クエチアピン(セロクエル)の効果と副作用
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クエチアピン(セロクエル)とは?
クエチアピンは、第二世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)になります。
色々な受容体に作用するため、MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)と呼ばれています。過剰なドパミンの働きを抑える働きがあるため、
- 統合失調症
の治療薬として開発されました。
幻聴や妄想といった陽性症状に対する効果はマイルドですが、陰性症状(意欲減退や感情鈍麻)や認知機能の改善に効果が期待できます。
さらにクエチアピンは、気分の安定にも効果が期待できるお薬であることがわかってきました。ですから、
- うつ病・うつ状態
- 双極性障害(躁うつ病)
の治療薬として使われることがあります。クエチアピンには鎮静作用が期待できるため、衝動コントロールや不眠にも使われることがあります。
現在日本で発売されているMARTAは3剤となります。
- セロクエル(一般名:クエチアピン):2001年発売
- ジプレキサ(一般名:オランザピン):2001年発売
- シクレスト(一般名:アセナピン):2016年発売
当初はセロクエルという先発品のみでしたが、2012年よりジェネリック医薬品が発売となっています。一般名(成分名)のクエチアピン錠として発売されています。
※以下では「セロクエル」として、その効果や副作用をお伝えしていきます。
セロクエルの効果・効能が期待できる病気
セロクエルには、どのような効果・効能が期待できるのでしょうか。
セロクエルはドパミンだけでなく様々な受容体に作用して、その働きをブロックすることで効果を発揮します。
このためドパミンが過剰となって生じる幻聴や妄想の改善が期待できますが、同時に気持ちを穏やかにする鎮静作用も期待できます。
セロクエルの作用の特徴として、ドパミン受容体への結合が緩やかで、すぐに受容体から離れていくことがあげられます。
このため、ドパミンをブロックしすぎないため、ドパミン関連の副作用も軽減されています。
それだけでなくセロクエルは、気分安定薬としても働きます。
- 抗躁効果(弱い):気分の高まりを鎮める
- 抗うつ効果(強い):落ち込みを改善する
- 再発予防効果(やや弱い~中程度):気分の波を小さくする
そして気持ちの高ぶりを抑える作用があるため、不安が強いときにも使われることがあります。眠気も促されるため、睡眠薬として使われることもあります。
このためセロクエルでは、
- 統合失調症
- うつ病・うつ状態
- 双極性障害(とくにうつ状態)
- 不眠や不安
- 衝動のコントロールできない状態(青少年の行動障害など)
などに効果・効能が期待できます。統合失調症やうつ病・双極性障害については詳しく後述しますので、それ以外についてみていきましょう。
セロクエルには鎮静作用や気分安定作用が期待できるため、衝動をコントロールしやすくするために使われることがあります。
副作用も比較的少なく、幅広く使われているお薬になります。少量で、認知症のBPSDなどに使われることもあります。
また、強い不安や不眠に対しても使われることがあります。抗不安薬や睡眠薬を使っていくよりも、症状をコントロールできることもあります。
セロクエルの統合失調症での効果
セロクエルの特徴として、ドパミン受容体を穏やかにブロックすることがあります。受容体にはゆるく結合し、すぐに離れてしまいます。
このためセロクエルは副作用が抑えられていますが、幻覚や妄想といった陽性症状に対するコントロールは不十分となってしまうことがあります。
しかしながらセロクエルは、興奮や衝動を鎮める鎮静作用が期待できます。
統合失調症の患者さんでは、衝動性や過敏さが強まってしまうことが多いため、そういった場合に効果が期待できます。
またセロクエルは、意欲減退や感情鈍麻といった陰性症状、認知機能障害や感情障害に効果が期待できます。
このため急性期だけでなく、慢性期に使われることも多いです。
ただしセロクエルは糖代謝に悪影響を及ぼすことがあるため、血糖値に注意して使っていく必要があります。
