クービビック(ダリドレキサント)の効果と副作用
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クービビック(ダリドレキサント)とは?
ダリドレキサントは、オレキシン受容体拮抗薬に分類される新しい睡眠薬になります。
海外では、「quviviq」として発売されています。日本でも遂に発売がきまり、12月頃より「クービビック錠」として、25㎎・50㎎の2剤形で発売となります。
覚醒の維持に必要な物質であるオレキシンの働きをブロックすることで、睡眠状態を促すお薬になります。
オレキシンは生理的に変動している物質で、日中は増加して夜間は減少しています。
ダリドレキサントは睡眠と覚醒に関係する生理的な物質に働くことで、睡眠を促していくお薬になります。
クービビックは他のオレキシン受容体と同様、
- 中途覚醒
- 早朝覚醒
- 熟眠障害
をメインに使われる睡眠薬となりそうです。
オレキシン受容体拮抗薬は、
- ベルソムラ(一般名:スボレキサント):2014年発売
- デエビゴ(一般名:レンボレキサント):2020年発売
- クービビック(一般名:ダリドレキサント):2024年発売
と三種類になります。
使用実感がわかってまいりましたら、記事を更新していきたいと思います。
データからみる印象としては、クービビックはデエビゴと同じくらいの入眠作用があり、切れ味が良いために翌朝に残りにくい印象をうけました。
クービビックの特徴
クービビック(一般名:ダリドレキサント)のメリットとしては、
- 自然な眠気を強くする
- 中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害に有効
- 入眠障害にも効果が期待できる
- 依存性が極めて少ない
- 持ち越し効果が少なく増量しやすい
があげられます。同じタイプのお薬の中でも半減期が短く、持ち越し効果が少なそうです。
入眠作用については、臨床研究でのデータを見る限りではデエビゴと同等の効果が期待できそうです。
それではクービビックの特徴を、
- クービビック・デエビゴ・ベルソムラの比較
- 効果
- 副作用
- 用法・用量
に分けてみていきましょう。
クービビック・デエビゴ・ベルソムラの比較
それではまず、DORAと呼ばれるデュアルオレキシン受容体拮抗薬の3剤の比較をしてみましょう。
入眠作用は、クービビックとデエビゴは同等と思われます。ベルソムラはデータとしても臨床実感としても、やや入眠効果に劣ります。
一方で半減期が最も短いのがクービビックで、翌朝への持ち越し効果は少ないため増量しやすく効果がでるまで十分つかいやすい点があります。
剤形としては剤形として分割もしやすく、3段階の用量があるデエビゴが最も使い勝手が良いです。
クービビックは転がりにくいように「おにぎり型」の三角をしていますが分割しにくく、またベルソムラは吸湿性の問題もあって分割できません。
薬の名称としては、「美しい眠り」を意味するベルソムラがもっとも眠りにつながりやすそうです。
またデエビゴやベルソムラの副作用として多い悪夢は、クービビックでは報告が少なくなっています。
クービビックの効果
次にインタビューフォームと呼ばれるお薬の詳しい説明書をもとに、臨床試験のデータを整理して効果についてお伝えしていきます。
患者さんの効果の実感を比較するには、「主観的総睡眠時間」と「主観的睡眠潜時」を見ると理解しやすいです。
- 主観的総睡眠時間:本人が感じた睡眠できたと感じた時間の合計
- 主観的睡眠潜時:本人が感じた入眠までにかかった時間
主観的総睡眠時間は、50mgまで使うとプラセボ(偽薬)と比較しても20分以上増えていることがわかります。
ベースラインとして5時間睡眠くらいの方を集めたデータですので、6時間弱まで睡眠時間が増える形となっています。
一方で睡眠潜時については、もともと50分ほど寝つきにかかっていた方が、クービビックやデエビゴでは35~40分くらいで寝つけるようになります。
ベルソムラはベースライン65分ほどですが、入眠に関してはプラセボと大きな差がついていません。
これらも、マイスリーやルネスタと呼ばれる従来の睡眠薬と比べてしまうと効果の実感は異なります。
50分ほど寝つきにかかっていた方が20分強と、時間としては半減する効果が認められています。
このようにクービビックは入眠効果は期待できますが、マイスリーやルネスタのような強引さはありません。
オレキシン受容体拮抗薬は、自然な眠気を強くするタイプの睡眠薬になります。
このような睡眠薬は、
- 依存性が極めて少ない
- 強引さがなくて、効果と副作用に個人差がある
という特徴があります。
また、クービビックは他のオレキシン受容体拮抗薬と同様に、
- 中途覚醒
- 早期覚醒
- 熟眠障害
に対して、効果が期待できます。
クービビックの効果についての臨床研究
国内第Ⅲ相臨床試験では489例の不眠症患者を対象にダリドレキサント服用時の総睡眠時間と睡眠潜時を評価しており、28日目におけるベースラインからの変化をプラセボ群と比べて有意に改善したという報告となっています。
睡眠潜時: 消灯あるいは就床時刻から睡眠開始までの時間
投与群 | 総睡眠時間 | 睡眠潜時 |
---|---|---|
ダリドレキサント50mg群 | +41.01(+20.30) | -16.81(-10.66) |
ダリドレキサント25mg群 | +29.27(+9.23) | -12.95(-7.16) |
プラセボ群 | +20.3 | -5.56 |
クービビックの副作用(海外データ)
クービビック(一般名:ダリドレキサント)の有害事象(副作用含む)として、国内の試験では以下が代表的な副作用報告でした。
