アルツハイマー型認知症の症状・診断・治療
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アルツハイマー型認知症とは?
アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多く見られるタイプになります。
アミロイドβと呼ばれる異常なたんぱく質の蓄積と神経原線維変化(過剰にリン酸化されたタウ蛋白の蓄積)によって、脳の神経細胞が減少し、脳が萎縮することで症状が現れます。
高齢になるほど罹患率は高くなりますが、進行は比較的緩やかです。現時点では進行を遅らせるお薬が中心となっていますが、近年はアミロイドβ自体にアプローチする治療薬などが承認されて注目されています。
ここではアルツハイマー病の症状、診断、治療について、詳しくお伝えしていきます。
アルツハイマー型認知症の症状
アルツハイマー型認知症の症状は、段階的に進んでいきます。
その段階別に 初期・中期・後期 にわけて、症状の進行をご説明します。
認知は、
- 記銘
- 保持
- 想起
という3つのプロセスがありますが、認知症はこれらの記銘ができなくなる病気です。
そのため、症状として新しいことを忘れ、昔のことは覚えていたりする状態が見受けられます。
早期認知機能障害(MCI)
アルツハイマー型認知症の診断とはならないまでも、脳の特徴的な委縮などが認められる状態を早期認知機能障害(MCI)と呼びます。
認知症に移行しやすいといわれていますが、正常に戻る方も少なくありません。
【中心となる記銘力障害】
- 新しいことを覚えられない
- 同じことを何度も聞き返す
【そのほかの症状】
上記の主要な症状の他、以下のような形で見受けられることもあります。
- 言葉がでてこない
- 判断ができない
初期症状(軽度)
アルツハイマー型認知症と診断されるレベルになると、物忘れや時間がわからなくなる見当識障害が認められます。
会話などはできるものの実行機能が低下して、生活面での支障があらわれてきます。
ですが、周囲のちょっとした工夫やサポートによって、自立した生活を送ることもできる段階です。
- 記銘力障害:
新しいことが覚えられずに、同じことを何度も聞き返します。直前の記憶が抜け落ちてしまい、物忘れをしている認識がなく、同じ話を繰り返したり、物を探したりします。 - 時間の見当識障害:
時間の感覚があいまいになり、日にちや時間が定かでなくなります。待ち合わせをしたり、約束をすることが難しくなっていきます。 - 実行機能障害:
物事を順序だてて進めていくことができなくなってくるので、夕食の準備や買い物などができなくなります。
金銭管理にも支障がみられるようになります。 - 物盗られ妄想:
自分が使ってしまったり、置き忘れてしまったりしたお金などを、身近な人に盗まれたと思い込んでしまいます。説明しても覚えていないため、説得のできない妄想となってしまいます。 - 取り繕い反応:
自身の認知機能低下を周囲に悟らないために、上記のような状況をカバーするため、あたかも忘れていないように振る舞います。物忘れを指摘しても、それを年のせいにしたりしてはぐらかしたりします。
中期症状(中等度)
中等度になると、場所が分からなくなるほどに見当識障害がすすみ、徘徊などしてしまいます。身の回りのことができなくなってきて、着替えや入浴といった日常生活へも支障が出るなど、ADL(日常生活動作)の低下がすすみます。
そのため、第三者の介助が必要となります。
- 場所の見当識障害:
自分がどこにいるか分からなくなり、近所以外は迷子になってしまいます。見慣れたはずの近所ですら、迷子になってしまうことがあります。このため、買い物が一人でできなくなります。 - 徘徊:
本人なりの目的がある場合もありますが、周囲からは無意味に歩き回っているようにみえます。勝手に家をでてしまうことがあり、見守りが必要となります。 - 失行:
単純なことはできますが、複数のこととなるとできなくなります。具体的には、着替えや入浴などといったことで、当たり前にできていたことが1人では困難となります。 - 言語障害:
うまく意思を伝えられないことや、相手の話が理解できないことが増えます。もどかしさからイライラしやすくなったり、大声をあげたり暴力行為になることもあります。反対に睡眠障害や抑うつ状態になってしまうこともあります。
後期症状(高度)
見当識障害はさらにすすみ、時間や場所だけでなく身の回りの「人」もわからなくなります。さらに進むと言葉も限定されてしまい、疎通が取れなくなっていきます。
