抗うつ剤の妊娠への影響とは?
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抗うつ剤の妊娠への影響とは?
抗うつ剤はすぐにやめることもできないお薬ですので、女性では妊娠への影響を心配される方も多いと思います。
服薬中に予想外の妊娠がわかり、慌てている方もいらっしゃるかもしれません。
抗うつ剤は妊娠にどう影響するのでしょうか?飲みながら妊娠するときは何に注意したらいいのでしょうか?
抗うつ剤と妊娠について不安な方は、ぜひ目を通してみてください。
※抗うつ剤について概要を知りたい方は、『抗うつ剤(抗うつ薬)とは?』をお読みください。
抗うつ剤の妊娠への影響は?
お薬が妊娠に与える影響では、
- 妊娠初期→赤ちゃんの奇形リスクを高める可能性
- 妊娠後期→産後の赤ちゃんにお薬の作用が残る可能性
の2つに注意しなければいけません。抗うつ剤ではどのようになっているでしょうか?
※詳しく知りたい方は、『妊娠へのお薬の影響とは?よくある7つの疑問』をお読みください。
抗うつ剤を妊娠初期に飲んだときの影響
現在のところ、奇形率を高める可能性が報告されているのは、SSRIのパキシルと、三環系抗うつ剤(アモキサンを除く)・四環系抗うつ剤(大量使用時)のみになっています。
それ以外のSSRI、SNRI、NaSSAなどの抗うつ剤に関しては、奇形との特別な関連性はないと考えられています。
奇形の報告がある抗うつ剤は妊娠前に変更することが望ましいため、服薬中の方はできるだけ「妊娠は計画的に」を心がけ、妊娠希望・可能性のある方は、必ず主治医へ伝えておきましょう。
ですが、万が一、服薬中に予想外の妊娠がわかったときも、過度に心配しないでください。リスクが報告されているお薬も、そのリスクをわずかに高めると報告されているだけです。
例えばパキシルの場合、心臓奇形の発生率が通常1%のところ2%になったという報告がありますが、多くの方では問題がおこっていませんし、否定的な説もあります。
奇形は産後に治療ができるものもあります。
お母さんが大きな不安を抱えてしまう方が妊娠に影響することもありますので、主治医と相談し、お薬を調整していきましょう。
妊娠後期に抗うつ剤を飲んだときの影響
妊娠の終わりに抗うつ剤を飲んでいると、産後の赤ちゃんから急激にお薬が抜けていくことで、離脱症状や中毒症状が起こることがあります。
症状の程度に差がありますが、SSRIやSNRIでは10~30%程度に認められると言われています。
よく見られる症状としては、
- 落ち着かない
- すぐに泣く
- ふるえ
- 筋肉が緩む、固くなる
- 呼吸しにくくなる
- 哺乳がうまくできない
などです。
この症状は一時的で、早めに見つけて症状を和らげる治療をおこなっていけば、問題ないことがほとんどです。
後遺症が残るようなものではないので過度に心配する必要はありませんが、産科の主治医にお薬の服用をしっかり伝えておくことが大切です。
そうすれば、離脱症状のリスクも考えて赤ちゃんの状態を注意深く見守ることができますし、何か症状がみられるとすぐに原因がわかり早期治療につなげられます。
抗うつ剤による影響を少なくするためには?
- 多くの抗うつ剤では「絶対に安全とは言えないけど、大きな問題はないだろう」
と推定されています。
けれど、「赤ちゃんへのお薬の影響はできるだけ少なくしたい」と考える方は多いと思います。
もちろん、医師の立場としてもそれは同じです。妊娠の可能性がある女性には、できるだけ安全性の高いお薬を選び、妊娠を希望されるときにはお薬を整理していくようにします。
漢方や心理療法などをうまく利用すると、お薬を減らしていくこともできます。
しかし、病状を考えると、やむを得ずしっかりとお薬を使う必要がある場合もあります。
まずはお母さんが安定しなければ、妊娠・出産に向けてもかえって影響が出てしまうことも考えられるからです。
お薬による影響以上に、お母さんの精神状態が赤ちゃんに影響してしまうこともあります。
無理や自己判断はせず、主治医とよく相談し、メリット・デメリットのバランスを考えていきましょう。
妊娠への影響に注意が必要な抗うつ剤は?
抗うつ剤は種類によってリスクに違いがあると考えられています。
現在のところ、注意が必要な抗うつ剤にはどのようなものがあるのでしょうか?
<FDA分類>
- B:ヒトでの危険性の証拠はない
- C:危険性を否定することができない
- D:危険性を示す確かな証拠がある
- ?:アメリカでのデータがない
<山下分類>
- B:投与禁止が望ましい
- E:有益性使用
パキシルと三環系抗うつ剤(アモキサン除く)がFDA分類の「D:危険性を示す確かな証拠がある」とされており、妊娠初期の服用で赤ちゃんの奇形発生率を高めるリスクが報告されています。
他の抗うつ剤では現段階で具体的なリスクは報告されておらず、「絶対安全とはいえないけれど、病状安定のメリットが高いときは慎重に使用する」となっています。
SSRIと妊娠への影響
SSRIのうち、パキシルには心室中隔欠損という心臓奇形が増加する可能性が指摘されています。
否定的な報告もあり、まだはっきりとわかっていませんが、妊娠を考える時は避けた方が無難です。
他のSSRI(レクサプロ、ジェイゾロフト、デプロメール/ルボックス)はどれも比較的安全性が高いと考えられていますが、デプロメール/ルボックスは相互作用が強く、他のお薬の成分の血中濃度を上げてしまいます。
その結果、他のお薬と合わせて使った時にリスクが高まってしまうため、単独以外では使わない方がよいといわれています。
SNRIやNaSSAと妊娠への影響
SNRIやNaSSA(サインバルタ、トレドミン、リフレックス/レメロン)は新しい抗うつ剤なので情報が十分とは言えませんが、どれも明らかな奇形との関与は報告されていません。
三環系・四環系と妊娠への影響
アモキサン以外の三環系(トフラニール、トリプタノール、アナフラニール、ノリトレン)・四環系(テトラミド、ルジオミール)では、大量に使った時に奇形の報告もされているので、妊娠中の安全性は劣ります。
特にアナフラニールには心血管奇形が増えるという報告もあり、避けた方が安心です。
まとめ
奇形が増えるという報告は一部の抗うつ剤だけです。出産後の赤ちゃんに影響がでることがあるので、産科の先生に服薬していることを必ず伝えましょう。
妊娠の際は、SSRIのパキシルと、三環系抗うつ薬(アモキサンを除く)は避けた方が無難です。
妊娠を考える女性にとって、抗うつ剤の影響は気になるところと思います。けれど、無理や自己判断をしてはいけません。
お薬の影響以上にお母さんの病状が妊娠に影響することもありますので、主治医と相談しながらお薬のことを考えていきましょう。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:抗うつ剤(抗うつ薬) 投稿日:2023年3月27日
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