セロクエルのうつ病・双極性障害での効果
セロクエルの気分に対する効果をみていきましょう。
セロクエルは、海外では双極性障害での適応が認められています。
うつ状態・躁状態・再発予防のすべての目的で適応が認められているお薬です。
特にうつ状態に対してのエビデンスが豊富で、双極性障害のうつ状態に効果が期待できるお薬は少ないため、重宝されるお薬になります。
うつ病の患者さんにも、抗うつ剤に追加する形で効果の増強(augmentation)に使われます。
さらに治療抵抗性うつ病では、セロクエルを十分量使っていくことで効果が認められることもあります。
セロクエルのうつ状態に対する作用は、おもにセロトニンが関係していると考えられています。
認知機能や実行機能などを司っている大脳皮質の前頭前野において、セロトニンの働きが強まることが関係しています。
一方で躁状態では、セロクエルは気持ちを落ちつけていく効果が期待できます。
躁症状は中脳辺縁系という部分でのドパミン過活動も要因と考えられていて、セロクエルは併せて効果が期待できます。
このようにセロクエルはうつ状態にも躁状態にも効果が期待でき、気分の波を小さくする再発予防効果も期待できます。
抗うつ効果は強く、抗躁効果はやや弱いという特徴があります。
セロクエルの適応が正式に認められている病気
セロクエルの適応が正式に認められている病気は、
- 統合失調症
のみとなります。
日本の双極性障害のガイドラインなどでも、「推奨されている治療」のひとつとして記載されています。
後述しますが、海外では広く双極性障害の適応がみとめられています。
日本では治験によって効果の実証がなされていませんが、実際には効果が期待できるために、適応外として使われているというのが実情でした。
2017年にセロクエルの徐放製剤であるビプレッソ錠が発売され、双極性障害のうつ状態の適応が認められています。
海外での適応からみるセロクエルの効果
セロクエルは、海外では日本よりも幅広く適応が認められています。
アメリカでは、
- 統合失調症
- 双極性障害のうつ状態
- 双極性障害の躁状態
- 双極性障害の維持療法
以上のような適応となっています。
このように、双極性障害で幅広く使われているお薬になります。
リチウムやデパケンといった気分安定薬と併用して使うことも、正式な適応として認められています。
セロクエルの特徴
<メリット>
- 陰性症状や認知機能の改善が期待できる
- 副作用が全体的に少ない
- 気分安定作用が期待できる
- 鎮静作用で不眠や不安に効果が期待できる
- ジェネリックが発売されている(薬価がリーズナブル)
<デメリット>
- 陽性症状に対する効果が不安定
- 体重増加や代謝の悪化に注意が必要(糖尿病に禁忌)
- 眠気やふらつきが強くでやすい
- 1日2~3回服用する必要がある
それではセロクエルの特徴を、
- 効果
- 副作用
- 剤形と薬価
に分けてみていきましょう。セロクエル以外の抗精神病薬との比較も行っていきます。
セロクエルの効果
セロクエルは、
- 幻聴や妄想を軽減
- 躁状態やうつ状態の改善
- 衝動性のコントロール
- 不安や不眠の改善
に効果が期待できます。
セロクエルの効果の特徴としては、
- 鎮静作用がある
- 副作用が全体的に少ない
- 認知機能や陰性症状の改善が期待できる
- 気分安定作用がある
といったことがあげられます。
それではセロクエルは、抗精神病薬の中でどういった効果の位置づけなのでしょうか。セロクエルの作用について、他の抗精神病薬と比較してみましょう。
セロクエルは、
- ドパミンに緩やかに作用して、すぐに離れる
- 抗ヒスタミン作用や抗α1作用が認められる
という特徴があります。このためドパミンをブロックしすぎてしまう副作用は少ないです。
ですが効果としては陽性症状への効果の不安定さにつながり、コントロールしきれないこともあります。
また、抗ヒスタミン作用や抗α1作用による鎮静作用が認められます。興奮を鎮めるだけでなく、不安や不眠にも効果が期待できます。
抗精神病薬は気分安定作用が期待できるお薬もあります。セロクエルもその一つで、
- 抗躁効果:弱い
- 抗うつ効果:強い
- 再発予防効果:やや弱い~中程度
となります。
セロクエルの副作用
セロクエルの副作用は、昔の抗精神病薬と比べると明らかに副作用は少なくなっています。