日常生活の基本的な行動ができなくなり、着衣、入浴、トイレ、歩行などにも介助が必要になります
- 人の見当識障害:
身の回りの人の顔がわからなくなってしまいます。家族や友人のことも判別できず、他人と認識されてしまいます。 - 尿・便失禁:
ひとりでトイレを済ませることが難しくなって失禁してしまったり、済ませたとしてもキチンと拭いたり、服を治すことができなくなります。 - 弄便:
著しく認知機能が低下することで、便を認識できなくなります。不快なものとして触ってしまったり、壁などにこすりつけたりしてしまいます。 - 身体機能の低下:
廃用も重なって、立ち上がるのも困難となり、歩行も小刻みになっていきます。会談の上り下りに介助が必須となります。
アルツハイマー型認知症の診断
いくつかの診断基準がありますが、病歴・認知機能検査・画像検査などから総合的に診断することが一般的です。認知機能低下をきたしうる他疾患を除外することも重要です。
画像検査では、
- CT-MRIで内側側頭葉(特に海馬)の萎縮(Sylvius裂・側脳室下角の拡大)
- SPECT・FDG-PETで両側側頭・頭頂葉および帯状回の血流や糖代謝の低下
- アミロイドPET(保険適用外)による前頭葉・後部帯状回・楔前部のアミロイド蓄積
を認めることが特徴です。
アルツハイマー型認知症の治療
- 中核症状:認知症治療薬
- 周辺症状:抗精神病薬・抗うつ薬・漢方などによる対症療法
【認知症の治療】
- コリンエステラーゼ阻害剤(塩酸ドネペジル/ガランタミン/リバスチグミン)
- NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)
- 抗アミロイドβ抗体(アデュカヌマブ)
【認知症治療薬】
認知症治療薬について、それぞれご説明させていただきます。
コリンエステラーゼ阻害剤
軽度から中等度の場合(Mini-Mental State Examination [MMSE] 10~26)には、認知症治療薬の使用を勧められています。
現在は3種類のお薬が発売されています。
- アリセプト(一般名:塩酸ドネペジル)
- レミニール(一般名:ガランタミン)
- リバスタッチ/イクセロンパッチ(一般名:リバスチグミン)
リバスチグミンは貼付剤タイプとなっていて、入浴後に貼ることで服薬管理をしやすくし、治療していくお薬です。
NMDA受容体拮抗薬
中等度から高度の患者さん(MMSE ≤18) には、
- ママリー(一般名:メマンチン)
が使われることがあります。
上記のコリンエステラーゼ阻害剤と併用する形で使用していきます。
コリンエステラーゼ阻害剤に耐えられない、またはその恩恵を受けない場合は、メマンチンを単独で使用していきます。
- コリンエステラーゼ阻害剤にメマンチンを追加
- メマンチン単剤
のように使用していくことになります。
これらの薬剤には認知症進行抑制効果が認められていますが、その効果は一時的で、残念ながら認知症の進行を完全に抑制できるわけではありません。
抗アミロイドβ抗体(新薬)
アデュカヌマブは、米国食品医薬品局 (FDA) によって軽度のアルツハイマー型認知症の治療薬として承認されています。
「抗アミロイドβ抗体」と呼ばれる薬で、抗体の働きで脳内に存在するアミロイドβに結合して減らす作用を持っています。特に蓄積したアミロイドβが塊になる、前段階のアミロイドβを除去することがわかっています。
アデュカヌマブは脳のアミロイドレベルの低下に非常に効果的であるように見えますが、まだ不明確な点も多く、日本ではまだ承認されていません。
まとめ
アルツハイマー型認知症の研究は日々進歩しており、今後治癒が期待できる薬が出てくる可能性はありますが、現状ではまだまだ治すことは難しい病気です。
アルツハイマー型認知症の方に必要なものは、治療よりもケアです。
ゆったりと楽しく、自由にありのままに、現状の生活に喜びと自信を持ち、馴染みのある環境を大切にし、地域や自然に触れ合いながら生活できるようサポートすることです。
また、単にケアといいましても、“してあげる”ケアではなく、“一緒に過ごす”ケアが望まれます。
参考文献
- 認知症診療ガイドライン2017
- up to date
- イヤーノート
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:認知症治療薬 投稿日:2023年3月30日
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