ワイパックスの舌下投与は効果的?
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ワイパックスの舌下投与って?
ほとんどのお薬は、水で服用するのが一般的です。
ワイパックスも同様で、水で服用する錠剤として発売されています。
ですがワイパックスは、舌下投与という飲み方をすることがあります。
噛み砕いてしまって、口の粘膜から吸収する飲み方です。
ワイパックスはパニック発作など、突然の急激な不安に襲われたときに服用することも多いお薬です。手元に水分がないこともあります。
ワイパックスの舌下投与は、正式な服薬方法ではないので積極的におすすめはできません。
ですが利点もあるので、知っておいて損はないです。
ここでは、ワイパックスの舌下投与の効果について詳しくお伝えし、舌下投与について考えていきたいと思います。
経口投与での吸収の流れ
まずは普通にお薬を口から服用したとき、どのように効果を発揮するのかを考えてみましょう。
お薬が効果を発揮するには腸から血管に取り込まれて、目標の臓器(ワイパックスであれば脳)までたどり着かなければいけません。
経口投与(口から薬を飲むこと)では、お薬が吸収されるまでに長い道のりがあるのです。
口から服用したお薬は、胃を通って腸に運ばれます。
小腸の粘膜で吸収されて、血管に取り込まれます。この血管は門脈と言われていて、まずは肝臓に運ばれていきます。
肝臓には薬を分解する働きがあるので、一部のお薬はここで分解されてしまいます。
分解されなかったお薬は、血管中をめぐって目標臓器(脳)に作用することができるのです。
初回通過効果で効果が弱まる
この肝臓での分解を、初回通過効果といいます。
肝臓をはじめに通過するときに避けられない薬の分解効果のことを意味しています。
薬は身体の血管をめぐり、何度も肝臓を通過します。そのたびに分解され、身体から抜けていくのです。
このため、経口投与の大きなデメリットが2つあります。
- 口→胃→小腸→血管(門脈)→肝臓→血管→臓器(脳)とゴールまでの道のりが長い
- 初回通過効果で、はじめから効果が弱くなってしまう
舌下投与での吸収の流れ
舌下投与ではこれらを解消することができます。舌下投与とは、錠剤を舌の下に置くことです。
舌の下には舌下静脈を中心にいっぱい小さな静脈が走っています。
この小さな静脈や口腔粘膜を走っている血管から、お薬が吸収されていきます。血管に直接吸収されていきます。
このため、舌下投与のメリットとしては大きく3つあります。
- 口→血管→臓器(脳)と短く、即効性が期待できる
- 初回通過効果がない
- 水なしで飲める
このように説明すると、全部舌下にしてしまえばよいではないかと思われるかもしれません。
ですが、安全性という面では経口投与の方がよいです。
舌下投与は効果が急ですが、その分身体への負担も大きいのです。ですから、基本的にはお薬は経口投与を原則として作られています。
舌下投与のお薬として有名なのは、「ニトロ」です。
正確にはニトログリセリン舌下錠ですが、このお薬は狭心症などの心臓に酸素がいかなくなってしまった時に使います。急速に心臓の血管を拡張して、酸素を心臓に届けます。
このように、少しでも早く薬が効いて欲しい時だけに使われます。心のお薬では、シクレストという抗精神病薬が舌下投与として発売されています。
舌下投与は効果があるの?
ワイパックスは不安感や緊張感を和らげるお薬です。即効性も期待できるので、不安が起こってしまった時に服用する頓服としても使われています。
不安がゆっくりと起こってくるのでしたら、お薬を水で飲む余裕もあるでしょう。
ですが、ときに不安は発作的に起こってしまいます。このような急激な不安がある時に、ワイパックスの舌下投与をすることがあります。
ただし、この方法はワイパックスの添付文章には記載されていません。習慣的な舌下投与は身体に負担となりますのでやめましょう。
それでは、ワイパックスの舌下投与は効果があるのでしょうか?
実は、データとしては薬の効果はかわらないとされています。
ワイパックスを発売しているファイザー社のデータでは、ワイパックスの舌下投与と経口投与では、血中濃度の変化がほとんど変わらないことが示されています。
このため理論的には、効果の出方や強さはあまり変わらないことになります。
ワイパックスの舌下投与は意味がない?
「それでは効果がないのか?」というと、そんなことはありません。
たいていの方は、舌下投与の方が効くという実感を持ちます。
ですから、私も患者さんに舌下投与をすすめることもあります。「発作でどうしようもない時は薬を噛み砕いても大丈夫ですよ」とお伝えしています。
どうして発作時におすすめするかというと、大きく3つの安心感あります。
- 薬が一気に吸収されるという安心感
- 薬の味を感じることでの安心感
- どこでも水なしで飲めるという安心感
薬を噛み砕いて服用すると、内服で服用するよりも一気に吸収される気がします。
理屈で話せば血管に直接薬が吸収されるからですが、そんなこととは関係なく心理的にも即効性がありそうな気持ちになりますね。
同時に薬の味がします。お薬は苦いことが多いですが、ワイパックスはほのかに甘みがあります。
味があることで、薬を飲んだという実感は強くなりますね。
ワイパックスと同じように頓服としてつかわれているソラナックス/コンスタンは、とても苦いです。ですから、舌下投与には向いていません。抗不安薬のデパスも甘みがある味なので、舌下投与で使われることもあります。
また、水なしでもすぐに飲めるのは大きな安心感です。
不安はいつどこで襲ってくるかわかりません。ここで不安になったら助けがないという状況になると不安はますます強くなります。
調子が悪くなってしまったらワイパックスを噛み砕いてしまえば大丈夫と思えると、かなり気持ちは楽になります。
このように、ワイパックスの舌下投与は効果が期待できます。
とはいっても、習慣にしてはいけません。基本は水で服用するようにして、緊急事態の時だけ舌下投与するようにしましょう。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:ワイパックス 投稿日:2023年3月30日
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