セロクエルの副作用について、他の抗精神病薬と比較してみましょう。
セロクエルの副作用としては、
- 鎮静作用の副作用:眠気やふらつき
- 代謝系の副作用:体重増加や高血糖(糖尿病)
が目立ちます。糖尿病の患者さんでは禁忌(使うことができない)となっています。
その一方で、
- ドパミン遮断の副作用:錐体外路症状や高プロラクチン血症
は少ないです。
また、セロクエル発売後の副作用調査では、
- 傾眠(4.3%)
- 高血糖(3.3%)
- 便秘(1.9%)
- 肝機能障害(1.6%)
- 倦怠感(1.3%)
このようになっています。
セロクエルの剤形と薬価
セロクエルのお薬としての特徴についてみていきましょう。
セロクエルにはジェネリックも発売されており、クエチアピン錠という名称で発売されています。
かつては高用量使う場合にはかなりの薬価になってしまいましたが、現在はリーズナブルとなっています。
セロクエルは、
- 25mg錠・100mg錠・200mg錠
- 50%細粒
※ジェネリック医薬品のみ、12.5mg錠・50mg錠・10mg細粒も発売されています。
さらには後述しますが、セロクエルの徐放製剤のビプレッソ徐放錠が発売となっています。
- 徐放錠50mg・徐放錠150mg
ビプレッソ徐放錠は先発品のみですが、セロクエルはジェネリック医薬品のクエチアピン錠が発売されているため、比較的リーズナブルになってきています。
- 12.5mg錠:(ジェネリックのみ:10.1円)
- 25mg錠:21.9円(ジェネリック:10.1~12.1円)
- 50mg錠:(ジェネリックのみ:14.3~15.5円)
- 100mg錠:54.5円(ジェネリック:34.4~26.4円)
- 200mg錠:98.2円(ジェネリック:34.4~53.6円)
- 10%細粒:(ジェネリックのみ:31.9円)
- 50%細粒:337.1円/g(ジェネリック:143.6~155.0円/ℊ)
- ビプレッソ50mg徐放錠:56.3円
- ビプレッソ150mg徐放錠:150.4円※2023年4月現在の薬価になります。
これに自己負担割合(1~3割)をかけた金額が、患者さんの自己負担になります。薬局では、これにお薬の管理料などが加えられて請求されています。
ビプレッソ徐放錠の効果と副作用
セロクエルの徐放製剤として発売されたビプレッソ徐放錠についてご紹介しましょう。
セロクエルは統合失調症だけしか適応が認められていませんでしたが、双極性障害の治療薬として、適応外ではありますが使われていました。
厚労省からも医療上の必要性が高いとして開発要請が2010年ごろからなされており、2017年に双極性障害のうつ状態の治療薬としてビプレッソ徐放錠が承認されました。
有効成分は、セロクエルと同じクエチアピンになります。
しかしながら適応が異なるため、ジェネリック医薬品はしばらく製造はされません。ビプレッソ徐放錠は先発品となります。
徐放錠にしたことでお薬の有効成分がゆっくりと溶け出し、体への吸収もおだやかになります。
セロクエルは作用時間が短いために1日複数回の服用が必要でしたが、ビプレッソ徐放錠では1日1回の服用で効果が持続します。
【参考】
- 半減期:(セロクエル)3.4時間ー(ビプレッソ)6.8時間
- 最高血中濃度到達時間:(セロクエル)1.4時間ー(ビプレッソ)7時間
海外では徐放製剤もすでに発売されており、セロクエルと同じように統合失調症、双極性障害の躁状態・うつ状態・維持療法で適応が認められています。
それに加えて、うつ病や全般性不安障害でも適応が認められています。
ビプレッソ徐放錠では、
- 血中濃度の上昇がゆるやか
- 作用時間が長くなる
という特徴があります。
これによってセロクエル錠よりも、
- 飲み始めの副作用が軽減する
- 1日1回の服用で済む
といった効果が期待できます。
その一方で、ビプレッソ徐放錠にもデメリットがあります。
- ジェネリックが発売されていない
- 小さな剤形がない(分割すると徐放剤の効果がなくなる)
- 変更に当たって効果の実感が変わることがある
- 適応がうつ症状に対してのみで、高用量が使えない
薬価の面では、先発品と同等となってしまいます。
さらにセロクエル錠よりも立ち上がりがゆっくりになることで、効果の実感に変化を感じる方もいます。
