身体表現性障害(身体症状症)の症状・診断・治療
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身体表現性障害とは?
身体表現性障害とは、ストレスが身体の症状となって表れてしまっている病気のことをいいます。
身体をいくら調べてもどこも悪くないのに、明らかに本人にとって症状があったり、身体の不安がつきないといった障害です。
内科などで検査を行っても原因がわからない場合には、ストレスが原因となって症状が認められている可能性があります。
そして身体の変調にとらわれてしまって、大きな病気が隠れているのではと不安でたまらなくなってしまうこともあります。
このように身体表現性障害は、こころが作り出した身体の症状になります。
その程度は様々ですが、実際に身体症状として苦痛を感じることもあれば、病気に対する不安が募ってしまって精神的な苦痛が強くなることもあります。
本人からすると身体に異変があるため、多くの方が身体の病気と思っている病気です。根本的な原因が見つからず、ドクターショッピングをしてしまう方も少なくありません。
いわゆる自律神経失調症も、その多くは身体表現性障害に含まれるかと思います。
身体表現性障害の症状による5つのタイプ
後ほどお伝えしますが、身体表現性障害は新しい診断基準では身体症状症にかわりました。その過程で病気の概念も整理されました。かつての身体表現性障害の考え方をご紹介していきます。
ストレスが身体症状となる身体表現性障害にも、様々な症状の表れ方があります。その特徴により、以下の5つに分類されています。
- 身体化障害
- 転換性障害(身体表現性自律神経機能不全)
- 心気症(心気障害)
- 身体醜形障害
- 疼痛性障害(持続性身体表現性疼痛障害)
身体化障害は比較的若いころに発症し、長きにわたって様々な身体の苦痛に悩まされる病気です。身体の病気はいくら検査をしても認められないのですが、体がつらいので複数の医療機関に出向いているケースが多く、心の病気だと認識するまでに時間がかかることが多いです。
転換性障害は、軽いものは多くの方が経験したことがあるかと思います。ストレスで「吐き気がする」「喉がしめつけられる」「頭痛がする」といったものです。ストレスが身体の症状に転換されてしまいます。
心気症は身体症状というよりも、「何か重たい病気にかかっているのでは」という病気へのとらわれが特徴的です。病気への心配がつきずに、専門家が問題ないと保証しても信じることがなかなかできません。
身体醜形障害は、自分が醜い、体のどこかがゆがんでいるなどと、自分の容姿に対するとらわれがある病気です。そのために準備や確認作業が増えたり、苦痛を感じてしまいます。
疼痛性障害は痛みの原因はないのですが、本来感じるわけがない痛みが続いてしまう病気です。痛みにとらわれてしまう病気で、心理的な要因が強く関係しています。
身体表現性障害の診断基準の変遷
身体表現性障害は、アメリカの最新の診断基準であるDSM-Ⅴでは、身体症状症とその関連の病気という分類にかわりました。
身体表現性障害は細かく分類分けをしましたが、オーバーラップしてしまうことも少なくありません。そうすると医師によっても診断が変わってしまいます。
さらに身体表現性障害では、いくら検査をしても症状の原因になるような身体の病気はないという点を重視していました。これは、「身体は身体、心は心」という二元論的な考え方を強くしてしまいます。心身の両面から見ていくべき病気です。
より適切な診断と治療をしていくため、広くカバーできる病気の概念の方が望ましいと考えられました。そして身体表現性障害から、「身体症状症」とその関連の病気と変わったのです。このカテゴリーには、
- 身体症状症:身体化障害・疼痛性障害・身体症状ある心気症
- 病気不安症:身体症状がない心気症
- 変換症:転換性障害の名称がかわった
これらの病気が分類されます。
そして身体醜形障害は強迫性障害との関連が深いと考えられ、強迫性障害の関連疾患の中に組み込まれたのです。
身体症状症は、
- 苦痛や生活への支障がある身体症状があること
- 身体症状や健康に関する極端な思考・感情・行動
を特徴としています。
身体症状症では、医学的に説明できるかは重視しません。本人がその症状で苦しみ、極端な心配から生活などに支障をきたしていれば身体症状症になるのです。
そして実際に身体症状はないにもかかわらず、「重大な病気にかかっているのではないか」というとらわれが強い方もいらっしゃいます。そのような場合は、病気不安症と診断されます。
身体表現性障害の原因
実際は身体の疾患がないのに、どうして病気のような症状がでてしまうのでしょうか?