- 傾眠:3.7/6.8
- めまい:0%/1.9%
(25mg/50mg)
が報告されています。
また、頻度は低いですが
- 睡眠麻痺
- 幻覚
- 幻視
の可能性が、オレキシン受容体拮抗薬では可能性があります。海外の試験では、以下のように報告されています。
これをみると、デエビゴやベルソムラといったオレキシン受容体拮抗薬で問題になることの多かった悪夢の副作用報告が少ないです。
QUVIVIQ25mg群 | QUVIVIQ50mg群 | プラセボ群 | |
---|---|---|---|
頭痛 | 6% | 7% | 5% |
傾眠または疲労 | 6% | 5% | 4% |
めまい | 2% | 3% | 2% |
吐き気 | 0% | 3% | 2% |
睡眠麻痺 | 0.5% | 0.3% | 報告なし |
幻覚および幻視 | 0.6% | 報告なし | 報告なし |
クービビックの用法・用量
クービビックの用法・用量は、国内第Ⅲ相臨床試験では以下のように設定されています。
- 開始用量:50mgまたは25mg
- 用法:1日1回就寝前
- 剤型:錠(25mg・50mg)
クービビックの併用禁忌・併用注意薬(海外データ)
クービビックは、CYP3A4という肝臓の酵素で代謝されて分解されていきます。
このためCYP3A4の働きに関係するお薬は、併用に注意が必要です。
【併用を避けること:CYP3A4を強く阻害するお薬】
- 抗生物質:クラリスロマイシン(クラリス)
- 抗真菌薬:イトラコナゾール(イトリゾール)
- 抗ウイルス薬:エンシトレルビル(ゾコーバ)・リトナビル(パキロビット)
その他はかなり特殊な抗HIV薬や抗がん剤が禁忌となっています。
また、アルコールとの併用は日中の機能障害をもたらすため、併用を避けることとなっています。
クービビックの運転への影響
睡眠薬は、原則的にすべてのお薬が運転や危険作業が禁止となっています。
これは眠気やふらつきなどの副作用が生じる可能性があるためです。
クービビックの日本での添付文書には「本剤の影響が服用の翌朝以後に及び、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること。」と記載されています。
海外の臨床試験では、50~79歳の健康成人を対象に、クービビックの服用が翌朝の運転に及ぼす影響を検討しており、
初回投与後は翌朝の運転能力の低下がみられましたが、推奨用量の2倍を投与したデータであり、4日間連続投与後には統計学的に有意な能力低下はみられませんでした。
この結果を踏まえ、アメリカの添付文書では「翌日の運転に注意すること」と記載されています。
クービビックの妊娠・授乳への影響(海外データ)
クービビックの妊娠への影響から見ていきましょう。
クービビックの添付文書には「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。」と記載されています。
クービビックの妊娠中の服用に関する臨床データはまだ集積されていない状況です。
動物実験では、臨床用量の10倍のクービビックを投与したときに、母体の体重増加および摂食量の減少が認められたという報告があります。
次に、クービビックの授乳への影響をみていきましょう。
クービビックの添付文書には「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。」と記載されています。
クービビックの授乳中の服用に関する臨床データはまだ集積されていないですが、ヒト母乳中への移行が確認されています。
動物実験でも、クービビックとその代謝物は授乳期のラットの乳汁中に存在したという報告があります。
しかし、アメリカの添付文書では「お母さんのクービビックの必要性と赤ちゃんへの薬の影響のバランスを見て検討する」という記載となっています。
【参考】オレキシンとは?
クービビック(一般名:ダリドレキサント)の作用メカニズムには「オレキシン」という覚醒を維持する物質が大きく関係しています。
オレキシンには生理的な変化があり、日中に増加していき、夜間になると減少しています。このようにオレキシンは、睡眠状態と覚醒状態を切り替えるスイッチのような役割を果たしています。
【参考】ダリドレキサントの作用機序
ダリドレキサントの不眠症治療における作用機序は、オレキシン受容体の拮抗作用によるもの(DORA:デュアルオレキシン受容体拮抗薬)と推測されています。
ダリドレキサントは、覚醒を促すオレキシンA・オレキシンBという物質が作用するオレキシン1および2受容体への結合を妨げることで、覚醒を促す欲求が抑制されると考えられます。
オレキシン受容体への親和性を比べると、
- ダリドレキサント:OX1R>OX2R
- ベルソムラ:OX1R≦OX2R
- デエビゴ:OX1R<<OX2R
となりそうです。
ダリドレキサントはオレキシン1受容体への作用が強いお薬といえます。
オレキシン受容体拮抗薬のオレキシン受容体に対する親和性(Ki値)
薬品名 | Ki値 | |
---|---|---|
オレキシン1受容体(OX1R) | オレキシン2受容体(OX2R) | |
ダリドレキサント | 0.47nM | 0.93nM |
ベルソムラ | 0.55nM | 0.35nM |
デエビゴ | 8.1nM | 0.48nM |
Ki値:阻害定数。 受容体に対する親和性が高いほど低い値を示す
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:ダリドレキサント 投稿日:2024年3月19日
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