双極性障害のうつ状態のみの適応ですので、高用量まで使えないというデメリットもあります。
50mgから開始して、最大用量は300mgとなります。1日1回就寝前に使い、食事の影響が多少あるために空腹時に服用することとなっています。
セロクエルの用法と効果のみられ方
セロクエル錠は、以下のような用法となっています。
- 開始用量:50~75mg
- 維持量:150~600mg
- 用法:1日2~3回
- 最高用量:750mg
ビプレッソ徐放錠は、以下になります。
- 開始用量:50mg
- 維持量:150mg~300mg
- 用法:1日1回
- 最高用量:300mg
セロクエルは様々な目的で使われますが、原則的には少量から少しずつ使っていきます。
作用時間が短いために、1日に2~3回の服用になります。ビプレッソ徐放錠は1日1回で効果が持続しますが、用量調整が50mgずつしかできません。
統合失調症や双極性障害といった病気では、1日効果を持続していく必要があります。
しかしながら、例えば夕方や就寝前に1回だけ内服する形でも、症状がコントロールできることがあります。
セロクエルは海外では800mgまで使うことができ、日本よりもわずかに多く使うことができます。
【参考】セロクエルの半減期
お薬の効き方を見ていくにあたっては、
- 半減期:血中濃度が半分になるまでの時間
- 最高血中濃度到達時間:血中濃度がピークになるまでの時間
が重要になってきます。
セロクエルは、
- 半減期(T1/2):3.4時間
- 最高血中濃度到達時間(Tmax):1.4時間
となっています。
セロクエルは1.4時間ほどでピークになり、そこから3.4時間で半分の量になるということになります。
ですから1日2~3回の服用によって、効果が一日安定します。
その一方で効果のピークが早いため、不安や不眠に対して効果は比較的すぐに認められます。
服用時期でみたセロクエルの副作用
セロクエルの副作用について、服用時期ごとにみていきましょう
セロクエルの飲み始めに注意すべきなのは、眠気やふらつきといった鎮静作用になります。
服用を続けていくうちに少しずつ慣れていきますが、服用中も注意が必要になります。
服用を続けていく中で問題となるのが、
- 糖代謝異常
- 肝・腎機能障害
になります。
またセロクエルは、血糖値に注意が必要です。糖代謝に悪影響をきたし、食欲が増して体重増加のリスクがあります。
糖尿病に進行してしまうことがあり、糖尿病の方は禁忌(使ってはいけない)となっています。
肝臓や腎臓に負担がかかってしまって機能が低下してしまうことがあるため、定期的に採血して行く必要があります。
お薬を減薬していく際には、離脱症状や悪性症候群の可能性があります。
セロクエルでは離脱症状は少ないですが、長期に服用していると心身の不調が認められることもあります。
またお薬の増減によって、悪性症候群が起こることがあります。
悪性症候群は発熱や意識障害に加え、錐体外路症状(手足の震えやこわばり、嚥下障害)、自律神経症状、横紋筋融解症(筋肉の痛み)などが認められます。
お薬の増減の後に、咳や鼻水などがなくて高熱が認められた場合は、注意が必要です。
セロクエルの副作用の対処法
セロクエルの副作用が認められた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
セロクエルで副作用が認められた場合、
- 何とかなるなら様子を見る(経過観察)
が基本的な対処法となります。
お薬を飲み続けるうちに身体が少しずつ慣れていき、落ちついてくることが多いためです。
しかしながらどうしても症状が改善しない場合は、主治医に報告して相談してください。
セロクエルを使っていったほうが良い場合は、症状を和らげるお薬を併用してしばらく様子を見ることもあります。
生活習慣で改善ができる部分があれば、並行して行っていくことも大切です。
セロクエルの副作用で多くの方が気にされるのが、
- 眠気
- 太る
になります。セロクエルの副作用ではどちらも注意が必要なため、対処法も含めて詳しくお伝えしていきます。
セロクエルと眠気・不眠
セロクエルの発売後調査での副作用頻度をみてみましょう。
- 眠気(傾眠):4.32%
- 不眠:0.43%