身体表現性障害の患者さんがそのような症状を出してしまう理由には、3つの側面があるといわれております。
- 身体感覚の誤った解釈
- 無意識に抑圧された葛藤によるもの
- 疾病利得
身体表現性障害の患者さんは、自分の身体に対し誤った認識をしているといえます。つまり痛くないところに痛みを感じたり、出るはずがない症状が出ていると思い込んでしまっているのです。
また身体表現性障害の人は、多くの心理的抑圧を抱えている場合があります。自分の葛藤を無意識に閉じ込めてしまっています。そして身体の症状があれば意識がそちらに向くために、つらい葛藤と向き合わずに避けることができます。
それだけだなく、病気であることのメリットが無意識に働いてしまうこともあります。病気だということで、学校や仕事に行かずに済んだり、周囲から理解してもらえたり労わってもらえたりします。けっして詐病というわけではなく、無意識にストレスから身を守るがゆえにとっている方法になります。
身体表現性障害の原因としてはこの3つの側面が絡み合い、身体の病気などはないにも関わらず、心身がつらい状態を作ってしまっているといえます。
身体表現性障害の治療
身体表現性障害では、心身両面から治療を進めていくことが不可欠となります。
心身相関といったりしますが、心と体は自律神経系や内分泌系、免疫系などを介して密接に関係しています。
身体表現性障害では症状の慢性化に伴い、ストレスの蓄積からうつ病や不安障害を合併することがあります。このようなときは、合併症の治療をしていくことが必要になります。
その反対に、うつ病や不安障害からストレスが身体化して症状となることもあります。うつや不安が治療によって落ちつけば、身体化症状も軽減していくことも少なくありません。
また身体表現性障害では、明確なストレスがある場合は環境を整えることも考えていきます。必ずしも負担を軽減するように環境を整えることが治療的ではない場合もあるので、患者さんの状況を踏まえながら考えていきます。
身体表現性障害は、大別すると2つのタイプに分けることができます。
- とらわれが強いタイプ:心気症・身体醜形障害
- 身体症状が強いタイプ:身体化障害・転換性障害・疼痛性障害
「とらわれ」が強いタイプである心気症や身体醜形障害は、物事のとらえ方にゆがみがあります。治療には時間がかかることが多く、慢性的に経過しがちです。精神療法的な治療も重視していく必要があります。
それに対して身体症状が強いタイプは、心と体の薬を使い分けて症状を軽減させることで、比較的早い段階で落ちついた生活を取り戻せることもあります。
身体表現性障害での薬の役割
身体表現性障害は、こころの葛藤や目の前のストレスから実際に身体症状を引き起こしている場合もあります。
明らかに身体に症状がある場合は、症状に合った「からだのお薬」を処方します。身体症状をコントロールするためターゲットの臓器や器官に効く薬を使っていくことにより、症状を抑えることができます。また症状を軽減するサポートとして、「こころのお薬」を使っていきます。
確かにお薬を処方したからと言って葛藤やストレスはなくなりません。しかしそれらで受けてしまった影響を、お薬で和らげることはできます。ストレスによって自律神経症状に何らかの影響が出ている場合には、気持ちを落ちつけるお薬の効果も期待できます。
心身の症状が落ちつくことで、ストレスと向き合いやすくなります。現実的な解決もすすみやすくなります。
身体表現性障害によってストレスが蓄積し、うつ状態や不安障害に発展してしまうことがあります。その結果、病気へのとらわれが強くなる悪循環が生まれることが少なくありません。この悪循環のサイクルに入らないためにも、お薬で症状を軽減することは大切です。
身体表現性障害でよく使われるお薬
身体表現性障害では、ストレスにより身体症状が認められる病気になります。ですから、
- ストレスやを和らげるための「こころの薬」
- 身体症状を和らげるための「からだの薬」
の両方をつかっていきます。
こころのお薬としては、
- 抗うつ剤
- 抗不安薬(精神安定剤)
- 睡眠薬
などが使われます。それ以外にも、抗精神病薬や気分安定薬などが使われることもあります。とくに病気に対するとらわれが強いような場合は、抗うつ剤が使われることが多いです。
身体症状を落ちつけるために、「からだの薬」も使われることもあります
- 嘔吐に対して制吐剤(プリンペラン/ナウゼリン)
- ストレスによる下痢での胃腸薬(イリボー/コロネル)
- 緊張型頭痛や肩こりでの筋弛緩薬(ミオナール/テルネリン)
といったお薬です。これらのお薬はターゲットの臓器や器官に働いて、その働きをピンポイントで整えてくれます。
このように身体表現性障害では、「こころの薬」と「からだの薬」を組み合わせて治療していくことも少なくありません。
抗うつ剤(SSRI)
身体表現性障害の治療薬として抗うつ剤が使われるのは、以下のような場合です。
- 病気に対するとらわれが強いとき
- 抑うつ状態や不安が広がっているとき
セロトニンを増加させる効果が強い抗うつ剤は、過敏さをやわらげて、不安や落ち込みを少しずつ軽減していく効果が期待できます。
現在日本で発売されているSSRIとしては、以下の4種類があります。
- ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)
- レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)
- パキシル(一般名:パロキセチン)
- ルボックス/デプロメール(一般名:フルボキサミン)
SSRIが合わない場合は、その他の抗うつ剤を使うこともあります。
- SNRI:意欲低下が目立つ(サインバルタ・イフェクサー)
- NaSSA:吐き気や不眠が強い(リフレックス/レメロン)
