます。
そもそも、周りからどう思われるのかという社会不安は、誰しもがもっているものです。社会不安があるから相手がどう思うかを考えて行動し、準備をするのです。問題は過度であることです。「社会不安はあってはいけないもの」ではありません。社会不安はそのままにして、それでも付き合っていけることを学んでいきます。
そのため、薬の力を借りて強すぎる恐怖や不安が落ち着いてきたら、不安を招きやすい過度な考え方を調整する練習をしたり、これまで避けてきたシーンに少しずつ挑戦して苦手意識を克服したり、自分の性格傾向や生活状況に合わせた不安との付き合い方を身に着けていきます。
そのような積み重ねは病気の改善をさらに促し、再発防止の意味でも優れた効果が期待できます。
精神療法は、専門の臨床心理士が行う場合には健康保険が適応されず、自費診療となります。その分一定の時間を設け、じっくりと取り組むことができます。費用の問題でその方法が難しい場合には、医師が診療の範囲内で少しずつアドバイスを行い、日常生活の中で地道な行動を積み重ねていくことになります。
社会不安障害に使われる代表的な精神療法の考え方をお伝えしていきましょう。
認知行動療法
認知行動療法とは、極端な考え方や物事のとらえ方を、現実の生活の中で少しずつ和らげていく精神療法です。
社会不安障害の人の強すぎる不安は、「他人から悪い評価をされる自分には価値がない」「自分のすることは他人から評価されないに違いない」「一度上手くできなかったことはまた次も失敗してしまう」などの偏った考え方が根本にあるケースが多くなっています。
そのような強い思い込みが根本にあると、必要以上に社交へ恐怖を感じてしまうのも無理はないと言えるでしょう。認知行動療法は、恐怖の元となっている偏った考え方を適度な範囲にしていくを目指していきます。
そのような考え方の偏りは、自分自身ではなかなか気づくことができませんが、専門の臨床心理士や医師とのやり取りの中で少しずつ目を向けられるようになります。
強すぎる恐怖を生み出す考え方の偏りが自分の中に根付いていると意識できるだけでも、不安の度合いがマシになります。
そしてその考え方にアプローチし、「少しくらい悪い評価をされても自分の価値が下がるわけではない」「なかには自分を評価してくれる人もいるはずだ」「失敗したら、反省して次につなげればいい」など、自分の恐怖をやわらげて行動を後押ししてあげる言葉に少しずつ変換していき、行動を少しずつ変えていきます。
認知行動療法はすぐに効果があらわれるものではありませんが、あきらめずにくり返していけば必ず何らかの変化がおこります。
ただ、病的な不安が強すぎるときにやろうと思っても負担がかかり過ぎるため、薬物療法と上手く併用させ、自分に無理のない範囲で少しずつ積み重ねていくことが大切です。
森田療法
苦手な社会シーンでおこる恐怖や自律神経症状をあるがまま受け入れ、症状はそのままに、行動の方へ意識を向ける練習をしていきます。
社交不安障害の患者さんでは、「恐怖・症状→回避」という行動パターンになっていることが多く、そのことがよけいに恐怖や緊張をふくらませてしまう悪循環におちいります。
そして前述しましたが、不安や恐怖の裏には、「よりよく生きたい」という欲望があります。
森田療法では不安や緊張や体の反応、そしてその裏側にある欲望も含めてすべてをあるがまま受け入れ、「それがあるままでも行動はできる」ということをくり返し自分に体感させていく方法です。
本格的に行うためには専門の指導者が必要ですが、一般外来の中で森田療法の考え方を取り入れ、精神的なアプローチに使う場合もあります。
暴露療法(エクスポージャー)
暴露療法(エクスポージャー)とは、不安を感じるシーンにあえて自分をさらし、不安に慣れていく方法です。
感じる不安が比較的小さいところから始め、「不安は感じても時間とともに薄れていく」「不安を感じてもやるべきことをすることはできる」「失敗をしたとしてもそれほど大きなダメージは受けなかった」などの感覚を成功体験として体感しながら、挑戦するシーンのハードルを少しずつ上げ、克服を目指します。
この方法は、それぞれの状態に合わせ、不安階層表を用いて少しずつすすめていきます。行動から認知を変えていくことに重きをおいていく精神療法です。
性格と思わずに病院で相談を
社会不安障害は一時的に不安を薬でごまかすわけではなく、病的に不安や恐怖を感じやすくなっている脳や自律神経のバランスの乱れを改善し、不安との上手な付き合い方を身につけていくことで根本的に治療できる可能性がある病気です。
社交不安障害の患者さんでは、恐怖感を司る脳の偏桃体という部分に異常がおこっていることが認められています。その状態で無理に恐怖感をおさえるのは困難で、それには病院でお薬を使った治療が有効な方法となります。
この病気の治療に使われるお薬は、何も特別なものではありません。医師の指導の元で適切に使っていけば、社会不安障害の辛い症状を和らげ、苦手の克服や生活の改善を助ける有効な味方となってくれます。もちろん、やめられなくなるお薬でもありません。
病院での治療に抵抗があるからと無理に自分で頑張ろうとすると、お酒やタバコの力に頼って不安をやり過ごすクセがつき、アルコール依存に発展してしまうこともあります。アルコールは一時的に不安をマヒさせるだけで根本的な解決にならず、むやみに酒量が増えて体を壊す恐れもあります。
社交不安障害はたくさんの人が苦しみ、治療によって克服していく可能性の高い病気です。医師の中にもこの病気の経験者がおり、現在第一線で活躍している立場の人でも、昔はこの病気で苦しんでいたという人が意外に多いものです。そして不安や緊張とは無縁そうに見える方でも、人目を忍んで苦しんでいる方もいらっしゃいます。
人前で話をすること、人と接すること、人からどう見られるかということに強い恐怖や不安を感じ、生きづらさを感じている場合は、ぜひ病院で相談してみてください。
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カテゴリー:社会不安障害(社交不安障害) 投稿日:2023年3月23日
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