このようにセロクエルは、眠気の方が副作用として多いお薬になります。セロクエルは用量を増やすにつれて、眠気が強まっていく傾向にあります。
セロクエルで眠気が生じる原因としては、
- 抗ヒスタミン作用や抗α1作用での直接的な眠気
- セロトニン2A遮断作用による深部睡眠の増加
こういったことが考えられます。
セロクエルは抗ヒスタミン作用が認められ、抗α1作用が強いです。このため直接的な眠気も強いです。
セロトニン2A遮断作用によって深い睡眠が増加するため、睡眠薬がわりに使われることもあります。
効果には個人差があるため、作用時間は短いお薬ですが朝に残ってしまうこともあります。
倦怠感や眠気の持ち越しによって起きれなくなってしまうこともあるので、はじめは慎重に使っていくことが多いです。
セロクエルで眠気が認められた場合の対処法としては、
- 慣れるまで待つ
- 服用のタイミングをかえる(夕食後や就寝前)
- お薬の量を減らす
- 他の抗精神病薬に変更する
といったことがあります。
セロクエルと体重(太る?痩せる?)・糖尿病
セロクエルでは体重や血糖について注意が必要です。
食欲や代謝などは様々な影響があり、お薬だけでなく病状も関係してきます。このため一概にお薬の影響だけを評価していくことは難しいです。
ですがセロクエルは代謝を悪くしてしまい、食欲も増加させてしまいます。
セロクエルの発売後調査での副作用頻度は、
- 体重増加:1.3%
- 体重減少:0.09%
このように報告されています。
このように見れば、太る傾向のあるお薬であることがわかるかと思います。
不眠や不安での用量であれば、そこまで体重増加が顕著になることは少ないです。
セロクエルが太る原因は、
- 抗ヒスタミン作用や抗セロトニン2C作用の直接的な食欲増加
- 原因不明だが、非定型抗精神病薬が代謝を低下させるため
が考えられます。
抗ヒスタミン作用や抗セロトニン2c作用は、いずれも食欲を増加させる働きがあります。
これらが直接的に食欲増加を生じ、セロクエルの直接的な食欲増加の原因となります。
また原因がよくわかっていませんが、昔からある定型抗精神病薬に比べて、非定型抗精神病薬は代謝が低下することが分かっています。
これらが合わさり、セロクエルは太る傾向にはあるお薬です。
さらには糖尿病に進行してしまい、糖尿病性昏睡から死亡例も報告されました。このためセロクエルは、糖尿病患者では禁忌となっています。
およそ13万人のうちに13例で重篤な糖尿病性昏睡の報告があり、亡くなってしまったのは1例になります。
基本的には安全性が高いお薬ではあるため、過剰に心配する必要はありません。ですが注意が必要なケースとしては、
- 飲み始めてすぐに7%以上の体重増加
- 若い人の多飲(とくにソフトドリンク)
- もともと肥満体型
これらがあげられます。
口渇・多飲・多尿・頻尿といった症状には注意が必要で、こういった症状が認められた場合は血液検査をしっかりと行うことが大切です。
そしてセロクエルで太ってしまった場合の対処法としては、
- 生活習慣を見直す
- 運動習慣を取り入れる
- 食事の際によく噛むようにする
- お薬の量を減らす
- 他の抗精神病薬に変更する
といったことがあります。糖尿病の診断基準を満たしてしまえば、直ちに中止します。
セロクエルの離脱症状と減薬方法
セロクエルは離脱症状が少ないお薬になります。ですが離脱症状が認められることもありますので、長期で服用している場合は少しずつ減量していく必要があります。
セロクエルの離脱症状としては、
- ドパミン作動性:幻覚や妄想(過感受性精神病)・アカシジア・ジスキネジア
- コリン作動性:精神症状(不安・イライラ)・身体症状(不眠・頭痛)・自律神経症状(吐き気・下痢・発汗)
この2つの離脱症状が認められることがあります。
セロクエルはドパミンをブロックするお薬ですが、その働きは穏やかになります。このため、ドパミン作動性の離脱症状はおこりにくいです。
抗コリン作用もほとんどなく、コリン作動性の離脱症状も起こりにくいです。むしろ、副作用止めに抗コリン薬を服用しているときに注意が必要です。
これらの離脱症状は、薬が減って1~3日ほどして認められます。
2週間ほどで収まっていくことが多いですが、まれに月単位で続いてしまうこともあります。
こういった離脱症状を防ぐために、セロクエルの減量は少しずつ行っていきます。