- 三環系抗うつ薬:他剤で効果が不十分(アナフラニール)
詳しくは、抗うつ剤のページをお読みください。
抗不安薬
抗不安薬は、主にベンゾジアゼピン系抗不安薬を使います。抗不安薬はGABAの働きを強めることで、脳の活動を抑制します。その結果として、不安や緊張を和らげる作用があります。
身体表現性障害には、以下のような抗不安薬(精神安定剤)が使われます。
- メイラックス(一般名:ロフラゼプ酸エチル)
- リボトリール/ランドセン(一般名:クロナゼパム)
- セルシン/ホリゾン(一般名:ジアゼパム)
- リーゼ(一般名:クロナゼパム)
- ソラナックス/コンスタン(一般名:アルプラゾラム)
- ワイパックス(一般名:ロラゼパム)
- デパス(一般名:エチゾラム)
- レキソタン(一般名:ブロマゼパム)
抗不安薬は依存性等を心配される方が多いですが、
- 用法・用量を守ること
- お酒を控えること
- 落ちついてきたら減薬すること
を意識いただければ大丈夫です。抗不安薬は即効性があり、よくなっていく実感のある非常に有用なお薬です。
使うときはしっかり使い、落ち着いたらお薬を減らすような意識でいただいたほうが、身体表現性障害がよくなっていく近道です。
詳しくは、抗不安薬(精神安定剤)のページをお読みください。
その他のお薬
身体表現性障害のお薬として、抗精神病薬や気分安定薬が使われることがあります。
このようなお薬が使われるのは、大きくわけて2つのケースになります。
- 抗うつ剤の効果が不十分なとき
- イライラや感情の起伏などが目立つとき
身体表現性障害の心理療法
身体表現性障害の原因のところでお伝えしましたが、
- 身体症状の誤った解釈
- こころの奥にある葛藤
- 目の前のストレスに対する回避(疾病利得)
といった心理的な要因から身体症状が生じています。
そのため、認知行動療法や森田療法などの心理療法を受けてストレスと向き合ったり、葛藤がある場合には洞察的な精神療法を重ねることで、少しずつ症状は落ち着いていきます。
こういった心理療法は、医師ではなく臨床心理士が専門家となります。しかしながら心理療法に保険適応はされず、自費診療となります。費用の点で難しい場合は、医師の診察の範囲内で少しづつ積み重ねていく形をとっていきます。
認知行動療法
人は様々な経験を重ねることで、物事の受け止め方や感情のいだき方が作られていきます。こういった物事のとらえ方を、認知と呼んでいます。
その認知のあり方に歪みや偏りがあると、物事の受け止め方、感情そして行動に良くない影響が出てしまい、様々な精神症状や身体症状が出てしまいます。
認知行動療法とはその認知の偏りや歪みを是正し、少しずつ柔軟で問題解決しやすい思考に変化させていく療法です。
まずは自分自身の問題や葛藤、ストレスの質を知り、そのストレスから逃げ出してしまう思考(自動思考)のくせを知ることから始めます。
次にその考えに変わる思考(適切な思考)を学び、ストレスや葛藤から身体症状などを引き起こさない認知に変化させていきます。
森田療法
ストレスにさらされると、不安・恐怖・緊張などの感情や、動悸・ふるえ・発汗などの身体反応があらわれますが、森田療法では自然なものと考えます。
その感情や身体反応を消そうとすればするほど、自分に注意が集中してしまいます。そしてより激しく恐怖などの感情が生まれ、身体反応が強くなってしまう悪循環が生まれてしまいます。
身体表現性障害の患者さんは、身体症状や重大な病気への不安を抱えていますが、それは自分が問題解決ができない、上手くいかないことに対しての避けてしまう心理葛藤が含まれています。
ですから森田療法では、こういった感情や身体反応は自然なものと考え、「あってはならないもの」とはせず、むしろ何とか消し去ろうとすることが不自然ととらえています。
今の状態を無理やりかき消すのではなく、そのような自分を受け入れる感情が自然に湧き出るようになります。「ありのままの自分」をみつめていく中で、身体症状につらさを表現したり、病気に対してとらわれることは少しずつ消えていきます。
原因がわからない身体の異常があるときは
生活するうえで嫌なこと避けたいことはたくさんあります。
仕事や学校といった社会生活だけでなく、夫婦のことや子供のこと、友人やご近所付き合いといった日常生活にもストレスを感じることはあります。
そのようなストレスを解消するために、身体症状に置き換えてしまったり、病気への心配となって表れるのが身体表現性障害といえます。そして身体の心配が中心なので、心の病気というよりは身体の病気として医療機関に相談されることが多いのです。
ですから多くの患者さんが、内科などを受診されてから心療内科にご相談いただきます。最近では内科の先生にご理解いただけることも多くなり、心療内科をすすめていただくことで受診につながることもあります。
もしも身体症状で悩んでいて、その原因がはっきりしない場合は、身体表現性障害という心の病気の可能性があります。それは気持ちの問題といったものではなく、確かにツライ症状が本人にあります。
心の病気であることを理解するだけでも、身体症状が和らぐこともあります。心の治療を行っていくことで、症状が楽になることも少なくありません。もし身体症状があるのに病気が分からないと言われた場合、心療内科や精神科でご相談ください。
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「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。
診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:身体表現性障害(身体症状症) 投稿日:2023年3月23日
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