離脱症状がひどい場合は元のお薬の量に戻し、減量のペースを緩めていきます。減量の方法は、以下の2つの方法があります。
セロクエルの運転への影響
心の病気の治療薬は多くが運転や危険作業が禁止となっていました。
これは眠気やふらつきなどの副作用が生じる可能性があるためです。そういったリスクがある以上は、製薬会社も「運転禁止」とせざるを得ませんでした。
セロクエルの添付文章でも同様に、
本剤は主として中枢神経系に作用するため、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること。
という表現となっています。
統合失調症や双極性障害でも、症状がコントロールできていれば運転免許は取得することができます。(医師の診断書が必要)
ですがほとんど全てのお薬で運転禁止とされているのが実情です。運転ができないことが、社会復帰の妨げになってしまうこともあります。
自己責任にはなりますが、お薬を服用しながら運転されている方もいるのが実情です。
ただし、
- はじめて使ったとき
- 他のお薬からの切り替えをしたとき
- 量を増減させているとき
- 体調不良を自覚したとき
は無理をせず、運転は控えていただいたほうがよいです。
セロクエルの妊娠・授乳への影響
セロクエルの妊娠への影響から見ていきましょう。セロクエルのお薬の添付文章には、
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与すること。
このように記載されています。
もちろん妊娠中は、お薬を避けるに越したことはありません。
しかしながらセロクエルを中止したら病状が不安定になってしまう場合は、お薬を最小限にしながら続けていくことが多いです。
統合失調症や双極性障害は、お薬を減量していくと症状が不安定になるリスクが高まります。
ですからその場合は、セロクエルの服用を続けることが多いです。
セロクエルは、奇形のリスクに関して明かな報告はありません。
セロクエルが影響するのは、産まれた後の赤ちゃんになります。離脱症状や錐体外路症状が認められることがあると報告されています。
後遺症が残るたぐいのものではないので、産科の先生にお伝えしておけば、過度に心配しなくても大丈夫です。
次に、セロクエルの授乳への影響をみていきましょう。セロクエルのお薬の添付文章には、
授乳中の婦人に投与する場合には、授乳を中止させること。
このように記載されています。
しかしながら授乳についても、明らかなネガティブな報告はありません。
母乳で育てることは、赤ちゃんにも非常に良い影響があるといわれています。ご自身での判断にはなりますが、セロクエルを服用していても授乳を続ける方がメリットが大きいようにも思います。
母乳を通して赤ちゃんにセロクエルの成分が伝わってしまうことは、動物実験だけでなく人間でも確認されています。
母乳には、およそ血中濃度の1~2倍のお薬が移行すると報告されています。
乳児検診で体重が増えていかないといったことがあれば、医師と相談したほうが良いでしょう。
海外の妊娠と授乳に関する基準
海外の妊娠と授乳に関する基準をご紹介します。
妊娠への影響:FDA(アメリカ食品医薬品局)薬剤胎児危険度基準
- A:ヒト対象試験で、危険性がみいだされない
- B:ヒトでの危険性の証拠はない
- C:危険性を否定することができない
- D:危険性を示す確かな証拠がある
- ×:妊娠中は禁忌
授乳への影響:Hale授乳危険度分類
- L1:最も安全
- L2:比較的安全
- L3:おそらく安全・新薬・情報不足
- L4:おそらく危険
- L5:危険
セロクエルは、FDA基準で「C」となっています。
セロクエル錠のジェネリック(クエチアピン錠)
セロクエル錠は、2001年に発売されたお薬になります。お薬の開発には莫大なお金が必要となるため、発売から10年ほどは成分特許が製薬会社に認められて、独占的に販売できるようになります。(先発品)
セロクエル錠のジェネリックは、この特許が切れた2012年にクエチアピン錠として発売となりました。
薬価も先発品の半分以下となっているので、リーズナブルになっています。
先発品はお薬を開発した会社から発売されますが、ジェネリック医薬品は複数の会社から発売されます。クエチアピン錠も、様々な製薬会社から発売されています。
これらのお薬は有効成分は同じですが、それぞれが微妙に異なります。というのも、お薬の製造方法や製剤工夫が会社によって異なるためです。
ですがジェネリック医薬品は、先発品と同じように効果を示すための試験をクリアしていて、血中濃度の変化がほぼ同等になるように作られています。
しかしながらセロクエルは、不眠や不安については即効性を期待してつかうこともあります。そういった場合は、効果の実感の違いを感じる方もいます。
それだけでなく、お薬が先発品から変化することに心配になってしまう方もいらっしゃいます。そのような場合はもちろん、先発品のまま使っていくことも可能です。
【参考】セロクエルの作用機序
最後に、セロクエルの作用の仕組みについてお伝えしていきたいと思います。
セロクエルが効果が発揮するのは、大きく2つの物質が関係しています。
- ドパミン
- セロトニン
ドパミンは脳の中で、大きく4つの働きをしています。
- 中脳辺縁系―陽性症状の改善(幻聴や妄想)
- 中脳皮質系―陰性症状の出現(感情鈍麻や意欲減退)
- 黒質線条体―錐体外路症状の出現(パーキンソン症状やジストニア)
- 視床下部下垂体系―高プロラクチン血症(生理不順や性機能低下)
統合失調症では、中脳辺縁系でのドパミンの分泌・活動の異常によって幻聴や妄想といった陽性症状が認められると考えられています。この中脳辺縁系のドパミンを抑えることで、陽性症状の改善が期待できます。(ドパミンD2受容体遮断作用)
しかしながらドパミンを全体的にブロックしてしまうと、他の部分では必要なドパミンの働きが抑えられてしまいます。
他の3つの部分ではドパミンの働きが抑えられてしまい、上記のような副作用が生じます。
そこで注目されたのが、ドパミンを抑制する働きのあるセロトニンです。
このセロトニンをブロックすると、中脳辺縁系以外でのドパミンの働きを高める作用が期待できます。
ですから、ドパミン(ドパミンD2受容体)とセロトニン(セロトニン2A受容体)を同時にブロックすれば、陽性症状と陰性症状の両方に効果が期待でき、副作用も軽減されます。
こういった作用メカニズムがあるお薬を非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)といいます。
セロクエルは非定型抗精神病薬に分類されます。
セロクエルはこれ以外にも様々な受容体に働きます。抗ヒスタミン作用や抗α1作用により、気持ちの高ぶりを抑える鎮静作用が期待できます。
セロクエルのドパミンとセロトニンへの働き方について、以下で詳しくお伝えしていきます。
ドパミンに対する作用
セロクエルは、
- D2受容体遮断薬(アンタゴニスト)
として働きます。
セロクエルは、ドパミン受容体に緩やかに作用します。そしてすぐに受容体から離れてしまいます。
このためドパミンをブロックする作用は時に不十分となってしまいますが、過剰にブロックすることでの副作用は軽減されています。
セロトニンに対する作用
セロクエルはセロトニンに対して、
- セロトニン1A受容体:部分作動(パーシャルアゴニスト)
- セロトニン2A受容体:遮断(アンタゴニスト)
- セロトニン2C受容体:遮断(アンタゴニスト)
の3つの働きがあります。
セロトニン2C受容体遮断作用は、食欲増加などの副作用に関係します。セロクエルでは、その作用はわずかになります。
セロトニン2A受容体をブロックすることで、中脳辺縁系以外でのドパミンの働きを間接的に強めます。これがセロクエルでの陰性症状の改善や副作用の軽減につながります。
セロトニン1A受容体に対しては、部分作動薬として働きます。
セロトニン1A受容体は、抗うつ剤が作用するポイントです。このためセロクエルは1A受容体の働きを強め、感情障害に対しても効果が期待できます。
また、セロトニンやノルアドレナリンの分泌量をモニターしているα2自己受容体をブロックすることで、これらの物質が足りないと錯覚させて分泌を増加させる作用もあります。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:セロクエル(クエチアピン) 投稿日:2023年3月23日
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